Semua Bab 新妻はエリート外科医に愛されまくり: Bab 31 - Bab 40

44 Bab

授かりものの難しさ 2

颯斗が私を抱え上げ、目の前にあった外来棟に運び込んでくれた。「貧血……でしょうか。特に身体症状は認められませんが、一応、点滴打っておきますか?」診療時間外で診察に当たってくれた内科医の前に、メグさんがサッと足を踏み出した。「いえ。ええと……ハヤト、レイも。ちょっと出ていてくれる?」彼女が、男二人に退室を促した理由は、もちろん、私が不妊治療薬を内服しているのを知っているからだろう。不審げにこちらを見遣る颯斗が出ていくのを見送って、肩を動かして息をする。狭い診察室で三人になると、メグさんは流暢な英語で内科医に切り出した。私も、必死に聞き拾う。もちろん、想像した通りだ。彼女は、私が内科医に言えなかった内服中の薬について話した上で、この症状が副作用ではないか、と訊ねてくれたのだ。内科医は、眉間に皺を寄せて、一度だけ頷いた。「私は産婦人科の治療には明るくないですが、カガミさんが内服されているのは、確かに強い薬です。たとえば、実際の身体状況に比べて服用量が多いとなれば、副作用の方が強く現れてしまう。薬によるメリットを、デメリットが越えます」それを聞いて、私はグッと唇を噛んだ。今、私は、一番低容量で処方されている。さらに減らして飲むべきなのか、それとも内服自体を中断すべきなのか。だけど、せっかく始まった治療なのに。これをやめたら、私は――。家までの帰路で、颯斗はなにも言わなかった。リビングに入ると同時に、「葉月」と呼びかけてくる。なにか言いたい空気を察して、私は明るく声を張った。「ごめんね。せっかくイルミネーションに呼んでくれたのに。体調崩しちゃうなんて」先手を打った私に、彼はグッと言葉に詰まった。「ただの貧血だって。だから、大丈夫。心配しないで」寝室に向かう私を、目で追って。「葉月。メグはなにを知ってるんだ?」背中に向かって、そう訊ねてくる。それには、私もビクッとして足を止めた。「なに? 夫の俺には、話せないようなこと?」それが、なにか大きな病気に繋がると思っているんだろう。颯斗が、切羽詰まった口調で、問い詰めてくる。『もしもどうしようもなくなったら……ちゃんとハヤトに話すこと』初めて話した時のメグさんの忠告が、胸を過ぎった。きっと今日も、彼女は私にそう言いたかったに違いない。それでも、まだ……。私はまだ、諦めたくない。「お願い。心配しないで」懇願で返す私に、彼も返す言葉を失
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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授かりものの難しさ 3

翌日、私は語学学校を休んで、レディースクリニックに駆け込んだ。突然のことで、予約が取れなかった。ジリジリしながら順番を待つ。二時間近く経って、ようやく名前を呼ばれた。診察室で向き合うや否や、私は息を切らす勢いで、副作用の報告をした。ドクターは、神妙な顔で頷いた後――。「薬を半錠にして、継続してみましょう。ただ、副作用は軽減できるかと思いますが、効果の方も薄れることをご承知おきください」私が予想していた通り、内服量の変更を決めた。重い気分でクリニックを出た時には、もうお昼をとっくに回っていた。頭の中で、いろんな感情や思考がグルグルしている。アメリカの薬だから、日本人の私には効き目が強すぎるんじゃないか、とか。日本だったら、もっと他に、日本人に合った治療法があるんじゃないか、とか。いや、アメリカでも、私の語学力が上達すれば、ちゃんと理解を深めた上で、立ち向かえるんじゃないか、とか……。――そうだ、学校。私は、腕時計に目を落とした。今から行けば、最後の授業には間に合う。だけど、塞いだ心が邪魔をする。学校に行くための電車の駅に、足が向かない……。結局私は、家に戻る電車に乗った。座席は空いているのに、腰かけることもせず、窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めた。最寄駅まで、乗車時間は十五分ほど。改札でICカードをタッチして、駅舎を出た。フィラデルフィアの中心部にも近い、大きな住宅街で、駅付近に小学校がある。下校時間に被ったのか、帰宅途中の子供を見かけた。すぐ横を、男の子が駆け抜けていく。その子の後を追って、ちょっと小さな女の子が続いて通り過ぎる。私は、なんとなく足を止めて、二人を振り返った。昼間の大通りに響く、明るいはしゃぎ声……。私はその場にボーッと突っ立ったまま、彼らに幼い頃の自分を重ねた。大人になれば、当たり前に結婚するものだと思っていた。結婚したら子供ができて、私もママになる。それが人間にとっての普通で、私にももれなく訪れる未来だと信じて、疑いもしなかった。そして今、私は幸せな結婚をすることはできた。なのに、子供を授かるには、準備に時間をかけることになって、苦しんでいる。最愛の旦那様に、一言も言えないまま――。『夫の俺には、話せないようなこと?』颯斗も、隠し事がなにか言えない私を、不審に思っている。なのに、無理矢理聞き出そうとしないのは、私が自ら話すのを待ってくれているか
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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授かりものの難しさ 4

颯斗は、その夜遅く帰ってきた。ちょうどお風呂から上がったところで気付き、私はひょいと寝室に顔を覗かせた。「お帰りなさい」クローゼットの前に立っていた彼が、「ただいま」と答えてくれた。私も、彼の着替えを用意しようと、そっと中に入る。「葉月。俺、明日からしばらく泊まり込む」身を屈めてチェストの引き出しを開けた私に、颯斗がそう告げた。クリスマスイブに、浩太君のオペはがあるのは知っている。それ以外にも、これからの一週間でもう一つオペのスケジュールが入っていた。想定内の不在だ。私は、「うん」と言いながら背を起こした。「親父たち、二十六日に一泊したいって。俺もその日は帰宅できるよう調整するけど。葉月、本当に任せて大丈夫……」颯斗が、言葉の途中で私に顔を向けた。そして、「おいっ」大きく目を瞠って、私の顔を覗き込んでくる。「どうした? これ。この擦り傷」両手で私の頬を挟み込み、血相を変えて顔を近付けた。「あ、ええと……。学校の帰り、ぼんやりしてて転んじゃって」私は、ぎこちなく笑って誤魔化した。彼の、射貫くような黒い瞳から逃げる。「転んだ? どこで」「そ、外で」「顔擦り剥くほど、激しくすっ転んだのか?」「ねー……。私、ほんとドジで」はは、と乾いた笑い声をあげる私に、颯斗は不審げに、じっとりした目を向けたまま。「女なのに、顔に傷こさえて。痕が残ったらどうするんだ」はあっ、と声に出して深い息を吐いた。「掠り傷だよ。嫁入り前でもないんだし。大袈裟な」「大袈裟なもんか。葉月。昨夜のことといい、やっぱりおかしい。どこか身体の調子悪いんじゃないか?」腕組みをして上目遣いに見据えられ、私も反射的に怯む。「そういや、この間、診察英語教えろなんて言ったのも……」「違う。ほんと」慌てて言葉を挟んだ。疑わしげな彼から顔を背け、宙に目を彷徨わせる。「……葉月」「ごめんね。これからはいろいろ気をつける。……はい、これ」私は笑って、彼に新しい寝巻きを手渡した。「お風呂、ごゆっくりどうぞ」それだけ言って、寝室から退散した。
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授かりものの難しさ 5

クリスマスイブの夜遅く、颯斗から電話があって、浩太君のオペが無事成功したことを聞いた。難しいオペだったけど、予定通り五時間で終了したそうだ。当初は、術後、容体が安定すれば、クリスマスは帰れるかも、と言っていたけど、二十六日の夜には、義父母を迎える用がある。それもあって、泊まり込みを決めたようだ。『ごめん……』という一言を聞いて、私はメグさんをお誘いすることにした。クリスマスに旦那様が仕事で不在なのは、メグさんも一緒。女二人でプチパーティーをしないかと告げると、彼女も二つ返事で乗ってきた。「いつも悪いわね、ハヅキ。でも大丈夫? 明日、ハヤトのご両親がいらっしゃるんでしょ?」彼女は妊婦、私は服薬中。ということで、地味にミネラルウォーターで乾杯した後、メグさんが気遣ってくれた。それには、私も苦笑で返す。「おもてなしの、いい予行演習になるかなーって」「あら。私は事前の練習台ってこと?」メグさんは悪戯っぽく瞳を動かした後、グラスを置いた。そして、やや改まった様子で背筋を伸ばす。「ハヅキ。先週の……どう?」探るように問いかけられて、私は一瞬ギクリと手を震わせた。フォークをテーブルに戻し、姿勢を正して向き合う。「薬の量を減らして、治療継続することになりました」私の返事を聞いて、彼女は眉を曇らせた。きっと、副作用は軽くなるけど、効果が減ることも察したのだろう。「ハヅキ、それでいいの?」わずかに眉根を寄せる彼女に、私は一度逡巡してから、小さく頷いた。「でも、今週の内服は見送ること、ドクターに相談しました。半錠とはいえ、また体調崩すかもしれない。義父母が来るのに、安定しないんじゃ困るので」メグさんは何度か首を縦に振って、同意を示してくれた。そして。「昨日、ハヤトに聞かれたわ。ハヅキのこと、なにか聞いてるなら教えてくれないかって」「えっ……」私は、手元に伏せた目線を上げて、聞き返す。彼女は首を傾けて、ゆっくりフォークを手に取った。「愛しい妻が『貧血』で倒れるわ、帰ってきたら顔に傷作ってたなんて。そりゃあ、夫としては心配するわよ。私はハヅキと約束したし、言わなかったけど。……さすがに、心が痛いわ」内緒にしている私を咎めるような口調。私は、きゅっと唇を噛んだ。「それは……私も、悩んでます。かえって心配かけるくらいなら、言ってしまった方がいいのかも、って……」そう言って目線を揺らすと、メグさん
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授かりものの難しさ 6

翌日、私は義父母を迎えに、フィラデルフィア駅に赴いた。この間の美奈ちゃんと木山先生と同様、直行便でニューヨークに来て、滞在後にこちらに移動する、という旅程。午前中に落ち合って、そのまま市内観光に案内するつもりでいた。今日は、ちょっと天気が悪い。朝から曇天の空を気にして、日中は雨が降りませんように、と祈っていた時。「葉月さ~ん」ホームから出てきた義母が、大きく手を振ってくれた。私もすぐにその方向に走る。「お義母さん! 遠いところを、ようこそ」ちょっと緊張しながら挨拶をすると、彼女はニコニコと笑った。「颯斗が休めないのに、申し訳ないわね、葉月さん」そんな言葉を交わしていると、義父が追いついてきた。「こんにちは、葉月さん」「お義父さん。お待ちしてました」義母と比べると、落ち着き払った印象が強い。背が高くて、物静かな紳士。将来颯斗もこんな風に歳を取るのかな、いや、違う?と、私はいつも重ね合わせてしまう。「ええと……颯斗、夕食には帰って来れるんです。それまで、私一人で申し訳ないですが、市内観光、ご案内しますね」そう言いながら、義母のスーツケースを預かった。「あら、ありがとう。葉月さん」颯斗は、留学期間も含めると、フィラデルフィア生活が結構長い。だけど、義父母が来るのは初めてだそうだ。見知らぬ街に繰り出すことに、ワクワクしているのがわかる。よ~し、頑張らないと……!駅舎を出て、タクシーに乗り込んだ。後部座席の義父母は、空港を離れて市内に向かうタクシーの車窓を、楽し気に眺めている。助手席に座った私は、バックミラー越しにそれを見留めて、まず一つ関門をクリアした気分で息を吐いた。一度家に寄って、義父母の荷物を置いた。身軽になってから向かった先は、フィラデルフィア美術館だ。事前に颯斗から情報を得ていたし、タクシーの中でも、『美術館や博物館を巡りたい』という、二人の希望を聞いていた。「嬉しいわ~。ロッキーと写真撮りたかったのよ」この美術館は、世界的なヒット映画のヒーロー像があることでも有名。記念撮影をする人たちで、行列ができるくらい。私たちも、撮影待ちの列に並んだ。銅像を挟んで立つ義父母に声をかけ、シャッターを切った。その後訪れたのは、ロダン美術館。ここには、『考える人』の銅像がある。そして私は、予想に違わずシャッター係。今日一日の自分の役割を、再確認した。次は、バーンズコレクションに
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授かりものの難しさ 7

タクシーで移動する間も雨脚は強まり続け、家に着いた時には、本降りになっていた。門から玄関まで走る間に雨に打たれ、玄関先に立った義父母の髪も濡れてしまっている。「すぐに、タオル持ってきますね」私は急いでバスルームに向かった。タオルを二枚持って、玄関に引き返す。「ありがとう」と、早速濡れた髪や服を拭う二人を、リビングに招いた。ソファを勧めて、時間を確認する。午後六時。颯斗は、七時には帰って来れるはず。夕食は彼の帰りを待つから、今のうちにお風呂を勧めた方がいいかもしれない――。「あのっ。ちょっと早いですけど、お風呂用意しますね」バスルームに走り、浴槽にお湯を張って、新しいタオルを数組用意する。「よし」と、誰にともなく頷いて、私は再びリビングに戻った。ドア口から、声をかけようとして……。「葉月さん。子供を考える気、ないのかしら」義母の声が聞こえて、私はギクッとして足を止めた。「そんなことないだろう。勝手な憶測で、ものを言うんじゃないよ」義父が、溜め息混じりに窘めている。「でも」と、義母が反論を返した。「葉月さん、子供の話題になるとはぐらかすじゃない。電話でもそうよ。いつも」不満げな声に、私はその場で凍りついた。「颯斗は、銃撃事件に遭ったばかりだから、そっとしておいてくれって言うけど。原因はわかってるんだし、カウンセリングに通ったりするべきなんじゃ」「………」義父も、義母の口調に口を噤んだ。「ちゃんと説明してもらった方がいいかしら。いつになったら、考えるのかって」「説明って。それは……」「聞いておいた方が、こちらだって安心よ。颯斗の親として納得してないことも伝えられるし。それでもし、もしもよ。葉月さんが子供を望んでいないようなら……」「おい、やめないか。葉月さんが戻ってきたら……」まさに私を気にして、義父がふっと振り返った。ドアの前で立ち尽くす私に気付き、大きく息をのむ。「葉月さん……」「え?」義父の声で、義母もハッとしたようにこちらに顔を向けた。そして、『あ』と口に手を当てる。「葉月さん、今の話……」ぎこちない声が、尻すぼんでいく。私もその場から動けず、なんとも気まずい空気が過ぎった。義父母にきまり悪そうな顔をさせているのは私だから、嫁として居た堪れない。「お二人のご不満を察せず、申し訳ありませんでした」私は、自ら沈黙を破った。意を決して、二人の前まで歩いていく。「お義母さ
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授かりものの難しさ 8

頭の中は真っ白。目の前は、真っ暗。光のないブラックホールのような空から、大粒の雨が降りしきる。傘も持たず、コートも着ずに出てきてしまった。だけど、義父母に向ける顔がなくて戻れないまま、雨の街を彷徨い――。辿り着いたのは、颯斗の病院だった。クリスマスは過ぎたけど、外来棟前のイルミネーションはそのまま。ずぶ濡れで惨めな私を、寂しく照らし出してくれる。寒い……。無意識に暖を取ろうとして、二の腕を摩った。冷たい雨に濡れてかじかむ身体には、なんの効果もない。意思に関係なく、カタカタと小刻みに震える自分を抱きしめ、病棟を見上げた。颯斗……もう家に帰ってるかな。帰ったらきっと、義父母から話を聞くだろう。その時彼は、どんな顔をする……?驚愕して、凍りつく。辛そうに強張る瞬間を見なくて済むことが、今、せめてもの救いの気がして、ほんのちょっと胸が軽くなる。――ううん、違う。違う、こんな形じゃ……。ちゃんと、私から言わなきゃいけなかったのに。人づてに知るなんて、傷つけるに決まってる。妻の私が、一番しちゃいけないことだった。今、強く確信できるのに、言えなかった自分が情けない。歯痒くて、颯斗に申し訳なくて、消えてしまいたくなる。「ごめん……颯斗。ごめんなさい……」彼への謝罪は、まるでうわ言のように、何度も口を突いて出てくる。一言言うごとに、強い罪悪感が積もっていって、立っていられない。私は、その場に頽れた。土砂降りの雨が、容赦なく私の身を打つ。地面にペタンと座り込み、喉を仰け反らせて空を仰ぐ。すべての雨が、私目掛けて降り注いでいるような錯覚を覚える。天からも、責められているような気がした。「っ……」堪らず、嗚咽が漏れた。目から溢れる涙に、唯一の温もりを感じる。「ふっ……ううっ」涙は雨が隠してくれるけど、お腹の底からせり上がる声は、抑え切れない。地面に両手を突いてこうべを垂れ、肩を震わせた、その時。「葉月……っ!!」水溜りを踏む足音と共に、名を呼ぶ声が聞こえた。「葉月、ここに来てたのか……」条件反射でビクッと身を竦めてから、そろそろと顔を上げると、血相を変えてこちらに駆けてくる颯斗の姿が、視界に飛び込んできた。弾む息が、白い。彼は私の目の前に来てしゃがみ込むと、手にしていた傘を差しかけてくれた。私の耳を塞いでいた雨音が弱まる。「ずぶ濡れじゃないか。この時期に、そんな薄着で自殺行為だ。肺炎でも起
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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二人で紡ぐ幸せな未来 1

颯斗は、私を抱えて敷地内に停めた車に戻った。エンジンをかけると、すぐにエアコンを強める。そうして、スマホを手に取った。画面に目を落とし、指をスライドさせて電話をかける。「……俺。ああ、大丈夫。でも、今夜は帰れない。ごめん。こっちは気にしないで、ゆっくり休んで。葉月がゲストルーム用意してくれてるから」表情を動かさず、短い会話をして通話を終えた。電話の相手が誰か、私にもわかる。だからなにも言えないまま、彼のコートに包まって、助手席で身を縮めた。颯斗はスマホをスラックスのポケットにねじ込み、無言でアクセルを踏む。病院から走り出た車は、先ほどの宣言通り、家とは逆方向に進路を取った。十分ほど走った後、颯斗は、市内でも有数の大型ホテルの駐車場で車を停めた。簡単なやり取りで、チェックインを済ませる。高層階のダブルルームに入ると、彼は私の手を引いて、ベッドサイドに歩いていった。ここでもすぐにエアコンを強め、「服、脱ぐぞ。葉月」言うが早いか、私の服に手をかける。水を吸ってぐっしょり濡れて、肌に貼りつく服は、さすがに彼にも脱がしづらそうだ。協力も抵抗もせず、されるがままの私を下着姿にすると、自分も勢いよくニットを捲り上げて脱ぎ捨て、引き締まった上半身を露わにした。「葉月……」寒さで身を縮める私を、そっと抱き寄せる。彼の手が背中に回るのを感じて、私はビクッと肩を強張らせた。「ダメ。……抱かないで」俯いて呟くと、彼の指がぴくりと動いた。「嫌?」短い問いかけに、黙って首を横に振る。「颯斗が、冷えちゃう……」床に顔を伏せたまま答えると、頭上でクスッと笑う声が聞こえた。「大丈夫。俺も君も、すぐに熱くなる」そう言って、颯斗は躊躇うことなく、私のブラジャーのホックを外した。胸の締めつけが、一気に和らぐ。私は、こくっと唾を飲んだ。「うわ。氷、抱いてるみてえ……」颯斗は私を抱きしめると、わずかに悲鳴のような声をあげた。裸の肌が触れ合っても、なにも言わない私を覗き込み、眉根を寄せる。「唇……チアノーゼ出てる」温めようとしてくれたのか、迷いもなく唇を寄せた。軽く啄むキスをしながら、大きな手で私の胸を弄る。触られているのに、肌の感覚が鈍い。私は目を閉じて、彼に身を委ねるだけだった。「葉月……」颯斗の唇が、顎の先から首筋に落ちていく。鎖骨を越えて胸の膨らみに到達しても、反応を見せない私に、彼はやや寂し気な笑みを
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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二人で紡ぐ幸せな未来 2

翌朝、夜明けを待って、私たちは家に帰った。遥々日本から遊びに来てくれた義父母に、衝撃的な告白をした挙句、家を飛び出してしまうなんて……。人間としても嫁としても、最低なことをしてしまった。ガレージで車から降り、込み上げる緊張で顔を強張らせた私に、颯斗は苦笑した。「ほら、おいで。なにも、煮て焼かれるようなことはないから」ちょっと意地悪な揶揄にも、返す言葉はない。だって、そのくらいされて当然だ。私は、ますます悲壮感を漂わせる。颯斗は「やれやれ」と困った顔をして、私の手を取った。そして、もう片方の手でコツンと額を小突く。「俺の親なんだから。万が一怒られても、俺が一緒に頭下げるから」悪戯っぽく目を細める彼に、私もやっと、少しだけ表情を和らげた。「うん……。ありがとう、颯斗」指を絡ませて手を繋ぎ、ガレージを出た。中庭を横切り、家の玄関前に歩を進める。すると、庭に面したリビングの窓から、弱い明かりが漏れているのに気付いた。「あれ……」颯斗も、訝しげに瞬きをする。「もう起きてるのかな。やけに早いな」口に出して首を傾げると、玄関の鍵を開けた。私の手を引いたまま、廊下を突っ切る。そして、リビングにひょいと顔を覗かせ、やや遠慮がちに声をかけた。「ただいまー……」「颯斗、葉月さんっ……」私たちに気付いた義母がソファから立ち上がり、弾かれたようにこちらに駆けてきた。青白く硬い表情を前に、私は反射的に身を竦めた。義母から一拍遅れて、義父もソファに起き上がる。「二人とも、帰ってきたのか……?」眩しそうに目を細め、一瞬辺りを見渡すような仕草を見せる。どうやら、義父の方は、うたた寝から目覚めたといった様子だけど。「母さん。……もしかして、ずっと起きてたのか?」目の前に立った義母が、真っ赤な目をしているのを見て、颯斗が困惑して訊ねる。「大丈夫って言ったのに。休んでてって……」「そう言われても、休めるわけがないじゃない。息子夫婦の家で、二人とも不在なのに」義母にそう返されて、颯斗がグッと口ごもった。「……だよな。すみません……」気まずそうに口元に手を遣る彼から目を逸らし、義母は私の方に顔を向けた。さすがに、条件反射で身体が強張る。だけど、謝らなきゃいけないことがたくさんある。「あ、あのっ……」私は肩に力を込めて、思い切って口を開いた。「お義母さん。昨夜は……」「葉月さん、ごめんなさい。本当に、ごめんなさ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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二人で紡ぐ幸せな未来 3

ほとんど眠らずに夜を過ごした義父母には、出発までゲストルームで休んでもらい、私と颯斗はリビングのソファに並んで座った。彼が手にしているのは、日本とアメリカ、二つの病院でもらった、私の検査結果だ。肩に力を込め、ピンと背筋を伸ばす私の隣で、ブラウンのフレームの眼鏡の向こうから、真剣な目で数値を追っている。英語と日本語、両方の所見にも目を通し、やがて「ふうっ」と息を吐いた。「なるほど。プロラクチン……ね」天井を見上げ、ポツリと呟く。私は軽く座り直して、彼の方に身体を向けた。「あ、あのね。プロラクチン値が高いと、身体が疑似妊娠状態に近くなるんだって。えっと、たとえば……」いくら同じ医師でも、心臓外科医の彼に、産婦人科の領域はわからないだろう。そんな考えから、ドクターたちから聞いたことを、説明しようとする。ところが。「妊娠、出産の経験がない未産婦なのに、母乳が出たり、生理が止まったりする。他にも、乳房が張ったり……」ふむ、と顎を撫でる颯斗に、私は大きく目を剥いた。「な、なんで……」「知ってるのか、って? 甘いな、葉月」彼は、心外といった顔をして、胸の前で腕組みをした。「俺は心臓外科医だけど、他科を知らないわけじゃない。もちろん、産婦人科は専門外。でも、君よりはよっぽど詳しい。その気になれば、薬も処方できる程度の知識はあるよ」不遜なほどのドヤ顔で言って退ける彼に、呆気に取られる。「でも、おかしいな……俺が知る限り、葉月に乳汁分泌症状は見られないと思うけど」「えっ!? あ、うん。それは私も、胸を張って言い切れ……」「生理周期も、あまり一定しないようだけど、止まったことはないはず。まあ、乳房が張って固いことはあるか……でも、君はそこそこボリュームあるから、そのくらいで十分……」「って! な、なに言ってんのよ!?」診てもいないのに、私の身体状況を冷静に分析されて、カアッと頬が火照った。思わず腰を浮かせると、彼は私を上目遣いに見据えて、ほくろのある方の口角をにやりと上げる。「一緒に暮らしてる大事な人の身体状況くらい、結構ちゃんと把握できてるけど? 俺」「っ……」太々しく言われて、しゅーっと蒸気が噴射しそうなほど、顔が熱くなる。それでも、反論の挟みどころがなくて、結局ストンと腰を下ろした。そんな私を横目に、颯斗はクスッと笑う。「薬。なに飲んでるの?」続けて質問されて、私は彼に薬袋を渡した
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