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第253話

 清次は怒りを爆発させ、一蹴りで相手を蹴り飛ばした。その男は腹を押さえながら地面に伏し、酸っぱい液体を混じらせた一口の血を吐き出した。

「もうやめようか……」と、ひとりが退却を考え始めた。

最初の話では、清次という男に少し痛い目を見せるだけのはずだったのだ。

しかし、今や他の者たちは戦いに熱中し、凶暴な攻撃を続けており、もはや手を止める気はなく、当初の約束など忘れていた。

山口清次は懸命に防御しながら応戦していた。

その時、背後からひとりがナイフを手にして襲いかかり、刃は清次の背中に向かって一直線に突き刺さった。

「清くん!危ない!」という声が響いた。

「ズブッ」という音と共に、刃が体を貫いた。

「あ——」と女性の声が、心を引き裂くように響き渡った。

……

10月24日午後2時18分、虹崎市で刺傷事件が発生し、2人が負傷。現在、病院で治療を受けており、事件は調査中であるというニュース速報が流れた。

由佳は仕事に集中しており、最初はその知らせに気付かなかった。

10分後、ネットサーフィンをしていた高村さんがリンクを送ってきた。「由佳ちゃん、このビデオの57秒に映っている男、 清次さんに似てない?」

由佳は一瞬指を止め、マウスでリンクをクリックした。

それは通行人が撮影した動画だった。

ズームされた映像ははっきりしないが、雨音と共に何人かの医療スタッフが動き回り、地面に横たわる負傷者を救急車に運び込む様子が映っていた。

由佳は時間軸を57秒に合わせ、男性の横顔が一瞬映し出された。

それはどう見ても清次のように見えた。

由佳は一時停止ボタンを押そうとしたが、間に合わず、映像は58秒で止まった。画面には担架に横たわる負傷者が映っており、黒い服を着た人が見えていた。それは女性のようだった。

由佳は再生ボタンを押そうとしたが、突然、女性の手首に目が留まり、注意深く見つめた。女性の手首には、薄い青色のブレスレットが見え、ぼんやりとした映像の中でも、雨に濡れて淡い光を放っているのがわかった。

由佳は胸の中にある予感を抱いた。担架に横たわっているのは加波歩美だと。

そして、彼女が着ているその黒い服は、清次が持っているコートにそっくりだった。

となると、動画に一瞬映った男性が清次であることは間違いない。

由佳の目には、嘲笑の色が浮かんだ。

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コメント (1)
goodnovel comment avatar
yas
あの女の自作自演だろ
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