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第222話

若子は指先でその浅い傷をそっとなぞりながら、胸が締め付けられるような痛みを感じた。あの日、彼が何の躊躇もなく彼女を守ろうと突っ込んできた混乱の場面が、脳裏に鮮やかに蘇ってきた。

藤沢修から受けた数々の傷が忘れられないのと同じように、彼の優しさもまた、どうしても忘れられなかった。

こうした善意と悪意が入り混じった感情は、彼女にとって耐え難いほどの苦しみだった。

もし彼女が単純に彼の良い面だけを覚えていられたなら、

あるいは悪い面だけを記憶して、極端に怒り狂うことができたなら、どれだけ楽だっただろう。

けれど、若子はそうもいかない。単純な感情にも、極端な怒りにもなりきれない。

彼女はその中間にいて、修の良いところも悪いところも、すべて覚えている。

だからこそ、心が時折左に傾き、時折右に揺れ動く。結局、傷つくのは自分自身だけだった。

修は彼女の手を掴み、若子の瞳に浮かぶ悲しみを見た瞬間、心臓が強く締め付けられるような痛みを感じた。まるで息が詰まるような、絶望的な感覚。

そう、絶望だ。彼はじっくりと考えて、ようやくそれが絶望だと気付いた。

どうして自分がそんな気持ちを抱いているのか、自分でもわからなかった。

彼女の悲しげな目に引き込まれるようで、体も心も、その奥に落ちていくようだった。

この女の目は何を訴えているのか?

彼女は自分を愛していないのではなかったのか?自分との結婚生活に満足せず、もううんざりだと言っていたのではないのか?それなのに、どうして今こんなに名残惜しそうに、自分を見つめているのか。

それに、彼女は遠藤西也ととっくに知り合いで、二人はもう関係を持っていると自ら認めたのではなかったのか。

笑えるのは、彼が一瞬、自分を慰めて「若子はただの怒りで言っただけだ」と考えたことだ。しかし、彼女は実際に西也の家に泊まっていたのだ。

もしかすると、二人はもう関係を持ったのかもしれない。

そんな考えが頭をよぎった瞬間、藤沢修はまるで荒れ狂う獅子のように、目に怒りの炎が燃え上がった。彼は突然若子の唇を激しく奪った。

まるで何かを発散するように、そこには少しの優しさもなかった。

若子は目を閉じた。唇が痺れ、鼻の下が麻痺していくのを感じながら、両手で彼の肩を押し返そうとした。

彼女の抵抗を感じ取ると、修は彼女の両手を掴み、そのまま頭の上に押
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