クローゼットから着替えとバスタオルを出して、眠っている原口さんを起こさないようにリビングを横切り、バスルームに向かう。一応脱衣スペースもあるし、スライドドアで隔(へだ)てられてはいるけれど。男性(それも彼氏じゃないけど好きな人)がそのドアの向こうで寝ている中で裸になるのはちょっと勇気がいる。 ――ほんの少しだけ抵抗を感じながらも服を脱ぎ、シャワーを浴びてサッパリしてから部屋着を着て、髪をドライヤーで乾(かわ)かして部屋に戻る。 でもベッドには入らず、向かったのは仕事スペースの机。……の上にある、白いノートパソコン。 以前、原口さんに話した〝バイトのためのパソコンの練習〟は、今や毎晩の日課になっている。本業である執筆の仕事がない時はもちろんだけど、本業の合間にも少しずつだけでも続けている。 Word(ワード)を起動させ、指をポキポキ鳴らしてからキーボードを叩き始めた。右手一本でならどうにできるようになったタイピングだけれど、左手の指まで動かそうとすると、どうにも思うように動いてくれなくて困る。 そして、キーボードと格闘(かくとう)すること約一時間ほど――。「あ~もう! また指つった! どうしてここで指もつれるかなぁ!? あ、そこ違う!」 変換を間違えたり、別のキーを押してしまったりして、一人でボヤき続けていると。「――先生? パソコンの特訓してたんですか?」「はい、……ってうわっ! 原口さんっ、いつの間に!?」 後ろから声がして、振り返った私は思わず飛び上がりそうになった。「えーっと、十分くらい前から? あまりにも真剣(しんけん)そうだったんで、おジャマしちゃ悪いかな、と思って声かけなかったんです」 ……十分前!? ということは、私のボヤきを全部聞かれていたってことだ……。「ゴメンなさい。私のボヤき、うるさくて目覚(さ)めちゃいました? それとも部屋の照明が眩(まぶ)しかったとか?」 彼が目を覚ました理由がそのどちらかだったら、どちらにしても私のせいだ。……けれど。「いえ、先生のせいじゃないです。たまたま喉(のど)が渇(かわ)いて目が覚めただけですから」「……あー、そうなんですね」 そりゃ、下戸なのにあれだけアルコールを摂(と)ったら喉も渇くでしょうよ。「それじゃ、何か飲み物淹(い)れてきますから。リビングで待ってて下さい」
Last Updated : 2025-03-06 Read more