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第014話

男の長いまつげが軽く動いたかと思うと、再び目を閉じて眠りに落ちた。

松本若子は彼の肩をそっと押してみた。

まったく動かなかった。

この酔っ払いは、時々ぼんやりしているかと思えば、急にしっかりしている。

彼女は仕方なく、この方法で一口一口と彼にスープを口移しで飲ませ続けた。

藤沢修は目を開けることはなかったが、すべて飲み込んでいった。

ようやくスープを飲み終えた後、松本若子は自分の口元を拭き、彼が安らかに眠っているのを確認すると、そっと布団をかけ、浴室に向かった。

松本若子はシャワーを浴び、体を拭いた後、しばらくベッドの横に立って藤沢修を見つめた。離婚が近づいていることを思い出し、同じベッドで寝るのは良くないと思い、隣の部屋で寝ることを決意した。

しかし、その瞬間、ベッドサイドの電話が振動した。

松本若子は電話を手に取り、画面を見ると、表示されていたのは「桜井雅子」だった。

彼女の心は一瞬凍りついた。

過去の出来事が頭をよぎり、松本若子は突然、衝動に駆られた。彼女は電話を取り、耳に当てて、「もしもし」と応じた。

電話の向こうから疑問の声が聞こえた。「あなたは?」

「私は松本若子です。ご用件は何でしょうか?」

「おお、奥様ですか、失礼しました。修かと思って」桜井雅子の声はとても丁寧だったが、「修」と呼ぶその親しさが、松本若子の胸に痛みをもたらした。

彼女は冷静な声で返答した。「彼はもう寝ています。何か用があるなら、明日また連絡してください」

「わかりました」

桜井雅子は電話を切った。

松本若子は電話をベッドサイドに置き、最初は部屋を離れようとしたが、思い直してそのまま藤沢修の隣に横たわった。

彼女がベッドに入ったその瞬間、藤沢修は突然体をひねり、彼女を腕の中に引き寄せた。

その温かな抱擁は、彼女にとってとても懐かしく、安心感をもたらした。

離婚すれば、この抱擁はもう彼女のものではなく、桜井雅子のものになるのだ。

「お…旦那さん…」松本若子は小さな声でつぶやき、彼の顔を両手で包み込んで、その美しい唇にキスをした。「これが最後の呼びかけだわ。これからは、この言葉は他の誰かのものになるわね。本当に愛する女性の口から聞いた方が、あなたも幸せでしょう」

彼女は彼の胸に顔をうずめ、彼をしっかりと抱きしめた。この瞬間がもう少しだけ続けばと願いながら。

やがて彼女は眠りに落ちた。

「誕生日おめでとう」

松本若子はぼんやりとした意識の中で、そんな言葉を耳にした気がした。

しかし、何を言われたのかはっきりとはわからなかった。まぶたが重くて、目を開ける気にはなれなかった。

おそらく、気のせいだろう。

「…」

翌日。

松本若子が目を覚ますと、自分がまだ彼の腕の中にいることに気づいた。信じられないような気持ちと、甘酸っぱい胸の痛みが混じり合った。

藤沢修はすでに目を覚ましていて、彼女をじっと見つめていた。

「起きたのか?もう少し寝ててもいいんだぞ?」

その優しい声を聞いた瞬間、松本若子は一瞬、彼らがこの世で一番幸せな夫婦であり、永遠に離れることはないという錯覚を覚えた。

しかし、その瞬間、彼が離婚を言い出した時の冷酷さを思い出した。

冷水を浴びせられたように感じて彼の腕から抜け出した。

「ごめんなさい。昨夜は別々に寝るべきだったのに、疲れてそのまま寝てしまった」

彼のもともと優しかった表情は急に冷たくなり、彼は起き上がり、冷たく言い放った。「まだ離婚してないことは知ってるだろ?」

「何が違うの?離婚協議書は今日には修正が終わるでしょう?」

痛みが長引くよりも、早く終わらせた方がいい。彼が彼女の妊娠に気づく前に、片付けてしまいたかった。

「そんなに急いでるのか?」藤沢修の声はさらに冷たくなっていった。

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