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第29話

彼は食事と睡眠以外、昼も夜も会社で働いていた。

以前紗枝が辰夫の家に置いていた遺品も、和彦に取りに行かせた。

和彦は啓司が変わったことにすぐ気づいた。

帰ってきてから、啓司はさらに黙り込み、自分の世界に浸っているようだった。

和彦は裕一に思わず尋ねた。

「黒木さん最近どうしたんだ?」

裕一は首を振った。

「私にもわかりません。

「澤村さん、黒木様は本当に夏目さんのことを好きになったんですか?」

和彦はその言葉を聞いて、目に一瞬奇妙な光を浮かべた。

「誰にもわからないだろう」

そう言って彼は車に乗り、運転手に発車するように言った。

椅子に寄りかかり、和彦は眉間を揉んだ。

もし黒木さんが紗枝を好きだというのなら、なぜ最近あんなに急いで夏目企業の買収を進めているのか?

夏目グループが紗枝にとってどれほど大切か、彼はわかっているはずだ。それは紗枝の父が彼女のために築き上げたものだ…

もし彼が紗枝を好きなら、なぜ海外で夏目家の人たちを困らせるようなことをするのか?

和彦は紗枝が母親と弟と絶縁したことを知らず、ただ二人が紗枝に残された数少ない親族だと思ってい。

啓司は自分の女を決して粗末に扱うことはなかった。

以前葵と付き合っていた時、他の人が持っているものも、葵は全部持っていた。

しかし和彦は、啓司が紗枝に対しては実に厳しく、冷酷で、まるで彼女を敵として扱っているかのようだと感じた。

そんなことを考えているうちに、豪華なマンションに着いた。

和彦は車を降りて一瞥し。

「ここは安くないだろう」

「少なくとも一平方メートルあたり十数万はしますね」

と運転手が答えた。

和彦にとって、ここのマンションは小さな額だ。

しかし彼は普通の人々の経済力ではここを買うことはできないことを理解していた。

和彦が来ると、家政婦が出迎えに来た。

「夏目さんのものは全部主寝室にあります。ご主人が言っていましたが、物を持って行ったらすぐに出て行ってほしいと」

家政婦は和彦を見て、その整った顔立ちとは裏腹に彼はただの悪党だとを知っていたので、良い顔をしなかった。

和彦は彼女に尋ねた。

「主人はどこにいる?」

家政婦は鼻で笑った。

「私は従者じゃないのよ。ご主人がどこに行ったかなんて知るわけがないでしょ?彼は忙しくて、怪しい人間に構う暇なんか
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