第3話

「いいわよ！せっかく顔を立ててあげたのに、恩を仇で返すなんて、あんたの隠し事を全部暴いてやる！」

晴子が母親に電話をかけようとするのを見て、私も外で会議に出ている亮に電話をかけた。しかし、何度かけても出てくれない。

仕方なく、急いで戻るようにメッセージを送った。

それから間もなく、沙織が学校に到着した。晴子は予備の鍵を使って彼女にドアを開けてあげた。

「お母さん、怖がらなくていいよ！みんなの前で、美羽はあなたの結婚を壊した愛人だってはっきり言って！」

沙織は唇を噛み、弱々しい表情を浮かべていた。

「晴子、もうやめて。これは家庭の問題で、みんなに知られると五十嵐先生の名誉に関わるわ」

「お母さん、彼女はあなたが弱いからこそ、堂々と愛人として振る舞っているんだよ！今日はこんなに多くの人がいるんだから、正妻であるお母さんを守るためにも、正義を貫かないと！」

沙織は目を瞬かせ、目尻に涙がこぼれた。「私はただの主婦よ。五十嵐先生は副校長なんだから、私たちがどうやって彼女と戦えるの？」

その曖昧な言い方に、私は思わず笑ってしまった。

鋭い視線で彼女を睨みつけ、声を強めた。「沙織、はっきりみんなに言って。あなたと亮は結婚していないんでしょう？」

沙織は唇を噛みしめ、晴子の後ろに隠れるようにして震えていた。その怯えた様子に、先ほどまで私をかばっていた男性教師が保護欲を刺激されたのか、私を指さして言った。

「怖がらなくていい。もし五十嵐先生が愛人だと証言するなら、みんなで署名して上に報告し、彼女を厳罰に処すべきだ！」

沙織の目が一瞬光り、次に顔を上げた時には、まるで悲しみに満ちた表情をしていた。

彼女は私の前に跪き、涙を流しながら訴えた。「五十嵐先生、お願いです、私たちを許してください！」

その姿は、周りの全員の心に深い痛みを与えた。

明らかに沙織が話をはぐらかしているのに、人々は、それを見て私が愛人だと確信してしまった。

晴子は両手を振り回しながら叫んだ。「皆さん、もし今日この場で見て見ぬふりをしたら、明日誰も私のために戦ってくれない！」

「今日は私たちが不倫裁判官だ！学生の家庭を壊し、恥知らずな愛人には、必ず罰を与えなければならない！」

晴子の言葉で、クラスメートたちは次々に机の上に飛び乗り、「愛人を殴って、学校の風紀を正せ」と叫び始めた。

混乱の中、誰かが腐った卵を私に投げつけた。私はその衝撃で狼狽し、沙織は人々の中から私に向かって気持ち悪い笑みを浮かべていた。

晴子はそのタイミングを見計らって、私のお腹を蹴り上げた。瞬間的に、激しい痛みが襲ってきた。

私は痛みに耐えきれずに身をかがめ、下腹部から少しずつ血が滲み出てきた。

事態が悪化していく中、何人かの男性教師が慌てて飛び出し、ルールを守ろうとした。私の下腹部から流れる血はどんどん増えていった。

晴子もまだ子供だ。彼女はその場で恐怖に襲われたのか、慌てた様子で言った。

「五十嵐先生、お母さんに謝って、辞職して父から離れてくれると約束してくれたら、今までのことは水に流してあげるわ」

私は彼女たちを見つめ、目の中に沸き起こる憎しみを抑えられなかった。「あなたたちには必ず報いを受けさせる！」

私がそう言い終えた瞬間、「バン！」と教室のドアが勢いよく開かれ、亮が汗だくで駆け込んできた。

「美羽、何があったんだ？」

私はお腹の痛みをこらえながら、晴子を指さして皮肉っぽく言った。

「説明してよ。彼女はあなたの娘だって言ってるけど、私がいつ子供を産んだか、私自身も知らないんだけど」

亮は一瞬動きを止め、状況を理解すると、何も言わずに晴子に向かって平手打ちを喰らわせた。

「どこの馬の骨だ？母親がいても育て方が悪いな！」