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冷酷社長の逆襲:財閥の前妻は高嶺の花
冷酷社長の逆襲:財閥の前妻は高嶺の花
著者: 木真知子

第1話

白沢小春は、テーブルの上に置かれた離婚届をじっと見つめていた。そこには、すでに宮沢隼人の名前が書かれていた。

小春はふと顔を上げ、窓の外に目をやった。涙に濡れた瞳には、午後の陽光の中に立つ隼人の姿が映っていた。彼の高く引き締まった体、まるで神様のように美しい立ち姿、そして冷たく孤高な雰囲気が、小春の心をさらに締め付けた。

「僕はサインした。君も早くして。柔ちゃんが戻る前に、すべての手続きを終わらせたいの」

隼人は手を背中に組んだまま、振り返ることもなく答えた。「婚前契約をしたから、財産の分与はしない。ただし、補償として4億円と郊外の別荘をあげるつもりだ。無一文で家を出ると、祖父に対しては顔が立たないだろう」

小春はびっくりして立ちすくんだ。「お祖父様は、私たちが離婚することをご存じなの?」

「知っていても、それが僕の決意を変えるとは思うか?」

小春は痩せた体をテーブルの端にしがみつくようにして支え、震える声で尋ねた。「隼人、お願いだから......離婚しないでほしい」

ついに、隼人は不思議そうに彼女を見つめ、ゆっくりと振り返った。彼の鋭い目、薄い唇、端正な顔立ちは、今でも彼女の心をときめかせる。

「どうして?」

「......だって、あなたを愛しているから」

小春の目は赤くなり、涙が溢れ出した。「愛しているの、隼人。私はまだあなたの妻でいたいの......たとえ私に何の感情も持っていなくても......」

「もう限界だ、小春。愛のない結婚なんて、もう耐えられない」

隼人は手を振り、話を続ける気も失せたように言った。「僕と結婚したのは間違いだった。僕は祖父に反抗するために結婚しただけということも、そして、他に愛する人がいることも、君は知っているだろう。ただ、ある理由で一緒になれなかっただけだ。今、3年が経ち、柔ちゃんもアメリカから戻ってきた。彼女を妻に迎えるつもりだから、宮沢家の妻の座を譲ってもらう」

小春はうつむき、涙がポタポタとテーブルの上に落ちた。それをそっと拭ったが、隼人はその涙を見逃さなかった。彼の目が一瞬、深くなった。

その時、隼人の携帯が鳴り、画面に表示された名前を見た瞬間、彼は急いで通話を受けた。

「柔ちゃん、もう飛行機に乗ったのか?」

なんて優しい声だろう。この冷たい隼人が、彼女の知っている隼人と同じ人とは思えなかった。

「隼人お兄様、もう成京空港に着いたわ」電話の向こうからは金原柔の嬉しそうな声が聞こえてきた。

「なんだって?今夜の到着じゃなかったのか......」

「隼人お兄様にサプライズをしたくて」

「待ってて、柔ちゃん。今すぐ迎えに行く!」

そう言って、隼人は小春の横を風のように通り過ぎた。書斎のドアが閉まると、部屋には重苦しい沈黙だけ残った。

10年の片思い、そして3年の結婚生活。小春はこの家のために尽くし、隼人に全てを捧げた。しかし、結局、隼人にとってはただの苦痛でしかなかったのだ。

今、隼人はまるで刑務所から解放されたかのように、彼女を冷たく捨て、心に決めた人の元へと向かおうとしている。

本当に心が痛い。全てを捧げたのに、彼の冷たい心を温めることができなかった。

小春は深く息を吸い込み、苦笑いを浮かべながら頭を振った。不満の涙が離婚届に滲み、隼人の美しいサインの上に広がっていった。

その夜、隼人は柔ちゃんを潮見の邸に迎え入れた。

か弱くて柔らかな女性が、隼人の腕の中に抱えられ、そのまま堂々と別荘に入っていった。周りの視線が集まった。

「隼人お兄様、まだお嫁さんと離婚してないのに、私たち......こんなに親しくしていいのかしら?お嫁さんが見たら、私を恨んでしまうわ」柔ちゃんは隼人の胸元を撫でながら、優しく囁いた。

「彼女はそんなことはしない」

隼人は冷たく言い放った。「それに、僕は彼女を愛していない。僕たちはただの契約でしかない。彼女にはそのことを理解してもらいたい」

宮沢家の人々は柔を取り囲み、温かい言葉をかけ続けた。その一方で、小春は一人で黙々と夕食の準備をしていた。

隼人はその静かな彼女の姿を見て、思わず薄い唇に嘲笑が浮かんだ。

こんな状況でも、彼女はまだ宮沢家の人々に媚びへつらっている。彼女はこうして離婚に何かしらの転機を期待しているのだろうか?

馬鹿げている。

「隼人様!隼人様!」

その時、執事が慌てて駆け寄ってきた。「奥様が、奥様が出て行かれました!」

「出て行った?いつのことだ!」

「つ、つい先ほどです!奥様は何も持たずにエプロンを外して裏口から出て行かれました!黒い車に乗っていかれました!」

隼人は急いで寝室に戻った。部屋は整然と片付けられており、サイン済みの離婚届が静かにベッドサイドに置かれている。そこには涙の跡が残っていた。

彼は眉をひそめ、窓の外を見た。

一台の黒いロールスロイスが潮見の邸を高速で出て行き、その尾灯すらすぐに見えなくなった。

午後にはまだ去ることを惜しんでいたのに、今はまるで兎のように逃げ去るとは!

隼人はまるで誰かに騙されたかのように嫌になり、すぐに秘書に電話をかけた。

「成A9999の車を調べろ!誰の車かすぐに報告しろ!」

「かしこまりました、宮沢社長」

数分後、報告が入った。

「社長、わかりました。それはKSグループの社長の車です!」

KS......高城家の長男か?!

小春は小さな村から出てきた貧乏な娘で、金も背景もなく、彼と過ごした3年間で友人さえ作ることができなかった。しかし、そんな彼女が高城家の長男と繋がっていたとは?

もう次の相手ができたのか、よくやってくれたね

「でも社長、本当に今日奥様に離婚のことをおしゃったのですか?」秘書が恐る恐る尋ねた。

「今日ではだめか?どうしてそんなことを聞く?」

「いえ、今日は奥様の誕生日なんです」

隼人は一瞬驚いた。

........................

その後、黒いロールスロイスの後部座席で、高城家の長男である高城樹は優しく彼女の手を握りしめた。

「お前が帰ってくると聞いて、兄さんがもう千万円分の花火を準備してくれたんだ。今夜、それをお前のために打ち上げるらしい」

「花火なんて見る気分じゃないわ」

高城家の令嬢の身分に戻った彼女は兄の肩にもたれ、涙を浮かべながらため息をついた。

彼女はふと自分の携帯を見た。最後に受け取ったメッセージは、隼人からではなく、柔からのものだった。

「言ったでしょ?あんたに奪られた身分、いつか取り戻させるって。隼人お兄様は私のものよ。あんたなんかが夢見るんじゃないわ!」

彼女は苦笑いを浮かべ、最後の涙が彼女の目を覚まさせた。

「どうした?ここまで来て、まだ未練があるのか?」樹は優しく彼女を抱き寄せた。

「兄さん、今日が私の誕生日なの」

「知ってるさ。隼人は今日を選んだ。あいつは本当にどうしようもない奴だ!」

「だから、もう未練なんてないわ。白沢小春はもう隼人に殺された」

再び目を開いた時、高城桜子の瞳には、隼人への未練は一切残っていなかった。

「やっと終わったのに、振り返るなんて、死んだも同然だわ」

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