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第31話 あの人のことを諦めて欲しい

紅葉が選んだスーツのデザインや色合いは、吹石夫人も大変気に入り、すべて購入することにした。

輝和への2着のスーツも選び終えた後、紅葉は引き出しにあるネクタイも気に入り、数本を取り出した。

「おばあちゃん、この2本のネクタイ、先ほどのスーツによく合いますよ」

そう言って、彼女はブラックカードを店員に差し出し、

「この2本は贈り物にするので、きれいにラッピングをお願いします」

「私が払うわよ」

吹石夫人が声をかけ、止めようとした。

「お嬢さんにお金を使わせるなんて申し訳ないわ」

「大丈夫です、ネクタイ2本なんて大した額じゃありませんから」

紅葉は吹石夫人のカードを押し戻し、

「おばあちゃん、こんなに長い間お話ししてくださったのに、まだちゃんとお礼もしていません」

「ダメよ、これはこれ、あれはあれ」

紅葉は少し考え込んだ後、

「おばあちゃん、上の階にチャイナドレスのお店があります。よければ、私にチャイナドレスを一着プレゼントして、帳消しにしませんか?」

「いいわね」

吹石夫人はようやく笑みを浮かべた。

上の階にあるチャイナドレス店は、全て手縫いで、デザインが美しいだけでなく、素材も最高級のものだった。

吹石夫人は服を手に取り、離れがたそうにしていた。

紅葉は吹石夫人の興味を感じ取り、彼女が気に入った一着を手に取って見せた。

「おばあちゃん、このチャイナドレス、すごくお似合いですよ。お手伝いしますね」

吹石夫人は中国と縁がある女性で、チャイナドレスを愛していたが、孫の前で演技した時に腕を傷つけたため、最近はチャイナドレスを着る機会が巡らなかった。

最後、吹石夫人は気に入ったチャイナドレスを2着購入し、大満足の様子だった。

紅葉が吹石夫人を連れてショッピングモールを出たとき、空はすでに薄暗くなり始めており、彼女の携帯にも新しいメッセージが届いていた。

紅葉はそのメッセージを一瞥し、口元に微笑を浮かべ、吹石夫人に振り返って話しかけた。

「おばあちゃん、私はもう行かないといけません。誰か迎えに来ますか?それともタクシーをお呼びしましょうか?」

「大丈夫よ、行きなさい。少ししたら迎えが来るから」

吹石夫人は手を振りながら答えた。

その言葉を聞いた紅葉は、それ以上何も言わず、純平が駐車場から車を出すのを待ち、後部座席のドアを開けて
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