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第251話

  歩美は信じられない思いで清次を見つめ、しばらく言葉が出なかった。

今の国内の芸能界は、実力ではなく、人脈が勝負の決め手だ。

多くの実力派俳優が人脈がないために、端役を転々として日の目を見ない一方、演技力のない花瓶のような主役が次々と現れている。

加波家は虹崎市ではそれなりの地位にあるが、歩美はわかっていた。

自分の父はただの役立たずで、遊びばかりに興じては、自慢話をして虚勢を張るばかり。伯父も一見温厚そうだが、実際は自己中心的だ。

清次の後ろ盾を失えば、伯父も建前すらもやってくれなくなるだろう。

彼女は今の地位を失いたくなかったのだ。

歩美は清次を見つめ、表情にはわずかな苦しみを装いながら、その瞳には一瞬、嫉妬の色が浮かんで消えた。彼女の拳は強く握りしめられ、爪が掌に三日月形の痕を残した。

「清くん、どうしてそんなことをするの?私をそんなに恨んでるの?清くんのインタビュー映像が放送されてから、みんな私が愛人だって罵ってるのよ……」

「そう思ったことはないのか?」清次は冷ややかに彼女を一瞥した。

歩美の表情が硬直し、喉元まで出かかった言葉が詰まってしまった。

「俺が結婚していることを知りながら、何度も仮病を使って俺を呼びつけ、俺の加波ちゃんに対する罪悪感を利用して、何度も由佳ちゃんを傷つけた。そのことに対して、心には一度も不安がなかったのか?」

清次の声は冷たく響いた。彼が歩美にそう言うとき、自分自身への憎しみがさらに募った。なぜなら、由佳を最も深く傷つけたのは歩美ではなく、他でもない自分自身だとわかっていたからだ。すべての根源は彼自身であり、彼こそが悪い人なのだ。

清次は呆然とする歩美を見つめ、深くため息をついた。「加波ちゃん、俺たちはもう過去を忘れて、新たに始めるべきだ。過去のことは俺の過ちだ。希望を与えたり、甘やかしたりするべきじゃなかった。俺は加波ちゃんに明るい未来を約束できるが、それ以外のものは何もない。選択しなさい」

「清くん、そんなに酷い事言わないで……」加波歩美は泣きながら言った。

「俺が本当に酷い奴なら、とっくに海外に行かせただろう!」清次の顔は冷淡だった。

彼がもっと早く歩美に対して残酷になれたなら、今の状況は起こらなかっただろう。

歩美はただ泣き続け、何も言わないのを見て、清次はしばらく沈黙した後、冷静な声で
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