颯斗が私を抱え上げ、目の前にあった外来棟に運び込んでくれた。「貧血……でしょうか。特に身体症状は認められませんが、一応、点滴打っておきますか?」診療時間外で診察に当たってくれた内科医の前に、メグさんがサッと足を踏み出した。「いえ。ええと……ハヤト、レイも。ちょっと出ていてくれる?」彼女が、男二人に退室を促した理由は、もちろん、私が不妊治療薬を内服しているのを知っているからだろう。不審げにこちらを見遣る颯斗が出ていくのを見送って、肩を動かして息をする。狭い診察室で三人になると、メグさんは流暢な英語で内科医に切り出した。私も、必死に聞き拾う。もちろん、想像した通りだ。彼女は、私が内科医に言えなかった内服中の薬について話した上で、この症状が副作用ではないか、と訊ねてくれたのだ。内科医は、眉間に皺を寄せて、一度だけ頷いた。「私は産婦人科の治療には明るくないですが、カガミさんが内服されているのは、確かに強い薬です。たとえば、実際の身体状況に比べて服用量が多いとなれば、副作用の方が強く現れてしまう。薬によるメリットを、デメリットが越えます」それを聞いて、私はグッと唇を噛んだ。今、私は、一番低容量で処方されている。さらに減らして飲むべきなのか、それとも内服自体を中断すべきなのか。だけど、せっかく始まった治療なのに。これをやめたら、私は――。家までの帰路で、颯斗はなにも言わなかった。リビングに入ると同時に、「葉月」と呼びかけてくる。なにか言いたい空気を察して、私は明るく声を張った。「ごめんね。せっかくイルミネーションに呼んでくれたのに。体調崩しちゃうなんて」先手を打った私に、彼はグッと言葉に詰まった。「ただの貧血だって。だから、大丈夫。心配しないで」寝室に向かう私を、目で追って。「葉月。メグはなにを知ってるんだ?」背中に向かって、そう訊ねてくる。それには、私もビクッとして足を止めた。「なに? 夫の俺には、話せないようなこと?」それが、なにか大きな病気に繋がると思っているんだろう。颯斗が、切羽詰まった口調で、問い詰めてくる。『もしもどうしようもなくなったら……ちゃんとハヤトに話すこと』初めて話した時のメグさんの忠告が、胸を過ぎった。きっと今日も、彼女は私にそう言いたかったに違いない。それでも、まだ……。私はまだ、諦めたくない。「お願い。心配しないで」懇願で返す私に、彼も返す言葉を失
Terakhir Diperbarui : 2025-03-13 Baca selengkapnya