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第21話

司は詩亜瑠が鞭を手に、怒りとともに鈴音に打ちつけているのを見て、眉をひそめた。まるで復讐を果たすかのようなその姿勢に、彼の顔は険しくなった。

司はここ数年、詩亜瑠を甘やかしてきたが、そのせいで彼女はどんどん増長していた。撮影現場で鞭を振り回すようになるとは予想外だった。

朝倉グループに守られているから無事でいられるが、そうでなければ何度命を落としていたかわからない。

司は携帯をしまい、車から降りて長い足で撮影現場に向かって歩き出した。ちょうど詩亜瑠がもう一度鞭を振り下ろそうとした瞬間、彼は口を開いた。

「詩亜瑠」

声は大きくはなかったが、その響きには力強さがあり、撮影現場にいた全員が聞き取ることができた。

詩亜瑠は鞭を振り下ろす寸前で動きを止め、司が現れたのを見て、すぐに可愛らしい少女のように振る舞い、走って司の胸に飛び込んだ。「司兄さん、どうして来たの?」

詩亜瑠は司の胸に顔をうずめ、甘えたようにすり寄った。

司の視線は冷ややかだったが、彼女を突き放すことはせず、「昼食に連れて行くつもりだ」とだけ言った。そして、現場を見渡すと、リンが鈴音を支えているのが目に入った。

鈴音は白い衣装を着ており、立ち上がる際にスカートの裾が少し赤く染まっていた。歩くたびに袖口から血が滴り落ちており、詩亜瑠がかなり手加減せずに打ちつけたことが伺えた。

「朝倉様」

「朝倉様」

詩亜瑠のバックグラウンドと彼女のスポンサーは業界でも有名で、司が現れると、誰もが挨拶に駆け寄った。司はそれに対して、ただ淡々と頷くだけだった。

司は詩亜瑠と一緒に休憩所に向かって歩き出し、その途中で足を止め、近くにいたスタッフに声をかけた。「あそこの女優に最上級の薬を二本持っていけ」

スタッフはすぐに頷き、急いで薬を取りに向かった。

一方、リンは鈴音を座らせ、急いで袖をめくって鈴音の傷を確認した。鈴音の腕には血が滲んでおり、リンの目には涙が浮かんだ。「姉ちゃん、ここで待ってて。私が薬を買ってくる」

無名で地位もない彼女には、現場で薬を手に入れることは難しかった。

ちょうどその時、スタッフが近づいてきて、薬と綿球を手渡してくれた。リンは一瞬驚いたが、何も言わず薬を受け取った。

スタッフが自分に薬をくれるなんて、まさかの出来事だった。

リンは、誰かが鈴音の傷を見かねて薬をくれたのだ
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