All Chapters of シャープペンシルより愛をこめて。: Chapter 41 - Chapter 50

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4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page12

「この調子でさ、恋も仕事も頑張るんだよ! ……ああでも、本業の方が忙しくなったらバイトは続けていけるかどうか分かんないよねえ」「うん……、そうだね」   ――そっか。専業作家としてやっていけるようになったら、バイトを続けていく必要もなくなっちゃうんだ……。  原口さんは、私がいずれは専業としてやっていくことを望んでるんだろうか? ――私だっていつかは小説だけで食べていけるようになりたい。でも、それは結婚して家庭を持ってからでいいかな、と思っている。 まだ当分、バイトは辞(や)めたくない。この仕事にやり甲斐を感じているし、何より由佳ちゃんや他の従業員さん達と一緒に働けなくなるのが惜(お)しい。「大丈夫だよぉ、奈美ちゃん。そんなに暗い顔しないで!」「……えっ?」「心配しなくてもあたし、一緒に働けなくなっても奈美ちゃんの親友だし、巻田ナミ先生の大ファンでいるから! ねっ!?」  由佳ちゃんには、私がどんなことで悩んでたのか分かったのかな? 私を元気づけようと、彼女らしい言葉で励ましてくれる。「……ありがと、由佳ちゃん。――でも私、バイト辞めないよ」 胸がポカポカとあったかくなり、こみ上げそうになった嬉し涙を堪(こら)えるように、私はキッパリと宣言した。「えっ、そうなの? なぁんだ、よかった」 由佳ちゃんがホッと胸を撫で下ろしたように笑顔で言う。……と、次の瞬間。  ――ピンポン ♪「……ん?」  ケータイの短い着信音が鳴った。メールかな? LINE(ライン)かな? 私は自分のスマホをチェックしたけど、マナーモードのままなので鳴るわけがなかった。「……あっ、あたしのスマホだ。ちょっとゴメン!」  由佳ちゃんが立ち止まり、受信したメッセージに返信していた(〝歩きスマホ〟は危(あぶ)ないからね)。「――ゴメン、奈美ちゃん! メッセージ、彼氏からだった。『今から一緒にゴハン行こう』って」「えっ!? 由佳ちゃん、彼氏いたの!?」  初耳だった。彼女との友情は二年になるけれど、そんな話は一度もしてくれたことがない。「うん。まだ付き合って二ヶ月くらいかな。中学校の先生なんだけど、合コンで意気(いき)投合(とうごう)したんだ♪」「ええっ!? いつの間に……」 私が執筆活動にバイトにと勤(いそ)しんでいる間に、親友がリア充になっていたなんて…
last updateLast Updated : 2025-03-07
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4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page13

「それにさぁ、ナミ先生は恋愛小説書いてるじゃん? 話した内容、ネタにされるのもイヤだったしさぁ」「しないよ、そんなこと!」 私はムキになって否定した。――でも、ぶっちゃけて言えば、参考にできるものならしてみたいかも。……なんて思ってしまう作家の性(さが)が恨めしい。「分かった分かった! 冗談だよ冗談っ☆ んじゃ、あたしはここで。奈美ちゃん、またねー」「うん、お疲れさま」 ――私は由佳ちゃんと別れ、帰り道をブラブラ歩いていた。 この道には〈きよづか書店〉が入っている商店街もショッピングビルもある。――食べるものはまだ買わなくていいはずなので、帰るにもちょっと早いし、ウィンドウショッピングでもして帰ろう、と思って町を歩いていたところ――。「あれ? 奈美じゃね?」 もうずっと聞いていなかったけれど、記憶には残っているその声に、私は不意に振り返った。――この声、まさか……。「潤……なの?」 声の主は今年大学を卒業し、社会人になっているらしい(〝らしい〟というのは、学部が違っていたので別れた後は全く接点がなくなったからである)元カレの井上潤だった。 学生時代は茶髪で長かった髪は短くなり、黒っぽく染められて小ザッパリしているし、着ているのも社会人らしいグレーのフレッシャーズスーツだ。 でも、いくら外見が変わっても彼がまとうチャラい雰囲気(ふんいき)は二年前と変わっていないから、私にはすぐ分かった。「あ、やっぱ奈美だ。変わってねーな、お前は」「……変わってないのはアンタもでしょ」 今の私達は赤の他人なんだから、馴(な)れ馴れしく話しかけないでほしい。――まあ、それに反応する私も私だけど。「っていうか、なんでアンタがここにいんのよ?」 ここから私の住むマンションは目と鼻の先だ。学生時代に潤が住んでいたのはこの近くじゃなかったはずだけど……。「ああ。オレな、大学卒業(で)てから一人暮らし始めてさあ。んで、住むことになった部屋がたまたまお前んちの近くになったんだよ」「たまたま、ねえ」 本当だろうか? 私がこの町に住んでいることを覚えていたから近くの部屋に決めたとしか思えない。「就職はできたんだ? 職種は何?」 元カレとはいえ、潤がニートじゃないことには安心したので、とりあえず訊いてみる。とはいえ、職種なんて私の知ったこっちゃないけど。「営
last updateLast Updated : 2025-03-07
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4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page14

「〝あっそ〟って何だよ。自分から訊いといて素(そ)っ気(け)ねえのな。……まあいいや。お前はまだバイト続けてんだ?」「うん……、そうだけど?」 私はまた素っ気なく返した。 どうせ潤は本を読むのが嫌いだから、ウチの書店に買いにきたことなんかないくせに。雑誌を買うくらいなら、コンビニでこと足(た)りるだろうし。「せっかく夢叶(かな)って作家になっても、収入が安定しねえなんて大変だな。――あ、本屋のバイトも非(ひ)正(せい)規(き)雇用だっけか」 私は色んな意味でムカついた。 一つ目。お父さんと同じようなことを、この男に言われたこと。 二つ目。社会に出たばっかりのヤツに、非正規雇用をバカにされたこと。 三つ目。とどのつまり、この男が私に何を言いたいのか全く分からないこと――。「まあ、営業の仕事も給料は歩合(ぶあい)制だから、あんまり安定してるとは言えねえけどな」「……それじゃ説得力ないじゃん」 自虐(じぎゃく)をまじえて肩をすくめる潤に、私は呆(あき)れてツッコんだ。「私(あたし)は後悔してないよ。確かに今は兼業じゃないと食べていけないけど、自分のやりたいことを仕事にできてるって幸せなことだからさ」 自分の作品の原稿料と印税の収入だけじゃ心(こころ)許(もと)ないからと、原口さんは時々、他の作家さんとの合作やアンソロジーの仕事も私にやらせてくれる。 それでも収入が安定しないことに変わりはないのだけれど……。「そうなん? まあオレは、お前がそれで満足してるんならいいんだけどさあ」 ――潤と話していると、何だか二年前に戻った気がする。それは決してイヤな感覚ではなく、二年前はこのユルい関係が心地(ここち)よかったりしたのだ。――そう、この男が私に、あんな選択さえ迫らなければ……。「でもお前、あの後考えたことねえ? 〝もしあの時、別の選択肢(し)を選んでたら〟って」「え…………」 この台詞(セリフ)でやっと、私は潤の言いたいことが理解できた。彼はまだ私に未練があり、そして私が小説を選んだことを納得していないのだと。「……なかった、と思う……けど」 答えてから、考える。もしあの時、小説じゃなく潤の方を選んでいたら……と。 この男は私に小説家を辞めてほしがっていた。――私は果たして、彼の望む通りに志(こころざし)半(なか)ばで筆を折ること
last updateLast Updated : 2025-03-07
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4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page15

「それは……、今すぐには返事できないよ。私、今好きな人がいるから。担当編集者の人」「そっか。付き合ってんの、そいつと?」「ううん、まだ私の片想い……だと思うけど」 私は一体、どうして悩んでいるんだろう? 原口さんのことは、まだ片想いだから諦められると思っているから? 潤とはヒドい別れ方をしたせいで、彼に申し訳なく思っているから? でも、まだこの男に未練があるのかと自分自身に愕然となる。せっかく、原口さんへの恋を頑張ると決めたばかりなのに。こんなことで心が揺れ動くなんてどうかしている。「…………分かった。オレ、いい返事期待してっから。連絡先変わってねぇから、心決まったら連絡して」「うん……」 ――潤と別れてから、私は自分でも何をやっているんだろうと呆れた。 元カレと再会して、好きな人がいるにも関わらず復縁を迫られて、心がグラついた。片想いだからって、本気で好きなんだと気づいた相手のことをそんな簡単に諦められるわけがないのに。 潤と元サヤになったところで、今度こそうまくやっていけるとは限らないのに。また同じことの繰り返しになるだけかもしれないのに――。「…………はぁ……っ。何やってんだ、あたしは」 ため息をつきながら、マンションの近くまで来ると――。「巻田先生、お疲れさまです」「……あ」 そこには原口さんが立っていて、私に気づくと丁寧(ていねい)に挨拶してくれた。
last updateLast Updated : 2025-03-07
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5・新たな一歩 Page1

 ――思えば、彼と顔を合わせるのは彼が朝帰りをしたあの日以来だ(電話では話したけれど)。しかも、元カレとの再会からの遭遇(そうぐう)だもんで、私にしてみれば気まずいことこのうえない。「今日もバイトだったんですね」「あ、はい」 なのに、彼はいつもと全く変わらない調子で話しかけてくる。私だけが気まずいのもなんかヘンだ。「……えっと、原口さんは? 今日はどうしたんですか?」 私は首を傾げてみせる。蒲生先生の件だって、あれだけ「私にも知らせて」って言ったのに。待てど暮らせど連絡をくれなかった。「あれ? 四時ごろからずっとお電話してましたけど、留守(るす)電(でん)になってたので……」「えっ、マジで!? ……わっ、ホントだ」 慌ててスマホを確かめると、『着信五件』の表示が出ている。もちろん全て原口さんのケータイからだった。 そういえば、バイトが終わってからもマナーモードを解除し忘れていた。潤と話し込んでいた時にも、何回かヴーヴー震(ふる)えていた気がする。「ゴメンなさい! ずっとマナーモードにしたままだったから、気づかなくて」 これは完全なる私の落ち度だ。だから低(てい)姿勢(しせい)に謝るしかなかった。「いつもはバイト終わったら、マンションに着くまでの間に解除してるんですけど」「ということは、今日に限って何かあったから解除できなかったんですか?」「あ……、えっと……」 原口さん、鋭(するど)い! 私は彼に何もかも見透かされている気がして、咄嗟に言い訳が思いつかない。苦し紛(まぎ)れに訊いてみる。「どうして『何かあった』って思ったんですか? ただうっかり忘れてただけって可能性もあったでしょ?」「まあ、確かにそうなんですけど。なんか冴(さ)えない表情なさってるのでそうじゃないか、と」「…………」 やっぱり私は、何かあるとすぐ顔に出てしまうらしい。これじゃ何考えてたってすぐバレるっつうの。「っていうか原口さん、〝浮かない〟の次は〝冴えない〟って! ボキャブラリー乏(とぼ)しすぎでしょ!」 私は彼の語彙(ごい)力のなさにツッコんだ。「いいでしょう、別に。僕は編集者であって作家じゃないんですから。――それより、今日先生にご連絡差し上げたのは、色々とご報告したいことがあったからなんです。蒲生先生の件も含めて」 彼は半ギレ状態でつっかかって
last updateLast Updated : 2025-03-07
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5・新たな一歩 Page2

「先生、今からお宅におジャマしちゃダメですか? 先生に何があったかもお聞きしたいですし」「えっ!? ……ちょっ、ちょっと待って!」 それはヒジョーにマズい! 潤はこのすぐ近くに住んでいるのだ。アイツにあらぬ疑いを抱かせたくない。 「ウチはちょっと……。――あのっ! お時間まだありますよね? だったら、今から私に付き合ってもらえませんか?」 私はふと思い出した。このマンションからすぐのところに、行きつけの喫茶(きっさ)店(てん)があることを。――ちなみに近頃人気の〝カフェ〟ではなく、創業三〇年を越える昔ながらの〝喫茶店〟である。 平日の昼間には、サラリーマンやOLさん達がランチを摂(と)る穴場となるお店だけれど、今の時間なら店内も空いているだろう。「えっ!? あの――」「私もあなたに話したいことがあるんです。そこの喫茶店で甘いものでも食べながら話しません?」「は? 甘いもの?」 話がまったく呑み込めない彼の腕をガシッと掴(つか)み、私は強引に彼を連行した。「ね! 行きましょう!」「は、ハイ!?」   * * * * ――私達が入った喫茶店『デージー』は、六十歳くらいのマスターとアルバイト店員三人くらいで切り盛りしている小(こ)ぢんまりしたお店。私はどちらかというと、大手カフェチェーンよりもこういうお店の方が落ち着いてお茶やスイーツを楽しむことができる。十「いらっしゃいませー! あ、ナミ先生!」 テーブルまでお冷やを持ってきてくれたウェイトレスさんは、実は私のファン。「こんにちは。今日は連れがいるのよ」「どうも」 私が原口さんを紹介すると、ウェイトレスさん(名前は確か〝アヤちゃん〟だったと思う)が目をキラキラさせた。「えっ、ウソっ!? すごいイケメン! わ、ヤバー!」「アヤちゃん、ちゃんと仕事しないとマスターに叱(しか)られるよ」 私が苦笑いしながらたしなめると、彼女は「スミマセン!」と謝ってからウェイトレスの顔に戻った。「――ご注文は?」「チョコレートパフェ。――原口さんは?」「あ……じゃあ、チーズケーキセット。コーヒーで」 アヤちゃんはオーダーを伝票に書き留(と)めると、「かしこまりました」と頭を下げて厨房(ちゅうぼう)へと下がっていった。「――先生も今日は甘いものを食べなきゃやってられない日……だったんですか?
last updateLast Updated : 2025-03-07
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5・新たな一歩 Page3

「いや、てっきり辛党(からとう)なのかと思ってたもんで。甘いものもお好きだったんですね」「ええ、両方好きなんです。……そんなに意外でした?」 彼があまりにも意外そうに言うので、私は不思議に思った。「だって、『甘い玉子焼きは好きじゃない』っておっしゃってたんで。甘いもの全般苦手なのかと」「それは玉子焼きの話でしょ? スイーツはまた別モノですから」 これでもうら若き女子なのだ。こういう可愛いところがあったっていいじゃないか!「そういう原口さんはもしかして……、チーズ好き?」 ふと思い当たり、今度はこっちから質問返し。原口さんがキョトン顔に。「どうしてそれを……」「間違ってたらゴメンなさい。さっきオーダーしたのもチーズケーキだったし、こないだの宅飲みの時もチーズたらを美味しそうにつまんでたから」「……分かっちゃいました?」 彼は苦笑いしながら、頬(ほほ)をポリポリ掻(か)く。「いやあ、昔からチーズには目がなくて。スイーツではチーズケーキが断(ダン)トツです」 彼の目がキラキラ輝(かがや)いている。普段のS系イヤミーのカレとのギャップに、私はキュンとなった。……この人、好きなものの話する時にはイイ表情(かお)するんだよなあ。こないだ、私の書く小説を「好きだ」って言ってくれた時もこんな顔してたんだろうな……。 ……おっと! すっかり彼に見とれて、何の話をしてたのか忘れてしまった。「――えっと。かなり話が脱線しちゃいましたけど、何の話してたんでしたっけ?」 私は何とか話の軌道修正を試(こころ)みる。「ああ、先生が冴えない表情をなさってた理由をお訊きしたかったんです」「あー……」 その結果、原口さんに遭遇する前の苦い現実に引き戻され、私は呻(うめ)いた。 でも、彼に心配をかけてしまった以上、打ち明けないわけにもいかない。――私はお冷やで唇(くちびる)と喉を潤(うるお)すと、やっとこ口を開いた。「……実はさっき、潤(じゅん)にばったり再会しちゃって。別れたっきりだから二年ぶりに」「井上さんに? ――でも〝二年ぶり〟っていうのは? 同じ大学だったんじゃ……」 首を傾げる原口さんに、「学部が違ったから、別れたら接点が皆無(かいむ)になったのだ」と説明した。 もちろん、それはウソではないけれど。私の方で極力(きょくりょく)アイツのことを避
last updateLast Updated : 2025-03-07
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5・新たな一歩 Page4

「しかもアイツ、今ウチのマンションの近くに住んでるらしくて。『もう一度やり直さないか』って言われました。私、断りたかったのに断れなくて、何だか気持ちがモヤモヤして」「はあ」「どうしてハッキリ『イヤだ』って言えなかったんだろう、って。アイツにまだ未練があるのかどうか、自分でもよく分かんないんですよね」 原口さんは、私がどうして潤に復縁を断れなかったのか、その理由については何も詮索(せんさく)しなかった。私に興味がないのか、それとも詮索したら悪いと思ってあえて訊ねなかったのかどちらだろう? もし前者だとしたらショックだ。「――お待たせしました。チョコレートパフェと、チーズケーキセットです」 ちょっと場の空気が沈んだタイミングで、アヤちゃんが私の前にパフェを、原口さんの前にケーキのお皿と湯気(ゆげ)の立ったコーヒーカップを置き、最後にカトラリーと伝票を置いていった。パフェの甘い匂いのおかげで、私のダダ下がりだったテンションは上向きになった。「先生、とりあえずそれを召し上がって気分を変えませんか?」「そうですね、いただきます」 私は長いスプーンで、トッピングのスライスバナナをホイップクリームごとすくった。 パフェグラスには底からコーンフレーク・コーヒーゼリー・角切りケーキ・バニラアイス・チョコアイス・ホイップ・チョコアイスの順に盛り付けられ、チョコソースがかけられ、ウエハースとスライスバナナ・サクランボがトッピングされている。「ん~! バナナうま~~♡」 実は私、スイーツの中でもバナナが大好物なのだ。「あのー、先生? バナナでテンション上がってるところ申し訳ないですけど、まだ話の途中じゃありませんでしたっけ?」「……あ」 すっかり幸せ気分になっていたところに水を差され、私はまた現実を思い出した。 水を差した張本人の原口さんは、クールにコーヒーをブラックで飲んでいる。チーズケーキにはまだフォークを入れていない。「――さっきの続きですけど。今日、潤に言われたんです。『あの後、〝もしあの時に別の選択肢を選んでたら〟って考えたことはないか?』って」「……? はあ。それがつまり、あの人のおっしゃる復縁ということですか?」 原口さんは曖昧(あいまい)に相槌(あいづち)を打った。そして、潤(アイツ)nの言わんとするところに彼なりの解釈をした。「もち
last updateLast Updated : 2025-03-07
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5・新たな一歩 Page5

「私もちょっと身勝手だったのかな、って反省しちゃいました。自分のことで精一杯で、アイツの気持ちなんか考えてる余裕なくて。――せめて、もっとキレイな別れ方ができてたらな……って」「それって……、まだ彼に未練があるってことですか? だから、復縁にハッキリと『No』が言えなかったんじゃ」 原口さんの問いに、私は首を横に振った。「違う……と思います。ただ……彼にちょっと申し訳ないなって思ってるだけです。私もオトナ気(げ)なかったのかな、って」 恋愛と作家の仕事は、両立できないこともない。まして、私は恋愛小説家である。この仕事に恋愛は切っても切れないものだ。 でも、二年前の私は作家デビューしたばかりで、大学の勉強とバイトと執筆のことでもういっぱいいっぱいで、はっきり言って潤のことにまで構(かま)っている余裕なんてなかった。 潤とやり直すのをためらっている理由は、原口さんが――好きな人がいるからだ。「それは仕方ないですよ。作家になった人なら誰でも通る道です。だから先生も、そんなに責任を感じる必要は――」「ヘンな慰(なぐさ)めならいりません。余計に惨(みじ)めになるじゃないですか……!」 彼なりの慰めの言葉を、私は遮った。SならSらしく、もっと厳しいことを言ったり罵倒してくれた方がよかったのに。中途半端な優しさは、却って傷付く。――ましてや好きな人からの慰めは。「……すみません」「いえ。私の方こそゴメンなさい。今のはただの八つ当たりです」 ……ダメダメ! 今日の私は本当にどうかしてる。潤とのことは、原口さん(この人)とは何の関係もないのに八つ当たりしちゃうなんて。「先生、とりあえずパフェ食べて気持ちを落ち着けて下さい。……溶けちゃいますよ?」「はい、……そうですね」 私は素直に頷いた。彼の優しさが、下手(ヘタ)な慰めじゃないと分かったから。「――美味(おい)しいなぁ,コレ」 サクランボの甘さで、ささくれ立っていた気持ちが少し解(ほぐ)れた気がする。「スイーツを頬張(ほおば)ってる時の先生って、可愛いですよね。〝女子〟って感じがして」「……へっ?」 原口さん、今〝可愛い〟って言った!?「なんかすごく幸せそうな顔して食べてるので、可愛いなって」「……だって女子ですもん」 思いがけない殺(ころ)し文句(もんく)にキュンとなった私は、照れ隠
last updateLast Updated : 2025-03-07
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5・新たな一歩 Page6

「あの……、原口さん。つかぬことお訊きしますけど」「はい。何でしょうか?」「あなたから見て、五歳年下の女性ってどんな風に見えますか?」 私はスプーンを止め、彼の顔をじっと見つめながらおずおずと訊ねた。――さすがに目を見ては照れ臭すぎる。「それって……先生のことですか?」「ちっ、違いますっ! あくまで広い意味で訊いてるだけですから!」 思いっきり図星をつかれ、私は慌ててごまかした。ここは、身近にサンプルがいないから、今後の創作活動の参考までに……ということにしておきたいところ。もちろん、それはただの建前(たてまえ)だけれど。「う~ん……、それは人にもよるんじゃないですかね」「ですよねえ」 すでにチーズケーキを食べ終えていた原口さんは、コーヒーを飲みながら澄(す)ました顔で答えた。 彼の意見はごもっともだ。人は育った環境や周囲の人によって、その人となりも変わる。年齢だけで一概に「こうだ」とは言えないのかもしれない。「ちなみに私は……、どうですか?」「なんだ、やっぱりご自身のことなんじゃないですか。そうじゃないかとは思ってましたけど」「…………」 思わず言葉を失う私。パフェをつっつくのを再開したばかりで、スプーンをくわえたまま固まってしまった。……さすがはSの原口さん。そう来たか。「そうですね……。先生は責任感が強いし、自立心も強い。それはこれまで、色んな経験を積んできたからだと思います。それこそ、先生が立派な大人の女性だという何よりの証明だと思いますよ」「そ……そうですか」 子供扱いされるかもと思っていた私は、それを聞いてまたキュンとなった。パフェを食べる手も、自然と早くなる。「好きな人がいらっしゃるんでしたっけ? その人は先生のこと、ちゃんと〝女性〟として見てくれてると思いますか?」 ……どうして覚えてるの、それ? あの時はキャラが壊れるほど酔っ払ってたのに。 でも、「それはあなたのことだ」って言うわけにもいかなくて。「はい、……多分。彼は優しい人だし、私のことをちゃんと見てくれてるから」「そうなんですね……」 それとなくニュアンスだけで伝えると、彼は納得してくれたみたいで、それ以上の詮索はしないでくれた。 ――そういえば私、さっきから自分のことばっかり喋ってるじゃん! そう気づいた私は、気持ちを切り換えるためにお冷や
last updateLast Updated : 2025-03-07
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