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第51話

彼の実力は、想像を超えるものだった。

しかも、彼は名医でもあった。

江本辰也の正体を思い出すと、彼女の体は自然と震え始めた。

彼女はどうしても信じられなかった。江本辰也が今こんな恐ろしい存在であるとは。白石哲也を殺したにもかかわらず、西境の明王が深入りしなかった理由が今やっとわかった。白石哲也を殺したのは、明王さえも恐れる黒竜だったのだ。

鈴木秀雄は、江本辰也が去っていくのを見届けて、ようやく一息ついた。

今や彼の全身は汗でびっしょり濡れており、ベッドに横たわる顔に傷痕があり、手のひらを切断された白石若菜を一瞥すると、彼は恐怖で全身を震わせ、そのまま逃げ出そうとした。

「だ、駄目だ、行かないで、助けて、私を病院に連れて行って、お金はある、あなたにあげるから」

先ほどまでは、白石若菜は死にたがっていた。

しかし今、江本辰也が去った後、彼女は死にたくなくなり、生き延びたいと思った。

お金の話を聞くと、鈴木秀雄は足を止めた。

彼の心中で思案が巡る。

江本辰也が去る前に言っていた、白石若菜を死なせるな、と。もし彼がこのまま去って白石若菜が死んでしまったら、江本辰也が責任を追及し、彼も無事では済まない。それに、白石若菜を助ければ、お金も手に入るかもしれない。

それを考えると、彼はすぐに電話を取り出し、救急センターに電話をかけた。

一方、江本辰也は白石若菜の別荘を離れた後、再び仮面を装着した。

彼は黒木家、藤原家、橘家を訪れた。

ちょうど夜明けが訪れた頃。

星野市、江本家の墓地。

江本健太の墓前。

そこには、血まみれの三つの頭が転がっていた。

江本辰也は江本健太の墓前に跪いた。

「お祖父さん、白石洋平は死にました、黒木和夫も死にました、藤原義雄も死にました、橘浩一も死にました。かつて江本家をおそいかかって、家を焼き尽くした元凶たちは全員死にました。でも、お祖父さん、俺は無能で、まだ花咲く月の山居の行方を突き止めることができていません」

「でも、お祖父さん、安心してください。俺は必ず花咲く月の山居を見つけ出します」

「四大一族の元凶は死にましたが、俺は決してそれで済ませるつもりはありません。彼らに絶望を味わわせ、彼らが生きることも死ぬこともできない状況にして、江本家の亡霊を慰めます」

江本辰也は江本健太の墓前で、涙で顔を濡らしていた。
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