All Chapters of シャープペンシルより愛をこめて。: Chapter 71 - Chapter 80

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6・伝えたい想い Page13

 ♪ ♪ ♪ ……「――あっ、電話だ」 頭を抱えてウンウン唸(うな)っていると、机の上の充電済みのスマホが鳴った。着信音で分かる。原口さんだ! 私は通話ボタンをタップしてから、そのままスピーカーフォンにした。「はい、巻田です」『巻田先生、お疲れさまです。執筆の方、今はどんな感じですか?』 応答すると、第一声は本当に編集者の彼らしいセリフ。「えっと、あちこち取材し終えてプロットにかかってるところです」『そうですか。仕事が早いですね』 ……ん? この電話の声、ものすごく近い気がする。彼はどこから電話しているんだろう?『実は今、先生のマンションの近くまで来てるんですけど。先生にお渡ししたいものがあるんですが、これからおジャマしても大丈夫ですか?』 私は時刻を確認した。夜の八時過ぎ。お宅訪問の時間としては、まあ常識の範囲内だ。もし万が一潤にツッコまれたとしても、今回は大丈夫だろう。彼は多分、仕事で来るはずだから。「いいですよ。どうぞ。玄関のロックは外しておきますから」『ありがとうございます。では、あと十分くらいで伺えると思いますので』「はい、待ってます」 終話してから、私は首を捻った。原口さんが私に渡したいものって何なのかな? とりあえず、玄関のロックは外しておかないと。「不用心だ」と言われそうだけど、このフロアーの住人に不法侵入をするような不届き者はいないので安全だ。 ――それから本当に十分くらいして、玄関のインターフォンが鳴った。「はい」 モニターで確認すると、訪問者はやっぱり原口さん。ちゃんと電話で予告してくれているのに、わざわざインターフォンまで鳴らすなんて律儀(りちぎ)な人だ。『原口です。こんばんは』「ロック開けてあるのでどうぞ」「おジャマします。夜分にすみません」 自分でドアを開けて、彼は入ってきた。 今日は何だか荷物が多い。特に、持ち手つきの紙袋がやけに重そうだけど、一体何が入っているんだろう?「いいですよ。そんなに遅い時間でもないですし。どうぞ座って下さい。いまお茶淹れてきますね」「いえ、お構いなく。――それじゃ、失礼して」 彼はお茶は遠慮したくせに、ソファーには遠慮なく座る。――まあ、このソファーは彼の指定席みたいなものだし、ここで一晩寝たこともあったし。「本当はもっと早い時間に伺いたかったんですけど
last updateLast Updated : 2025-03-15
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6・伝えたい想い Page14

「じゃあ、神保町からわざわざ? 大変だったでしょう」 「ええ、まあ。大変といえば大変なんですけど。おかげで明日は早めに出勤して、その原稿のゲラ起こしをしないといけないので。ですが、巻田先生には今日中にこれをお渡ししたくて」  原口さんはそう言って、例の重そうな紙袋を私の横へ移動させた。よくよく見れば、そこには大手書店の店名ロゴが印刷されている。……ということは。 「これ、全部本……ですか? 三冊も!」  中身を取り出すと、ハードカバーの本が三冊だった。どれもエッセイ本らしく、著者はバラバラだ。 「はい。先生が書かれるエッセイの参考になりそうなのを、僕が三冊ばかり自腹で選んできました。著者によって文体が違うので、どれが参考になるか分かりませんが……」  わざわざ私のために自腹まで切ってくれたなんて、彼の心遣いには恐れ入る。 「いえ、ありがとうございます! 助かります。エッセイなんて初めてだから、どう書いていいか悩んでたところだったんです」  まるでタイミングを見計らったような担当編集者の機転に、私はもう感謝しかない。時間がある時に全部ザッと読んでみて、私の文体に一番近いのを参考にしよう。 「――ところで、プロット、できたところまで見せて頂いてもいいですか?」 「あっ、はい! ちょっと待ってて下さい。取ってきますから」  私は仕事部屋に急いで戻り、机の上に広げてあったプロットノートをリビングまで持っていく。一応少しは文章らしくまとめてあるけど、それをどう繋げていくかが悩みの種だったのだ。 「これです。まだあんまり進んでないんですけど……」  私は原口さんの隣りに座り、彼にノートを手渡す。 
last updateLast Updated : 2025-03-16
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6・伝えたい想い Page15

「実はね、このタイトルには私が読者の皆さんに一番伝えたい想いが込もってるんです」「伝えたい想い……ですか」「はい」 私は頷く。でも、そのメッセージを伝えたい相手は読者の皆さんだけじゃない。ここにいる原口さんにも……。でも、それは私の口から直接伝えないと意味がないことだ。 ――彼は引き続き、ノートのページをめくっていた。「一応ね、要点だけは章分けして文章にしてみたんですけど。これを全部繋げて一続きの長い文章にしようと思ったら、どう書いていいか分からなくなって」 編集者の彼なら、何かいいアドバイスをくれるかもしれないと期待したけれど。「そうですね……。先生は読者を感動させられる文章力をお持ちなんですから。あとは組み立て方次第なんじゃないでしょうか」「そんな! 買いかぶりすぎですよ!」 ……原口さん、褒めすぎ! 私は思いっきり謙遜した。だって、自分ではそんなにすごい文才の持ち主だと思っていないんだもん。……嬉しいけど。「でもせっかく参考資料を持ってきて下さったんで、これを頼りに頑張ってみますね」「まだ十分に時間はありますから、じっくりやって下さい。僕も時々、進行具合をお訊ねしますから」「はい」 彼が来るまで、前に進めるか心配だったけれど。少し今後の道筋(みちすじ)が見えてきたような気がする。 ――と、そんな時。 グゥゥ~~ッ………… 小さくて奇妙な音が――。ん? お腹の鳴(な)る音? 私はもう晩ゴハンを済ませてある。ということは……。「……すみません、先生」 恥じ入るように、原口さんが詫びた。さっきの音の正体は、彼のお腹の虫が鳴いた音だったらしい。「もしかして、晩ゴハンまだなんですか?」「はい……。さっきお話しした先生のせいで食べるヒマがなくて。お恥ずかしい」 ――やっぱりこの人、放っておけない! こういうところが私の母性本能をくすぐるんだということを、ご本人は自覚していないらしい。そこがまた私のツボなのだ。「ねえ原口さん、よかったらウチでゴハン食べて行きますか? って言っても、ほとんど私の残りもので申し訳ないんですけど……。あっ、玉子焼き作ります?」 生真面目な原口さんも、さすがに空腹には勝てないみたい。「いいんですか? ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えてごちそうになります」「はい! すぐにできるんで、ダイニン
last updateLast Updated : 2025-03-17
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7・前に進む勇気 Page1

 ――それから十分も経たないうちに、ダイニングテーブルの上には原口さんのための夕食メニューの数々が並んだ。 残りもののほうれん草のゴマ和(あ)えと時短(じたん)レシピで作ったサバの味噌煮、玉ねぎ入りのお味噌汁と白いゴハン。そして玉子焼き。私は料理全般好きだけれど、中でも和食系が得意なのだ。さて、彼は喜んで食べてくれるだろうか? 「――お待たせしました☆ さ、どうぞ召(め)し上がれ」 「いただきます」  彼は手を合わせ、箸を構える。私は向かい側に座り、アイスコーヒーでお付き合い。 彼はどれから箸をつけるのかな……? すると、真っ先に箸が伸びたのは食べるのが本当に楽しみだったらしい玉子焼き。実は、この玉子焼きには隠し味が入っている。彼は気づくだろうか? 箸を使って一口大に切り、口に運ぶと数回咀嚼(そしゃく)して目を瞠った。 「……うまい。なんか味にコクがあるな」  お? 気づいたかな? 「さて問題です。この玉子焼きの隠し味として私が入れたものは何でしょう? ヒントは原口さんが大好きなものです」 「えっ? もしかしてチーズ…
last updateLast Updated : 2025-03-18
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7・前に進む勇気 Page2

「あれ? あんまり驚いてないみたいですけど。ご存じだったんですか?」「ええ、まあ。琴音先生から聞いてたので。二年前に元カノと別れた、って」「そうですか。西原先生が……ねえ」 原口さんの表情が曇(くも)る。琴音先生の名前が出たから? そして、またもや私の心を掻き乱す、〝二年〟という歳月(さいげつ)。私が作家の道を選び、潤と別れたのも二年前で、琴音先生と原口さん、それぞれの恋が終わったのも二年前。 ……いや、原口さん達は一緒だったかもしれないけれど。どれも二年前にあったことなんて、偶然が重(かさ)なりすぎじゃないの?「……どうかしました? 先生」 頭をもたげていた私を、食事する手を止めた原口さんが心配そうに覗(のぞ)き込んでいる。「……え? ああ、いえ。別に」 何でもない、という風に私は首を振った。 これで、彼がフリーだということは確定したわけだけれど。まだ安心できない。私以外に好きな女性がいたら? ――もう一人の私の「やめときなよ」という囁(ささや)きは無視して、私は彼に訊ねる。「じゃあ、好きな女性とか気になってる女性は? 一人くらいいるんでしょ?」 ……どうか琴音先生じゃありませんようにと、祈るような想いで答えを待った。「一人だけいますよ。年下なんですけど、責任感が強くてまっすぐで、仕事にポリシー持ってる女性が」「え…………?」 思わず彼を見つめてしまう。――それって私? なんて自惚(うぬぼ)れてるのかな? でも〝年下〟ってことは、確実に琴音先生(あの人)じゃないよね。「でも僕、不器用なもんで。素直じゃないっていうか、いつも素っ気ない態度とかばかり取ってしまうんで、嫌われてたらどうしようかと……」 やっぱり私だよね? だったら大丈夫! 私はあなたのこと嫌ったりしないから。 私は自分の心に一つの区切りをつけようと思った。今のぬるま湯に浸(つか)っているような関係は心地いいけど、いつまでもこのままというわけにはいかない。 でも、それは今じゃない。「原口さん」「……はい?」 私は意を決して、彼に言った。「今回の原稿が上がったら、あなたに伝えたいことがあります」 これじゃ、暗(あん)に告白することを仄(ほの)めかしているようなものだけれど。原口さんは不思議そうな顔もせずに「分かりました」と頷いただけだった。私は目を瞠った。
last updateLast Updated : 2025-03-19
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7・前に進む勇気 Page3

「――ごちそうさまでした」  彼は満足そうに箸を置いた。出した料理は全てキレイに平らげられている。 「いやー、全部うまかったです。ありがとうございました」 「いえいえ! ね、原口さん。よかったら、これからもちょくちょくウチにゴハン食べに来ませんか? こんな簡単なものでよかったら、私いつでも作りますから」  ……はっ!? 私ってば何を彼女気取りで! でも原口さんは、特に意に介した様子もなくて。 「……いいんですか?」 「ええ。一人分増えたって手間は同じですから」  一人で食べるゴハンより、誰かと一緒に食べるゴハンの方が絶対美味しい。――この間実家に帰ってみてそう思った。きっと原口さんも同じはずだから。 「お気遣いありがとうございます」  低頭(ていとう)する原口さんに頷いてみせてから、私は彼の食器を片付け始めた。 「――じゃ、僕はそろそろ失礼します。長居してしまってすみません」 「いえ。引き留めたの、私ですから」  原口さんはリビングからカバンを取ってくると、玄関で私に言った。 「それじゃ先生、執筆頑張って下さい」 「はい! ……気をつけて帰って下さいね」  原口さんが今日訪ねてきてくれるまで、本当に私にエッセイなんて書けるのか不安だったけれど。今なら書けそうな気がしてきた。
last updateLast Updated : 2025-03-20
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7・前に進む勇気 Page4

   * * * * ――それから数日後。「ふわぁ~~あ……」 バイト中、売り場での作業をしながら大欠伸をした私に、由佳ちゃんが心配そうに声をかけてきた。「奈美ちゃん、眠そうだね? どしたの?」「あー……うん。今新作の原稿書いててね。昨夜も遅くまでやってたもんだから」 元来、書き始めたら筆が止まらなくなる私は、今回の仕事でもそういう状態になっているのだ。いわゆる〝ライターズ・ハイ〟というべきか(……あれ? こんな言葉あったっけ?)。 今回は特別な仕事だから、なおのことそうだった。「遅くまでって何時ごろまで? 睡眠時間足りてないんじゃない?」「うーん……、十二時半ごろまでかな。でも睡眠は足りてるし、もう慣れてるから大丈夫だよ。由佳ちゃん、心配ありがとね」 手書き原稿派の私は、ただでさえ遅筆だ。そのうえ、言葉の一つ一つを吟味(ぎんみ)して書いているので、遅い時には深夜の二時ごろまでかかることもあるのだ。「大丈夫ならいいんだけどさ。っていうか新作って? こないだ出て、重版かかったばっかじゃなかったっけ?」 由佳ちゃんは一度首を傾げてから、「あ」と声を上げた。「もしかしてアレ? こないだ取材受けたエッセイだっけ?」「そうそう。それ」「ああ~、そういうことね。あたしも絶対予約するよ!」 由佳ちゃんって私の根っからのファンなんだな。私の新刊が出るたびに、毎回こうして売り上げに貢献(こうけん)してくれているから。もちろんそれだけじゃなく、素直な感想もくれて、それが作家としてすごく励みにもなっている。 私はいつも、こんなファンの人達に支えられて作家活動を続けられているんだなあと、感謝してもしきれない。「――すいませーん。本の予約したいんですけど」 若い女性のお客様に声をかけられ、私は補充作業を中断した。「はい、少々お待ちくださいませ。――由佳ちゃん、ここお願い」「うん、オッケー!」 彼女に売り場を任せ、パソコンのあるレジ横カウンターへ。「お客様、こちらの予約注文票にご記入をお願いします」 私はカウンターの下の引き出しから伝票を取り出して開き、ボールペンをお客様に差し出した。こうして記入された書籍のタイトルやお客様のお名前・連絡先などを、後でパソコンに入力していくのだ。
last updateLast Updated : 2025-03-21
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7・前に進む勇気 Page5

「――はい、書けた。これでいいの?」 「ありがとうございます。――はい、大丈夫です。では、こちらがお控えです」  私は控えをお客様にお渡しした。 「入荷しましたら、ご連絡差し上げます。ご注文承(うけたまわ)りました」  お客様はそのまま、雑誌の売り場へと向かった。 「――店長、ご注文受け付けました。今からパソコンに入力します」  パソコンに向かった私は、レジにいる清塚店長に声をかけた。 「了解。悪いねえ、巻田さん。頼むよ」 「はい」  ほんの二ヶ月くらい前の私なら、パソコン作業はあまりやりたがらなかった。 でも、今は違う。今の私は作家としての仕事にも、書店員としての仕事にも前向きに取り組んでいる。私を変えてくれたのは、原口さんへの恋心だと間違いなく思う。 「あっ! 奈美ちゃん、いいよ。あたしがやるから」 「ううん、いいの。私できるから、任せて」  由佳ちゃんがヘルプを申し出てくれたけれど、私は断った。気持ちは嬉しいけれど、注文を受けたのは私なんだから、責任もって入力まで終わらせないと! もうだいぶ慣れてきた手つきで、私は入力作業を済ませた。その内容にミスがないか確認した後、予約受付票を専用バインダーに挟んで手続きは完了。 店内の時計に目を遣ると、もう夕方四時。ちょうど退勤時間だった。 「店長、お疲れさまでした。私と由佳ちゃんはこれで失礼します」 「ああ、お疲れ
last updateLast Updated : 2025-03-22
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7・前に進む勇気 Page6

「――で? 恋の進展状況はどう?」  二人でアイスラテをすすりながらのガールズトーク。由佳ちゃんが真っ先に切り込んできた。 「えーっと、とりあえず『告白します宣言』はした」 「……は? えっ、どういうこと?」  由佳ちゃんの頭にはハテナが飛び交っているらしい。そこで私は、数日前の夜に原口さんが訪ねてきた時のことを話した。 「――ってワケなんだ」 「へえ……。ねえ奈美ちゃん、それって彼も奈美ちゃんに気があるってことなんじゃないの?」 「……やっぱり、そう思う?」  私一人ではただの自惚れだと思っていたけど、由佳ちゃんも同じように感じたってことは……。 「うん! これは脈アリとあたしは見た」 「そっか。そうなんだ……」  私の自惚れなんかじゃない。原口さんも私のこと……。美加だけじゃなく、由佳ちゃんにもそう言ってもらえたら、本当に大丈夫な気がしてきた。 「ちなみに、原口さんって今フリーなの?」 「うん。少し前に親しくしてる女性作家さんから聞いて、本人に確かめたら間違いないって。……あ」 「……ん? どしたのよ?」  私はそこでふと思い出した。職場まで取材に行った時に、美加にこの話をしたら何かが引っかかっているように見えたのを。 「あ……、えっと。実はね――」
last updateLast Updated : 2025-03-23
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7・前に進む勇気 Page7

「――そういえばさ、奈美ちゃんって責任感も自立心も強いけど、時々誰かに甘えたいとか寄り掛かりたいとか思わないの?」「う~ん……、どうなんだろ。私、昔っから甘え下手(ベタ)なんだよねえ。特に男の人には」 〝自立心が強い〟とは、原口さんにも言われた。彼は褒め言葉として言ったんだと思うけれど。裏を返せば、それは〝甘え下手〟という私の欠点でもある。女としては正直、あまり喜べない。「男の人ってやっぱり、女性から〝甘えられたい〟〝寄り掛かられたい〟って思うものなのかな?」「そうなんじゃない? 原口さんはどうか分かんないけど、奈美ちゃんに寄り掛かられたいって思ってる人はごく身近にもいるよ」「ごく身近に?」 誰だろう? 思い浮かぶのは〈きよづか書店〉の仲間くらいだけど――。「まさか店長……とか?」「そんなワケないでしょ? 店長、奥さんいるじゃん」「あー、そっか」 清塚店長の奥さん・美(み)由(ゆ)紀(き)さんはたまにお店の仕事を手伝いにきている。店長とは本当にラブラブで、まさに〝おしどり夫婦〟という感じだ。「じゃあ……誰?」 首を傾げてラテをすすった私に、由佳ちゃんがボソッと言う。「今西クンだよ」「……え? ウソ」 にわかには信じ難(がた)く、私は由佳ちゃんの顔を見たけれど。彼女の表情は真剣そのものだった。「それ、ホントなの?」「うん、マジ。……あたしもね、本人から相談受けるまでは知らなかったんだけど」 そういえば、私がバイト中にピンチに陥った時、真っ先に飛んできてくれたのも彼だった。「今西クンは、奈美ちゃんに好きな人がいること知らないから。『何とか巻田先パイとの仲取り持ってもらえませんか!?』って言われてあたし困っちゃったよー」「……そうなんだ」 由佳ちゃんとしては、私が原口さんとうまくいくことを望んでるんだろう。そりゃ困るよね……。「私はどうしたらいいと思う? 今西クンにホントのこと話すべきかな?」「そうだね……。でも、奈美ちゃんは前に進もうとして勇気出したんだもん。告白の結果次第で考えたらいいんじゃないかな」 例の「告白します宣言」のことだ。あれは私としてはかなり勇気の要る言動だった。「うまくいくって信じてるけど。まずはその〝前に進む勇気〟を出せたことを評価したいな、あたしは」「〝評価〟って何さ!? ……でもありがと」 
last updateLast Updated : 2025-03-24
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