第30話

　これは峻介と向き合わなければならなかった現実だ。

　峻介は完全に優子を見限るつもりだった。

　優子も自分の決断をした。進に優しく微笑みして、「ごめんね。私が後悔してるって峻介に伝えておいてくれませんか」と言った。

　進はこの二人のことが本当に理解できなかった。最初は峻介が離婚に固執し、次に奥様。今峻介が離婚に同意したが、奥様は後悔した。

　二人は家族ごっこをしていたのか？

　役所でも運営していたのか？

　昇なら、すでにツッコミを始めたが、進は表情が変わらずにビジネスライクな態度で沈んでいた。「申し訳ございません。私にはそのような権利はございません。とりあえず一緒に役所までいらしてくださいませんか」

　「そう、それじゃ、行きましょうか」優子はこの結末を予想していた。スカーフを手に取り、体をしっかりと包んでから、進の後について行った。

　ここ数回、二人が離婚しようとするたびに必ず何が起こったが、今回は驚くほど順調だ。数日前の吹雪も止んで太陽が出た。

　雪がやんで晴れたが、気温は相変わらず低い。明るい日差しが梢の上の雪を溶かし、雫となって枝から落ちた。

　優子が到着するとき、峻介はすでにそこで待っていた。

　ホールには峻介しかいない。彼は足を組んで目を細め、指でこめかみを揉んでいながら疲れた表情をしていた。

　近づくとかすかに酒の匂いがした。

　以前は酒をあまり飲まない人だったが、最近は毎晩酒から離れなくなった。

　峻介はとても疲れていたが、眠る気はなかった。

　突然、前触れもなく彼の頭が優子の小さな手に触られた。懐かしい手の感触と懐かしいハンドクリームの匂いだ。

　峻介は目を開け、「来たか」と沈んだ声で言った。

　「うん」

　どちらも話し始めず、時間は過去に戻ったように、彼が疲れていると、彼女は優しく彼の頭をさすった。

　しばらくさすっていると、手が痛くなった。治療後の体は以前ほどは良くなかった。本当に手が上がらなくてやっと手を下ろした。

　峻介は書類を取り出し、優子に渡した。「離婚協議書を書き直した。異議がないならサインして」と言った。

　優子はちらっと見たが、以前彼女が作成した離婚協議書には一つの条項しかない。それは2億円の慰謝料だった。

　今回の離婚協議書はもっと内容が豊富で、金額が10億円の慰謝料だけでなく、別荘、車