「っていうか、昨夜電話くれた時に話してくれたらよかったのに」「ああ……、そうですね。あの時は重版の報告で頭がいっぱいでしたから」「…………そうですか」「それに、ちょっと厄介なことになってて。お電話だけじゃ伝わらないかな、と思ったもんで」「……は?」 作家の担当から外れるのって、もっと簡単なことだと思っていた。「そんなに大変だったんですか?」「大変というか……。結果的には、僕は蒲生先生の担当から外してもらえたんですけど。その代わりに、交換条件を出されまして」「交換条件?」 私は原口さんの話に眉をひそめる。 何だか物騒(ぶっそう)な言葉が飛び出してきたなあ。無理難題をふっかけられたんじゃないといいけど……。「はい。僕に、『〈ガーネット〉のレーベルそのものから外れろ』と、蒲生先生が」「そんな……! 横暴(おうぼう)じゃないですか、そんなの!」 自分が言われたことでもないのに、私は大憤慨した。 いくらベテランだからって、いち作家に出版社の人事にまで口を出す権限はない。それも、ただのワガママで。「島倉さんは何もおっしゃらなかったんですか? 上司なのに」 島倉さんは部下思いの編集長だ。原口さんがパワハラを受けていたのに、その場にいて何も言わなかったとは考えにくいけど。「一応、僕のことを庇(かば)っては下さったんですけど、結局は力及(およ)ばなかったみたいで……。『最後まで庇えなくて申し訳ない。でも君は何も悪くないから』とおっしゃってました」「そうですか……。じゃあ、もう決定なんですね? 原口さんが〈ガーネット〉から異動になるのって」 とどのつまりは島倉さんもただのサラリーマン、しかも作家ファーストの出版業界の人なのだ。作家が下した決定は、そう簡単には覆(くつがえ)すことができないんだろう。「まあ、そうなりますね。ですが、僕は今度の異動を機(き)に、新レーベルを立ち上げることにしたんです。――もちろん、島倉編集長のGOサインも頂いてます」「新……レーベル?」 原口さんてば、落ち込んでいるどころかすごくポジティブだ。というか〝新レーベル〟って……、なんかすごい話になってきたぞ?「そうです。名前は〈パルフェ文庫〉。〈ガーネット〉とは違い、文庫での刊行のみで、電子版も同時に配信されるという、若手の先生にメインで活動して頂くレーベルになりま
Last Updated : 2025-03-07 Read more