京介の言葉を借りるなら、わたしも京介の喜ぶ顔がもっと見たいし、京介のいろんな顔をこれからも見たいと思ってる。「これからもどうぞ、よろしくな。 父親として未塾な俺だけど、子育て一緒に頑張ろうな」「うん。こちらこそ、よろしくね」 京介とこうして過ごす日々は、これからもっと愛おしくなる。そんな日々を毎日、きっと宝物になる。「俺、実来に頼りっぱなしになってしまうかもしれないけど、俺に出来ることがあれば何でも言ってくれ」「うん、ありがとう」「俺は実来のことをずっと支えていきたいし、ずっとそばで守っていきたい。もちろん、子供のことも守っていくよ。……俺たちは、三人で家族だからな」 そう、わたしたちは家族だ。 これから家族として、みんなで明るい未来を作っていくと約束したんだ。 京介、これからもわたしはあなたの妻でいたい。妻として、母親として、しっかり頑張るからね。「わたしも京介のそばで、ずっと支えていきたいと思ってるよ。……この子と三人で、幸せな家族になろうね」「……ああ」 こうしてわたしたちの、新たな家族としての生活がスタートした。 夫婦であり、子供の親でもあるわたしたちだけど。今日からはこの新しい新居で、新しい場所で、家族として生活していくんだ。 どんな困難なことでも、どんなに大変なことでも、夫婦二人なら乗り越えていけそうな気がした。 わたしたちは数ある人たちの中から出会って、結婚して、子供が出来て……。この特別な出会いに、本当に感謝している。 この出会いがまさにほんの一瞬だったとしても、出会うべくして出会った二人なんじゃないかって、勝手に思っている。 京介も同じ気持ちなら、嬉しいな。 わたし、毎日が本当に幸せで、今が一番幸せでよかったと思ってる。 その気持ちはこれからだって変わらないし、変わることなんてない。 京介とだから、こんなにも幸せなんだと思っている。「……ねえ、京介」「ん?」「わたしと出会ってくれて、ありがとう。わたしと結婚してくれて、ありがとう。 わたしを愛してくれて、ありがとう。 わたしと家族になってくれて、ありがとう」「……実来」「京介と出会って、わたしはいつも楽しいことばかりだよ。……これからもきっと、楽しいの予感しかしないよ」「……本当だな。 家族が一人増えたし、楽しいことたくさんしていこう。思い出を作
✱ ✱ ✱「京介、ご飯出来たよ」 「ああ、ありがとう実来」「うん。温かいうちに、食べよう」「ああ、そうだな」「「いただきます」」 新しい新居に住み始めてから、およそ半年が経ったけど、わたしたちは仲良く子育てにバタバタしながら過ごしている。 わたしたちの子供は二人で名前を決めて、【木葉(このは)】と命名した。 植物の生命力のように力強く成長してほしいと願って、木葉と名付けた。 木葉はとても元気で、よく笑う子で、笑った顔がとても可愛い子だ。 自分たちの子がこんなにも可愛くて愛おしいだなんて、産まれてからもっと気づいた。 木葉はパパが大好きで、結構京介に懐いてる感じがする。 本当に可愛くて、愛おしい木葉。 二人で木葉を育てていくのってとても大変だし、分からないことばかりで戸惑うことばかりだ。 それでも毎日が幸せで、わたしも京介も、毎日笑顔が耐えない。 木葉を見ているだけで癒やされて、そして木葉と一緒にパパとママとして成長している。 それってわたしたちにとって、とても特別なことであり、かけがえのないものであることに間違いはない。「木葉にも、ミルクあげないとね」「そうだな。俺がやろうか?」「ううん、大丈夫。わたしがやるから」「そうか? じゃあ俺は食器を洗うよ」 京介はわたしが木葉に付きっきりになっていると、食器洗いやお風呂掃除などを率先してやってくれるから、わたしも助かっている。「ありがとう、京介。助かる」「気にしなくていいって」 木葉にミルクをあげながら「京介って、明日も朝早いんだよね?」と問いかけると、京介は「ああ。明日は朝一で会議がある」と答える。「分かった。 じゃあ明日はお弁当、用意しておくね」「ああ、ありがとう」「卵焼きは、いつもの甘くないヤツでいいよね?」「ああ」 京介と一緒に住み始めてから、京介のために毎日お弁当を作るようになったわたし。 愛妻弁当という訳ではないけど、京介は仕事大変で毎日遅くまで頑張ってくれているから、栄養のバランスを考えて作るようにしている。 卵焼きはいつも甘くないヤツで、お出汁を使った出汁巻き卵にしている。 甘いのがあまり好きじゃないみたいだから、飽きないように工夫をしているつもりではあるけれど、それでも毎日美味しいって食べてくれるから、
「木葉ー、準備出来た?」「うん! まま、できたっ!」「よし、じゃあ保育園行こっか」 木葉が産まれてから、早くも三年が経った。あんなに小さかった木葉も、今でも言葉も話せるようになり、日々子供の成長というのを実感している。 木葉も保育園ではお友達も出来たみたいで、今は保育園に行くのが楽しいみたいだ。 毎日保育園に行くことをとても楽しみにしている。 母としてはそれはとても嬉しいことで、木葉にお友達が出来ることもそうだし、毎日少しずつ出来ることが増えていくことも親としてはやっぱり嬉しい。 京介とも日々そんな話をしているのだけど、京介は木葉のことが本当に好きみたいで、毎日仕事から帰ると木葉の元へ歩み寄っている。「出発進行!」「おー!」 木葉を自転車の後ろに乗せ、保育園まで送り届けている私の毎日の日課は、ここから始まる。 京介のが家を出るのが早いので、私は毎日木葉を保育園まで送ってから家のことをやっている。「よしよし、起きしちゃったか〜」 木葉が産まれてから一年後には、第二子である女の子を出産し【うらら】と名づけた。 ひらがなでうららが可愛いなって言うのと、産まれたのが春ということもあり、うららと名づけたのだけど、木葉もうららのことに興味があるみたいだ。 ちゃんとお兄ちゃんをしてくれるか心配ではあるけど、きっと木葉なら大丈夫だろうと思う。 京介も家族が増えることを喜んでくれていたので、うららが産まれた時も泣いて喜んでくれた。「うらら、ミルク飲もうか」 うららにミルクを飲ませるためにソファに座る。「飲んでる飲んでる」 うららがミルクを飲んでる姿もとても可愛くて、ついうっとりしてしまう。「うらら、もうお腹いっぱいかな?」 ミルクを飲み終えたうららの背中を優しく叩きゲップを出す。「よく出来ましたね、うらら」 二人目は女の子なのが何よりわたしは嬉しい。 うららが産まれてからは、我が家はもっと楽しくなったし、もっと素
それは、ある夏のかなり暑い日の出来事だった。 いつものように大学へ行くため、わたしは電車に乗っていた。 時間は朝8時15分、満員電車の通勤ラッシュの時間帯だった。 その日は友達と遊びに行く約束もしていたため、いつもよりも薄手の格好をしていた。 そう満員電車だから、乗れるわけもなく、通学時間40分ずっとたちっぱなしだった。 そして電車に乗り始めて10分後くらいだった。゛それに゛気付いたのは。 わたしのお尻に、サワサワと何か違和感があった。 ……これってもしかして。―――え、痴漢? その予感は、的中した。 だけどこんな満員の電車の中で、声も出せる訳もなくて……。 できることならいっそのこと、今すぐその手を掴んで「この人、痴漢です!」って口にしたい。 だけど、こんな状況で、口に出来る訳がない。 そう思った時だった。「ゔっ……!?」「すみませ。この人、痴漢です!」「……えっ?」 急にその手が離れて、違和感が無くなった。 振り返って後ろを見ると……。 痴漢していたおじさんの右手を掴んでいたのは、背の高いスラッと人だった。 ……わっ、イケメン。 そして駅に着いた途端、彼はおじさんの手を掴んだまま電車から引きずり降ろして、駅員さんに引き渡した。……た、助かった。 本当に怖かったし、声が出せないって辛いんだなと、改めて思ってしまった。 こういう時、ちゃんと言える人だったら良かったのにって……思ってしまった。 わたしも急いで電車を降りて、助けてくれたあの人の所へと走った。「あっ、あの……!」「ああ、大丈夫?」「は、はい!あの……助けてくださって、ありがとうございました」「いや、別に」 その人は本当にイケメンな人だった。……会社員さんかな?「本当に、なんてお礼をしたらいいか……!」「気にしないで。何もなくてよかったよ」その人は、優しく微笑んでそう言った。「あ、あの…」「ん?」「本当に、何かお礼させてもらえませんか?」「いいって。本当に気にしなくていいから」「えっ、でも…」 痴漢から助けてくれたのにお礼もしないなんて……礼儀正しくない気がする。「……どうしてもお礼したい?」「は、はいっ。このままだと、わたしが申し訳ないので……」「そう?」「は、はいっ……その、迷惑でなければ、ですけど……」 だってこんな
「……あ、あのっ……」「ん?」「……ほ、本気、ですか?」「本気だよ。 だって、それが俺が望んだ゙お礼゙だからね」「……で、すよね」 なんでこうなっているんだろう……。お礼をしたいと言ったら、なぜかその日の夜、ラブホテルに来てしまっていた。 彼が放った言葉は、わたしの身体でお礼をしろってことだった。 まさかとは、思ったけど、やっぱり……。 あの時は通学途中だったため、夜また駅で待ち合わせをしようと言われた。 連絡先の書いた名刺を渡され、その番号に終わったら連絡してと言われて、現在(いま)に至る。 今いるのは、ラブホテルの一室。 ちょっと高級そうなラブホテルで、少しゴージャスな感じの雰囲気だった。「……お酒は飲める?」「えっ、お酒、ですか?」「うん。飲める?」「は、はい。飲め、ますけど……」「じゃあとりあえず、俺たちの出会いに乾杯しようか」「えっ……。あっ、はい……」 シャンパンの入ったグラスを渡され、お互いにグラスを合わせて乾杯した。「ん、美味しい……」 このシャンパン、今まで飲んだ中で一番美味しい。口当たりが爽やかというか、飲みやすい……。「よかった。気に入ってくれたみたいだね」「は、はい……」 なんていうか、ちょっと緊張する。 こんなオシャレな部屋でシャンパンを飲むなんて、今までしたこともなかったし。 大人な雰囲気に、なんとなく慣れなくて、ちょっと緊張する。「……大丈夫?」「へっ!? あ、だ、大丈夫です……」 なんかわたし、挙動不審……?「もしかして、緊張してる?」「……あ、はい。少しだけ」「大丈夫だよ。リラックスして」「そんなこと、言われても……」 こんな大人な方と一緒に過ごすなんて、初めてだから、緊張しちゃうよ……。「そういうとこ、可愛いね」「……え?」 そして彼の大きな左手は、わたしの頬にそっと触れた。 ―――ドキッ! なぜだか分からないけど、すごくドキドキしてるのが自分でも分かる。 こんなにもドキドキするなんて、初めてで……。 思わず、顔を背けたくなる。 優しく撫でられた頬が、真っ赤になるのがわかって、熱を持つのもわかる。 ……ど、どうしよう。 なんかもう、目を反らせない……。「……そんなに可愛い顔されると、もう我慢出来ないんだけど」「えっ……?」 そう思った時にはもう、わたしは
―――それは、それからしばらくした時のことだった。 夏もそろそろ終わりを迎えて、季節が移り変わろうとしていた時のことだった。 いつもより体調が優れなくて、頭痛や微熱などが続いた。 ただの風邪かと思ったけど、季節の変わり目ということもあり、大学終わりに念の為病院に行った。 そしたらそこで、衝撃的なことを言われるのだった。「麻生実来さん、診察室へどうぞ」「はい」 診察室へ入るなり、問診票を見て、先生が一言言った。「麻生さん、あなた……生理はきてる?」「えっ? 生理……?」 そう言われると……。 あれ、しばらく生理……来てない。 もともと不順な方ではあったから、また遅れているだけかと思っていた。「……いえ、そういえば、来てないです」 でもどうして、そんなことを聞くのだろうか……。「それはいつからかわかる?」「えっと……多分、この時くらいから、ですけど……」 カレンダーを指差して、一言そう言った。「ちょっと、調べたいことがあるんだけど、いいかしら?」「……調べたいこと、ですか?」 わたし、もしかしてどこか悪いの……?「―――麻生さん、あなたもしかして、妊娠してるんじゃない?」「……え?」 妊娠……? 最初、先生が何を言っているのか分からなかった。「生理がしばらく止まってる。しかも妊娠の症状というのは、風邪に似ていることが多いから、風邪だと勘違いする人もけっこう多いのよ」「……わたしが、妊娠?」 まさか、あの夜の日じゃ……ないよね? でも最近エッチをしたのは……あの人しかいない。 そんな……。「その様子じゃ、身に覚えがあるみたいね」 わたしはその言葉に何も、言えなくなった。 あの日からは彼のことを忘れてたつもりだけど、心のどっかでは、忘れられてなかった。「……さ、調べてみましょう。ここに横になってくれる?」「あ、はい……」 言われたとおり、ベッドへと横になった。 ―――すると。「……ほら、見える?あなたの、お腹の子よ」「……これが、赤ちゃん?」 かすかだけど、お腹の中に見えた、小さな命。 やっぱりわたし、妊娠していたんだ……。先生の言うとおりだった。「妊娠ニヶ月ってところかな」「……ニヶ月」 わたしは、お腹に新しい命を宿していた。 その子は、あの日結ばれた、名前も知らない大人な彼との間に出来
「おはようミク」「おはよう、彩花(あやか)」「あれ、どうしたの?」「えっ?」「なんか、顔色悪くない?具合でも悪い?」 それから何日かして、大学で親友の彩花と一緒になった。 だけど、変化ってすぐに気が付くもので……。「だ、大丈夫。何でもないよ」「……なんかあった、でしょ?」「な、なんで……?」「実来のことは、なんでも分かちゃうよ」「……ま、参りました」「で、何があったの?」 わたしは観念して、昼休みに彩花に全てを話すことにした。 彩花は昼休み、黙ってわたしの話を聞いてくれた。そして一言、こう言った。「……実来はもう一度、その人に。お腹の子の父親に、会いたいんだ?」「……うん」 あれから何日も考えていたけど、やっぱり、わたしは彼のことが忘れられなかった……。 もう、出会ったあの時からわたしは、彼に恋をしているんだとその時気付いた。 会いたい。もう一度、彼に会いたい。 だけど、会うのが怖い。 会って妊娠していると告げた時、彼がどんな反応をするのか想像しただけで、体がビクビクする。「ねえ、実来」 「……ん?」「わたしは、ちゃんと話すべきだと思うよ」「……でも、少し怖い」 どうしても不安と怖さが勝ってしまう。「それでも、逃げちゃダメだよ。これは……実来だけの問題じゃないんだよ? 実来のこれからのためにも、ちゃんと話すべきだと思う」「……でも、わたし、どうすれば?」「素直に言うんだよ。自分の気持ちを」「……自分の、気持ち」そうだ。言わなきゃ……。だってわたしは、彼のことが好き。 彼にもう一度会って、ちゃんと今の気持ちを話したい。「……わたしもう一度、連絡してみる」「うん。頑張って。応援、してる」「ありがとう……」「大丈夫。妊娠のことは誰にも言うつもりないから、安心して」「……ありがとう、彩花」 彩花が親友で本当によかった。 誰にも言うつもりなかったけど、彩花だけにはやっぱり話せる。……話してよかった。 その日わたしは、講義が午後までだったので、思いっきって彼に連絡してみることにした。 カバンの中から取り出す、あの時もらった彼の名刺……。 スマホを取り出して、また番号を打つ。 そしてゆっくりと、発信ボタンを押した。 プルルルル……プルルルル……。 何回かのコールの後、「はい」という声が聞
その後、森嶋さんがお会計をしてくれた。 わたしも払うと言ったけど、奢らせてと言われてしまい、それ以上何も言えなくなった。 そして駅の近くにある公園で、ふたり腰掛けて座った。「……実来ちゃん」「はい……?」 わたしは森嶋さんの方へ振り返る。「俺との子、産んでくれないかな」「……え?」 それは、予想外の言葉だった。 産んでほしいと言われるとは、思ってなかった。 なんで、産んでほしいなんて……。「……勘違いしないでくれ。責任を取りたいから産んでほしいと言ってるんじゃない。 本気で、本気で、そう言ってるんだ」「……でも、わたし……」 わたしは怖くなって俯く。「聞いてくれ。 俺が今一番守りたいのは、実来ちゃん、君なんだ」 わたしは森嶋さんに「……それは、赤ちゃんが出来たから、ですか?」と問いかける。「違う。そうじゃない」「……じゃあ、なんで……そんなこと……」 わたしは責任をとってほしいなんて思ってない。「―――君を好きなんだよ」「……えっ?」「君のことが……実来ちゃんのことが好きなんだ。 本気でそう思ってる」 そんなの、ウソだよ。だって大人は、ウソを付く。「……でも大人の人は、すぐにそうやってからかいますよね? そうやって甘い言葉で……んん……っ」 なのにわたしの言葉が遮られた。 でもそれを遮ったのは、言葉なんかじゃなくて、森嶋さんのその唇だった。「えっ……。森嶋、さん……?」「冗談なんかじゃない。本気で言ってるよ」 その瞳(め)が本気だと物語っていた。「……あ、あの、わたし……」 どうして、キスなんてするの……。どうして……。「俺は本気で、君のことを守りたいんだ。 君のお腹にいる子も、俺が守りたいんだ。……ダメか?」「……いや、あの……」 ダメかと言われても……。「君のお腹にいる子の父親は、俺だろ? だったら、俺はお腹の子の父親として、君たちを守る権利がある」「それは、その……」 確かに、そうかもしれないけど……。「そうだろ? それなのに実来ちゃん、君は何を躊躇っているんだ?」「何を……躊躇ってる?」「そうだ。俺は確かに35だよ。君は20歳くらいだろうから、15も年の差があるけど」 わたしは何も言えなくなってしまう。「だけど年の差なんて関係ないだろ?年の差があるなんてのは、今は普通のことだ。
「木葉ー、準備出来た?」「うん! まま、できたっ!」「よし、じゃあ保育園行こっか」 木葉が産まれてから、早くも三年が経った。あんなに小さかった木葉も、今でも言葉も話せるようになり、日々子供の成長というのを実感している。 木葉も保育園ではお友達も出来たみたいで、今は保育園に行くのが楽しいみたいだ。 毎日保育園に行くことをとても楽しみにしている。 母としてはそれはとても嬉しいことで、木葉にお友達が出来ることもそうだし、毎日少しずつ出来ることが増えていくことも親としてはやっぱり嬉しい。 京介とも日々そんな話をしているのだけど、京介は木葉のことが本当に好きみたいで、毎日仕事から帰ると木葉の元へ歩み寄っている。「出発進行!」「おー!」 木葉を自転車の後ろに乗せ、保育園まで送り届けている私の毎日の日課は、ここから始まる。 京介のが家を出るのが早いので、私は毎日木葉を保育園まで送ってから家のことをやっている。「よしよし、起きしちゃったか〜」 木葉が産まれてから一年後には、第二子である女の子を出産し【うらら】と名づけた。 ひらがなでうららが可愛いなって言うのと、産まれたのが春ということもあり、うららと名づけたのだけど、木葉もうららのことに興味があるみたいだ。 ちゃんとお兄ちゃんをしてくれるか心配ではあるけど、きっと木葉なら大丈夫だろうと思う。 京介も家族が増えることを喜んでくれていたので、うららが産まれた時も泣いて喜んでくれた。「うらら、ミルク飲もうか」 うららにミルクを飲ませるためにソファに座る。「飲んでる飲んでる」 うららがミルクを飲んでる姿もとても可愛くて、ついうっとりしてしまう。「うらら、もうお腹いっぱいかな?」 ミルクを飲み終えたうららの背中を優しく叩きゲップを出す。「よく出来ましたね、うらら」 二人目は女の子なのが何よりわたしは嬉しい。 うららが産まれてからは、我が家はもっと楽しくなったし、もっと素
✱ ✱ ✱「京介、ご飯出来たよ」 「ああ、ありがとう実来」「うん。温かいうちに、食べよう」「ああ、そうだな」「「いただきます」」 新しい新居に住み始めてから、およそ半年が経ったけど、わたしたちは仲良く子育てにバタバタしながら過ごしている。 わたしたちの子供は二人で名前を決めて、【木葉(このは)】と命名した。 植物の生命力のように力強く成長してほしいと願って、木葉と名付けた。 木葉はとても元気で、よく笑う子で、笑った顔がとても可愛い子だ。 自分たちの子がこんなにも可愛くて愛おしいだなんて、産まれてからもっと気づいた。 木葉はパパが大好きで、結構京介に懐いてる感じがする。 本当に可愛くて、愛おしい木葉。 二人で木葉を育てていくのってとても大変だし、分からないことばかりで戸惑うことばかりだ。 それでも毎日が幸せで、わたしも京介も、毎日笑顔が耐えない。 木葉を見ているだけで癒やされて、そして木葉と一緒にパパとママとして成長している。 それってわたしたちにとって、とても特別なことであり、かけがえのないものであることに間違いはない。「木葉にも、ミルクあげないとね」「そうだな。俺がやろうか?」「ううん、大丈夫。わたしがやるから」「そうか? じゃあ俺は食器を洗うよ」 京介はわたしが木葉に付きっきりになっていると、食器洗いやお風呂掃除などを率先してやってくれるから、わたしも助かっている。「ありがとう、京介。助かる」「気にしなくていいって」 木葉にミルクをあげながら「京介って、明日も朝早いんだよね?」と問いかけると、京介は「ああ。明日は朝一で会議がある」と答える。「分かった。 じゃあ明日はお弁当、用意しておくね」「ああ、ありがとう」「卵焼きは、いつもの甘くないヤツでいいよね?」「ああ」 京介と一緒に住み始めてから、京介のために毎日お弁当を作るようになったわたし。 愛妻弁当という訳ではないけど、京介は仕事大変で毎日遅くまで頑張ってくれているから、栄養のバランスを考えて作るようにしている。 卵焼きはいつも甘くないヤツで、お出汁を使った出汁巻き卵にしている。 甘いのがあまり好きじゃないみたいだから、飽きないように工夫をしているつもりではあるけれど、それでも毎日美味しいって食べてくれるから、
京介の言葉を借りるなら、わたしも京介の喜ぶ顔がもっと見たいし、京介のいろんな顔をこれからも見たいと思ってる。「これからもどうぞ、よろしくな。 父親として未塾な俺だけど、子育て一緒に頑張ろうな」「うん。こちらこそ、よろしくね」 京介とこうして過ごす日々は、これからもっと愛おしくなる。そんな日々を毎日、きっと宝物になる。「俺、実来に頼りっぱなしになってしまうかもしれないけど、俺に出来ることがあれば何でも言ってくれ」「うん、ありがとう」「俺は実来のことをずっと支えていきたいし、ずっとそばで守っていきたい。もちろん、子供のことも守っていくよ。……俺たちは、三人で家族だからな」 そう、わたしたちは家族だ。 これから家族として、みんなで明るい未来を作っていくと約束したんだ。 京介、これからもわたしはあなたの妻でいたい。妻として、母親として、しっかり頑張るからね。「わたしも京介のそばで、ずっと支えていきたいと思ってるよ。……この子と三人で、幸せな家族になろうね」「……ああ」 こうしてわたしたちの、新たな家族としての生活がスタートした。 夫婦であり、子供の親でもあるわたしたちだけど。今日からはこの新しい新居で、新しい場所で、家族として生活していくんだ。 どんな困難なことでも、どんなに大変なことでも、夫婦二人なら乗り越えていけそうな気がした。 わたしたちは数ある人たちの中から出会って、結婚して、子供が出来て……。この特別な出会いに、本当に感謝している。 この出会いがまさにほんの一瞬だったとしても、出会うべくして出会った二人なんじゃないかって、勝手に思っている。 京介も同じ気持ちなら、嬉しいな。 わたし、毎日が本当に幸せで、今が一番幸せでよかったと思ってる。 その気持ちはこれからだって変わらないし、変わることなんてない。 京介とだから、こんなにも幸せなんだと思っている。「……ねえ、京介」「ん?」「わたしと出会ってくれて、ありがとう。わたしと結婚してくれて、ありがとう。 わたしを愛してくれて、ありがとう。 わたしと家族になってくれて、ありがとう」「……実来」「京介と出会って、わたしはいつも楽しいことばかりだよ。……これからもきっと、楽しいの予感しかしないよ」「……本当だな。 家族が一人増えたし、楽しいことたくさんしていこう。思い出を作
「先生、ありがとうございました」「何かあったら、また来てくださいね」 「はい。ありがとうございます」「では、お大事に」「お世話になりました」 出産を終えてから数日後、わたしと赤ちゃんは無事に退院することが出来た。 赤ちゃんも健康で何事もなかったから、本当によかった。「さ、帰ろうか。新しい我が家へ」「うん。帰ろう。新しい我が家へ」 赤ちゃんと一緒に後ろのシート乗り込むと、京介の運転で新しい新居へと帰った。 楽しみだな、新しい新居での暮らしがこれから始まっていく。 赤ちゃんが産まれて、これから新しい生活が始まるんだな……。ワクワクもするし、ドキドキもするし、でも不安もあるけれど。 だからこそ、この一瞬の瞬間や時間を、家族三人で共有していきたいと思う。 子供を初めてチャイルドシートに乗せた時、なんだかとても緊張してドキドキした。 産まれて間もない子供だけれど、わたしたちの大切な宝物だ。 大切な大切な、家族と言う名の存在。 これからしっかりと、この子を自分たちの手で育てていきたい。 こうして産まれてきてくれた、わたしたちの宝物に感謝したい。「さ、出発しようか」「うん。お願いします、パパ」「パパか。……そうだよな、俺はパパなんだよな」「うん。そうだよパパ」 子供にとって、父親は京介一人だけだ。 わたしにとって京介は旦那さんで、そして大切な家族だ。 とても愛おしい存在なんだ。「なんかまだ、パパって呼ばれるの慣れないな」「そのうち慣れるよ」 これからの三人での生活は、きっとドタバタ続きで大変だろうけど、なんとか頑張っていこう。 新米ママと、新米パパとしてね。 赤ちゃんにとって、わたしたちは親なのだから。 そして車を走らせること四五分ほどで、わたしたちの新しい新居に到着した。 わたしはしばらく入院していたこともあり、実際の中はまだ写真などでしか見ていなかったから、どんな風になっているのか、とても楽しみだった。 ここで暮らせるなんて、なんだかまだ夢のようだけど……。 チャイルドシートから子供を降ろして、抱っこして家の中へと向かう。 階段もあるけど、エレベーターで行けるのでスイスイだ。 しかも子供がいる家庭にとっては、こういうのは便利すぎてすごい。 良く出来てるなって感じがする。 さすが新築マンションだな。 セキュリ
もうダメ……。本当に痛くて、子宮が取れそうな感覚になってしまう。 なぜか一緒に涙も出てきてしまったし。「森嶋さーん、赤ちゃんの頭がまだ出てきてないから、指示出したらその通りにやってみてくれるかな」「は、はいっ……」 赤ちゃんの頭もまだ出て来てないの!? こんなに痛いのに……。わたし、こんな弱気で頑張れるのかな……。「森嶋さん、息を吸ってから吐いてみてくれる?」「は、はいっ」 言われた通りに、息を吸って吐いてを何回かやってみた。「OK、いいよ。 森嶋さん、次いきんでくから息を吐きながらいきんでみてくれるかな」「えっ、はっ、いたたっ……!」 いたたたた……! やばい、めちゃめちゃ痛いっ! 言われた通りにいきんでくと、力が入るからかなり子宮が圧迫されたような感じがして、とても痛かった。 もはやこれは我慢できないほどの痛みだった。 ああ、早く赤ちゃん出てきて……。痛みに一生懸命耐えながら、そんなことばかりを考えていた。「森嶋さん、もう一回いきんでー!」「はいいいっ……!」 思いっきり力を振り絞りながら、いきんでいく。「ふんんんっ……!!」 やばい、痛いし身体が限界を迎えそうだ。 おでこや身体全体に汗をたくさんかきながら、本当に必死だった。 途中からはもう、何だかもうよく分からなくて、ただただ赤ちゃんが出てきてくれることだけを祈っていた。「森嶋さん、まだいきまないでね〜」 「っ……はあ、はあ……っ」 もう苦しい……。無理かも……。「森嶋さん、赤ちゃんの頭が見えてきたよー! はーい、もう一回いきんでみて!」「ふんんんんっ……!!」 でも赤ちゃんの頭が見えてきたって言葉を聞いて、少しだけ嬉しくなった。 もう少しで、もうちょっとで赤ちゃんと会えるんだ……。「実来!頑張れー!!」 一生懸命いきんでいく中で、やっと京介の姿が見えたけど、不安そうな顔でこっちを見ていた。 でも……きっと大丈夫。京介が応援してくれてるし、ここで見守ってくれているんだから。 「森嶋さん、旦那さんが到着されましたよー! よかったですね!」「っ、は、はいっ……!」「実来、もう少しだ!頑張れっ!」「う、うんっ……!」 京介の声が聞こえてくる度に気持ちが高まるし、元気がもらえる。「森嶋さーん、赤ちゃんの頭出てきたよー!もう少しだから、この
「っ……いたたたっ……!」 え、なんかお腹痛い……! なにこれ! それから数日後、その日はお天気が良かったので外の中庭を歩いていた。 その時、急にお腹にドッと痛みを感じた。 あまりにも痛みが強くて、わたしはその場にしゃがみ込んでしまった。「森嶋さん、大丈夫ですかっ!?」 そこへ通りすがった先生がわたしの元へ駆け寄る。「お、お腹が、痛くてっ……!」 痛みでまともに話すことも出来ない。 きっとこれは、陣痛かもしれない。「森嶋さん、ちょっとお腹触りますね」 先生がわたしのお腹に触れると「森嶋さん、すぐに病室に移動しましょう。子宮口が少し開いてるかもしれません」とわたしに告げた。「先生、い、痛いです……!」「大丈夫ですよ、森嶋さん。一緒に頑張りましょうね」「は、はいっ……!」 それは今までに感じたことのないような痛みで、どうしようもなくて、思わず泣きそうになってしまった。 車イスを用意されて病室に移動すると、超音波検査などを行った。 そして先生は、子宮口を確認していく。「森嶋さん、子宮口がもうちょっとで開きそうだから、もう少しだけ我慢してね」「ううー……まだ、ですか?」「後もう少しだから、もうちょっとだけ待ちましょうね」 それからもう少しだけ、子宮口が開くのを痛みに耐えながら待っていた。「はぁ……はぁ……痛いよお」 先生まだかな……。 いつまで待てばいいのかは分からないけど、子宮口が開かないと赤ちゃんが出て来られないとのことだったので、陣痛を促す薬を投与してもらい、完全に開くまで待つことになった。 でも開くのもいつになるのかわからないので、途方に暮れそうだった。「せ、先生……?」 それからどのくらい経ったかは分からないけれど、痛みに耐えながら待っていたら、先生が来てくれたのでようやくかなと思った。「森嶋さん、子宮口確認するね」「は、はいっ……」 陣痛って、こんなにも痛いのか……。本当にすごく痛い。 生理痛の何倍も痛いから、何度も泣きそうになってしまった。 だけどここまで来たら後少しだから、と自分に言い聞かせた。「森嶋さん、良かったね!ようやく子宮口開いたよ。 よし、出産準備に入るからちょっと待っててね」「は、はいっ……!」 良かった……。ようやく開いたみたいで、産む準備に入れるそうだ。「森嶋さん、旦那さ
「おねえちゃんは、いつあかちゃんうまれるの〜?」 わたしのそぱに来た紗奈ちゃんという女の子は、わたしのお腹に目を向けている。「こら、紗奈!お姉ちゃんの邪魔しちゃダメでしょ?……すみません、うちの子が」 紗奈ちゃんのお母さんは、わたしの元へとゆっくり歩いてくる。「いえ。 紗奈ちゃん、お姉ちゃんもね、もう少しで赤ちゃんが産まれるんだよ」 「さなも、あかちゃんたのしみなんだぁ! おねえちゃんも、あかちゃんがんばってね〜」 紗奈ちゃんに応援してもらったおかげで、なんだか気持ちが明るくなった気がしたわたしは、紗奈ちゃんに「ありがとう、紗奈ちゃん」と紗奈ちゃんの頭を撫でた。「紗奈、こっちに来なさい! パパにジュース買ってもらいな」「うんっ!パパのとこいく〜」 紗奈ちゃんはパパのところへ行こうと走り出す。「こら!走っちゃダメよ、紗奈!」「パパ〜!」「紗奈! もう、紗奈ったら……。騒がしくて、すみません」「いえ。 可愛いですね、紗奈ちゃん。おいくつですか?」「四歳です。女の子なんですけど、とにかく活発で困るんですよ〜」「そうなんですか? でもすごく可愛いですよね」 紗奈ちゃんを見ていると子供ってやっぱりいいなって思う。 これがわたしの理想の家族像かもしれない。「ありがとうございます。 出産は初めて?」「はい。 なので、本当に不安だらけで……」「初めてはそうだよね。 うちももう三人目だけど、やっぱり毎回不安になりますよ」 そうなんだ……。三人目でも不安になるんだな。「三人目ですか? すごいですね。男の子ですか?女の子ですか?」「うちは全員、女の子なのよ。 男の子一人くらい欲しいかったんだけどね」「女の子だと、可愛いですよね。 可愛い服とか、いっぱい着させられそうですし……」 いつかは子供と一緒にリンクコーデみたいな感じにするのが、夢ではある。 そうなったらいいな。「でも女の子も女の子で、大変ですよ? 騒がしくて、言うこと聞かないのよ〜」「え、そうなんですね?」「でもやっぱり、子供は可愛いですよね。やんちゃで大変だけど、それでもやっぱり可愛いのよね〜」 そう言われたので、わたしも「だってすごく、幸せそうですもん」と思わず口にしてしまう。「そうですかね?」「はい。もう楽しそうな家族だっていうのが、目に見えて分かります」
「……ふうっ」 お腹がかなり大きくなっていたわたしは、立ち上がったりするのが大変で、産まれるまでようやく後少しという所まできた。 妊婦生活も臨月に差し掛かり、もういつ産まれてもおかしくない状況になっていた。 身体が重いし、歩くのも大変だ。 だけど、お腹の子が元気に動くのを感じて、早く産まれてきてほしいという思いが強くなっているのは、確かだった。 この子と、産まれてくる赤ちゃんに早く会いたいという気持ちが、以前よりも強くなっていき、早く対面したいと思ってる。 わたしが母親になって初めて気付いた、愛情という感情。 そして産まれてくる子に対する、この奇跡という名の宝物。 二人でたくさんその奇跡を共有したい。「もう少しだな、産まれるまで」「うん」 京介も優しく微笑みながら、元気に動くお腹の子を眺めている。「……実来」「ん?」「出産、頑張ろうな」 京介が何かと助けれてくれるから、わたしは頑張られる気がする。「うん、頑張るね」「本当に、実来のために何も出来ないのが申し訳ないくらいなんだけどな」「そんなことないよ。……不安な時に、こうやってそばにいてくれるだけで、それだけでわたしはもう安心するんだよ」 わたしがそう話したら、京介は「そうか……?」とわたしを見る。「うん。正直、今すごく不安だし。……だけど、京介がいてくれるだけで、その不安が少し和らぐからとても頼りになるよ??」「そっか。 ならよかった」「ありがとう、京介。 出産までもう少しだから、頑張るからね」「ああ、大丈夫だ。……俺がそばにいるからな」「……うん、ありがとう」 微笑むわたしに京介は優しく手を握ってくれて、寒いからとコートを掛けてくれる。「ありがとう、京介」「今日は一段と冷える。……身体に障るといけないから、中に入ろうか」「うん」 京介の家にはもうほとんど何もなくなっていた。 ベッドと冷蔵庫がぽつんと置いてあるだけで、とても殺風景になっていた。「……いよいよ明後日には、引越しだな。ここともお別れだ」「そうだね。なんだか、寂しくなるね」 もうここに来ることもなくなるのか……。と思うとなんだか寂しくなる気がする。「そうだな。 まあ今度は実来と子供と三人で暮らせるようになるし、楽しみもあるけどな」「うん、そうだね。 わたしたち、三人で暮らす新しい家だも
「お母さん、後少しだけど、よろしくね」 「はいはい。今のうちに存分、甘えておきなさい」「はーい。 じゃあお母さん、お腹空いたからご飯食べたい」「アンタって子は……よし。ご飯にしよっか。お箸持っててくれる?」「うん」 お箸をテーブルに並べて、お味噌汁の入ったお椀を並べた。 お母さんのご飯を食べられるのも、後少しなんだよね……。なんか、寂しくなるな。 恋しくなる、母の味。 わたしの母の味は、なんだろうな。 やっぱり肉じゃがと、甘い卵焼きかな。「さ、食べましょう」「「いただきます」」 お母さんと一緒に夕飯を食べるのも残り少なくなって、なんだかんだで寂しい気持ちになる。 お母さん、これから一人で寂しくないかな……?「ん、美味しい。これだよ、これ。やっぱりお母さんの肉じゃが、本当に美味しい」「ならよかった。アンタは昔から甘めが好きだもんね」「うん。お母さんの作る肉じゃが、お袋の味って感じだもん」「そっか。お袋の味か……」「うん。後ね、甘い卵焼きも」 お母さんの作る甘い卵焼きはとにかく大好き。高校の時のお弁当にも、毎日甘い卵焼きは入っていたし。 甘い卵焼きは大好きだから、食べるとほころぶ気がする。「卵焼きはいつもお砂糖たっぷり入れてるからね」「そう。その甘いヤツが極上に美味しいんだよね」「それはよかった。遊びに来たら、また作ってあげるわね」「やった。嬉しい〜。子供にも食べさせてあげたいな」「食べさせてあげなさい。 実来の料理が、いつかお袋の味になるようにね」 わたしのお袋の味か……。いつかそうなったらいいなって思う。「そうだね、頑張ろう。 料理もっと上手くなりたいから、お袋の味ってヤツを作ってみてもいいかもなあ」「頑張りなさい。母は強し、よ」「うん」 母は強し……か。 確かによくそれを聞く。 お母さんいわく、母になると精神的にも強くなるらしい。 さすがお母さん、尊敬する。「ねぇ、お母さん」「ん?」「肉じゃがとご飯、おかわりしていい?」「いいわよ。いっぱい食べるわね」「だって、美味しいんだもん」「食べすぎてあんまり太り過ぎないように、気を付けなさいよ」「うん。気を付ける」 その後はご飯をしっかりと食べた後に、お風呂に入った。 お風呂から上がると、京介からLINEが来ていた。【実来、ご飯食べたか?