Semua Bab 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Bab 31 - Bab 40

129 Bab

2-15 琢磨と明日香 1

モルディブ時間の午後8時—―翔のスマホが鳴っている。部屋にいた明日香が気付き、手に取った。「誰かしら……あら?」着信相手は琢磨からだ。早速明日香は電話に出ることにした。「はい、もしもし」『もしもし…って明日香ちゃんか?!』「ええそうよ、何? 仕事の話かしら?」明日香はベッドの上でワインを手に取ると優雅に飲んだ。『いや……別にそういうわけじゃないが……。翔はどうしたんだ?』「シャワーを浴びに行ってるわ」『そうか。という事は食事は済んだのか?』「ええ、そうよ。今日はモルディブでも有名なレストランに行ってきたのよ。やっぱりこの国の魚料理はおいしいわね」明日香はその時の事を思い出し、笑みを浮かべる。『ああ、そうかい。それは良かったな』電話越しに琢磨のイラつきを感じとる明日香。「あら、何よ。随分イラついているじゃない? さては私達だけモルディブで羽を伸ばして自分だけは日本で仕事をしているから、八つ当たりでもしてるのかしら? なら貴方も来月休暇を取ってここに来ればいいじゃない。海は綺麗だし最高よ?」そしてもう一杯、ワインを飲み干す。『おい……明日香ちゃん。もしかして酒でも飲みながら話してるのか?』「あら、良く分かったわね?」『当り前だろう? さっきから会話の合間合間に何か飲み干す音が聞こえてくるんだから……おい、電話中に酒はやめろよ。気が散る』「ほんとに琢磨って昔から遠慮なしにずけずけと言いたい事言ってくれるわね? この私にそんな口聞くの貴方くらいよ?」『おお、そうかい。それは良かったな? 明日香ちゃんに物申せる人物がいてさ』「……切るわよ? 何よ。文句を言う為にかけて来た訳?」明日香はムッとして通話を切りかけ……。『おい、待てよ! おかしいだろう? そもそも俺は明日香ちゃんの携帯じゃ無くて、翔の携帯に電話してるんだぞ? 勝手に人の電話に出て、挙句に切ろうとするなんて滅茶苦茶な話だろ?』「……それじゃ、何の為に電話してきたのよ」すると、はああ~と電話越しに琢磨の溜息をつく声が聞こえてきた。『ああ……もういいや、電話の相手が明日香ちゃんでも』「何よ? 私でもいいって?」『いいか? 俺は朱莉さんの事で電話をかけてきたんだ』朱莉と聞いて、明日香の眉がピクリと動く。「な、何よ。私はちゃんとやるべきことはやったわよ? 彼女の
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2-16 琢磨と明日香 2

『何だ……随分悔しそうにしているみたいじゃ無いか? 朱莉さんを困らせる事ができなくてそんなに残念か?』「な、何言ってるの? そんなはず無いでしょう!?」図星を指された明日香は強気な態度で胡麻化す。『おまけに自分達だけはファーストクラスで彼女はエコノミーか。せめてビジネスクラス位は考えてあげなかったのか?』「そ……そんなの、取れなかったからよ!」『嘘つくなよ。知ってるんだぞ? 鳴海グループの御曹司なんだからVIP待遇で飛行機の座席くらい簡単に抑えられるのは。どうせ彼女は庶民なんだから……とでも思ったか? それとも名ばかりとは言え翔の妻だから彼女が気に入らないか? もしかして朱莉さんに嫉妬してるのか? でもそれはおかしな話だよなあ? 彼女の方がずっと弱い立場なのに……』明日香は痛い所を突かれて、言葉を無くしてしまった。嫉妬? まさか……本当に嫉妬してるのだろうか? 明日香は頭を押さえた。『なんだ図星か? まあ、別にいいさ。俺が電話をかけてきたのは、そんな事を言う為にかけたんじゃない。だって今更言っても始まらないことだしなあ? そんなことよりも知ってるか? 朱莉さんがホテルに着いた途端に高熱で倒れたのは?』「え? 何よそれ……?」そんな話は初耳だ。明日香は受話器を耳に押し付けるようにして琢磨に尋ねた。『そうか……やはり知らなかったのか。翔には昨夜電話入れたんだけどなあ。朱莉さんが高熱で倒れたからホテルに様子を見に行ってやれって。明日香ちゃんにはそのこと伝えなかったのかよ?』「何も聞いてないわよ! って言うか……何故日本にいる貴方がそんな事知ってるのよ?」再び興奮し始めた明日香は声を荒げる。『おい、だから耳元で大きな声を出すなって言っただろう? ちゃんと聞こえてるから普通の大きさで話せよ』「わ、分かったから話しなさいよ」『現地ガイドの女性から連絡があったんだよ。朱莉さんの具合が悪そうだから様子を見に行ってあげるように伝えてくれって。だから俺は翔に連絡をいれたんだけどなあ……』「!」その時、明日香が息を飲む気配を琢磨は電話越しに感じた。(おいおい……まじかよ……)琢磨は溜息をつくと言った。『その様子だと何か心当たりありそうだな? さては止めたか? 朱莉さんの所へ行こうとした翔を……』「だ……だってそうでしょう!? この旅行は……
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2-17 明日香の思惑 1

翌朝――「う~ん……」 朱莉はベッドの中で大きな伸びをした。エミのお陰で朱莉はすっかり熱も下がり、体調は回復していた。ホテルに着いてから1度もシャワーを浴びていなかった朱莉は着替えを用意するとバスルームへと向かう。「ふう~。気持ち良かった……。それにしてもここへ来てから殆ど食事していなかったから体重随分減っちゃったみたい」朱莉は溜息をついた。先ほどバスルームにある鏡を見たとき、あばら骨が浮いているのを見て衝撃を受けてしまった。「今日は何か栄養のある食事をしないとね」――コンコンその時、部屋のドアがノックされた。「え……? 誰だろう?」恐る恐る部屋のドアを開けるとワゴンを押したホテルの女性従業員が立っていた。朱莉を見つめ、片言の日本語で話し始めた。「オハヨウゴザイマス。具合はイカカデスカ?」「あ、もうお陰様ですっかり良くなりました」ペコリと頭を下げる。「コチラ、ルームサービスデス」女性はワゴンを押して部屋の中へと入って来ると、備え付けのテーブルにステンレス製の蓋が付いた大きなトレーを置いた。「食事がオワッタラ、ワゴンの上にトレーヲ乗せてロウカに出して置いて下さい」女性は会釈すると部屋から出て行った。「え……? ルームサービス? 確かこのホテルは自分達で1Fフロアのレストランへ行くんじゃなかったっけ?」朱莉は首を傾げたが、エミの顔がふと頭に浮かんだ。そうだ、きっとエミのお陰かもしれない。彼女がルームサービスを手配してくれたのだ。「後でお礼言わなくちゃ」朱莉はトレーの蓋を開けた。すると、まだ食事は出来立てだったのだろう。熱々のオムレツにボイルしたウィンナー。ベーコンにポテトサラダ、そして数種類のテーブルパンにオニオンスープ。アイスコーヒーまでセットでついている。「うわあああ……美味しそう!」思わず感嘆の声を上げた。「嬉しいな。モルディブに来てフルーツ以外の初めての食事だから。いただきます」朱莉は手を合わせると、まずはオムレツを口に入れる。「おいしい! 流石ホテルの食事!」ほぼ2日ぶりの食事と言う事で、朱莉はあっという間に間食してしまった。食べ終えたトレーをワゴンに乗せて、廊下に出すと早速エミにメッセージを送ることにした。『おはようございます。お陰様ですっかり具合が良くなりました。ルームサービスをわざわざ頼んでいた
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2-18 明日香の思惑 2

丁度、その頃――「そう言えばね……昨夜、琢磨から連絡がきたのよ。朱莉さん、具合が悪かったんですって?」朝食の席で明日香は翔に尋ねた。「え? 琢磨から電話があったのか? いつ?」「貴方がシャワーを浴びていた時よ。琢磨からだったから私が出たの」「あ、ああ……。そうだったのか。それで琢磨は何て言ってた?」「ええ。昨夜の話では、朱莉さんが個人的に頼んだガイド兼通訳の人が朝朱莉さんを見舞ってあげたらしいわ。フルーツを差し入れしてあげたら喜んでいたって。そのガイドの女性が帰る頃には大分具合が良くなっていたそうよ。良かったじゃない。親切なガイド女性に巡り合えてね」ツンとした様子で明日香はそれだけを話すとミネラルウォーターを飲み干した。他にも色々琢磨には朱莉の事で責められたが、思い出したくも無かったので明日香は黙ることに決めたのだ。「……」一方の翔は明日香の話を聞いてから難しそうな顔で黙り込んでいる。その様子を見て明日香は眉を顰める。(まさか、朱莉さんのことを考えているのかしら? だとしたら許せないわ。私が目の前にいるのに他の女のことを考えるなんて)「ねえ、翔。何を考えているの? ひょっとして朱莉さんのことなんじゃないの?」念の為に明日香は尋ねてみたが、翔の答えは明日香の思っていた通りの答えであった。「あ、ああ。朱莉さん、今朝はもう体調良くなったかなと思って。ごめん、明日香の前でこんな話して。忘れてくれ」謝られても明日香は翔が朱莉のことを考えていたと言われるだけで、どうしようもない嫉妬にかられてしまう。そこである考えが浮かんだ。朱莉に嫌がらせをする最高の考えが……。(そうよ、翔がいけないのよ。私はちっとも悪くない……)「ねえ、翔。朱莉さんの具合が気になるなら連絡入れてみなさいよ」明日香の急な提案に翔は目を見開いた。「え……? い、いいのか?」「いいに決まってるじゃない。だって高熱を出したんでしょう? 今の体調が気になるのは私も一緒よ。それで、もし朱莉さんの具合が良いなら3人で一緒に出掛けましょうよ。おじいさまにモルディブに行ってきたことを証明するためにも写真があった方がいいでしょう?」「確かにそうだな。ありがとう、明日香」翔は嬉しそうに笑った。明日香のその裏に隠された本心を知ることもなく――****バルコニーで海を眺めていた朱莉の元
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2-19 明日香の思惑 3

「おはようございます。翔さん、明日香さん。本日はお誘い頂き、ありがとうございます」朱莉は翔と明日香が滞在しているホテルのラウンジで、既に到着していた2人に丁寧に頭を下げて挨拶をした。2人が宿泊しているホテルは本館というだけあって、朱莉が宿泊しているホテルとは雲泥の差があった。(すごい……本館と別館というだけで、ここまで違いがあるなんて。それにしてもなんて凄いホテルなんだろう)朱莉はそのホテルのあまりにも豪奢な造りに目を見張っていた。朱莉の今日の服装は大きなアジサイの花柄のノースリーブの膝下のワンピースに薄手のカーディガンを羽織った服装である。一応、モルディブではどのような服装をしているのか、ネットで検索して吟味して買った服であった。一方の明日香は真っ赤なノースリーブのロング丈のフレアーワンピースにミュール、頭には大きなサングラスを乗せている。そして翔はTシャツに短パンといったラフなスタイルをしていた。(うわあ……。いつもスーツ姿しか見ていなかったから、こんな姿の翔先輩を見る事が出来るなんて。恰好いい……)朱莉は一瞬顔が緩み、頬が赤くなりそうになったがこの2人の前では絶対にそんな姿を見せる訳にはいかない。必死で平常心を保った。「おはよう朱莉さん。身体の調子はもう治ったのね? 良かったわ。それにそのワンピース、すごく素敵じゃない。ね? 翔」明日香はソファに座りながら、さり気なく翔の腕に触れる。「おはよう。朱莉さん、うん。その服装、とてもよく似合っているよ」翔は笑顔で答える。朱莉はその言葉に頬が熱くなりそうだったが、その気持ちを押さえる。「ありがとうございます。明日香さんも翔さんも素敵です」「あら、ありがとう? さて、それじゃそろそろ行かない? 翔」「ああ、それじゃ行こうか?」翔と明日香が立ち上ったので、朱莉は尋ねた。「あ、あの……行くって……今日はどちらへ行くのでしょうか?」すると明日香が答えた。「フフフ……驚くわよ。今日はね、プライベートで水上飛行機を手配しておいたのよ。それに乗ってモルディブの島めぐりをするんだから。空から見る島の景色は最高なのよ?」「ああ、明日香が手配してくれたんだ。それじゃまずはヴェラナ国際空港へ行こうか?」翔が朱莉に声をかけた。「あの……私、何も特に荷物とか持って来ていないんですけど……大丈夫でしょう
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2-20 明日香の思惑 4

 高校を半年も経たないうちに退学せざるを得なかった朱莉は、はっきり言えば学力に欠けていた。中退してからはずっと働き詰めで勉強等する時間もお金の余裕すら無かった。今、通信教育で高校卒業資格を手に入れる為に一生懸命勉強をしてはいるが、それでも英語力だって中卒程度のレベルしか無い。一方、あの2人は素晴らしい学力も備え、聞いた話によると明日香も翔も英語だけでなく、フランス語と中国語も堪能らしい。 そう、翔と明日香に恥をかかせない為にも……自分は常にあの2人からは距離を置いておいた方が良いのだ…。朱莉はそう感じていた。 やがてパイロットとの話が終わったのか、明日香が朱莉の方を向いて手招きをしてきたので、2人の元へ向かった。「どうして、あんな離れたところで待っていたんだ?」翔が朱莉に尋ねてきた。「はい……。私は英語が話せませんのでパイロットの方に何か話しかけられても答える事が出来ないので、離れた場所に立っていました」「何だ。それ位の事別に気にする事じゃないのに。質問されたら俺が通訳を……」翔がそこまで言いかけた時、明日香がその上から言葉を重ねてきた。「ええ、そうね。朱莉さん。高校の通信教育も大事だけど、一応書類上とはいえ、鳴海家の家族になった以上、最低でも英語くらいは話せるようにならないと。努力を怠っている人間に見られるわよ?」「は、はい……すみません……」顔を赤くして明日香に謝る朱莉を見て、さすがに翔はまずいと思った。「お、おい……明日香。今の言い方は幾らなんでも……」「何よ? 翔だって、今後夫婦で呼ばれるパーティーとかにいずれは出席しなければならなくなる時がくるのよ? 海外の取引先の家族とだって会う機会があるでしょう? 仮にも鳴海グループの副社長の妻が英語も話せないとしられると、恥をかくのは翔、貴方なのよ? 私は……2人の為に言ってるのに……」明日香が涙目になってくるのを見て、朱莉は焦った。「す、すみません! 全ては私の勉強不足がいけなかったんです! 日本に帰国したら英会話の勉強も頑張ります。明日香さんのお陰で自分の今の立場が良く理解する事が出来ました。ありがとうございます」朱莉が丁寧に頭を下げるのを見て、翔は少しだけ胸が痛んだ。(俺が余計な事を言ったばかりに……。もう本当にこれ以上朱莉さんを構うのはやめておこう。そうしないと明日香の朱
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2-21 明日香の思惑 5

 明日香の企画した島めぐりツアーはそれは素晴らしいものであった。手配した水上飛行機はVIP用に内部を改造されたもので、座席は広々とした皮張りののソファにテーブルセットが置かれている。ソファはベッドにする事も可能となっている。TVやWi-Fi設備も整い、機内に置いてある冷蔵庫には十数種類のアルコールまで置かれていた。「今から私たちはバア環礁の島に行くのよ。そこでシュノーケリングをする予定だから、アルコールはやめておいた方がいいわね」明日香が翔に話しかけているのを隣の席で聞いていた朱莉が尋ねた。「あの……今日はシュノーケリングをする予定だったのですか?」「ええ、当然じゃない。モルディブまで来てシュノーケリングをやらないなんて話にならないわ」実は2人には内緒にしていたのだが、まだ朱莉は体調が万全とは言えない状態であったのだ。微熱も少しあるし、ましてやシュノーケリング等やった事もないのに、今の自分の身体では出来るはずもない。「あ、あの……。私は病み上がりですので、シュノーケリングはどうぞお2人で行ってきて下さい」「あら、そうなの? だってさっき電話ではすっかり良くなったと言っていたじゃないの?」不機嫌そうな顔で明日香が言うが、しかし、そこを素早く翔は止めた。「まあ、いいじゃないか。考えても見ろ。昨日まで熱があったんだ。しかもなれない海外だし……無理してまた熱がぶり返したら大変だろう? 朱莉さんの言葉に甘えて2人でシュノーケリングをしよう。……悪いね、朱莉さん」翔はチラリと朱莉を見る。「いいえ。私の事はお構いなく。潜らなくても綺麗な海を見れるのですから、私はそれだけで十分ですから」「そうね。それじゃ貴女は陸で留守番していてちょうだい。そうだわ! 島に降りたらまず記念写真を取らなくちゃね。おじいさまにちゃんとモルディブへ行ったことを証明する写真が必要だから」  **** それから約40分かけて、水上飛行機は バア環礁の島に着水した。「うわー、やっぱり素敵な場所ね。青い海に白い砂浜……」飛行機から降り立つとすぐに明日香は感嘆の声を上げた。「ああ、本当に美しい場所だな」翔は明日香の肩を抱き、愛おし気に見つめている。そんな2人の仲良さげな姿を見る度に、朱莉の胸は何かに刺されるかのようにズキリと痛んだ。翔が明日香に向けるあの視線は、一生自分が得る
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2-22 明日香の思惑 6

「お、おい! 明日香! 一体、なんて写真を朱莉さんに取らせるんだよ!」翔は顔を真っ赤にして明日香に抗議した。「あら。別にそれくらい、いいじゃないの。仲の良いカップル同士ならキスしてる写真の1枚や2枚どうって事無いのよ?」「そんな事言うけどな……朱莉さんにあんな写真撮らせるなんて……」そこで朱莉は慌てて首を振った。「あ、あの! 私のことなら気にしないで下さい! た、確かに多少は驚きましたが……そ、その……素敵な写真を撮る事が出来ました……」最後の方では朱莉の声が消え入りそうになっていた。これを明日香と翔は朱莉の照れからきているのだとばかり思っていたのだが、それは大きな間違いであった――「それじゃ、翔。行きましょうか?」ヤシの実をデザインしたビキニの水着姿になった明日香が同じく水着姿の翔に声をかけた。「ああ、分かったよ」「それじゃ、朱莉さん。2時間位楽しんで来るから、貴女は何処かで時間を潰して置いてちょうだい」「はい、分かりました」朱莉が返事をすると、翔はそれじゃよろしくと簡単に朱莉に告げただけで振り向く事もせず、2人で海へと向かって行った。2人の背中を見送り、やがて見えなくなると朱莉は溜息をついた。「まさか……あんな写真を撮ることになるなんて……」朱莉は桟橋に座り込むと膝を抱えて美しい景色を眺めた。なのに。思い浮かぶのは先ほどの翔と明日香のキスシーンの映像ばかりだ。そして気付けば朱莉の目には涙が浮かんでいた。(馬鹿だな……私。明日香さんと翔先輩が恋人同士なのは知ってるのに……2人がキスしているのを見せられただけで……こんなにショックを受けるなんて……私……それだけ翔先輩の事が好きだったんだ……)朱莉は抱えた膝の上に自分の頭を埋めた。だが、朱莉が傷ついていたのはそれだけでは無い。ホテルを出た頃から翔が何となく以前より冷たい態度を取るようになったのも朱莉の心を傷つけるには十分だった。 翔は明日香の風当たりが朱莉に強く向けられるのを防ぐ為にわざと素っ気ない態度を取るように決めたのだが、そんな翔の考えが朱莉に伝わるはずもなく、ますます朱莉の心は傷付いていく。ぼんやりと海を眺めていたが、やがて朱莉は立ち上がった。(こんなに綺麗な場所なんだもの。もう二度と来れないだろうから、ちゃんと目に焼き付けておかないとね) 朱莉はスマホを取り出すと、
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2-23 明日香の思惑 7

朱莉が再び先程の場所へ戻っても、未だに明日香たちが戻ってくる気配は無い。(この先どうしようかな……)この島は飛行機の上から見た島々の中では比較的大きい島の様で、ビーチ沿いには水上ヴィラが立ち並んでいる。(海の上に立っているなんて素敵なホテルだな……。もし、この契約結婚が終わって、お母さんも丈夫な身体になれていたら一度二人で泊まってみたい)そんな事を考えていると、ようやく明日香と翔が帰って来た。明日香はかなりハイテンションになっており、大きな声で騒ぎながら翔の腕にしっかり絡め、こちらへ向かって歩いてくる。「お待たせ、朱莉さん」「お帰りなさい、お2人供。どうでしたか? シュノーケリング楽しめましたか?」「ああ。そうだな」翔は相変わらず朱莉と目を合わそうとせずに素っ気なく返事をする。その様子を何故か明日香は満足そうに見て、口元に薄っすらと笑みを浮かべると朱莉に向き直った。「シュノーケリング、最高だったわ。海は綺麗だし、魚の群れは可愛かったしね~。朱莉さんも一緒にやれば良かったのに。ね、翔もそう思わない?」明日香は翔にしなだれかかる。「あ、ああ……。でもやるかやらないかは本人の自由だから、俺達がどうこう言うべき事では無いと思うけどな」翔は朱莉の方を見向きもしない。(翔先輩……)朱莉は悲しい気持ちを押し殺し、笑顔で言った。「私はこの素敵な景色を見れただけで充分楽しめましたから。それに、あそこに立ち並んでいる水上ヴィラもとても素敵ですね。外側から少しだけ見たんですけど、海の上にホテルが建っているなんて驚きました」「あら、そうなの? 知らなかったのかしら? まあ貴女じゃ、無理ないわね。そうね……空き部屋があれば泊まれない事も無いんだけど。でも難しいわね、きっとこの時期は」明日香は肩をすくませる。「……それなら食事だけでもこのヴィラのレストランで食べて行こう」翔が明日香を見つめた。「あ! そうね。それがいいわ。ついでにシャワールーム借りられないかしら~」明日香がチラリと翔の方を見た。「よし、分かった。それも合わせて聞いて来るよ」翔がヴィラの方へ向かって歩いて行くと、明日香が尋ねてきた。「ねえ? 朱莉さん……。貴女、ひょっとして何か翔を怒らせる事したのかしら?」「え!?」突然不意を突かれた質問に驚く朱莉。「い、いえ……。私は別
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2-24 明日香の思惑 8

 明日香と翔がホテルのシャワールームを借りて出て来るのを朱莉はホテルのラウンジでおとなしく待っていた。このホテルは水上ヴィラだけあって、訪れている客は全てカップルだらけである。(他の人達から見たら私達って完全におかしな組み合わせって思われてしまうんだろうな…)朱莉は心の中で小さなため息をついた。何気なくスマホを手に取ったその時、メッセージが入っていることに気が付いた。開いて見ると2件メッセージが入っており、1件はエミ、そしてもう1件は琢磨からであった。(え……? 九条さんから? どうしたんだろう? 何かあったのかな?)わざわざ琢磨から、メッセージが入るとは……。何か急ぎの用事なのかもしれない。そこで先に琢磨のメッセージから読むことにした。『こんにちは、朱莉さん。御加減はいかがでしょうか? こちらから紹介させていただきました現地ガイドの女性から体調を崩されたと連絡を受けました。その後のお身体の具合はいかがでしょうか? 何かお困りのことがあればいつでも連絡を下さい。出来る限り対処させていただきます』「九条さんて相変わらず、真面目な人だな。取りあえず、返信しておかないと」『こんにちは。おかげさまで体調は殆ど良くなりました。今は明日香さんと翔さんに誘われて、モルディブの島めぐりをしています。これから水上ヴィラのレストランで食事をするところです。気に掛けていただいて本当にありがとうござます』メッセージを打ち込んで、送信すると今度はエミからのメッセージを開いた。『アカリ、具合はどう? 楽しんでる? 明日はアカリの為にとびきりのガイドをしてあげるから楽しみにしていてね。返信はしなくて大丈夫よ。都合が悪くなった時には連絡いれてね』「エミさん……」朱莉はギュッとスマホを握りしめて思った。明日香と翔の側にいるのは辛いけど、自分は周りの人々に恵まれていると感じた。それからさらに10分程待っていると、明日香と翔が腕を組みながらこちらへ戻って来る姿が目に入った。2人仲良く腕組みをして歩く姿は正に美男美女の誰が見てもお似合いのカップルそのものである。「お待たせ、朱莉さん」明日香はすっかりご機嫌な様子で朱莉に声をかけてきた。「すまない、待たせたね」翔も言いながらソファに座るが、そこには何の感情も伴ってはいない。「ああ、そうだ。朱莉さん! 素晴らしい話があるのよ
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