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第257話

 今なら彼女もわかる。人の上に立つためには、山口さんの奥さんが一番重要ではなく、清次その人こそが重要なのだと。

 たとえ歩美が社長の奥さんになったとしても、清次に目をかけてもらえなければ、結局は下層でもがくしかない。清次が歩美をドラマのヒロインから外し、広告契約も取り消した今、彼女の他の仕事もすべて解約され、どんなに努力しても無駄だった。

 菜奈の言葉は、歩美にとって頭を鈍く打たれたような衝撃だった。「山本ちゃんまで私から離れるの?まだ諦めたくない!」

 焦りに満ちた声で言い、無理に起き上がろうとするも、傷口に響き、痛みで再びベッドに倒れ込んだ。

 「山口さんの心はもう加波ちゃんにはない。何をしても無駄よ。むしろ、加波ちゃんが出国するのも悪くないわ。戻るチャンスがあるかもしれない。でも、私はもう一緒には行けない。自分の身を大切にしてね」

 そう言い残して、菜奈は病室を出た。

 彼女は刑務所に入りたくはない。これからはおとなしくしていくしかないのだ。

 「山本ちゃん!山本ちゃん……」歩美は感情が高ぶり、菜奈の名前を呼び続けた。

 菜奈が去るのを見届けると、歩美の目は赤く染まり、広がる絶望が彼女を襲った。

 菜奈まで自分を見放した。

 結局、自分は国外に送られるしかないのか?

 ……

 病室では、歩美の母親である加波圭織がスープをテーブルに置き、一杯をよそって言った。「自分をこんなにして、山口さんは結局顔を見せないじゃないの?」

 歩美は苛立ちを隠せず、ベッドに凭れて無言でいた。

 圭織はベッドのそばに座り、歩美の表情に気づかずに言い続けた。「山口さんとは長い付き合いなのに、どうして由佳に勝てないの?まったく、なんであの時、出国しなきゃならなかったの?そうしなければ、今ごろ彼の奥さんになれてたのに!ね、山口さんが何か欲しがったら……」

 「ねぇ、もう黙ってくれない?!」歩美は母親の言葉を遮った。

 もし選べるなら、あの時だって出国なんてしたくなかった。だが、選べなかったのだ……

「私は母親よ、歩美ちゃんのためを思って言ってるのに、何が悪いの?」

 圭織は口を尖らせ、不満を表にした。

 彼女は歩美にスープを数口飲ませると、また言った。「言っとくけど、二人が一緒にいるのは周知の事実でしょ?なのに、こんなことになって、歩美ちゃんが帰国して
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