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第254話

 由佳はその場に立ち止まり、さっき見たニュースのことを思い出して言った。「病院に行ったんじゃなかったの?どうしてついでに治療しなかったの?」

「誰が病院に行ったって言ったんだ?」

「ニュースでは、2人の負傷者が病院に搬送されたって報じられていたわ」

「俺は病院には行ってない」

 清次は由佳が動かないのを見て、再び「由佳ちゃん、手伝ってくれないか」と頼んだ。

由佳は彼の肩と腕にある刺し傷を見つめ、その他にもいくつかの青あざや打撲傷が見えた。

彼女は一瞬驚いた。認めたくはないが、心の中にわずかな心配が湧き上がった。

「でも、病院でちゃんと治療したほうがいいんじゃない?」と、少しの沈黙の後で彼女は思い切って言った。

「行かない。病院は人が多くて騒がしいし、記者に見つかるかもしれない」

彼は自分の生活を世間にさらすのが嫌だった。

由佳に加波歩美が自分のために怪我をしたことも知られたくなかった。

「じゃあ、林特別補佐員を呼んでくる?」

「彼は今、別の仕事を処理していて、いない」

「他の秘書は……?」

「手伝いたくないならいいよ。自分でやるから」

 清次は目を伏せ、嘲笑するように自分を見下しながら、目の前の救急箱を開け、薬と包帯を探し始めた。

彼は無造作に薬を傷口に塗り、ぎこちなく包帯を巻いたが、それは曲がりくねったものだった。

やっとの思いで何周か巻いたところで、ハサミを用意し忘れたことに気づき、仕方なく手で包帯を引きちぎろうとした。

しかし、何度引いても切れず、逆にどんどん包帯が締まっていき、傷口の周りが赤くなってしまった。

突然、ドアの開閉する音がした。

彼が顔を上げると、目の前にはもう由佳の姿はなかった。

 清次は全身が硬直し、力なくソファの背にもたれかかった。もう演技を続ける気力もなかった。

彼女は本当に自分を少しも気にかけていないのだろうか。

苦肉の策も通用しないのか?

 清次は苦々しく目を閉じ、包帯の端を引っ張って、簡単に余分な部分をちぎり取り、それを無造作にテーブルの上に放り投げた。

「引きちぎったの?」由佳がハサミを持ってオフィスの入口に現れた。

 清次は驚いたように彼女を見つめ、唇を抑えた後、再び目を伏せた。「うん。仕事に戻っていいよ。自分でできるから」

由佳は眉をひそめ、「ハサミを持ってきただけよ」と言
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コメント (1)
goodnovel comment avatar
yas
あーなるほどー………う~~~ん……… 難しい………確かに、またこっそり会ってたって思ったならそんな反応になるかー・・・ 由佳こそ時々、冷酷無慈悲だなーと思うことがあるけど、、、う~~~ん………
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