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第193話

彼女の唇が腫れて外に出たら、本当に河に飛び込んでも説明が出来なくなるだろう。

「何を恐れているんだ?ここは私のオフィスだから、誰も勝手には入ってこないよ」山口清次は由佳を見下ろし、「もし誰かが入ってきたとしても、見られたら見られたで、いっそのこと公にすればいい」と言った。

「無理です」由佳はすぐに断った。

「どうして無理なんだ?」山口清次の目は暗い。

由佳は彼を一瞥し、唇を動かして「今は公開したくない」と答えた。

「何を気にしているんだ?歩美ちゃんとはもう何もないし、由佳ちゃんに約束したことは必ず守る。」山口清次が言った。

由佳は目を伏せ、「したくないものはしたくない。早く離して、仕事に行かなきゃ」と言った。

山口清次はため息をつき、「離してあげるけど、まずは『夫』と呼んで。」と言った。

「……」

由佳は歯を食いしばり、「頭がおかしいの?離して」と叫んだ。

「おとなしくして」と山口清次は由佳をさらに強く抱きしめた。

「『夫』と呼べば、離すよ」

「山口清次、あなたはまだ子供なの?」

「そう思ってくれてもいい」

由佳は諦め、「『夫』と呼べば、離すんですね?」

「うん、約束を守るから」

由佳は唇を噛んで、低い声で「夫、いいですか?」と呼んだ。

「もう少し大きな声で、聞こえない」

「山口清次!」

「うん、聞いてるよ」山口清次は笑いながら言った。

「夫」由佳は大きな声で再び呼び、ようやく許可が下りた。

「実は一つ伝えたいことがある」

「話を逸らさないで、早く離して」

「本当に伝えたいことがあるんだ。ビザが取れた。30日に出発するよ」

「分かった。離してもいいですよね?」

山口清次はようやく満足して由佳を解放した。

由佳はすぐに立ち上がり、まるで逃げるようにオフィスを出て行った。

山口清次は由佳の背中を見送りながら、口元に笑みを浮かべた。

その時、スマホが通知音を鳴らした。

山口清次は携帯を取り、画面を確認した。「清くん、11月の連休に私に会いに来てくれる?」

加波歩美からのメッセージだった。

山口清次は「用事がある。撮影に集中して。」と返信した。

「清くんがいなくて寂しい」

山口清次はそのメッセージを見て、返信はしなかった。

返信がないのに気づいたのか、間もなくもう一つのメッセージが届いた。「清くん、別れたこ
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