「お荷物は全てお部屋に運んで置きました。こちらがお預かりしていた部屋のキーでございます。お受け取り下さい」琢磨は朱莉に部屋の鍵を渡してきた。「は、はい……。どうもありがとうございます……」(一体九条さんは急にどうしたんだろう? さっきまではあんなに親し気な態度を取っていたのに……)「それでは私はこれで失礼いたします。副社長によろしくお伝え下さい。それでは私はこれで失礼させていただきます」「分かりました……」戸惑いながら朱莉は返事をした。(副社長によろしく等、今迄一度も言った事が無かったのに……)琢磨はペコリと頭を下げると足早に去って行った。その後ろ姿は……何故か声をかけにくい雰囲気があった。(後で九条さんにお礼のメッセージをいれておかなくちゃ……)京極は少しの間無言で琢磨の後ろ姿を見ていたが、やがて口を開いた。「彼は朱莉さんの夫の秘書だと言っていましたよね?」「はい、そうです。とてもよくしてくれるんです。親切な方ですよ」「だからですか?」「え? 何のことですか?」「いえ。今日の朱莉さんは今迄に無いくらい明るく見えたので」京極はじっと朱莉を見つめる。「あ、えっと……それは……」(どうしよう……。京極さんにマロンを託したのに、今度は新しく別のペットを飼うことになったからですなんて、とても伝えられない……)その時京極のスマホが鳴り、画面を見た京極の表情が変わった。「……社の者から……。何かあったのか?」京極の呟きを朱莉は聞き逃さなかった。「京極さん。お休みの日に電話がかかってくるなんて、何かあったのかもしれません。すぐに電話に出た方がよろしいですよ、私もこれで失礼しますね」実は朱莉は新しくペットとして連れてきたネイビーの事が気がかりだったのだこの電話は正に京極と話を終わらせる良い口実であった。「え? 朱莉さん?」戸惑う京極に頭を下げると、足早に朱莉は億ションの中へと入って行った。(すみません……京極さん。後でメッセージを入れますから……)エレベーターに乗り込むと、朱莉は琢磨のことを考えていた。(九条さんはどうしてあんな態度を京極さんの前で取かな? もしかして変な誤解を与えないに……?だけど私と九条さんとの間で何がある訳でもないのに。でも、それだけ世間の目を気にしろってことなのかも。それなら私も今後はもっと注意しな
Terakhir Diperbarui : 2025-03-30 Baca selengkapnya