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第4話

五日後、隼人は朝の会議を終えると、秘書の井上幸をオフィスに呼び出した。

「小春のこと、どこまで調べた?」

隼人は窓の外に広がる成京の風景を見下ろしながら尋ねた。その背中は、高くて威圧感があった。

「申し訳ありません、宮沢社長。まだ何も分かっておりません......」

幸は額に滲む汗を拭きながら答えた。「あの夜、奥様は療養院に戻らず、さらに彼女の故郷である横浜を訪ねましたが、そこに白沢という世帯は存在しませんでした。記載されている住所は偽物です」

「住所が偽物だったのか?」隼人は鋭く振り返り、その目は冷たくなった。

「はい、地元の警察署で確認しましたが、該当者はいませんでした」幸は三年間桜子を奥様と呼び慣れており、今もその呼び方が抜けない。

隼人の頭の中に疑念が浮かび上がった。彼は一体誰を妻に迎えたのだ?まるで影の存在のようだ。

「あの夜、樹と一緒にいたが、樹のことも調べても何も出てこないのか?」

「正直申し上げますが、高城社長が本気で愛人を隠そうとすれば、我々には手が届かないでしょう......」

「隠された愛人か......」隼人は眉をひそめ、その言葉が彼の心に火をつけた。

「樹はあんなにいい人に見えて、他人の妻を奪うようなことをするとはな......」

「まあ......奪うというよりは、宮沢社長の残り物を引き継いだという言い方のほうが正しいかもしれません......」

隼人の鋭い視線が向けられた瞬間、幸は息を詰まらせ、言葉を飲み込んだ。

あの夜の出来事が彼の頭の中に焼き付いて離れない。樹が小春を守る姿、そして彼女に向けられた深い感情......

隼人は胸が重く、痛むような感覚を覚えた。

あのつまらない妻が、どうしてこれほどまでに魅力的だったのだろうか。冷たくて無感情な樹までもが、彼女に惹かれ、彼女のために動いているのか?

――「隼人、お願い......離婚しないで」

――「だって......私はあなたを愛しているんだもの!」

「嘘つきめ!」隼人は目を細め、冷ややかな怒りが全身に広がった。

考えれば考えるほど苛立ち、苛立つほど彼女を思い出してしまう!

その時、デスクの上で携帯が振動した。

隼人は思い出に耽るのをやめ、画面を見ると、柔からの電話だった。

「柔ちゃん、どうした?」

「隼人お兄様、私は今、宮沢グループのロビーにいるの。迎えに来てくれない?手作りのお菓子を持ってきたから、あなたに一番に食べてもらいたくて」

柔の甘い声が電話越しに響き、その甘い声に、隼人は眉をひそめた。

「今、ビルの下にいるのか?」

「そうよ、隼人お兄様。どうしたの?会いたくないの?」

「そんなことはない。幸が迎えに行くから、少し待っていてくれ」

電話を切ると、隼人の表情はさらに暗くなった。

彼はまだ小春との離婚手続きを完了しておらず、またそのことを公にしていない。今この状況で、柔が堂々と会社に現れるのは問題を引き起こしかねない。

彼自身はそれを気にしないが、特に......

その時、携帯が再び震えた。

隼人は画面を見つめ、心がぎゅっと締め付けられるような感じに襲われた。

「おじいさん」

「お前、この親不孝者が!お前に何と言ったか忘れたの?!小春を嫁に迎えた以上、金原家の女とは一切関わるなと言っただろう!」

宮沢裕也の怒鳴り声が電話越しに響き、隼人は言葉を失った。「お前は約束を破り、しかも、あの女を会社に引き入れた。恥をかくのはお前の勝手だが、小春の顔に泥を塗る気か?!今すぐ俺のところに来い!」

......

会客室には重苦しい空気が漂っていた。

裕也は杖をつき、秘書と光景により支えられて椅子に座った。彼の顔は怒りで真っ黒に染まっていた。

隼人はまっすぐに背筋を伸ばして立っており、柔は外で待たされていた。老爺様曰くように、このような下女のような女は、彼の前に出る資格はないという。

「言え!あの女は一体どういうことだ?!」裕也は杖で床に強く叩きつけた。

「お父さん、まずは落ち着いてください......」光景は裕也の背中を軽く叩き、隼人に怒りを向けた。

「おじいさん、三年の約束は終わりました」隼人は声を低くし、ゆっくりと話し始めた。「僕にと約束しました。小春を三年間妻にし、その後は僕の意志で続けるか離婚するか決められると」

裕也の顔が蒼白になり、驚いた。

三年間、彼は小春という孫嫁に癒され、毎日を楽しんで過ごしてきた。三年の日々があっという間に過ぎ去り、期限が来たことに気づいていなかった。

「今、この結婚を終わらせたい、心で愛している人と一緒になりたいと思っています。異議があるべきではないです。小春も離婚協議書にサインしており、後日手続きを進める予定です」隼人の唇は冷たく、感情を押し殺して言った。

「何?!もう離婚したのか?!」裕也は激怒し、立ち上がった瞬間、目の前が暗くなり、倒れそうになった。

隼人はすぐに祖父を支えようとしたが、お爺様に強く押し返された。

「お父さん、まだ離婚届は出していません。ただ協議書にサインしただけです。どうかご自分を大切にして、落ち着いでください!」光景は裕也が倒れるのを恐れて、慌ててなだめた。

「なんてことだ!なんてことだ!息子の嫁を気に入らなかったのは仕方ないが、どうして孫の嫁まで気に入るものを見つけられないのか?!」

隼人はその場に立ち尽くし、どうすればいいか分からず、光景も巻き添えを食らった。

「小春はどこだ!小春を連れ戻してくれ!彼女なしでは、夜も眠れず、食事もしたくない。私は誰もいらない、小春だけが宮沢家の孫嫁としてふさわしいんだ!」裕也は老いもあって、まるで駄々っ子のように言い張った。

「隼人、早く小春に電話をして、彼女を連れて祖父に会わせなさい!」光景は急いで促した。

「おじいさん、たとえ彼女を連れて来たとしても、僕たちの結婚は終わりです。これ以上続けることはできません」隼人は決意を込めて言った。

「うわあああ!」裕也は全身を震わせ、後ろに仰向けに倒れそうになった。

これには宮沢家の父子も驚き、すぐに医者を呼び、薬を探すなど、大混乱に陥った。

隼人はどうしようもなく、小春に電話をかけた。

しかし......

「おかけになった電話番号は現在使われておりません」

小春は姿を消しただけでなく、電話番号も解約していたのか?!

「なんてことだ!」隼人は怒りに目を赤くし、拳を強く握りしめた。

*

その頃、KSワールドホテルの正面玄関前。

多くの幹部たちが新しい総支配人を迎えるために外で待機していた。

「聞いたところによると、今日来る部長は若い女性らしい」

「ふん、今まで四人の男性部長が来て、誰も経営を改善できなかった。こんな若い女性が来て、何ができるというのか?」

「それも、高城社長の実の娘だそうだ......」

「高城社長には妻が多いけど、たぶんあまり好かれていない私生児の女だろう。もし本当に可愛がってる娘なら、こんな厄介な場所に送り出すわけがない」

幹部たちは小声で笑い合った。

「来たぞ!新しいボスが!」

最高級のロールスロイスが正面玄関に停まり、その後には数台の高級マイバッハが続いていた。その壮大な行列は一同を圧倒した。

車のナンバーが「9999」であることを見た瞬間、全員が息を呑み、静まり返った。

ドアが開き、まず目に飛び込んできたのは、黒い表面に赤い靴底が覗く、威圧的なハイヒールだった。

次の瞬間、美しい姿がゆっくりと車から降り立ち、黒髪が流れている水ように艶々して、輝く容姿で登場した。その目は鋭く、誰もが息を飲んだ。

「皆さん、こんにちは」

桜子は赤い唇をわずかに開き、その笑顔はまるで一輪の花のように美しかった。「私が新しい総支配人です。でも、私生児ではありませんよ。残念でしたね」

その言葉が響くと、先ほどまで話していた数人は冷や汗をかいた。

数分前、車の中で――。

桜子はノートパソコンを開き、ホテルの玄関にある二つの監視カメラをハッキングしていた。

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