Semua Bab 新妻はエリート外科医に愛されまくり: Bab 21 - Bab 30

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夫には内緒の決意 3

夕食の後片付けをした後、私はゆっくりお風呂に入った。長い髪をタオルドライしながらリビングに戻る。電気は点いていたけど、テレビは消されていて、さっきまでソファにいた颯斗がいない。となると、書斎にいるはずだ。「颯斗……?」私はドアの外から声をかけ、ちょっと遠慮がちにノックした。中から「どうぞ」と、返事があった。「お仕事? コーヒー淹れようか?」そっとドアを開け、顔を覗かせる。颯斗が「ああ」と短く応じて、私の方に顔を向けた。「ちょっと、調べ物。根詰めるほどじゃないから、大丈夫」彼の目元には、普段はかけない細いブラウンフレームの眼鏡。颯斗は、家で書物に目を通す時だけ、眼鏡をかける。いつもと違って、デキる『准教授』といったインテリっぽい雰囲気で、私は目にするたびにドキッとしてしまう。だけど彼の方は、私の心臓の反応に気付く様子はない。「葉月、こっちおいで」眼鏡のつるを持ってサッと外すと、『おいでおいで』と手招きする。「え? でも。調べ物の邪魔じゃない?」「全然。いいから」続けて促され、意味もなく、ドアの隙間から身を滑らせるようにして、中に入った。書斎は、それほど広くはない。日本で言ったらせいぜい六畳間ほどで、L字型のパソコンデスクと書棚が置かれているだけ。彼が背にしている書棚には、日本語と英語、厚さも様々な医学書がぎっしりと並んでいる。「葉月も、今日病院で見ただろ? 浩太」彼が自分の隣に置いてくれた丸椅子に腰かけ、私は一瞬ギクッとした。「葉月?」「あ、ううん。見たよ、浩太君。颯斗に、すごく懐いてるんだね」あの時、本物の幸せな家族を見ている気分になって、胸が疼いたことを思い出す。一瞬過ぎった動揺を気取られないよう、ぎこちなく笑って返した。颯斗は、無意識といった様子で顎を撫で、思案顔をする。「実は来月、オペを控えてるんだよね。ええと……ファロー四徴症って、先天性の心臓疾患で」「うん。レイさんが教えてくれた。日本で颯斗が、一度目のオペを執刀したって」説明しようとしてくれた気配を感じて、私はそう答える。颯斗は、「そっか」と目を細めた。「あんな元気そうに見えて、なかなか複雑な心臓の持ち主。一度のオペじゃ、治してやれなかった。まだ五歳なのに、人生二度目の開胸術が必要になる」「えっ……五歳?」「ああ。小さいだろ? 心臓に持病があると、どうしても……ね」そう言いながら、颯斗はパソコンモニターの
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-12
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夫には内緒の決意 4

夏は暖かく高温だけど、冬の寒さは厳しいフィラデルフィアは、十一月半ばを過ぎると一気に気候が冬に進む。曇りの日が増え、雨量も多い。この空模様のせいだろうか。病院の帰りで沈んだ心が、まったく晴れてくれない。私は、家の玄関に入った途端、ドッと肩を落とした。スーパーの袋で、両手が塞がっている。二つの袋をキッチンの床にドサッと置くと、「ふうっ」と息が漏れた。「重かった……」改めて一つずつ調理台の上にのせて、無意識に天井を仰いだ。日中人がいない家の空気は、ひんやりしている。私は、リビングのエアコンをつけてから、一度寝室に入った。窓側に近い、ちょっと大きなクローゼットが、私の物。中にコートをしまい、奥に隠しておいた不妊治療の本と辞書を手に、リビングに戻る。ソファにドスッと勢いよく腰を下ろし、傍らにバッグを引き寄せ、そこから大きな封筒を取り出した。メグさんのかかりつけのレディースクリニックの名称が、英語で印刷されている。彼女の検診に便乗して初診を受けたのは、先週初めのこと。その時、今さらでもと勧められて、ブライダルチェックを受けた。そして今日、その結果を聞くために、私は一人で受診した。女性ドクターが口頭で説明してくれて、何度も聞き返しながら、翻訳機も駆使してなんとか理解できた。『総合的に判断して、確かにカガミさんは、妊娠しにくいかもしれません』診察室で向き合い、そう言われた瞬間、私の心臓はドクッと沸いた。もう何度、この嫌な感覚を味わっただろう。段階を踏んで、幾分覚悟もあったはずなのに、私の心臓はまだ衝撃を覚えて反応する。ドクターは、ブライダルチェックの検査結果を示しながら、紹介状の件にも触れた。生理不順や痛みの原因、子宮内膜症は、ごく軽度だそうだ。『カガミさんの場合、ほとんど無症状ですし、これが原因で不妊ということにはなりません。ですから、躍起になって治療する必要はない。妊娠を経験すれば、症状が軽くなる方がほとんどですから』それよりも、と続けた後、ドクターの表情がやや引き締まった。『日本で指摘があったプロラクチン値については、当院の診断基準では、経過観察の数値です』ドクターがポインターで示してくれた項目に、私も目を凝らした。『プロラクチンが過剰に分泌されると、妊娠していないのに母乳が出たり、生理が止まったりします。身体が、擬似妊娠状態に陥る……と言えば、想像しやすいでしょうか』『擬
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-12
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夫には内緒の決意 5

その夜、ちょうど夕食の支度を終えたタイミングで、メグさんが電話をくれた。午後七時半。彼女は仕事を終えて帰宅した後のようだけど、お互い、旦那様はまだ帰ってきていない。開口一番で『どうだった?』と聞かれた。もちろん、今日一人で検査結果を聞きに行った私を、心配してくれたのだとわかる。スマホを片手に、キッチンからリビングに移った。ソファに腰を下ろし、ドクターに言われたままを告げる。メグさんは、黙って最後まで聞いた後、『そう』と吐息混じりに相槌を打った。『診断には至らず……か。たった一回の検査で、そう簡単にはいかないだろうけど、想像以上に根気がいるわね』「……はい」私と同じように焦れた口調。同調してもらえたことに勇気づけられ、私の胸も少し軽くなった。『うちの病院の産婦人科医に、教えてもらったんだけど……。プロラクチンって、脳下垂体から分泌されるホルモンなんでしょ? 脳に腫瘍がある可能性も考えられるって……』メグさんは言いにくそうに口を挟んだけど、私は彼女に見えないとわかっていて、かぶりを振った。「それは、ドクターがはっきり否定してくれました。日本で受けた検査でも、この間の検査でも、脳に異常はないそうで。あと、甲状腺機能にも問題はないそうです」『そう。よかった。他の病気はないってことで、まずは一安心ね』ホッと息を吐く気配を耳で感じ取り、私は無意識に背筋を伸ばした。「診断が確定してからですけど、内服治療が始まると思います。それから、並行してタイミング療法も。基礎体温を測定するよう、言われて」『タイミング……ああ。排卵日を計算して、それに合わせて……ってヤツよね』メグさんは自己完結して、やや沈んだ声を返してきた。『指導されてするって言うのも、なんだか……ロマンチックじゃないわねえ』顔をしかめているのが想像できる口調で、私はほんの少し苦笑いした。「でも、不妊症なんてことになったら、神秘とかロマンとか言ってる場合じゃないので」『ごめんなさいね、わかってるわ。でも……レイもそうだけど、ハヤトも病院に泊まり込んだり、急なオペで不在になること多いじゃない?』そのタイミングを、逃すことも多い。メグさんの心配はごもっともで、私も無意識に唇を噛んだ。『ねえ、ハヅキ。やっぱりハヤトに……』彼女が言いづらそうにそう続けた時、玄関の鍵が開く音がした。スマホを当てているのとは逆の耳で音を拾って、私はハッと
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-12
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日本からの弾丸訪問者 1

今年初めて、気温が十度を下回った十一月下旬。日本の美奈ちゃんから、メールをもらった。『葉月さん、こんにちは! ご結婚からちょうど一ヵ月ですね。新婚生活、いかがですか?』東都大学医学部心臓外科医局の医療事務職員の彼女は、私より三つ年下の二十七歳。明るくて素直で可愛くて、医局でもマスコットのような存在だった。先々週、医局に宛てて、結婚式出席のお礼を送っていた。それに対するお礼のメールだった。『お送りいただいたフィラデルフィアのお菓子、医局のみんなで美味しくいただきました。ありがとうございます!』文面からも滲み出るはしゃいだ空気に、文字を目で追う私まで、知らず知らずのうちに顔を綻ばせていた。日本で一緒に働いていた頃の記憶が、脳裏を過ぎる。いろいろ、プライベートのことも話した間柄だ。今は専業主婦になった私だけど、仕事は楽しかった。私が颯斗と一緒に渡米して、急に仕事を辞める形になって、本当にたくさんの迷惑をかけてしまったけれど……。『十二月第一週目の土曜日、ニューヨークで開催される国際医療シンポジウムに、木山先生がご出席されるんですが……。なんと! それに私が同行させていただくことになりまして』「……へ?」私は思わず、スマホを持つ手に身を乗り出した。『ニューヨークとフィラデルフィア、結構近いですよね? なので、木山先生と一緒に、お二人に会いに行きたいな~って言ってます。ご都合、いかがですか?』――……えええっ!?
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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日本からの弾丸訪問者 2

そんな連絡を受けて、十二月を迎えて最初の土曜日の今日。ニューヨークでのシンポジウムを終え、アムトラックに乗った美奈ちゃんと木山先生を迎えに、私と颯斗はフィラデルフィア駅にやって来た。州を跨ぐ長距離列車が発着する駅は、空港のように広々としている。列車の発着状況を示す掲示板に、あらかじめ連絡を受けていた列車のアライバルが表示されると、並んで腰を下ろしていたベンチから、颯斗がスッと立ち上がった。到着したばかりのアムトラックが停まったホームから、続々と乗客が出てくる。その中ほどで、美奈ちゃんと木山先生を見つけて――。「美奈ちゃん! 木山先生!」私は声を張って呼びかけ、大きく腕を振った。「あ」辺りをきょろきょろと見回していた美奈ちゃんが、いち早く私に気付く。「葉月さ~ん!!」大きなスーツケースを引っ張って、すごい勢いで駆けてくる。その後ろからゆっくりと歩いてくる木山先生に、「転ぶぞ~」と揶揄されながら、無事に私の前まで辿り着いた。「葉月さんっ!」「わっ……」飛びつくようにして抱きついてくる彼女を、慌てて両腕で受け止める。「嬉しいっ。ずっと遊びに来たいって思ってて、やっと叶いました!」笑顔を弾けさせる美奈ちゃんに、私も顔を綻ばせる。「私も嬉しい。来てくれてありがとう」「お疲れ様。森居(もりい)さん。遠いところを、ようこそ」「あ」私の少し後ろに立った颯斗に声をかけられ、イケメン好きを憚らない彼女は、より一層目を輝かせた。「各務せんせ~いっ! うわあ、本物っ……」「こらこら、美奈ちゃん。仁科さんへと同じ勢いで、抱きつくんじゃないぞ」ちょうど追いついた木山先生に首根っこを掴まれ、うぐっと呻く。「だ、抱きついたりしませんよっ。各務先生は、葉月さんの旦那様なんだしっ」体勢を立て直して、ほんのちょっと頬を膨らませる。二人のやり取りを見て、颯斗も小さくプッと吹き出した。「木山先生も、シンポジウム、お疲れ様です」声をかけられた木山先生が、彼に顔を向けた。「いいえ。お元気そうで、なにより」どこか好戦的な笑みを浮かべて、颯斗とがっちりと握手を交わす。正直を言うと、日本での木山先生の印象は、私も颯斗もそれほどよくはない。なにせ、年下の颯斗が先に准教授になったのを妬んで、彼を目の仇にしていた人だ。なんとなく、接し方に戸惑うところもあるのだけど……。火の元冷めれば、ってことだろうか。意外と、和やかだった
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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日本からの弾丸訪問者 3

私が入浴を終えてリビングに戻ると、先にお風呂を済ませた颯斗と木山先生が、ソファに並んで座っていた。「へえ……『未来の遠隔医療におけるイノベーションとは』か。なかなか面白そうなテーマですね。座長は、ニューヨーク医科大のDr.トーマス……」どうやら、ブラウンフレームの眼鏡をかけた颯斗が目を落としているのは、木山先生が出席した医療シンポジウムの資料のようだ。小さく唇を動かして、そこに書かれた英文をさらっと読み上げる。「ああ。今回は医師だけでなく、環境学者や建築学者といった、多方面の第一人者も多く出席していてね。ディスカッションも切り口がよく、盛り上がった」木山先生が横から説明するのに耳を傾け、「なるほど」と顎を撫でた。「先生は、どんな講演をしたんですか?」彼が食いついて質問するのを耳に、私は、思わずクスッと笑った。研究医の木山先生と、臨床医の颯斗。水と油のような性質の二人だけど、どちらも心臓外科医という点では同じだ。日本ではぶつかり合っていた二人が並んで腰を下ろし、医療問題に関して議論を交わしている。同じ医局にいた時は考えもしなかったけど、この二人がタッグを組んで、一つの症例を共に研究する未来が来たら、すごいことやってのけるかも……。声をかけたら、せっかくの白熱した討論に、水を差してしまいそうだ。私は邪魔にならないように、なんとなく玄関に向かった。部屋着の上からストールをしっかり巻きつけ、外に出る。途端に、やや強い夜風が吹きつけてきた。ストールの合わせを胸元で固く握りしめ、玄関ポーチから空を見上げる。十二月のフィラデルフィアの夜気は冷たく、キンと音が鳴りそうな鋭さだ。おかげで、空気が澄んでいる。真っ暗な空に、いつもより多くの星が見えた。「ふふっ……。綺麗」家の外壁を背に、中庭の方に向けて置かれている木のベンチに腰を下ろす。はあっと吐き出した息は、白い筋になって闇に紛れていった。まるで、東都大学の医局に戻ったような久しぶりの空気。賑やかで楽しかったおかげで、心が弾んでいる。「医局か。懐かしいなあ……」無意識に独り言ち、無意味に両手両足を前に伸ばした時。「風邪ひくぞ」「っ、えっ」突如声がして、私は慌てて手足を引っ込めた。声の方向に顔を向けると、木山先生が玄関ポーチに立っていた。ラフなスウェットに、羽織っているのはジャージ。私は、スーツに白衣姿の木山先生しか知らないから、見慣れ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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日本からの弾丸訪問者 4

翌朝、アメリカンスタイルの朝食を並べたダイニングテーブルで向き合うと――。「えええっ……!!」酔い潰れたっきり、朝までぐっすり眠っていた美奈ちゃんが、悲壮な声をあげた。「せっかくの、各務先生のお姫様抱っこ……! これっぽっちも記憶に残ってないなんて、一生の不覚っ……」地団太踏みそうな勢いで「きーっ」と悶えたかと思うと、昨夜と同じようにテーブルに突っ伏した。「せっかくのって。何度でも言うが、各務は人のものだぞ、美奈ちゃん」プルプルと肩を震わせる彼女の横で、木山先生は澄まし顔で、悠然とトーストにバターを塗っている。「だからじゃないですかっ!」と、美奈ちゃんが勢いよく顔を上げた。「葉月さんに申し訳ないから、間違っても、『もう一度』なんて望めないのに」「も、申し訳ないって……」頭を抱えそうな彼女の言葉を反芻して、私は苦笑いをした。「人生でたった一度の貴重な機会だったのに……。本当にほんの少しも覚えてないなんてっ」「いや……人生で一度って。俺は別にいいよ? そこまで言うなら、もう一回くらい」ネタの中心人物にされている颯斗が、さらりと口を挟む。「えっ!?」目を輝かせ、飛びつきそうな勢いの美奈ちゃんと、私の声が被った。「え?」私が反応を挟んだのが意外だったのか。颯斗が、フォークを宙で止めて、顔を向けてくる。「あ、ううん。なんでもないの……」颯斗のお姫様抱っこ……私も、してもらった記憶がない。なのに、美奈ちゃんには二度も!?と、心の片隅で思ってしまった。喉の奥まで出かかった不満をなんとかのみ込んで、私はスーハーと深呼吸をする。「? 葉月?」きょとんと首を傾げる颯斗の向かい側で、木山先生がくくっとくぐもった笑い声を漏らした。「各務。奥さんが妬いてるぞ」「へ?」「っ!? や、妬いてません」私は、ギョッとして目を剥いた。私たち三人を交互に見ていた美奈ちゃんが、『あ』という形に開けた口に手を当てる。「もしかして、葉月さん。各務先生に、お姫様抱っこしてもらったことなかったとか……」申し訳なさそうに眉をハの字に下げ、わりと鋭く見透かしてくる。「え?」と、颯斗が私に視線を流すのを感じながら、慌てて首を横に振った。「いやいやいや! 本当に、なんにも妬いてないから!」声がひっくり返りそうになるのを堪え、落ち着かない気分で立ち上がった。「ええと……皆さん、コーヒーお代わりどうですか?」いそいそとキッチ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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日本からの弾丸訪問者 5

美奈ちゃんと木山先生は、正午の便でフィラデルフィアを発ち、日本に帰国する。私と颯斗は、彼らを空港まで見送りに出た。「お邪魔しました! ありがとうございました〜!」美奈ちゃんがゲートの手前で足を止め、私たちに大きく手を振った。二人の背中がゲートの向こうに消えて見えなくなると、私たちは展望デッキに出た。フィラデルフィア空港は、全米でもかなり規模が大きい空港だ。ほんの数分間隔で何便もが離発着する滑走路を眺められるとあって、展望デッキにはたくさんの人がいた。私たちのようなカップルや、ファミリー連れ。なにやら立派な一眼レフを持った、航空マニアの姿も多い。様々な飛行機の離発着を眺めるうちに、どのくらいの時間が経ったか。颯斗が、「あれかな」と呟いた。「え?」彼が目を向ける方向に、滑走路に悠然と進入してくるエアバスを見つける。「十二時ちょうど発、サンフランシスコ行き。オンタイムだし、あれだろ」颯斗は、コートの左の袖から腕時計を覗かせて、確信するように頷いた。フィラデルフィアには、日本への直行便は就航していない。アメリカ国内を一度経由する必要があるため、美奈ちゃんたちが乗るのもアメリカ国内線で、機体も小さい。颯斗の言う通り、ボディのロゴも聞いていたエアラインのものだし、きっとあれで間違いない。離陸態勢に入ったエアバスが、長い滑走路を助走し始めた。見る見るうちに、加速していく。機首が上を向き、前輪がふわりと浮き上がったかと思うと、あっという間に離陸していた。空に向かってぐんぐん高度を上げ、やがて雲間に吸い込まれていった。私も颯斗も、黙ったまま同じ空を見上げ、最後まで見送って……。「……嵐のように去っていったな」颯斗が、ホッとしたような小さな息を吐くのを聞いて、私もついつい吹き出した。「まさに。来るって連絡も先週だったしね……」「まあ、おかげで楽しい週末を過ごせたけど」ひょいと肩を竦める彼に同意して、うんうんと頷いて見せる。「ほんとに、東都大の医局に戻ったみたいで、懐かしくて楽しかったなあ……」つい昨夜のことや、今朝方の賑やかなやり取りを思い出し、口に手を遣ってクスクス笑った。颯斗は、ロングコートのポケットに両手を突っ込み、私をジッと見つめていたけれど。「木山先生と森居さんは、『楽しかった』でいいんだけど……」なにやら、歯切れ悪い言葉を挟む。「ん?」「昨夜さ。電話があって」そう言って、一
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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日本からの弾丸訪問者 6

十二月二週目、私はアメリカで受けた二度目の検査の結果を聞きに、レディースクリニックを訪れた。その日はメグさんも定期検診の予定を入れていて、彼女は私の診察に立ち会い、通訳を務めてくれた。さすがに、私一人で聞く時と違って、会話がスムーズに進む。私もなんとか自分の耳で聞き取りながら、よくわからなかったところには質問を挟んだ。「ハヅキ。検査結果は、アメリカで受けたものとそう変化がなかったそうよ。原因は確定できない」メグさんが、やや硬い表情で通訳してくれて、私は肩を落とした。「そう……ですか」膝の上に置いた手を固く握りしめ、そこに目を落とす私に、ドクターがさらに言葉をかけてくれていた。「でも、妊娠を希望して治療に臨む上では、継続して観察が必要な数値ではあります。カガミさん。数値を下げる目的で、少量の内服治療を始めてみますか?」「っ……はいっ!」結婚式の翌日、妊娠しにくい可能性を指摘されてから、二ヵ月近く。ようやく『治療開始』という言葉を聞いて、一歩前進したような気分だった。まだ原因がわかったわけじゃない。十分な光が射した、とは言えないけれど、なにも進まない状態で悶々として日々を過ごすより、だいぶ気持ちが晴れた。即答する私に、ドクターもメグさんも苦笑い気味。「まずは、期待できる効果と、副作用の説明を聞いていただいてからです」続いたドクターの説明は、医療用語の英語がわからず、メグさんの通訳頼り。もともと、身体が疑似妊娠状態に陥るホルモンを抑えることで、生理不順が解消される。より安定した周期に戻り、正確な排卵日の特定も可能だそうだ。「そうなれば、タイミング療法の成功率も上がります」と言った後、ドクターは副作用の説明に入った。「よく報告されているのは、吐き気、眩暈、強い眠気などです。服用期間中は、車の運転は禁止です。また、もしかしたら、生理回数が増える可能性もあります」『副作用』は、怯むほどではなかった。言われた症状なら、他のどの薬でも、説明書に書かれているもの。車は運転できないし、私にはなんの問題もない。私の意思に変化はなく、同意書にサインして、毎週同じ曜日の就寝前に一錠飲むだけでいい薬を、一ヵ月分処方してもらった。内服は、一週間に一度。飲むのを忘れないように、カレンダーに丸をつけ、早速その日の夜から内服開始。オペの予定を書き込もうとした颯斗が、毎週同じ曜日の丸印を見て、『なに? 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-13
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授かりものの難しさ 1

三回目の内服を前に、私は水を注いだグラスを手にして、ゴクッと唾を飲んだ。先週……二回目を飲んだ翌日、語学学校の授業中に爆睡してしまうほどの眠気は、間違いなく薬の副作用だとわかる。だから、学校がある前日の内服をやめて、一日ずらすことにした。ただ、それでいいのか迷う。今週一週間、一度目の時にはなかった嘔気もあった。日中、家にいる時に、居眠りしてしまうこともあったし、私の想像以上に、副作用が強く現れているのかもしれない。怖くなってメグさんに相談してみると、その後、大学病院の産婦人科医から聞いた情報を教えてくれた。『ホルモン分泌を抑えるために、直接脳に作用する薬。パーキンソン病の治療に使われるのと、同じ薬だそうよ』内服方法は違うけど、量を減らしただけで、強い薬を飲んでいることに変わりはない。だから、勝手な判断をするのに怯んだ。でも、また授業中に眠ってしまうわけにはいかない。ずらすのは、たった一日。それだけなら、そう大きな影響もないと考える。もし、また体調に異変を生じることがあったら、クリニックに相談に行ってみよう――。私は、意を決して、薬を飲んだ。翌日、少し早めに仕事が終わったと、颯斗から電話があった。『これから、大学病院に来れるか? 寒いから、あったかくしておいで』そう言われて、私は夕日が西の空に沈むのと同時に、家を出た。バスを乗り継いで、颯斗の病院に到着した時、左手首に嵌めた腕時計は、午後六時を指していた。「葉月! こっち」指定された心臓外科病棟の前に、着替えを終えた颯斗が立っていた。こちらに向かって、大きく手を振ってくれる。その隣に、同じく私服のレイさんとメグさんもいた。「お疲れ様です。えっと……」突然呼ばれた用件を、なにも聞いていない。三人の前に小走りで駆け寄ると、颯斗が私の手を握って引っ張った。「おいで」「え?」「いいから」なんだか弾んだ声。私は首を傾げながら、引かれるままに歩を進める。後からにこやかについてくるレイさんたちに、答えを求めて振り返ったけど、二人ともなにも言わなかった。颯斗が向かったのは、この大学病院の真ん中にある外来棟だった。正面玄関前の広場を目にした途端。「わあ……」私は大きく目を見開き、感嘆の声をあげていた。広場に植えられたたくさんの木々に、イルミネーションが施されている。日が落ち、暗い夜空の下で、キラキラと金色に輝いていた。「我が病院名物の
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