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【発覚した妊娠】

Author: 水沼早紀
last update Last Updated: 2025-01-25 22:02:09

―――それは、それからしばらくした時のことだった。

夏もそろそろ終わりを迎えて、季節が移り変わろうとしていた時のことだった。

いつもより体調が優れなくて、頭痛や微熱などが続いた。

ただの風邪かと思ったけど、季節の変わり目ということもあり、大学終わりに、念の為病院に行った。

―――そしたらそこで、衝撃的なことを言われるのだった。

「麻生実来さん、診察室へどうぞ」

「はい」

そして診察室へ入るなり、問診票を見て、先生が1言言った。

「麻生さん、あなた……生理きてる??」

「えっ?? 生理……??」

そう言われると……。 あれ、しばらく生理……来てない。

もともと不順な方ではあったから、また遅れているだけかと思っていた。

「……いえ、そういえば、来てないです」

「それはいつから??」

「えっと……多分、この時くらいから、ですけど……」

カレンダーを指差して、一言そう言った。

「……ちょっとエコーをしても、いいかしら??」

「えっ??エコー……??」

「―――麻生さん、あなたもしかして、妊娠してるんじゃない??」

「……えっ??」

妊娠……??

最初、何を言っているのか分からなかった。

「……生理がしばらく止まってる。しかも妊娠の症状というのは、風邪に似ていることが多いから、風邪だと勘違いする人もけっこう多いのよ」

「……わたしが、妊娠??」

「その様子じゃ、身に覚え、あるのね??」

「…………」

わたしはその言葉に何も、言えなくなった。

……あの日からは彼のことを忘れてたつもりだけど、心のどっかでは、忘れられてなかった。

「……さ、調べてみましょう。ここに横になって??」

「あ、はい……」

言われたとおり、ベッドへと横になった。

そしてお腹にジェルを塗り、先生はゆっくりとエコーを当てた。

―――すると。

「……ほら、見える??あなたの、お腹の子よ」

「……本当だ」

かすかだけど、お腹の中に見えた、小さな命。

やっぱりわたし、妊娠していたんだ……。先生の言うとおりだった。

「妊娠ニヶ月ってところかな」

「……ニヶ月」

わたしは、お腹に新しい命を宿していた。

……あの日結ばれた、名前も知らない大人な彼との間に出来た子供。

ふと、あの日の夜のことを思い出した。 初めて彼に抱かれたあの日からずっと、わたしは彼のことが忘れられなかった。

「……おめでとうございます、お母さん」

「…………」

まだ、実感がなかった。

だってわたし、妊娠しているだなんて、これっぽっちも思ってなかったから。 これがまだ現実だとは思えない。

「麻生さん、これからつわりなどが頻繁に出てくると思います。食欲がなくなったり、倦怠感が出たり、色々と不調が出てくるでしょう。 だから、お腹の子の父親とよく話して、どうするか話し合ってください」

「……どうするか、って??」

「産むか、産まないかの、選択です」

「…………」

 産むか、産まない……かの選択。

「もし産みたくないのなら、20週までに決断してください。……20週を過ぎると、中絶出来なくなりますので」

「……はい。分かりました」

わたしが、妊娠……。

本当に?? まだ、信じられない……。

病気を後にして、ゆっくりとそのへんを歩いた。

そして公園のブランコへと座った。 そっとお腹に手を当ててみる。

……妊娠、ニヶ月。わたしのお腹の中には、名前も知らない彼の子供がいる。

どうしよう……。ちゃんと避妊してくれているものだと思っていた。

正直、初めて会った二人だから、安心しきっていた自分がいた。

まさか、こんなことになるなんて……。

ただの風邪だと思っていたのに、まさかそれが妊娠なんて……。

衝撃的すぎて、頭が混乱している。

さっき、母子手帳をもらいに行った。カバン中から、母子手帳をそっと取り出す。

そこにはしっかり、わたしの名前が書いてある。

……この子にとっては、わたしはお母さんなんだよね。

あの日抱かれた時に、出来たあの彼との子供。

妊娠していることを彼にもし話したとして、彼はどんな反応をするだろうか??

きっと軽蔑するかな、わたしを。……堕ろせなんて、言われるのかな。

でもわたしも、正直分からない。 産みたいか、産みたくないか。

だけどもし、産むと決断したとして、わたしは彼と付き合っている訳ではないので、結婚することもない……。

一人で産んで、一人で育てる。 シングルマザーに、なるんだよね。

あ~どうしよう……。名前も知らない人の子を妊娠してるだなんて、お母さんにも言えないよ……。

お母さん、絶対反対するだろうし。……それにわたし、まだ二十歳だし。

成人したとは言え、子供なのは間違いない訳で……。

色々と考えれば、考えるほど、頭が混乱していく。

「……はぁっ」

ため息しかでない。

母子手帳をどれくらい眺めていただろう。 気づいたら辺りは暗くなってきていて、日が沈む頃だった。

「……帰ろう」

早く帰らないと、お母さんが心配する。

「……よし」

とりあえず、妊娠していることは周りの人に隠すことにした。 もちろん、お母さんにも。

そして通っている大学の友達にも。

バレないように、なんとしても隠し通そう。

今は、妊娠しているとバレたくない。

とりあえず、考える時間がほしい。 産むにしても、産まないにしても、時間がほしい。

考える時間が……とにかくほしい。

すぐにはやっぱり、決断できない。 しっかり考えてから、どうするか決めようと思う。

―――だけど、そんな矢先のことだった。

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