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第460話

 晴人は鋭い視線で彼女を見つめ、目を離さなかった。

高村さんは視線を外し、何事もなかったかのように晴人を回り込んで前に進んだ。

すれ違う時、晴人は突然彼女の手首を掴み、真っ黒な瞳で彼女を見つめて言った。「高村ちゃん」

また吉村総峰のことだ。

彼女が吉村総峰と楽しそうに話しているのを見ると、心の中に言葉にできない苦しさが広がった。まるで海水が詰まって苦しく、ひどく苦い気持ちだった。

彼女のそばには彼の居場所がなくなってしまった。

高村さんは立ち止まり、落ち着いた表情で言った。「何かあったら終わってから言って。今は仕事があって忙しいの」

晴人は彼女を見つめ、しばらくしてから手を離した。「はい」

しかし、授賞式が正式に始まると、晴人が再び裏方に行って彼女を探しても、高村さんはすでに姿を消していた。

彼は拳を握りしめ、無言で席に戻った。

隣の男性が台の上で歌っている吉村総峰を指さして「これが彼?」と尋ねた。

晴人は暗い表情で軽く頷いた。

男性は吉村総峰を見ながら顎に手を当て、「確かに少し似ているな」と評価した。

彼が言う「似ている」というのは容姿ではなく、気質から来るもので、白く清らかで、文雅な印象があり、古代の白面の書生のようだった。

晴人は台の上の吉村総峰をじっと見つめ、さらに表情を暗くした。

……

一方、斎藤陽翔は被害者として、斎藤颯太や方弁護士と共に調停会議に出席していた。

由佳は斎藤陽翔に会うのが怖くて行かなかったし、斎藤颯太にも彼女のことを口にしないように頼んでいた。

彼女は山口沙織と一緒に文化施設で絵を描いていると、斎藤颯太から調停が失敗したとのメッセージを受け取った。

供給業者が斉藤家の提示した賠償条件に同意しなかったのだ。

次は再調停か、訴訟を起こして判決を待つかのどちらかだ。

弁護士が由佳に話したところによると、斎藤陽翔が提案した賠償条件はすべての材料費の返還と十倍の賠償で、それに加えて労働損失費、名誉費、精神的損失費などの600万の各種費用が含まれていた。

「斎藤陽翔は一歩も引く気がなく、供給業者側も絶対に譲らず、斎藤陽翔が材料に問題があることを知っていると言い張って、材料費の返還と200万の損失費しか受け入れないと言っている。残りは無視だ。再調停しても意味がないと思う、ほぼ裁判に持ち込まれるだろう」と弁護士
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