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第195話

松本若子は彼の手を握り、自分のお腹に押し付けた。衣服越しでも、彼女の体温が高熱のためにとても熱いことがわかった。「赤ちゃんには父親が必要なの。だから、もう私と赤ちゃんを置いて行かないで。たとえ私を要らなくても、赤ちゃんは要らないなんて言わないで......」

そう言いながら、松本若子は次第に意識がぼんやりとしてきた。彼の胸に倒れ込み、眠りに落ちそうになったが、彼女は「藤沢修」が彼女が眠った後に去ってしまうのを恐れ、彼の服をしっかりと掴んで離そうとしなかった。

「大丈夫だから、まず体温を測ろうね」遠藤西也は変わらず優しい口調で言った。

「先に約束して、もう私を置いて行かないこと。桜井雅子にはもう会わないって約束して」彼女は頑なに言った。

「わかったよ、約束する」彼はすぐに彼女に約束した。彼は何だって彼女に約束できる、ただ一つだけ残念なのは、彼が藤沢修ではないこと。あの男は自分がどれほど幸運であるか気づいているのだろうか。彼は松本若子という女性を手に入れておきながら、そのことを大事にしない。まるで、彼には世界が自分に借りがあるかのように振る舞っている。

一方で、必死に大切にしようとしても、それがどうしても手に入らない人がいる。努力では手に入らないものが、目の前にある。まさにそれは彼の状況だ。

藤沢修がそんなに素晴らしい男か?いや、彼はただ幸運なだけだ。努力よりも幸運の方が重要で、彼はその幸運で若子を手にしている。

「じゃあ、指切りしよう」松本若子はまるで子供のように、自分の小指を差し出した。その仕草には幼さが残っており、同時に哀れみさえ感じさせるものだった。

遠藤西也は、微笑みを浮かべながら彼女の小指に自分の小指を絡めた。そして二人は一緒に「指切り」をし、親指でお互いの約束に印を押した。

その瞬間、遠藤西也はまるで彼女が自分の妻であり、彼女のお腹にいるのが自分の子供であるかのような錯覚を覚えた。しかし、それはただの錯覚であることを彼はよく知っていた。彼女は病気で正気を失い、悲しみで心が壊れそうになっていた。だからこそ、彼を藤沢修と間違え、その愛憎に満ちた男を求めているのだろう。

彼女の潜在意識の中では、あの男が自分のそばにいてほしいと強く願っているのだ。

それでも彼は彼女に付き合った。自分でもなぜこんなにも彼女に合わせてしまうのか分からなかった。藤
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