第5話

私はバネのように跳び上がって、彼の前に立った。

だが、ため息をつきながら首を振るのが見えた。その瞬間、心は空っぽになったようだった。

私は医者を揺さぶりながら、「菜々子は大丈夫ですよね、先生！」と叫んだ。

彼は申し訳なさそうな様子で「できる限りのことはしました。集中治療室で様子を見ましょう」と言った。

「お父さんはいますか？」

「できれば、彼にも来てもらったほうがいいですね」

私は絶望と怒りで医者を掴もうとし、もう一度努力してほしいとひざまずきたくなった。

その瞬間、全身に管を繋がれた大切な娘が、集中治療室へ運ばれていくのが見えた。

私は魂を失った野獣のように走り出し、泣きじゃくりながら近寄った。

「菜々子、菜々子、大丈夫だよ、私の菜々子……」

菜々子は目を閉じ、裸の部分は包帯で覆われていた。

彼女の顔は青白く、無言で、まるで命の気配がなかった。

あの小さな体は、今や壊れた人形のように病床に横たわっていた。

出張に行く前、彼女はあんなにも元気で、私に抱きついてキスをしてくれた。「おかえりを待ってるね、一緒に遊ぼう」と。

なのに、たったの数日でこんな姿に……

いくら私が泣き叫んでも、彼女は何も応えてくれなかった。

彼女が集中治療室に入るのを見届けると、ドアが重く閉じられた。

そのドアは、私の心も閉じ込めてしまった。

彼女は中でどんなに怖がっているだろうか……

「里奈……」

「お父さんに伝えたほうがいいんじゃない？」

そういう友達の言いたいことはわかっていた。

医者がさっき言ったことは、家族が最後の別れを告げるべきだという意味だった。

菜々子の一番の願いは何だっただろう？

それはパパとママと一緒に遊ぶこと、一生離れないことだった。

どんなに辛くても、離婚を踏みとどまっていたのは彼女のためだった。

彼女が「パパ、ママ、そして私」と、よく描いていた絵本のように、家族三人が曲がりくねった線で描かれ、青い空と白い雲の下の草原で日光を浴びていた。

出かけるとき、彼女は私に憧れいっぱいでこう言った。

「ママ、帰ってきたら、パパにサプライズをしよう！」

「みんなで一緒に遊園地に行こう！」

「ママ、菜々子はパパとママが大好きだよ！」

しかし、彼女の最後の瞬間に――

私は電話を開いたが、菜々子がずっと思っていたパパは電話に出