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第5話

南雲華恋は小林水子の発想に笑って言った、「水子、小説を読みすぎだよ。私は適当に選んだだけで、賀茂家とは関係がないし、唯一のつながりは賀茂家の会社で働いていることだけだよ」

「ええ?」小林水子は失望した声で言った、「それって、賀茂哲郎の部下ってこと?そうすると、あいつがこれから華恋ちゃんのこと、より簡単にいじめられるんじゃないの」

南雲華恋は目を伏せた。「たぶん......それはないと思う、賀茂爺に免じてもそうだけど、私もう結婚したし、これから私に関わってこないと思うわ」

小林水子は少し安心したが、賀茂哲郎の自分勝手な行動を思い出したら、またムカッと来た。「私だったら、とっくにぶん殴ってやったのよ。どれだけ彼の妻になりたかったのか分かっていたのに......」

南雲華恋は話を切り上げた。「もう過ぎたことだよ、水子。これから賀茂哲郎と私はもう赤の他人よ」

「じゃあ、婚約はどうなるの?」小林水子が心配そうに訊いた。「おじいさんはまだ知らないでしょう?おじいさんが知ったら、きっと悲しむわ」

南雲華恋は再び悩み始めた。

賀茂爺、賀茂哲郎の祖父のことを思うと、南雲華恋は罪悪感でいっぱいだ。

彼女と賀茂哲郎の婚約は賀茂爺が直接決めたもので、南雲家が衰退した後、誰しも賀茂爺がこの婚約を取り消すのを待っていた。

しかし、賀茂爺は婚約を撤回せず、公開の場でも彼女しか孫嫁として認めないまで言った。

賀茂爺と賀茂哲郎は彼女のことでしょっちゅうもめた。

今の事態になって、唯一申し訳ないと思っている相手は、賀茂爺だ。

「今夜、おじい様に直接話そうと思うの」

南雲華恋は言った。

他人の口から聞かされるより、彼女自身の口から話した方が良いと思った。

小林水子は心配して言った。「私も一緒に行こうか?」

「大丈夫よ」南雲華恋は微笑み、「おじい様は私をとても大切にしてくれているから、心配しなくて大丈夫だよ」

......

天の海ホテルで。

豪華な個室で、賀茂家の最高権力の象徴である賀茂爺が主座に座って、向こうに座っている賀茂時也に微笑んで言った。「さすがわしの兄が育てきた人だ。君は拓海より10歳若いけれど、その慎重さと落ち着いた性格、海よりも上なんだぞ」

賀茂爺の横に座っているのは賀茂拓海で、賀茂哲郎の父親である。

ビール腹ながらも、若い頃の英気がまだ残っている。

「父さんの言う通りです」賀茂拓海は賀茂時也への賞賛を隠しきれず、大きくうなずいた。「時也は外国のキャリアを捨てて帰国しました、その判断力だけでも、及ぶ人はなかなかいません!」

賀茂時也は落ち着いて唇を拭いながら言った。「叔父様と兄貴に褒めてもらい、光栄です。ここ数年、国内の発展の勢いはとても猛烈で、僕はただ商機を発見したから帰国しました」

賀茂爺は少し頷いた後、残念そうに言った。「しかし、今回君の父さんが一緒に帰国しなかったのは残念だったな。でなければ、わしら兄弟二人も再会できるのになあ」

賀茂時也の深い瞳がわずかに曇り、淡々とした口調で答えた。「父さんが一緒に帰って来なくて幸いに思います、でなければ、叔父様は僕たちに会えなくなります」

賀茂爺は眉をひそめた。「それはどういう意味だ?」

「空港で事故に遭いました」

「何!?」賀茂爺は緊張して聞き返した。「怪我は?」

「僕は何もなかったです」

「なら良かった」賀茂爺は身体を沈めてから、心配そうに続けた。「一体どうなったんだ?」

「二台の車が衝突して、両方の運転手全部死亡しました」

「つまり、事故なのか意図的なのかはわからないということか?」経験豊富な賀茂爺はすぐに怪しいところに気づいた。

賀茂時也は賀茂爺の表情をよく見て、本当に知らないと確信した後、言った。「はい、ですから叔父様の助けが必要です」

「助けるなんて他人行儀じゃ」賀茂爺は言った。「わしと君のお父さんは血がつながっている兄弟じゃ、君が頼まなくても調べるつもりだ」

「ありがとうございます、叔父様。しかし、手間をかけさせる必要はありません」賀茂時也は礼儀正しく断った、「この件は自分で調べます。私が帰国したことを知っている人は少ないので、すぐに結論が出ると思います。ただ、叔父様には私が帰国したという情報を一時的に封じ込めてもらいたいです」

賀茂爺の口調が暗くなった。「君は、他の大家族が関わっていると疑っているのか?」

賀茂時也の帰国の件は、他の三大家族にしか知らせていなかった。

賀茂時也は指をテーブルに軽く叩きつけながら、賀茂爺の質問には答えず、「叔父様、どうか他の人に知らせないようにお願いします」と言い続けた。

賀茂爺はしばらくためらった後、片方の眉を上げ、微笑んで重い空気を和らげた。「ああ、君に任せたぞ」

言った後、彼は横の賀茂拓海を見て話題を変えた。「哲郎はどうした?まだ来ていないのか?」

賀茂拓海は答えた。「仕事の関係で遅れていると思います。そうでないと、とっくに来ているはずです。彼はずっと時也に会いたがっていましたから」

「そうか」賀茂爺は笑いながら言った。「君たちが海外で何度か会ってから、哲郎は君にすごく憧れるようになったんだ。彼は私がこの手で育てたけれど、こんなに誰かを尊敬しているのは初めてだ」

賀茂時也は微笑みながらも、頭のなかに南雲華恋が浮かんできた。

哲郎?

あの女の婚約者もその名前だったよな?

そんな偶然は......ないと思うが......

「時也——」賀茂拓海が突然手を振りながら声をかけた。

賀茂時也は冷静に視線を戻し、賀茂拓海を見た。

賀茂拓海はからかうように言った。「何を考えていたんだ?そんなに夢中になって」

賀茂時也の表情が引き締まった。

この時也が気が散るとは、しかもあの女のことで......

「父さんがさっき、結婚したかどうかを聞いていたよ」

賀茂時也は気持ちを引き締め、真剣な姿勢で答えた。「はい、しました」

賀茂爺はすぐに興味を示し、「それはいつ?君が帰国する前にお父さんから電話が来たんじゃ、結婚相手を探すのを手伝うように頼まれたのに、いつの間に、もう結婚したのかい?」と尋ねた。

やはり。

賀茂時也は落ち着いて答えた。「数日前に出会い、一目惚れで結婚しました。でも、急すぎて、誰にも知らせなかったんです」

「それは残念だ」賀茂爺は一枚の写真を取り出し、「君のために準備しておいたのに、こんなに速く結婚するとは思わなかった。もし哲郎も君のように決断力があったなら、私は悩まなくて済んだのに」とつぶやいた。

賀茂爺は賀茂哲郎と南雲華恋の婚約を思うと、またため息をついた。

なぜ哲郎は優秀で穏やかな南雲華恋を受け入れないのか、全く理解できない。

「大旦那様、」執事がノックして入ってきて、賀茂爺の元に携帯を持って、他の人には聞こえない声で言った。「南雲お嬢様からの電話でございます」

南雲華恋からの電話だと聞いて、賀茂爺はすぐに嬉しそうに顔を輝かせ、電話を受け取って優しく言った。「華恋ちゃん、どうした、急におじいさんに電話して」

「話したいことがあるって。わかった。爺さんは今天の海ホテルだ。よし、今すぐお迎えを手配する」

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