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第015話

男の問い詰めるような口調を聞いて、松本若子は思わず可笑しく感じた。

離婚を言い出したのは彼であり、他の女性と一緒になることを急いでいたのも彼なのに、彼には不機嫌になる資格があるのだろうか?

「早くサインして終わらせた方が、あなたにとってもいいことよ」

そう言い終えると、松本若子は布団をめくってベッドから降りた。

たとえ心が痛くても、彼の前では決して涙を見せない。

結婚前に彼女は言ったのだ。彼が離婚を望むなら、いつでも言ってくれればいいと。彼女はそれを引きずらないと。

だから、彼女は自分の言葉を守らなければならない。

男は彼女の背中をじっと見つめ、眉をひそめた。

彼女にとってもその方がいいだろうか?

松本若子は浴室の入口に着くと、突然振り返って言った。「そういえば、昨夜桜井雅子が電話をかけてきたわ。あなたが寝ているって伝えたの。勝手に電話を取ってしまってごめんなさい」

彼女は浴室に入った。

その後、藤沢修は電話を手に取り、自ら桜井雅子に電話をかけた。

「もしもし、修?」

「昨夜、何か用事があったの?」藤沢修の声は冷たくはなかったが、温かみも感じられなかった。

「別に大したことじゃないわ。ただ、奥様が電話に出るとは思わなくて。彼女、私に対して怒っているみたいだったわ」

松本若子が浴室から出てくると、藤沢修はちょうど電話を切ったところだった。

彼女は衣装部屋に入り、服を着替えて出てきた。その表情はいつもと変わらず穏やかだった。

「お前、怒ってた?」藤沢修が突然尋ねた。

「何のこと?」松本若子は彼を不思議そうに見つめた。

「昨夜、雅子から電話があったとき、お前は怒ってた?」

松本若子は唇を引き締め、心の痛みをこらえながら微笑んで答えた。「怒る理由なんてないわ。最初から彼女の存在はわかっていたもの。安心して、私は二人の邪魔をしないわ」

彼女は冷静で、落ち着いた口調でそう言い終えると、部屋を出た。

ドアを閉めた瞬間、部屋の中から何かが壊れる音が聞こえたが、それはほんの一瞬だった。

松本若子は、藤沢修が朝起きたときに二日酔いになるだろうと考えて、彼のために解酒に良い朝食を用意していた。

夫婦はテーブルに座り、黙って朝食を食べていた。

離婚の話が出てからというもの、二人の間の雰囲気はずっと重苦しいままだった。

彼女は昨夜、村上允が薬を持っていたのを思い出し、それが藤沢修のためだと言っていたことを思い返した。

「昨夜、村上允が薬を買ってきたのを見たんだけど、あなた、何か病気でもしてるの?」もしかして、自分が知らないことがあるのだろうか?

藤沢修は淡々と答えた。「酒を飲みすぎて胃が荒れてたんだ。それで、彼に薬を頼んだだけだよ」

松本若子の質問に、村上允は彼女には何も言わなかったようだった。

「そうなの?本当にそれだけで、一、二回の服用で済むの?」松本若子は少し疑っていた。

しかし、彼女は村上允の口ぶりから、それがただ一、二回だけの服用ではないように感じていた。

「そうだよ。何でそんなことを聞くんだ?」

「…」

松本若子は彼の顔から何も隠している様子を読み取ることができなかったため、微笑んで答えた。「別に。ただ、ちょっと気になって聞いただけ」

「離婚協議書はいつ修正が終わるの?」と彼女は再び尋ねた。

「いずれにしても離婚するんだから、急ぐことはないだろう?」

藤沢修の声には、抑えきれない苛立ちが少し混じっていた。

松本若子は驚いて、「急いでるわけじゃないわ。ただ、大体の時間を知っておきたいの。準備も必要だから」と答えた。

藤沢修は自分が少し強く言い過ぎたことに気づき、声を和らげて言った。「前に言っただろう?いくつか手続きの問題があって、審査のプロセスがそんなに早く終わらないんだ。離婚は必ずする。心配するな」

「そう、わかったわ」

離婚を提案したのは彼なのに、桜井雅子と一緒になることを急いでいるはずなのに、今はあまり急いでいるようには見えない。まるで彼女が離婚を望んでいるかのように。

なんて理不尽な男なんだろう。

「それで…おばあちゃんにはいつこのことを話すつもり?」彼女は再び尋ねた。

おばあちゃんに知られることは避けられない。

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