二日間、結奈の遺体は見つからなかった。彼女はまるで空から消えたかのようだった。母は川辺で二日間泣き続けた。目元は青ざめ、目は腫れて胡桃のようになり、かつての落ち着き払った姿はどこにも見当たらなかった。言葉にできない苦しさが、私の心の中で渦を巻いた。最愛の娘を失った彼女は、とても悲しそうだった。私は彼女が毎日警察の襟をつかんで質問したり、神に娘を返してと願ったりする姿を見ていた。二日が経ったが、彼女はまだ希望を捨てていなかった。山下警部が車から降りてきた。彼の目元にも大きなクマが見えたが、目は生き生きとしていた。「良いニュースがある!」近くの警察官がすぐに駆け寄った。母の目にも希望の光が宿り、彼女は走り寄っていった。「結奈の消息か?」山下警部は首を横に振って、ポケットから携帯電話を取り出した。私の心がまた狂ったように鼓動した。その携帯電話は私のものだった!「莉奈の携帯電話の位置を特定した。同じ場所で、犯行に使用されたと思われるナイフも見つかった。ナイフには血痕と犯人のDNAが残っていた」母の目から希望の光が消えた。「それが良いニュースなのか?彼女が殺人犯だって何度も言ってるのに、私は結奈の消息を聞いているんだ!」山下警部は眉をひそめた。「莉奈の携帯電話を調べたところ、あなたに送られたメッセージは予約送信されていたことが分かった」彼は一瞬言葉を切って、何かを示唆するように言った。「犯人が彼女の携帯電話を使って誤認を誘うためにメッセージを送った可能性がある。その時間帯に、彼女に何か起こった可能性が高い」「メッセージを送った日に結奈は家にいたって言ってるけど、我々が確認した監視カメラの映像はその前日のものだ。前日も結奈は家にいたのか?」
真実が目前に迫っていた。私は手のひらが震え、胸のあたりを押さえた。あの日、彼女が私を殺害するシーンが脳裏に甦った。母は一瞬呆然とした。しかし、待っていたのは彼女の反省ではなく、突如として爆発した怒りだった。「私の娘が川に飛び込んで行方不明になったんだよ!私は彼女を探しに来たんだ、殺人犯の汚名を着せるためにじゃない!」山下は彼女の精神状況を考慮し、一呼吸置いて説明しようとしたが、すぐに鋭い声で遮られた。「まさに、彼女の妹が殺人犯だから、そしてお前らのような真偽を見分けられない警察がいるから、結奈は川に飛び込んだんだ。お前らが彼女を追い込んだんだ!」山下も逆恨みされ、怒りが込み上げてきた。「ともかく、今晚の血液検査結果が出る。死んでいるのが莉奈かどうか、すぐにわかるだろう!」
山下が去った。母は床に膝をつき、目は虚ろで孤独そのものだった。しばらくして、彼女は小さな声で啜り泣き始めた。その声は次第に大きくなっていった。「なぜ私の娘たちは死んでしまい、莉奈という殺人犯だけが生きてるのか?」違うよ、母さん。私の喉は詰まり、何とも言えない気持ちになった。確かに殺人犯は生きてるけど、莉奈はすでに死んでいたんだ。母の感情は崩壊寸前で、見苦しく号泣していた。周囲には多くの警察官がいたが、誰も彼女を慰める者はいなかった。彼女が先ほどどれだけ理不尽に振舞ったか、彼らも見ていたからだ。いくつかの警察官がすでに事件の内容について話し合っており、結奈が犯人かどうかを推測していた。母は怨嗟の目で彼らを見つめた。「お前は彼らに追い込まれて自殺させられたけど、母さんは決して忘れはしない」彼女はスマホを開き、涙ながらに長い文章を編集し始めた。結奈が川に飛び込み、警察に殺人犯と決めつけられたことを書いた。そして、本当の殺人犯である莉奈が逃げていることを告発した。一句一句が血を吐くようなもので、母親が娘の冤罪死に絶望している心情が伝わってきた。私は悲しみに沈んで彼女を見つめた。普段は有能な母も、娘を失った悲しみのあまり、理性を失っていた。メディアの反応により、次々と人々が川辺に集まった。中には警察への不満を抱く者たちもいて、「結奈を殺せ」というプラカードを掲げる者がいた。状況はますます混沌としていたが、山下から電話が掛かってきた。「晴奈、お前は頭がおかしくなったのか?お前の娘が事件に巻き込まれてるんだ!」
見えない手が私の神経を締め付けた。もうすぐ、母は私が非業の死を遂げたことを知るだろう。母の目から大粒の涙が流れ落ちた。「話しな!結奈が死んでいようと生きていようと、私は耐えられる!」「血液型の照合結果が出た。死者は莉奈だ」「莉奈?」母は一瞬呆然としてから、怒りに震えて笑い出した。「今更冗談を言うつもりなのか?」「莉奈が死んでるかどうか、私が知らないわけないでしょ?私が聞いているのは結奈のことだ!」私は苦しく笑い、心が冷えた。こんな時まで、彼女は信じない。まるで結奈に洗脳されたかのようだ。だが、真実は小さな突破口さえあれば明らかになる。結奈が私を殺害した犯人だと知れば、母はもう彼女の言葉に惑わされることはないだろう。山下がため息をついた。「結奈にも消息がある。包丁のDNAはデータベースと照合したが、結奈のものではないことが確認された……」
私の頭が一瞬で爆発した。結奈じゃない?あり得ない!あの時、私はっきりと彼女が私を抑え、刃を胸に突き刺すのを見た。彼女が私と同じ顔をした毒々しい表情と、その瞬間の激痛は私の心に深く刻まれている。しかし、母は驚きの色一つ見せず、鋭い声で叫んだ。「結奈じゃなかったんだ!」山下の話を聞き終わる前に、電話を切った。周りの人々が警察を押しのけ、一斉に「結奈を殺せ」と叫び始めた。近くの警察官が秩序を維持しようとし、母にブログを削除するよう求めたが、彼女は無視した。「私の娘が死んだのに、死後の名誉も与えられないのか!」私は急に疲労感に襲われた。世界中が結奈のために正義を主張している。誰も、私がどの冷たい隅で死んだのか気にかけてはくれない。母の耳元で真実を告げても、彼女は理解しないだろう。彼女は聞きたくないんだ。人波が押し寄せ、母はその騒ぎの中、魂を失ったように川辺に向かって歩き出した。私は彼女を止めようと試みたが、彼女の体は私の腕を通り抜けていった。結奈がいない世界では、彼女も生きる気力を失っていた。私は急いで涙ぐみそうになった。どうして何も知らないのに、結奈の供養のために命を投げ出してしまうのだろう?彼女が欄干に半分乗り上げたとき、スマホが特別な通知音を鳴らした。母は無神経な目で画面を見たが、体が突然固まった。彼女の体が柔らかくなり、欄干から地面に落ちた。再び立ち上がったとき、彼女の目に抑えきれない狂喜が浮かんでいた。そのメッセージは、自殺した結奈から送られてきたものだった。そこには、一つの住所が記されていた。
母はまた猛スピードで車を走らせた。泣きながら独り言をつぶやく。「あなたが死んでいないことは分かってた。私たちの結奈は本当に良い子だから、神様だってあなたを取っちゃいけない……」私は言葉を失った。まるで私が悪い人で、神様が早く死ぬようにしたかのようだ。母はドアを蹴破るように開け、住所にある家に慌てて駆け込んだ。結奈は手錠をかけられ、椅子に座っていた。周囲には五六人の警察官がいた。母はそのまま駆け寄り、結奈を抱きしめて泣いた。「結奈、あなたはたくさん苦労したね。でも、悲しまないで、ママが連れて帰るから……」山下が彼女を引き離した。「しっかりしろ!」母は一瞬呆然として、結奈の手錠に気づき、すぐにそれを引き剥がそうとした。山下は彼女の狂気じみた行動を見て、深くため息をついた。「晴奈、お前は彼女を連れて帰れない」「彼女は人を殺した」母は信じられないといった表情で目を見開いた。「何を言ってるの?殺人犯は莉奈だよ、お前たちは間違ってる!」山下は疲れた声で言った。「莉奈はすでに死んでいて、結奈に殺されたんだ」母は長い間呆然としていたが、やがて遅れて山下を見た。「電話を切ったときに言いかけていたことだけど、結奈のDNAはデータベースに登録されている結奈のものとは異なることが確認された。ただし、95%以上の一致率があった」「そして、莉奈のDNAとも比較したが、同じ結果だった」「つまり、犯人は本当の結奈でも、莉奈でもない」「お前たちの家で、八年前に優子という人が亡くなったことがあるよね?」
私の意識もぼんやりとした。目の前の人は、優子なのか?母は二、三歩後ずさり、しかし優子の顔を強く見つめた。「結奈はとうの昔に死んでいたんだな!お前はずっと、結奈を装っていたのか!」椅子に座る優子がついに顔を上げ、母を見た。抵抗する気もないらしく、彼女の顔には悪意の笑みが浮かんでいた。「なぜ?もちろん、お前を恨んで復讐するためだ」「小さい頃から、三人姉妹の中で、お前は私を一番嫌い、結奈を一番愛してた。だから、私は結奈を説得して服を交換させ、彼女を階下から突き落とした。それから私は結奈になりすました。この何年間も。似ていただろう?」母の顔色は、紙のように青ざめていた。私は我に返った。確かに似ていた。でも、骨の髄までは変わらない。優子は母の崩れゆく表情を愉しむように、さらに続けた。「お前も本当にバカだね。私が結奈になった後、簡単に莉奈が殺したと言ったのに、お前は信じて、莉奈を故郷に放りっぱなしにしておいた。私は笑いが止まらなかったよ」母の体は完全に凍りつき、その後、激しく震え出した。「莉奈もバカだったな。私があなたが遊園地に連れて行ってあげると嘘をついたとき、彼女は喜んでついて来た。殺すのは少し手間がかかったけど、最後に階段から転がり落ちたときは思わず笑ってしまったよ」「私が最後の一撃を与えたとき、彼女はまだ『ママ、助けて』と叫んでいた。滑稽だろう?お前が彼女を地獄に送ったんだから」私の心が激しく痛んだ。母は夢から覚めたように、涙を流した。彼女はゆっくりと口を開き、しばらくしてから声を出した。「莉奈、ごめんなさい」ごめんなさい。かつて私は、まず莉奈を抱きしめて、怒りを爆発させ、自分が何年も待っていたことを伝えるつもりだった。それは喜びと満足感に満ちていた。しかし、この遅すぎた「ごめんなさい」が、これほどまでに重いとは思ってもみなかった。私は深い安堵感を感じたが、すぐに巨大な痛みに吞まれてしまった。遅すぎる、戻れない。母もそれを悟ったようだった。彼女はもう一言も言わず、ただ虚ろな目で前方を見つめた。体がふらつき、ついに支えきれず、地面に倒れ込んだ。
母が目を覚ますと、警察署にいた。山下警部が説明した。「どれだけ説明しても信じてもらえなかったから、結奈の携帯を使ってメッセージを送ることにした。最後に真実を理解してほしかったんだ」「お前は川辺で大きな混乱を引き起こし、影響が大きかった。責任を免れるわけにはいかなかった。幸い、俺たちは早々に優子が死を偽装するよう図っていることに疑いを持ち、捜査を進め、事件解決に遅れはなかった」母は無表情でうなずいた。母は虚偽の情報を流し、社会秩序を乱した罪で有罪判決を受けた。服役前に、私の遺体を見に行った。彼女はすでに腐敗した私の体を抱きしめ、硫酸で焼かれた顔に軽くキスをした。「莉奈、ママが連れて帰るから」彼女は一度も私に言ったことのない、しかしよく知っている言葉だった。母は私を火葬場に連れて行った。私の姿は血まみれから、小さな骨箱に変わった。母は私の骨箱を持って、観覧車に乗った。そして、私の骨を姉の隣に埋め、姉の墓碑銘を結奈に変えた。彼女は娘を一人も残さなかった。優子の死刑も間近に迫っていた。その日、母は高層ビルに上がり、飛び降りた。私は彼女の血が地面に広がるのを見て、姉が死んだときと同じくらい慘澹たる光景だった。そして、私の体も少しずつ透明になっていった。「さようなら、ママ」