共有

第95話

この道中桜子は隼人の隣に座っていたが、ずっと窓の外を見つめており彼に一度も視線を向けることはなかった。

彼女の全身からは彼に対する拒絶の意が明確に伝わってきた。

隼人の深い黒い瞳が彼女をちらっと見やったが、何度か話しかけようと思っても言葉がうまく出てこなかった。

裕也のプライベート別荘は成京の潮見の邸にあり、四方を山に囲まれ、静寂で清らかな雰囲気に包まれている。まさに都会に隠れた隠者のような趣があった。

「おじいさま! 会いに来ました!」

桜子が玄関を入るなり、曇っていた表情が一変し、新月のように明るい笑顔を見せた。その声はまるで小鳥のさえずりのように軽やかだった。

実は腕輪の件で心の中では不安があったが、長い間心を整えてからようやく扉を開けたのだった。

「小春ちゃんが来たのか! かわいい子だ、ずっと会いたかったぞ!」

裕也は車椅子に座って、武田秘書に押されて現れた。

孫嫁を目にした途端何日も落ち込んでいた老体に活気が戻り、眉が飛び上がりそうなほど嬉しそうだった。

「桜子、この数日どこに行ってたんだ? もう私のこといらないってのか? 愛してないのか?」

裕也は桜子の小さな手をしっかりと握り、次々と質問を浴びせた。

隼人は唇を不機嫌そうに引きつらせた。心の中では、「このじいさん、ほんとに年取ってもナンパばかりだな」と呟いた。もし十八の頃なら、彼は間違いなく天に舞い上がっていただろうし、優希もきっと「ご先祖様」と呼んだに違いない。

「おじいさま、最近仕事が忙しくて出張もあったんです。連絡が遅れてしまってごめんなさい。どうぞ叱ってください」

桜子は屈んで可愛らしく笑いかけた。

「叱るわけないだろう、桜子。君に会えただけで私は嬉しいんだ」

そう言いながら、裕也は隼人を一瞥し、「お前が薄情で、目も心も節穴だから、宝物のような孫嫁に会うのにこんなに苦労するんだ!」と怒りをぶつけた。

桜子の笑顔は少しこわばり、返す言葉が見つからなかった。

隼人の顔色は一気に暗くなった。今夜は来るべきではなかったと彼は思った。どうせ来ても悪者扱いされるだけだから。

「小春ちゃん、私のところに新しい絵が手に入ったんだが、誰にも見せずにおいたよ。あなたに真っ先に見せ
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status