「……あ、あのっ……」
「ん??」
「……ほ、本気、ですか??」
「本気だよ?? だって、それが俺が望んだ゙お礼゙だからね??」
「……で、すよね」
なんでこうなっているんだろう……。
お礼をしたいと言ったら、なぜかその日の夜、ラブホテルに来てしまっていた。
彼が放った言葉は、わたしの身体でお礼をしろってことだった。
まさかとは、思ったけど。やっぱり……。
あの時は通学途中だったため、夜また駅で待ち合わせをしようと言われた。
連絡先の書いた名刺を渡され、その番号に終わったら連絡してと言われて……。
現在(いま)に至る。
今いるのは、ラブホテルの一室。
ちょっと高級そうなラブホテルで、少しゴージャスな感じの雰囲気だった。
「……君、お酒は飲める??」
「えっ!?お酒、ですか??」
「うん。飲める??」
「は、はい。飲め、ますけど……」
「じゃあとりあえず、俺たちの出会いに乾杯しよう」
「えっ??あっ、はい……」
シャンパンの入ったグラスを渡され、お互いにグラスを合わせて乾杯した。
「ん、美味しい……」
このシャンパン、今まで飲んだ中で一番美味しい。
口当たりが爽やかというか、飲みやすい……。
「よかった。気に入ってくれた??」
「は、はい……」
なんていうか、ちょっと緊張する。
こんなオシャレな部屋でシャンパンを飲むなんて、今までしたこともなかったし。
大人な雰囲気に、なんとなく慣れなくて、ちょっと緊張する。
「……大丈夫??」
「へっ!?あっ、だ、大丈夫です……」
なんかわたし、挙動不審!?
「もしかして、緊張してる??」
「……あ、はい。少しだけ」
「大丈夫だよ。リラックスして??」
「そんなこと、言われても……」
こんな大人な方と一緒に過ごすなんて、初めてだから、緊張しちゃうよ……。
「……そういうとこ、可愛いね??」
「……えっ??」
そして彼の大きな左手は、わたしの頬にそっと触れた。
―――ドキッ
なぜだか分からないけど、すごくドキドキしてるのが自分でも分かる。
こんなにもドキドキするなんて、初めてで……。
思わず、顔を背けたくなる。
優しく撫でられた頬が、真っ赤になるのがわかって、熱を持つのもわかる。
……ど、どうしよう。
なんかもう、目を反らせない……。
「……そんなに可愛い顔されると、もう我慢出来ないんだけど??」
「えっ……??」
そう思った時にはもう、わたしは言葉を出せなくなっていた。
―――彼の唇が、深く重なったからだ。
「んっ……」
もう何も考えられなくなっていた。
気が付いた時にはもう、わたしはベッドの上に倒れ込んでいて……。
「んっ……ちょっと待ってください……」
「待たないよ?? 早く、お礼させて??」
やっぱりこの人は、有無を言わさない人だ……。
こんなにも大人な人なのに、せっかちな所は少し子供みたいで……。
なんというか……。
少しだけ、くすぐったいような気持ちになった。
―――だけど、彼に抱かれた時、わたしは間違いなく彼の腕の中で温もりを感じた。
「あっ……あ、んっ……」
彼に抱かれたのは初めてなのに、何度も抱かれているかのような気持ちになった。
お礼をしたいと言ったのはわたしなのに、こんなにも優しく、だけど情熱的に抱かれたのは初めてで、もう何も考えられなくなっていた。
「はぁっ……っ……」
時々漏れてくる、彼の甘い吐息が、わたしの理性をさらに狂わせた。
彼のことがもう好きになりそうなくらい、彼のテクニックにトリコになっていた。
さすが大人な男って感じだった。
……今まで何人の女の人を抱いたんだろうってくらい、テクニックがあって、もうわたしの理性は保てそうになかった。
「やぁっ……んっ……」
ギシギシと揺れるダブルベッドが、その二人の保てそうにない理性を物語っていた。
「んっ……もう、ダメッ……です……」
「俺ももう……ダメだ……」
ずっと優しく情熱的だった彼も、最後には理性を手放すかのように、思いっきりベッドを揺らした。
そしてそのまま、二人で暗闇の中へと堕ちていった……。
「……大丈夫??」
「はい……大丈夫です」
わたしはベッドから起き上がると、グラスに残ったままのシャンパンを一気に飲み干した。
……まだ体に染み付いている、彼の温もり。
そして彼の香水のニオイ。
あんなにも激しく、だけど情熱的に抱いてくれた人は初めてだった。
もう自分が自分じゃいられなくて、何もかも忘れそうになった。
……なんでこんなこと、思うんだろう。 ただ一度だけの関係なのに。
゙ギュッ゛
「……えっ??」
突然、後ろから抱きしめられた。
「……君とこのまま離れるのは、なんだか名残惜しいな」
そしてバックハグをしたまま、耳元で甘く優しい声でそう言った。
「……でも、お礼ならもう、終わりました……」
本当はまた彼に抱かれたい。 そう思っている自分がいる。
だけどその気持ちを隠すように、その言葉で隠した。
そんなことを思ってしまったら、わたしは彼から離れられなくなってしまいそうで。……そのことを悟られたくない。
「……でも君だって本当は、俺にもっど抱かれたい゛と思ってるんだろ??」
だけどそんなのは、すぐにウソだってバレる。
彼にわたしの心の中を、見透かされているみたいだった。
……悔しい。だけどそのとおりだ。
「……ち、違います……」
だけどそんなことを口にできる訳もなく、ウソをつく。
「……んっ!?」
だけどその言葉はすぐに、彼の唇で塞がれた。
悔しいけれど、彼も分かっている。
わたしが彼のことをもう、好きになっていることを。
そしてまた、抱いてほしいと思ってることを。
だけど彼はかなり歳上で、わたしみたいな子供になんて、相手をしてくれるとも思っていない。
だから今日だけでいいから、愛してほしいなんて、思ってしまう。
……本当は、そんなこと、望んではいけないことだとわかってても。
だけどもう止められない。
わたしはもう……。歳上の大人な彼に、心も体も、恋をしてしまっているんだ……。
結局その日、わたしは自分の理性に負けてしまい、また彼の腕の中で情熱的に抱かれた。
それは二人が限界を迎えるまで続いた。
……ああ、もう、わたしは彼に敵わない。
彼のニオイ、彼の体温、彼の言葉。
全部に溺れてしまっていた。
もう引き返すことは出来ない。
……そんなことさえ、思ってしまった。
真夜中の三時半過ぎ。
わたしは、彼の腕の中からそっと抜け出して、静かにシャワーを浴びた。彼の体温やニオイ、全部消し去るように隅々まで洗った。
もう二度と会うことはない。これっきり。
そう思うようにして、彼のことを必死で忘れようとした。
そして服を着替えて、枕元に五千円を起き、カバンを持ってそっと静かに部屋を出た。
* * *
―――それは、それからしばらくした時のことだった。夏もそろそろ終わりを迎えて、季節が移り変わろうとしていた時のことだった。いつもより体調が優れなくて、頭痛や微熱などが続いた。ただの風邪かと思ったけど、季節の変わり目ということもあり、大学終わりに、念の為病院に行った。―――そしたらそこで、衝撃的なことを言われるのだった。「麻生実来さん、診察室へどうぞ」「はい」そして診察室へ入るなり、問診票を見て、先生が1言言った。「麻生さん、あなた……生理きてる??」「えっ?? 生理……??」そう言われると……。 あれ、しばらく生理……来てない。もともと不順な方ではあったから、また遅れているだけかと思っていた。「……いえ、そういえば、来てないです」「それはいつから??」「えっと……多分、この時くらいから、ですけど……」カレンダーを指差して、一言そう言った。「……ちょっとエコーをしても、いいかしら??」「えっ??エコー……??」「―――麻生さん、あなたもしかして、妊娠してるんじゃない??」「……えっ??」妊娠……??最初、何を言っているのか分からなかった。「……生理がしばらく止まってる。しかも妊娠の症状というのは、風邪に似ていることが多いから、風邪だと勘違いする人もけっこう多いのよ」「……わたしが、妊娠??」「その様子じゃ、身に覚え、あるのね??」「…………」わたしはその言葉に何も、言えなくなった。……あの日からは彼のことを忘れてたつもりだけど、心のどっかでは、忘れられてなかった。「……さ、調べてみましょう。ここに横になって??」「あ、はい……」言われたとおり、ベッドへと横になった。そしてお腹にジェルを塗り、先生はゆっくりとエコーを当てた。―――すると。「……ほら、見える??あなたの、お腹の子よ」「……本当だ」かすかだけど、お腹の中に見えた、小さな命。やっぱりわたし、妊娠していたんだ……。先生の言うとおりだった。「妊娠ニヶ月ってところかな」「……ニヶ月」わたしは、お腹に新しい命を宿していた。……あの日結ばれた、名前も知らない大人な彼との間に出来た子供。ふと、あの日の夜のことを思い出した。 初めて彼に抱かれたあの日からずっと、わたしは彼のことが忘れられなかった。「……おめでとうございます、お母さん」「
それは、ある夏のかなり暑い日の出来事だった。 いつものように大学へ行くため、わたしは電車に乗っていた。 時間は朝8時15分、満員電車の通勤ラッシュの時間帯だった。 その日は友達と遊びに行く約束もしていたため、いつもよりも薄手の格好をしていた。 そう満員電車だから、乗れるわけもなく、通学時間40分ずっとたちっぱなしだった。 そして電車に乗り始めて10分後くらいだった。゛それに゛気付いたのは。 わたしのお尻に、サワサワと何か違和感があった。 ……これってもしかして。―――痴漢?? その予感は、的中した。 だけどこんな満員の電車の中で、声も出せる訳もなくて……。 できることならいっそのこと、今すぐその手を掴んで「この人、痴漢です!!」って口にしたい。 だけど、こんな状況で、口に出来る訳がない。 そう思った時だった。「ゔっ……!!??」「すみません‼この人、痴漢です‼」「……えっ??」 急にその手が離れて、違和感が無くなった。 振り返って後ろを見ると……。 痴漢していたおじさんの右手を掴んでいたのは、背の高いスラッと人だった。……わっ、イケメン。そして駅に着いた途端、彼はおじさんの手を掴んだまま電車から引きずりおろして、駅員さんに引き渡した。……た、助かった。 本当に怖かったし、声が出せないって辛いんだなと、改めて思ってしまった。 こういう時、ちゃんと言える人だったら、よかったのにって、思ってしまった。 わたしも急いで電車を降りて、助けてくれたあの人の所へと走った。「あっ、あの……‼」「ああ、大丈夫??」「は、はいっ‼あの……助けてくださって、ありがとうございます‼」「いや、別に」「本当に……なんてお礼をしたらいいか……‼」「気にしないで??何もなくてよかったよ」その人は、優しく微笑んでそう言った。「あ、あの……‼」「ん??」「本当に、何かお礼させてもらえませんか??」「本当に気にしなくていいから」「えっ、でも……‼」「……どうしてもお礼したいの??」「は、はいっ‼このままだと、わたしが申し訳ないので……!!」「そう??」「は、はいっ……‼その、迷惑でなければ、ですけど……」だってこんなイケメンな人に助けてもらって、お礼しないわけにはいかない。せめてお茶でもごちそうしたいくらいだ。こん
―――それは、それからしばらくした時のことだった。夏もそろそろ終わりを迎えて、季節が移り変わろうとしていた時のことだった。いつもより体調が優れなくて、頭痛や微熱などが続いた。ただの風邪かと思ったけど、季節の変わり目ということもあり、大学終わりに、念の為病院に行った。―――そしたらそこで、衝撃的なことを言われるのだった。「麻生実来さん、診察室へどうぞ」「はい」そして診察室へ入るなり、問診票を見て、先生が1言言った。「麻生さん、あなた……生理きてる??」「えっ?? 生理……??」そう言われると……。 あれ、しばらく生理……来てない。もともと不順な方ではあったから、また遅れているだけかと思っていた。「……いえ、そういえば、来てないです」「それはいつから??」「えっと……多分、この時くらいから、ですけど……」カレンダーを指差して、一言そう言った。「……ちょっとエコーをしても、いいかしら??」「えっ??エコー……??」「―――麻生さん、あなたもしかして、妊娠してるんじゃない??」「……えっ??」妊娠……??最初、何を言っているのか分からなかった。「……生理がしばらく止まってる。しかも妊娠の症状というのは、風邪に似ていることが多いから、風邪だと勘違いする人もけっこう多いのよ」「……わたしが、妊娠??」「その様子じゃ、身に覚え、あるのね??」「…………」わたしはその言葉に何も、言えなくなった。……あの日からは彼のことを忘れてたつもりだけど、心のどっかでは、忘れられてなかった。「……さ、調べてみましょう。ここに横になって??」「あ、はい……」言われたとおり、ベッドへと横になった。そしてお腹にジェルを塗り、先生はゆっくりとエコーを当てた。―――すると。「……ほら、見える??あなたの、お腹の子よ」「……本当だ」かすかだけど、お腹の中に見えた、小さな命。やっぱりわたし、妊娠していたんだ……。先生の言うとおりだった。「妊娠ニヶ月ってところかな」「……ニヶ月」わたしは、お腹に新しい命を宿していた。……あの日結ばれた、名前も知らない大人な彼との間に出来た子供。ふと、あの日の夜のことを思い出した。 初めて彼に抱かれたあの日からずっと、わたしは彼のことが忘れられなかった。「……おめでとうございます、お母さん」「
「……あ、あのっ……」「ん??」「……ほ、本気、ですか??」「本気だよ?? だって、それが俺が望んだ゙お礼゙だからね??」「……で、すよね」なんでこうなっているんだろう……。お礼をしたいと言ったら、なぜかその日の夜、ラブホテルに来てしまっていた。彼が放った言葉は、わたしの身体でお礼をしろってことだった。まさかとは、思ったけど。やっぱり……。あの時は通学途中だったため、夜また駅で待ち合わせをしようと言われた。連絡先の書いた名刺を渡され、その番号に終わったら連絡してと言われて……。現在(いま)に至る。今いるのは、ラブホテルの一室。ちょっと高級そうなラブホテルで、少しゴージャスな感じの雰囲気だった。「……君、お酒は飲める??」「えっ!?お酒、ですか??」「うん。飲める??」「は、はい。飲め、ますけど……」「じゃあとりあえず、俺たちの出会いに乾杯しよう」「えっ??あっ、はい……」シャンパンの入ったグラスを渡され、お互いにグラスを合わせて乾杯した。「ん、美味しい……」このシャンパン、今まで飲んだ中で一番美味しい。口当たりが爽やかというか、飲みやすい……。「よかった。気に入ってくれた??」「は、はい……」なんていうか、ちょっと緊張する。こんなオシャレな部屋でシャンパンを飲むなんて、今までしたこともなかったし。大人な雰囲気に、なんとなく慣れなくて、ちょっと緊張する。「……大丈夫??」「へっ!?あっ、だ、大丈夫です……」なんかわたし、挙動不審!?「もしかして、緊張してる??」「……あ、はい。少しだけ」「大丈夫だよ。リラックスして??」「そんなこと、言われても……」こんな大人な方と一緒に過ごすなんて、初めてだから、緊張しちゃうよ……。「……そういうとこ、可愛いね??」「……えっ??」そして彼の大きな左手は、わたしの頬にそっと触れた。―――ドキッなぜだか分からないけど、すごくドキドキしてるのが自分でも分かる。こんなにもドキドキするなんて、初めてで……。思わず、顔を背けたくなる。優しく撫でられた頬が、真っ赤になるのがわかって、熱を持つのもわかる。……ど、どうしよう。なんかもう、目を反らせない……。「……そんなに可愛い顔されると、もう我慢出来ないんだけど??」「えっ……??」そう思った時には
それは、ある夏のかなり暑い日の出来事だった。 いつものように大学へ行くため、わたしは電車に乗っていた。 時間は朝8時15分、満員電車の通勤ラッシュの時間帯だった。 その日は友達と遊びに行く約束もしていたため、いつもよりも薄手の格好をしていた。 そう満員電車だから、乗れるわけもなく、通学時間40分ずっとたちっぱなしだった。 そして電車に乗り始めて10分後くらいだった。゛それに゛気付いたのは。 わたしのお尻に、サワサワと何か違和感があった。 ……これってもしかして。―――痴漢?? その予感は、的中した。 だけどこんな満員の電車の中で、声も出せる訳もなくて……。 できることならいっそのこと、今すぐその手を掴んで「この人、痴漢です!!」って口にしたい。 だけど、こんな状況で、口に出来る訳がない。 そう思った時だった。「ゔっ……!!??」「すみません‼この人、痴漢です‼」「……えっ??」 急にその手が離れて、違和感が無くなった。 振り返って後ろを見ると……。 痴漢していたおじさんの右手を掴んでいたのは、背の高いスラッと人だった。……わっ、イケメン。そして駅に着いた途端、彼はおじさんの手を掴んだまま電車から引きずりおろして、駅員さんに引き渡した。……た、助かった。 本当に怖かったし、声が出せないって辛いんだなと、改めて思ってしまった。 こういう時、ちゃんと言える人だったら、よかったのにって、思ってしまった。 わたしも急いで電車を降りて、助けてくれたあの人の所へと走った。「あっ、あの……‼」「ああ、大丈夫??」「は、はいっ‼あの……助けてくださって、ありがとうございます‼」「いや、別に」「本当に……なんてお礼をしたらいいか……‼」「気にしないで??何もなくてよかったよ」その人は、優しく微笑んでそう言った。「あ、あの……‼」「ん??」「本当に、何かお礼させてもらえませんか??」「本当に気にしなくていいから」「えっ、でも……‼」「……どうしてもお礼したいの??」「は、はいっ‼このままだと、わたしが申し訳ないので……!!」「そう??」「は、はいっ……‼その、迷惑でなければ、ですけど……」だってこんなイケメンな人に助けてもらって、お礼しないわけにはいかない。せめてお茶でもごちそうしたいくらいだ。こん