Chapter: 【婚姻届、提出しました。】~挨拶✕初めてのキス~* * *「お母さん、お父さん、初めまして。 天野川大翔と申します」 婚姻届を提出する数日前、天野川さんはわたしの家へ来ていた。 わたしは未だに実家暮らしだったため、わたしの両親は、わたしがいきなり男を連れてきたことに驚いていた。「え、あ、天野川って……?」 お母さんは天野川さんを見ながら、あたふたとしていた。「失礼しました。 株式会社スリーデイズの副社長を務めております、天野川大翔と申します」「スリーデイズ……。って、ええっ!? あ、も、もしかして、あなた天野川秀人の……?」「はい。息子です」「えっ!? お、お母さんっ!?」 娘が連れてきた男が、まさかのあの有名企業の副社長だと知った瞬間、お母さんは驚きで気絶してしまいそうになった。 そんなお母さんを、天野川さんは「大丈夫ですか?お母さん」と支えていた。「え、えぇ……すみませんねぇ」「いえ、ケガがなくて良かったです」 天野川さんはお母さんにキラキラとした笑顔を向けていた。「さ、さぁ、天野川さん。こちらへどうぞ、大した家じゃないですが……」「ありがとうございます」 天野川大翔……すごい笑顔。キラキラとしている。「まさか天野川さんが、由紀乃の結婚相手だなんて、驚いたわよ。 あなた、結婚したい人がいる、としか言わなかったから……」 お茶を淹れながら、お母さんはそう言ってきた。 「ごめんね、お母さん」 お母さんはさぞかし驚くに決まっているだろうとは思っていたが、まさかそこまでとは思ってなかった。「しかし、イケメンねぇ?天野川さん。男性なのに美形よね」「……だよね」 イケメンだというとは、わたしも認める。思わず見惚れてしまいそうになる時があるから。「お待たせしました。大したものではないですが、どうぞ」 お母さんは天野川さんにいつもよりも丁寧な対応と言葉遣いをしていた。「ありがとうございます。お気遣いなく」 お母さん、めちゃくちゃ緊張してるな……。「あ、そうだ。僕からもお土産があるんです」「え? あ、わたしにも?」 お母さんは驚いたような表情をしていた。「はい、これは父親からなんですが……。よろしかったらどうぞ」「あら、すみません……。ありがとうございます」 天野川さんから紙袋を渡されたお母さんは、その中身を見て目を見開いた。
最終更新日: 2025-01-26
Chapter: プロローグ【プロローグ】〜副社長との出会い〜* * *「大変お待たせ致しました。 角切りりんごと紅茶クリームのパンケーキになります」「うわぁ……」 お、美味しそう……! そして何より、見た目が美しいっ! フワフワで厚みのある茶葉入りのパンケーキに、香り豊かな紅茶クリーム。そしてその周りを囲む、黄金色が輝く美しい角切りりんご。「美しいっ……」 これぞカフェのパンケーキ。 いや、もはやそれ以上かもしれない。 見た目のクオリティに関して言うと、パーフェクトすぎるくらいだ。 これは女子受け、間違いなしのスイーツだ。 わたしはすぐにカバンからスマホを取り出し、一番いい位置から写真を撮影し、それをInstagramにハッシュタグを付けて上げる。 これがわたしの休みの日のルーティンだ。休みの日はどこかのカフェに出向き、そのお店のオススメのスイーツを必ずチェックしている。 もちろん、新作のスイーツや期間限定のスイーツなどは外せないため、必ずチェックするようにしている。 こんなことをしているせいか、わたしには彼氏など出来ない。 今のわたしには、恋愛することよりもスイーツを食べる方が優先なのだ。「それでは……いただきます」 Instagramにあげた写真をチェックした後、ナイフとフォークを両手に持ち、出来たばかりのパンケーキに手を伸ばしていく。「うん、美味しいっ」 何これ、めちゃくちゃ美味しい。フワフワなのに軽い口どけのパンケーキに、甘さ控えめなのにしっかりと紅茶の風味を感じるクリームとの相性がバツグンすぎる。 何よりこの角切りされたりんごはシナモンが少し入っていて、口に入れた瞬間の爽やかなりんごの酸味とシナモンのフワッと香るほんのりとした香りが更に美味しさを引き立てている。 これは間違いなく、文句無しで美味しいスイーツだ。絶対に食べた方がいい。 くどくないし、クリームの口どけも滑らかなのに軽く食べられてしつこくないし。甘いものが苦手な人でも食べやすいように出来ている。「やばっ、止まらない……」 あまりにも美味しくて、ナイフとフォークが止まらなくなる。「ごちそうさまでした」 あまりにも美味しくて、あっという間にパンケーキを食べ終えたしまったわたし。「うん」 これは評価高いな、もう一度食べたくなる。 そしてお会計しようと席を立ったその時…
最終更新日: 2025-01-23
Chapter: 二度目の再会でまさかの……。【え、これってプロポーズ……ですか?】* * * それから一ヶ月が経った時のことだった。「いらっしゃいませ」「すいません、一人なんですけど……空いてますか?」「すみません、今ちょうど満席で……。テラス席でしたら空いていますが、どういたしますか?」「……じゃあ、テラス席でお願いします」 その日は三連休の中日ということもあり、お昼時のカフェは混んでいるのか、店内は満席状態であった。 テラス席なら空いてるとのことだったので、わたしはテラス席に座ることにした。 今日は気分転換にスイーツを食べながら、外で仕事をすることにしたのだった。「こちらの席にどうぞ」「ありがとうございます」 イスの下にあるカバン入れにカバンを入れ、ノートパソコンと資料を開く。「ご注文お決まりになりましたら、こちらのボタンでお呼びください」 「分かりました」 まずはメニューを開いてホットの紅茶を注文した。食べ物は後ででいいと思い、まずは資料に目を通していく。 「はあ、全然ダメだ……」 わたしはごく普通のOLだ。毎日上司から仕事を押し付けられ、毎日ため息ばかりついている。 そんな日々ばかりなのだ。「お待たせしました。ホット紅茶になります。ミルクと砂糖はお好みでどうぞ」「ありがとうございます」 まずは昨日終わらなかった分の作業を終わらせてしまおう。 そしてパソコンに入力作業をしていると、後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた気がした。「分かってる。俺だって見合いは避けたいさ」「大翔……」 ……大翔? いや、まさかね……。 でも今、お見合いって言ったよね……?「でも親父さん、お前に結婚しろって迫ってるんだろ?南條ゆずと」「ああ。……けどいくら言われても、俺はゆずとの結婚は出来ない」 そんな会話が、後ろの方から聞こえてくる。「南條、ゆず……?」 え、南條ゆず……!? 南條ゆずって、あの南條ゆず……!? 世界的に有名なピアニストの、南條ゆずのことっ……!? すご……! 南條ゆずとの結婚話、しちゃってるんですけど……?!「でもゆずちゃんとは、幼なじみなんだろ?」「幼なじみだからって、それとこれは話が違う」「南條ゆずと結婚したら、お前の人生は安泰だと思うけど? な、大翔」 まさかね……。たまたま同じ名前ってだけよね?
最終更新日: 2025-01-23
Chapter: 【発覚した妊娠】―――それは、それからしばらくした時のことだった。夏もそろそろ終わりを迎えて、季節が移り変わろうとしていた時のことだった。いつもより体調が優れなくて、頭痛や微熱などが続いた。ただの風邪かと思ったけど、季節の変わり目ということもあり、大学終わりに、念の為病院に行った。―――そしたらそこで、衝撃的なことを言われるのだった。「麻生実来さん、診察室へどうぞ」「はい」そして診察室へ入るなり、問診票を見て、先生が1言言った。「麻生さん、あなた……生理きてる??」「えっ?? 生理……??」そう言われると……。 あれ、しばらく生理……来てない。もともと不順な方ではあったから、また遅れているだけかと思っていた。「……いえ、そういえば、来てないです」「それはいつから??」「えっと……多分、この時くらいから、ですけど……」カレンダーを指差して、一言そう言った。「……ちょっとエコーをしても、いいかしら??」「えっ??エコー……??」「―――麻生さん、あなたもしかして、妊娠してるんじゃない??」「……えっ??」妊娠……??最初、何を言っているのか分からなかった。「……生理がしばらく止まってる。しかも妊娠の症状というのは、風邪に似ていることが多いから、風邪だと勘違いする人もけっこう多いのよ」「……わたしが、妊娠??」「その様子じゃ、身に覚え、あるのね??」「…………」わたしはその言葉に何も、言えなくなった。……あの日からは彼のことを忘れてたつもりだけど、心のどっかでは、忘れられてなかった。「……さ、調べてみましょう。ここに横になって??」「あ、はい……」言われたとおり、ベッドへと横になった。そしてお腹にジェルを塗り、先生はゆっくりとエコーを当てた。―――すると。「……ほら、見える??あなたの、お腹の子よ」「……本当だ」かすかだけど、お腹の中に見えた、小さな命。やっぱりわたし、妊娠していたんだ……。先生の言うとおりだった。「妊娠ニヶ月ってところかな」「……ニヶ月」わたしは、お腹に新しい命を宿していた。……あの日結ばれた、名前も知らない大人な彼との間に出来た子供。ふと、あの日の夜のことを思い出した。 初めて彼に抱かれたあの日からずっと、わたしは彼のことが忘れられなかった。「……おめでとうございます、お母さん」「
最終更新日: 2025-01-25
Chapter: 【大人な彼と一夜の関係】「……あ、あのっ……」「ん??」「……ほ、本気、ですか??」「本気だよ?? だって、それが俺が望んだ゙お礼゙だからね??」「……で、すよね」なんでこうなっているんだろう……。お礼をしたいと言ったら、なぜかその日の夜、ラブホテルに来てしまっていた。彼が放った言葉は、わたしの身体でお礼をしろってことだった。まさかとは、思ったけど。やっぱり……。あの時は通学途中だったため、夜また駅で待ち合わせをしようと言われた。連絡先の書いた名刺を渡され、その番号に終わったら連絡してと言われて……。現在(いま)に至る。今いるのは、ラブホテルの一室。ちょっと高級そうなラブホテルで、少しゴージャスな感じの雰囲気だった。「……君、お酒は飲める??」「えっ!?お酒、ですか??」「うん。飲める??」「は、はい。飲め、ますけど……」「じゃあとりあえず、俺たちの出会いに乾杯しよう」「えっ??あっ、はい……」シャンパンの入ったグラスを渡され、お互いにグラスを合わせて乾杯した。「ん、美味しい……」このシャンパン、今まで飲んだ中で一番美味しい。口当たりが爽やかというか、飲みやすい……。「よかった。気に入ってくれた??」「は、はい……」なんていうか、ちょっと緊張する。こんなオシャレな部屋でシャンパンを飲むなんて、今までしたこともなかったし。大人な雰囲気に、なんとなく慣れなくて、ちょっと緊張する。「……大丈夫??」「へっ!?あっ、だ、大丈夫です……」なんかわたし、挙動不審!?「もしかして、緊張してる??」「……あ、はい。少しだけ」「大丈夫だよ。リラックスして??」「そんなこと、言われても……」こんな大人な方と一緒に過ごすなんて、初めてだから、緊張しちゃうよ……。「……そういうとこ、可愛いね??」「……えっ??」そして彼の大きな左手は、わたしの頬にそっと触れた。―――ドキッなぜだか分からないけど、すごくドキドキしてるのが自分でも分かる。こんなにもドキドキするなんて、初めてで……。思わず、顔を背けたくなる。優しく撫でられた頬が、真っ赤になるのがわかって、熱を持つのもわかる。……ど、どうしよう。なんかもう、目を反らせない……。「……そんなに可愛い顔されると、もう我慢出来ないんだけど??」「えっ……??」そう思った時には
最終更新日: 2025-01-25
Chapter: 【プロローグ】 それは、ある夏のかなり暑い日の出来事だった。 いつものように大学へ行くため、わたしは電車に乗っていた。 時間は朝8時15分、満員電車の通勤ラッシュの時間帯だった。 その日は友達と遊びに行く約束もしていたため、いつもよりも薄手の格好をしていた。 そう満員電車だから、乗れるわけもなく、通学時間40分ずっとたちっぱなしだった。 そして電車に乗り始めて10分後くらいだった。゛それに゛気付いたのは。 わたしのお尻に、サワサワと何か違和感があった。 ……これってもしかして。―――痴漢?? その予感は、的中した。 だけどこんな満員の電車の中で、声も出せる訳もなくて……。 できることならいっそのこと、今すぐその手を掴んで「この人、痴漢です!!」って口にしたい。 だけど、こんな状況で、口に出来る訳がない。 そう思った時だった。「ゔっ……!!??」「すみません‼この人、痴漢です‼」「……えっ??」 急にその手が離れて、違和感が無くなった。 振り返って後ろを見ると……。 痴漢していたおじさんの右手を掴んでいたのは、背の高いスラッと人だった。……わっ、イケメン。そして駅に着いた途端、彼はおじさんの手を掴んだまま電車から引きずりおろして、駅員さんに引き渡した。……た、助かった。 本当に怖かったし、声が出せないって辛いんだなと、改めて思ってしまった。 こういう時、ちゃんと言える人だったら、よかったのにって、思ってしまった。 わたしも急いで電車を降りて、助けてくれたあの人の所へと走った。「あっ、あの……‼」「ああ、大丈夫??」「は、はいっ‼あの……助けてくださって、ありがとうございます‼」「いや、別に」「本当に……なんてお礼をしたらいいか……‼」「気にしないで??何もなくてよかったよ」その人は、優しく微笑んでそう言った。「あ、あの……‼」「ん??」「本当に、何かお礼させてもらえませんか??」「本当に気にしなくていいから」「えっ、でも……‼」「……どうしてもお礼したいの??」「は、はいっ‼このままだと、わたしが申し訳ないので……!!」「そう??」「は、はいっ……‼その、迷惑でなければ、ですけど……」だってこんなイケメンな人に助けてもらって、お礼しないわけにはいかない。せめてお茶でもごちそうしたいくらいだ。こん
最終更新日: 2025-01-25