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第194話

遠藤西也はため息をつき、慎重に彼女をベッドに寝かせ、優しく布団をかけてあげた。

彼は体温計を取りに行こうと振り返ったが、松本若子が彼の手首を掴んで「行かないで、行かないで、お願い」と言った。

「行かないよ。体温を測るために体温計を取りに行くだけだ」

「でも、戻ってこないんでしょ?」松本若子は涙ぐんだ目で彼を見つめた。

「すぐ戻ってくるよ」

「嘘つき......どうせまた桜井雅子さんのところに行くんでしょ。毎回彼女から電話が来たら、必ずそっちに行くじゃない。彼女が君を必要としてるって言うけど、私だって君が必要なの、私も赤ちゃんも......君が必要なの!」

「修......私、妊娠してるの。君、もうすぐお父さんになるんだよ......ううう......!」

これは本来なら喜ばしいニュースなのに、彼女がそれを口にした時、悲しみに溢れていて、彼女は泣き崩れそうだった。

「よかった......俺、父親になるんだね」遠藤西也は彼女の気持ちに寄り添うように、優しく笑みを浮かべた。

「本当に嬉しいの?」松本若子は信じられない様子で彼を見た。「この子が欲しいの?」

「もちろんだよ、これは俺たちの大切な宝物なんだから。どうして欲しくないなんて思うんだ?」

彼女は今、混乱している。だから彼はできる限り彼女に合わせた。彼女が少しでも安心できるように、彼女の不安を取り除こうと努めた。もしかしたら、彼女が目を覚ました時、このことを忘れてしまうかもしれない。

しかし今この瞬間だけでも、彼女を喜ばせることができればと思った。

「修......」松本若子は彼の手を強く握りしめ、「私は、君がこの赤ちゃんを望んでいないんじゃないかと思ってた。だから、君に伝えるのが怖かったんだよ......君がいらないって言うんじゃないかって......」

「そんなことあるわけないだろ?俺はこの赤ちゃんを望んでいる。だから、もう泣かないでくれよ、頼むから」

遠藤西也の声には、彼女への深い愛情が込められていた。それはただの演技ではなく、彼の心からの優しさだった。

「うん、もう泣かない」松本若子は彼の言葉に従い、顔の涙を拭き取った。

遠藤西也は腰をかがめ、少し冷たい手で彼女の頬に触れ、「体温計を取ってくるから、60秒数えてくれ。俺が戻ってこなかったら、俺は嘘つきだ」

松本若子はすすり泣き
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