第3話

直規は歯を食いしばりながら言った。「また演技してるのか？彩花ちゃんが飼っている犬が出産中で、彼女は心配で眠れないんだ。お前はどうなんだ？嫉妬心から、こんなにも待ち望んでいた子供を毒づいて呪うなんて、心はないのか？」

私はもう弁解する気力すら失っていた。「直規、私たちは離婚しましょう。妙子も離婚する。お前の弟も一緒に呼んでおけ。もし来なければ、彩花とお前たち兄弟の関係を公にするつもりだから、そうなったら誰も顔向けできなくなるよ！」

私は彩花を使って脅すと、先ほどまで激しく言い争っていた直規は、すぐに折れた。

愛しているかどうか、その違いは明らかだった。

私は自分が妊娠したことを初めて知った日を思い出した。その瞬間、真っ先に直規に知らせたかった。

彼が電話に出なかったため、彼の友人に聞いて、彼のいる場所に行った。

直規は人々と一緒に、彩花の犬の誕生日を祝っていた。

その犬はとても賢く、彩花が目配せをすると、狂ったように私に飛びかかってきた。

私は床に倒され、その瞬間、下腹部から出血していた。

それにもかかわらず、直規は私を叱った。「ポチを嫌ってるんだよ。ここに何しに来たんだ？お前が怖がらせて、誕生日パーティーを台無しにしたじゃないか！」

「私はただ、私たちに子供ができたことを伝えたかっただけよ」

私は痛みをこらえながらそう言った。彼が驚いて喜び、すぐに私を助け起こしてくれると思っていた。

しかし、実際には、彩花が一言「ポチのお腹が大きい、妊娠してるかも」と言うと、直規は喜々として彼女と一緒にペットの妊娠検査に行ってしまった。

最終的に、他の人が見かねて、私を病院に連れて行ってくれた。

その時すでに、私は手を引くべきだったのかもしれない。

そうすれば、私の子供は助かったかもしれないのに。

翌朝早く、直規と政浩は実家に戻ってきた。

彩花も一緒だった。

私と妙子は、二通の離婚協議書を差し出した。

直規は眉をひそめ、私を見ながら言った。「智美、俺たちは一緒に何年も過ごして、やっと子供ができたんだ。子供のためにも、あなたに最後のチャンスをあげるよ。彩花ちゃんに謝ってくれれば、この件はこれで終わりにする」

政浩も冷たい声で言った。「妙子、お前もだ」

二人とも彩花をかばうのを見て、私も妙子も、同じように心が疲れ果て、苦しみを感じていた。

彩花は愛嬌たっぷりに目をパチパチさせながら言った。「そうよ、私はあなたたちのような人とは違う。『ごめんなさい』の一言だけで許してあげる」

私は嘲笑しながら言った。「確かに、私たちはあなたみたいに恥知らずじゃないものね」

妙子も続けて言った。「離婚してあげるから、あんたたち3人で一緒に暮らしなさいよ。私は全然構わないから」

直規は突然怒り、私に「頭おかしい」と罵り始めた。

政浩も冷笑を浮かべた。私たちは一緒に役所に行き、離婚届を提出した。

兄弟二人は何度か迷っていたが、私と妙子が急かして、ようやくサインをさせた。

役所を出ると、私の友人が黒い服を着て外で待っていた。「行こう、智美ちゃん、妙子ちゃん。子供を葬ってあげなきゃ。長く待たせたらいけない」

私は頷き、歩き出そうとした。

その時、直規が走り寄ってきて、私の腕をつかんだ。彼の声は震えていた。「子供……本当に死んだのか？」

「お前の息子は死んでないよ。死んだのは私の息子だ。だから、悲しむ必要なんてないだろ！」

私は嫌悪感を抱きながら彼の手を振り払った。

政浩も取り乱していた。彼らは信じたくなかった。

直規は同僚に電話をかけた。

同僚は困惑した声で答えた。「今町さん、ご存じないんですか？3日前、奥さんが羊水塞栓症で大出血し、妙子が非常に頑張って彼女の命を救ったんですよ。でも、息子さんは特効薬が足りなくて、助かりませんでした」

ドサッ。

直規のスマホが地面に落ち、画面に無数の細かいひびが広がった。