Semua Bab 新妻はエリート外科医に愛されまくり: Bab 11 - Bab 20

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命を繋ぐ彼の手 5

ついつい、あれもこれもと欲張ってしまい、カートいっぱいになった食品を一度精算して、駐車場の車に戻った。ワンボックスカーの後部座席に購入した品物を置いて、まだ足りない分を買いに、もう一度建物の中に引き返す。「葉月。後はなに?」颯斗が指を絡ませて手を繋ぎながら、訊ねてきた。私は、買い忘れ防止のためのメモを開く。「ええと……」大きな吹き抜けのホールを、大型スーパーに向かって突っ切ろうとした、その時。「わあああっ!」突如、階上のフロアから、複数の悲鳴が聞こえてきた。私も颯斗もハッと息をのみ、反射的に頭上を仰ぐ。繋いだままの彼の手に、ギュッと力がこもった。休日のショッピングセンターは、たくさんの外国人買い物客で混雑している。彼らも、私たちと同じように、不安げに顔を上げていた。頭上で、なにが起きているのか。息を潜めて窺う間にも、金切り声や叫び声が続く。上のフロアがより一層騒然とする様子が伝わってきて、周りでみんながざわめき始めた。なにか不穏な、よくない事が起きている。そんな空気に触れて、緊張が込み上げてくる。「は、颯斗……」私は、無意識に彼に身を寄せた。颯斗も険しい表情だけど、すぐに私の肩を抱き寄せてくれる。その次の瞬間、パンパンパン……!と、乾いた破裂音がショッピングセンターに響き渡った。「きゃああっ!」今度は、私の周りでもたくさんの悲鳴があがった。多くの人が、床に伏せる。銃声だ!と察し、私はとっさに頭を抱え込んだ。「っ……葉月っ!」身を竦めた私に、颯斗が覆い被さる。私は固く目を閉じ、床に這いつくばって、彼の下で身体を強張らせた。心臓が、怖いくらい速く強く、ドッドッと拍動している。悲鳴と怒声が、あちらこちらから反響してくる。どこから湧き上がっているものか、もう判断もできなかった。銃声がやむと、「葉月、こっちに……!」颯斗はサッと身を起こし、強く私の手を引いた。「は、はや……」「早くっ」思わぬ銃撃事件に遭遇して怯える私を、引き摺るようにして走り出す。隠れる場所を探して、エスカレーター下の狭いスペースに、駆け込んだ。そこには、アメリカ人の老夫婦が、不安そうに身を寄せ合っていた。彼らの会話を耳にして、颯斗が英語で割って入る。奥様の方が、興奮した様子で、かなり早口に応じた。私も、その会話に、必死に耳を澄ました。老夫婦は、たった今、二階から逃げてきたようだ。男が暴れて銃を撃ったと話すの
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-12
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命を繋ぐ彼の手 6

フィラデルフィアで起きた銃撃事件では、十人の負傷者が出たものの、亡くなった人はいなかった。この事件は、日本でも大きく報道されたようだ。翌日の夜、私の母の後、颯斗のお母さんから電話をもらった。『二人とも、無事なのね!?』開口一番で、そう問われる。「ご心配、おかけしました。事件に遭遇したものの、私も颯斗も擦り傷一つありません」恐縮して答えると、義母も『よかった』とホッと息をついた。義母につられて、私も昨日の恐怖を思い出した。今、無事であることに、安堵の吐息を漏らす。その時、「ただいまー」玄関のドアが開く音が聞こえた。仕事を終えて、颯斗が帰ってきたらしい。『それはそうと……。ねえ、葉月さん。この間、姪っ子に子供が生まれたのよ』義母の声から、ついつい意識が逸れてしまう。「葉月……ん? 電話?」リビングに入ってきた颯斗が、私が電話しているのに気付いて首を傾けた。私は軽く目配せをして、『お帰りなさい』を伝える。「誰?」電話の相手を気にする彼に、スマホを手で押さえ、『お義母さん』と口だけ動かして答える。それを見て、颯斗もひょいと肩を竦めた。『もしもし? もしもし? 葉月さん、聞いてる?』私の応答が疎かになったせいか、義母がちょっと低めた声で呼びかけてくる。私は、慌てて「はいっ」と背筋を伸ばした。「ええと……おめでとうございます」なにを言われていたっけ……?頭の中で会話のログを辿ってそう繕うと、深い溜め息が返ってきた。『そうじゃなくて。私も、早く孫の顔が見たいって言いたいのよ』呆れた調子で被せられ、私の胸がドキッと跳ねる。「えっ……あの……」「葉月?」思わず口ごもった私に気付き、颯斗が怪訝そうな目を向けている。『アメリカのニュースは、不安になることばかり。だから葉月さん、早く……』「もしも~し。母さん?」義母が話している途中で、私からスマホを取り上げた。ハッとして顔を上げると、彼は私のすぐ隣で、顎を引いてバチッとウィンクをする。「ああ、そのこと。心配、ありがとう。俺も葉月も無事だよ」義母にはそう返し、私には『あっち行ってろ』と言うように、ひらひらと手を振っている。ここは颯斗に任せて、キッチンにでも退散しておこう……。首を縮めて、リビングから出ようとすると。「え? 孫……?」彼が呟くのを聞いて、条件反射で振り返った。颯斗は私に背を向けて、ガシガシと頭を掻いている。「いや、そう言われて
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彼の願い、夫婦の望み 1

語学学校も、週末に起きたショッピングセンターの銃撃事件の話題で持ちきりだった。この街に住んでいる生徒たちにとって、他人事ではない、極めて身近な事件だ。特に、銃に慣れていない日本人の怯えは色濃い。「ニュースで見たけど、現場で救護活動に協力した日本人医師って、あれ、葉月さんの旦那さんですか?」休み時間に、学君が私の席に近寄ってきた。「州立大学医学部の、Dr.各務って。そうですよね?」「えっ!? あ、ああ、うん……」こちらのニュースでは、颯斗のことも報道されたのは知ってたけど、まさかそれが私の旦那様だと気付く人がいるなんて、思ってなかった。ちょっと怯みながら返事をすると、私の隣に座っていた日本人女性、遠山恵美子(とおやま えみこ)さんが聞き拾ったようで、「え、仁科さん、あの事件の時、ショッピングセンターにいたの!?」と、ギョッとした声をあげる。遠山さんの旦那様は、フィラデルフィアにある日本企業に派遣されている社員だ。赴任してきたのはこの春で、必要に駆られて語学学校に通うようになった経緯も、わりと私と似ている。私より五つ年上の三十五歳で、四歳になる男のお子さんがいる。学君と同様に、この学校で、私がよく話す友人の一人だ。「怪我は!? って、なさそうね」返事を待たずに、私にサッと視線を下ろすだけで、確認できたようだ。ホッとしたように、胸を撫で下ろす。「怖かったねー。大丈夫?」心配してくれる彼女に、私は笑顔を返した。「怖かったけど、はや……夫が一緒だったので」素直に言ってしまってから、もしや惚気に聞こえたのでは、とハッとして口を噤む。学君には、まさにそう受け取られたようで、「夫、ねえ」と独り言ちるのが聞こえた。「まあ、無事でなにより。……でも、銃撃事件で救護活動なんて、旦那さん英雄じゃない!」遠山さんは、うんうんと頷いて同意してくれてから、いきなりテンションを変えて目をキラキラさせた。「英雄なんて……」誇らしいやら、気恥ずかしいやら。でも、あの場で私も『神の手』に見惚れたことを思い出し、思わず頬を赤くした。「そう言えば……私、前に一度見たことあるんだ。街中で、仁科さんが長身の超イケメンと歩いてるの」「えっ!?」腕組みをして話し出す遠山さんに、ギョッとして目を見開く。「あのイケメンが、英雄の旦那様なんでしょ?」「ど、どのイケメンかって聞きたいとこですけど、多分間違いなく彼です」あま
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彼の願い、夫婦の望み 2

語学学校からの帰り道、颯斗から『今夜、オペに入る』と連絡があった。心移植手術が普及しているアメリカでは、その機会は突然、そしてわりと頻繁に舞い込む。准教授の彼には、大学の講義や医学セミナーの講師など、臨床から離れた仕事もあるけど、オペが組まれていないというのは、緊急時への対応がしやすいメリットに繋がる。今日は、オペはなかったはず。九十九パーセント、心移植手術だろう。彼が勤務する大学附属病院は、ここから車で十五分ほどの位置にある。そこで今夜、颯斗が心移植手術に臨む……。私は、一度だけ、日本で見学したことがある。一分一秒を争う、緊迫感に包まれたオペ室。キビキビとした迅速なやり取り。それぞれの術者が発する研ぎ澄まされた緊張感で、室内の空気はキンと音がしそうなほど、張り詰めていた。そんな中、颯斗は堂々と執刀医を務めた。彼の、美しく繊細に動く神の手。あれから一年以上経っても、私の目に焼きついたまま離れない。オペ室の中二階にある見学ルームから、その様を見つめていた私の鼓動は騒ぎ、胸が熱くなったのを思い出す。目を閉じ、あの時の彼を網膜に浮かべるだけで、今もなお、胸のドキドキは治まらない――。「ただいまー……」誰もいないとわかっているのに、声をかけながら家に入った。ポストから抜き取ってきた郵便物を手に、リビングのソファにドスッと腰を下ろす。今夜は一人だし、夕飯は適当でいい。なににしようかな、と考えながら郵便物を改め、私はギクッと手を震わせた。颯斗宛の英語の封書がほとんどの中、日本語の病院名が印刷された封筒。宛名は英語だけど、私宛。この間の人間ドッグの結果だ。私は、逸る気持ちを抑えて封を開けた。検査の結果と、封緘された白い封筒が出てくる。『Medical referral letter』。日本語で、『患者紹介状』――。問診を担当してくれた女性ドクターから、英文紹介状を書いてくれると聞いていた。これが同封されているからには、間違いない。アメリカで受診すべき所見があったということだ。私は、重い心拍を伴って騒ぎ出す胸に手を当て、検査結果に目を落とした。コンピューターで分析された確定診断は、検査後、口頭で受けた内容とほぼ変わらない。紹介状を手にした私は、焦燥感に駆られた。「妊娠しにくい体質……その疑いが、色濃いってことよね」独り言ちると同時に、私の手から検査結果の紙がひらりと落ちた。目の前が
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彼の願い、夫婦の望み 3

颯斗が執刀した心移植手術は、十二時間に及んだ。翌、昼過ぎのニュースで、その成功が報じられた。なんとか聞き拾ったところによると、心臓だけじゃなく、肝臓、腎臓の移植も同時に行うという、なんとも難しい大手術だったそうだ。夕刻になって帰宅した颯斗も、さすがに疲れた顔をしていた。「お帰りなさい、お疲れ様」ちょっとやつれた彼から、コートと鞄を受け取りながら労う。「サンキュ」と笑った彼の目が、大きなテレビモニターに向けられた。「……なに見てんの」やや咎めるように降りてきた視線に、私はふふっと目を細める。「颯斗が緊急手術してると思ったら、また観てみたくなって」テレビに再生されているのは、DVDの映像。まだ日本にいた頃に撮影した、彼が出演している医療ドキュメンタリー番組だ。番組のプロデューサーが送ってくれた完パケを、私はこうして時々引っ張り出して、繰り返し観ている。「何度観ても、颯斗のオペシーンはいいね」私の言葉に、颯斗はやや呆れ顔。「よく言うよ。実際に撮影した時は、『生のオペは怖い』って、隅に隠れてたくせに」「う」鋭く尖った指摘の前で、言葉を詰まらせる私をクスッと笑うと、リモコンを取り上げてDVDを停止させた。「あ。なんで消しちゃうの」「テレビの俺、恥ずかしいから。やけに神聖に美化して編集されてて」照れ隠しなのか、素っ気なく言うけど、目の下がわずかに赤く染まっている。日本でもアメリカでも認められた超エリート心臓外科医なのに、偉ぶったところのない彼に、私は無意識に微笑んでいた。「なら、いいもん。颯斗がいない時、一人で観るし……」そう言いながら、テレビの方に歩いた。ブルーレイデッキを操作して、中からDVDを取り出す。大事にケースに収める私に、颯斗が「葉月」と呼びかけてきた。「ん?」床にペタンと座った格好で、振り返る。彼は少し乱れた髪を掻き上げ、一度私から目を逸らした後、思い切った様子で口を開いた。「メグ……やっぱりだって」「え?」簡潔すぎる言葉の意味がわからず、私は反射的に聞き返した。だけどすぐに思い当たり、ハッと息をのむ。「妊娠、三ヵ月。来年の春には生まれる」私の思考が働くのを見透かしたのか、颯斗が説明を続けた。私がどんな反応をしても見逃すまいというように、黒い澄んだ瞳を揺らすことなく見つめている。私は、ゴクリと唾を飲んだ。「そ、そっか」なんとか第一声を返したものの、何故だか喉に貼り
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彼の願い、夫婦の望み 4

フィラデルフィアで生活する間、病院を探す必然に駆られるとは、思ってもいなかった。だけど、こればっかりは、颯斗の病院には行けない。風邪とか胃痛とか、一回かかって薬をもらって、それで終わりの病院じゃない。せめて、ストレスなく診察を受けたい……。私は、インターネットで日本語を話せる医師がいる病院を探してみた。だけど、情報は乏しく、ヒットしない。学校で遠山さんにも心当たりがないか聞いてみたけど、彼女が知っているのは小児科だった。結局、このフィラデルフィアで、私が颯斗の次に頼れるのはメグさんだ。その翌週。十一月に入ってすぐ、私はメグさんを訪ねた。彼女は、結婚した後も、レイさんの個人秘書を続けている。『会いに行っていいですか』と電話をすると、お昼休憩時に病院に来るように言われた。家の近くからバスを乗り継ぎ、ちょうど正午を回ったタイミングで病院に到着した。颯斗の勤務先、州立大学医学部附属病院――。診療科を十五に細分化し、大学医学部と連携して、より特化した病態研究が進められている。世界でも最先端、最高峰の医療技術を誇る大学病院だ。診療科ごとに建物が分かれているため、敷地は広大。案内板に従って、方向感覚を働かせて進まないと、すぐに途方に暮れることになる。私が目指す心臓外科病棟は、比較的正門の近くにある。私はゆっくり歩きながら、メグさんに連絡した。心臓外科病棟の受付で顔を合わせた途端、「ハヅキ、お待たせ。ランチ、まだでしょう? よかったら、食堂に行かない?」メグさんは、開口一番でランチに誘ってくれた。「あ……」それを聞いて、私は両手に提げていた紙バッグをそっと持ち上げた。「ごめんなさい。今日は朝からいいお天気だから、中庭で食べられないかなって。サンドウィッチ、大量に作ってきちゃって……」ここの中庭は、緑に溢れていて心地よい。この季節は、車椅子を押してもらって、紅葉を楽しむ患者さんの姿も多く見られる。患者さんのみならず、医療スタッフにとっても、のんびりと心が洗われる憩いの場。私も、密かに気に入っている。「あら! ピクニックみたいでいいわね」メグさんも、目を輝かせてポンと手を打った。「よかった」余計なことをしてしまったかと、少し肩を竦めた私も、ホッと胸を撫で下ろす。「ほんと、随分たくさんね」紙バッグの中をひょいと覗き込んだ彼女が、目を丸くした。「あ。颯斗とレイさんにも、置いていこうかと思っ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-12
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彼の願い、夫婦の望み 5

それからほんの数分で、ブルーのスクラブに白衣を羽織った颯斗とレイさんが受付に降りてきた。レイさんは明るく「やあ、ハヅキ!」と笑ってくれたけれど、颯斗の方は驚いた様子でギョッとした目をしている。当たり前だ。そもそも彼に用があったわけじゃないし、今日ここに来ることは一言も話していない。「えっと……ごめんなさい。突然で」私は、恐縮し切って謝った。「いや、構わないけど……どうしたの?」颯斗はさらりとした前髪を掻き上げ、首を傾げて訊ねてくる。「私に会いに来てくれたんだけど、サンドウィッチ作ってきてくれたって。二人の分もあるって言うから、それならダブルデートしようって提案したのよ」メグさんはにこやかに説明してから、レイさんの腕を取った。「行きましょ」なんとも自然に寄り添い、二人で先に立って、建物の外に出て行く。二人にとって、ここはオフィスなのに、特に周りの目を憚る様子はない。休憩時間だからかな。オンオフがはっきりしていて、カッコいいやら目が点やら……。呆気に取られて見送る私の隣で、颯斗がふうっと息をついた。「休憩中とはいえ、ダブルデートねえ……」やっぱり、同じ日本人だから、颯斗の感覚でも呆れ所のようで。苦笑する彼に、私も眉尻を下げて同意する。「でも、『ダブルデート』じゃなく、四人でランチするだけだと思えば」「まあね。今日は暖かいから、いい気分転換ができそうかな」彼もやや目元を和らげ、納得するように頷いた。そして。「俺たちも行こうか、葉月。それ、持つよ」ニコッと笑って、私に手を差し伸べてくれた。
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彼の願い、夫婦の望み 6

心臓外科病棟を背にした、お洒落な青銅のアームのベンチに、四人並んで腰かける。前を向くと、色付き始めの落葉樹と、季節の花が植えられた花壇が、視界いっぱいに広がる。その間を縫うように敷かれた遊歩道を、のんびりと散歩する患者さんの姿が、あちらこちらで見受けられた。私は、マグボトルに入れて持ってきたコーヒーを紙コップに注ぎ、颯斗とレイさんに振る舞った。メグさんには、レモンと蜂蜜で作ったジュースを渡す。「あら……。もう颯斗から聞いた?」彼女は、私がなにを気遣ったか見透かした様子で、クスクス笑った。「はい。ご懐妊おめでとうございます。あの……カフェインはよくないと聞いたので、なにならいいか、悩みに悩んで……」私がはにかんで返すと、「ありがとう」と目を細める。「さすがハヅキ。気が利くわね」彼女の向こう隣では、レイさんが早速、卵とチーズのサンドウィッチを頬張っている。「Delicious!」と感嘆する声が聞こえてきた。その横で、颯斗も大きく口を開けて、パストラミサンドに齧りついている。英語の会話が耳を掠める。二人とも、のんびりと楽しそうだ。彼らを横目に、私は小さな声でメグさんに呼びかけた。「あの……三ヵ月って聞きましたけど、つわりとか大丈夫なんですか? この間、ご招待した時も……」彼女は、「ああ」と苦笑気味に目尻を下げた。「それがね。個人差でしょうけど、全然大丈夫なのよ。食欲も減らないし」「ハヅキ」私たちの会話を聞き留めたのか、レイさんがひょいと顔を覗かせる。「キミからも、言ってやってくれ。元気な妊婦で、ボクとしても安心なんだが、なにせ食べ過ぎなんでね」やや口をへの字に曲げる彼に、メグさんが「あら!」と憤慨する。「今は、赤ちゃんに栄養持っていかれる時期だもの。この後、気をつければ大丈夫よ」「いやいや……早い段階から育ちすぎて、キミの身体に負担だって言いたいんだよ。医師の妻が健康管理を誤って、大早産なんてことになったら、笑えない」二人のやり取りを聞いて、颯斗が口元に手を遣り、くっくっとくぐもった笑い声を漏らした。「もうっ。ハヤトまで」メグさんから矛先を向けられ、小さく肩を竦める。「俺、なにも言ってないけど」「あなたのその黒い目は、口ほどに物を言うのよ」言われた彼は、「なんだそりゃ」と眉尻をハの字に下げた。「……ねえ。ハヤトたちは?」メグさんがやや声を潜め、遠慮がちに探ってきた。この会
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夫には内緒の決意 1

余るかと思っていた大量のサンドウィッチは、あっという間になくなった。「ご馳走様、ハヅキ」「あ~、和んだな」颯斗とレイさんは、三十分ほどランチを楽しんで、先に医局に戻って行った。二人の白衣の広い背中が、病棟に消えて行くまで見送って、「ハヅキ」メグさんが、呼びかけてきた。やや改まった声色に、私は反射的にギクッとする。「私もレイも気遣いが足りず、ごめんなさい」「い、いえいえ!」繰り返される謝罪に、顔の前で手を振って答えた。「私たちの方こそ、お二人の喜びに水を差すようなことを……」「ハヅキ。今は望まない理由は、本当にあれだけ?」そう訊ねられ、私は言葉をのんだ。手元に目を伏せ、ゴクリと喉を鳴らす。そして、一度かぶりを振った。「実は今日お訪ねしたのは、ご相談したいことがあって……」言葉を選びながら切り出すと、メグさんが唇を結んで頷いてくれる。「ごめんなさい。そうよね。私に用があって、来てくれたのよね。……それで?」私は少し腰を浮かせて、彼女の方に身体を向けて座り直し、肩に力を込めた。「病院……知りませんか」「え?」「できれば、日本語で診察してくれるドクターを探してるんです」私の質問に虚を衝かれた様子で、メグさんはきょとんと目を丸くした。「日本人ドクターがいる病院なら……」人差し指を立てて、『ここ』というジェスチャーで返す。それに私はかぶりを振った。「ここでは、ダメなんです。颯斗がいては……」私の反応に、彼女は険しい表情を浮かべて、眉根を寄せる。「ハヤトに内緒で、通院するってこと?」やや咎めるような口調の前で、私もグッと詰まる。「ハヅキ……間違ってたら、ごめんなさい。探してるのは、産婦人科?」鋭く見抜いた質問に、奥歯を噛んだ。だけど……。「……はい」「ハヤトはまだ子供は考えないって言って、でもハヅキは産婦人科って……」メグさんは、すべてを察したようだ。困惑したように瞳を揺らし、私を見つめてくる。「私……先日日本で健診を受けたんです。その時、妊娠しにくい体質の可能性があるって言われて……」私はたどたどしく言って、ぎこちなく笑った。「受診勧められて、紹介状を書いてもらいました。でも、不妊症なんて確定診断されたら、って思うと怖くて」メグさんは、大きく目を見開いたまま、呆然としている。「治療には時間とお金がかかる。いろいろ……辛い検査や治療もあるって聞くし、そんなことしてまで欲しがるもの
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-12
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夫には内緒の決意 2

その日は業務が落ち着いていたようで、颯斗も午後八時には帰ってきた。いつもは、早くても午後九時を過ぎるのが普通。今日は随分と早い帰宅だ。先にお風呂を終えた彼が、濡れ髪にラフな部屋着スタイルでダイニングテーブルにつく。私は食事を済ませていたけど、お茶を淹れて向かいに座った。「いただきます」颯斗が、丁寧に手を合わせた。「あ、葉月。今日、ランチありがとうな。すっげー美味かった」箸を手に取って、そう続ける。「ううん。仕事の邪魔にならなかった?」予想外のピクニックランチを思い出し、私は横の髪を耳にかけながら苦笑いをした。「なんで」と、彼がすぐに返してくる。「最愛の奥さんの手作りランチ。嬉しくない男がどこにいる」「さ、最愛って……」歯に衣着せないストレートな言い回しに、私の頬は火を噴く勢いで真っ赤に染まった。赤味噌のなめこ汁に舌鼓を打っていた颯斗は、お椀からふっと目線を上げ、私を正面から見据えてきょとんと目を丸くした。そして、「葉月、真っ赤」やや意地悪に、ニヤリと笑う。「颯斗はなんで、照れもせずにはっきり言えるの」「本当のことだからかな。心のままに言って、なにが悪い」しれっと言って、お椀をテーブルに置いた。左手に白米の茶碗を持って、小鉢のほうれん草の胡麻和えに箸をつける。「もう……」この照れ臭い会話の流れを変えようとして、何気なく彼の左手を見遣った。「そ、そうだ。颯斗」話題を見つけて、ポンと手を打つ。「そのご飯、お義母さんが送ってくれたっていう、今年の新米」颯斗も「ん?」と反応して、目線を落とした。「ああ。もう届いたか」「うん。昨日。お礼の電話はしたんだけど、こっちからも、なにかお返しした方がいいかなって思って」テーブルに両腕をのせて、軽く身を乗り出す。「う~ん」と思案するような、間延びした声が返ってきた。「こっちの名物と言えば、フィリーチーズステーキ」彼が即答したのは、『ステーキ』という名称ながら、ここフィラデルフィアで人気のホットサンドだ。薄切りの牛肉と玉ねぎを炒めた物をロールパンに詰め、溶かした熱々のチーズをたっぷりかけたファストフード。お店はたくさんあって、店ごとに味も違ったりして、いろいろ食べ比べるのも楽しいけれど……。「……どうやって送るのよ」「肉だし、無理だね。そもそも、関税法でアウトだ」私のツッコミに、颯斗も真顔で同意する。なんとなく目線を合わせて、どちらからとも
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