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第223話

ただ、若子には理解できなかった。どうして藤沢修は今さらそんなことを尋ねるのだろうか。彼女がそんなふうに思ったところで、彼にとって何の意味があるというのだろう?

彼だって、彼女に対して誤解を抱いたことがあった。彼女を悪女だと思い、冷酷で毒を持った女だと考えたのではないか。

「はっ」藤沢修は突然笑い出したが、その笑みはどこか皮肉に満ちていた。「そうだな、俺はお前を突き落として、粉々にしてやりたいと思ってたんだ」

彼がそう言うのなら、もう何も言い返す必要はなかった。彼らの間にあるものは、もはや言葉だけで埋められる溝ではなかった。

離婚すれば、それで全て終わるだろう。この切っても切れないようなもつれは、もう二度と彼女の人生に絡みついてくることはない。

彼女は修の怒りに立ち向かう気力がなかった。だから、せめて逃げるしかない。

若子は身を翻し、横向きに寝転び、指を噛みしめた。大粒の涙がぽたぽたとシーツに落ちていった。

......

翌日。

今日は二人の離婚の日だった。二人は早めに起きて、無言のまま一緒に朝食を取った。

二人ともとても静かだった。まるで、これが最後の朝食であることを自覚しているかのようで、言い争うこともなく、何の感情もぶつけ合わなかった。ただ、どこかよそよそしく感じられた。

まるで夫婦ではなく、ホテルのビュッフェで同じテーブルに座る見知らぬ他人のようで、お互いに言葉を交わすこともなく、ただ静かに食事を済ませた。

食事が終わると、藤沢修は横にいるスタッフに向かって言った。「書類を持ってこい」

その場に離婚協議書が若子の前に置かれた。

「これは離婚協議書だ。まずはこれにサインしろ」藤沢修は淡々とした口調で言った。

若子はためらうことなくペンを取り、書類の最後の部分に自分の名前を署名した。内容には目も通さなかった。

彼女はお金なんて気にしていなかった。そもそも、彼女は藤沢家に何も持たずに嫁いだし、ずっと藤沢家の支えを受けていた。お金もたくさんかけてもらった。

公正に言えば、藤沢家は彼女に何も借りていなかった。修から受けた心の傷は、二人の感情の問題であり、藤沢家とは関係がない。それは、彼ら夫婦が感情を上手く処理できなかった結果に過ぎない。

離婚協議書にサインを終えた後、修と若子は一緒にその場を後にした。

修は自ら車を運転して民政局まで
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