「あら、朱莉さん。もう上がって来たの? 随分早かったけどお風呂場掃除はしてくれたのかしら?」奥のリビングから明日香の声が聞こえてきた。「はい、明日香さん。御風呂場掃除してきました」朱莉がリビングを覗くと明日香は巨大シアターで何やら洋画を観ている最中だった。そして明日香は眠くなったのか欠伸をしながら言った。「朱莉さん。悪いけどベッドルームには貴女を入れる訳にはいかないのよ。何せあの場所は私と翔の特別な場所なんだから。リビングのソファはソファベッドにすることが出来るから、貴女はそこで寝て頂戴。布団なら用意してあるから」いちいち嫌みな言い方をして明日香は朱莉の反応を楽しんでいるような素振りを見せるが、朱莉は心を無にして耐えた。「有難うございます。それでは私はリビングで休ませていただきますね」朱莉は明日香から布団を借りるとリビングのソファをベッドに直し、電気を消して横になったがちっとも眠くは無かった。その時――リビングの隣の部屋のベッドルームから明日香の声が漏れてきた。「ええ……うん、大丈夫よ。……ふふ……ありがとう。愛してるわ翔」『愛してるわ翔』何故かその言葉だけ、朱莉の耳に大きく響いて聞こえた。朱莉はギュッと目をつぶり、唇をかみしめた。(隣のベッドルームで明日香さんと翔先輩は愛し合って……明日香さんは翔先輩との間に赤ちゃんが……)脳裏にモルディブで偶然明日香と翔の情事を見せつけられてしまったあの時の記憶が蘇り……朱莉は布団を被り、声を殺して泣いた――お願い、早く夜が明けて―と祈りながら—ー****—―午前1時 琢磨はホテルの部屋で1人、ウィスキーを飲んでいた。手にはスマホを握りしめている。「くそっ!」琢磨はベッドにスマホを投げ捨てると、グラスに注いだウィスキーを一気に煽った。本当なら今夜朱莉にバレンタインのお礼を電話で言うつもりだった。だが、朱莉は今明日香に呼びつけられて同じ部屋にいる。そんな状況では琢磨が電話を掛ける事は出来無かった。「全く……明日香ちゃんは何処まで朱莉さんを振り回すつもりだ……」琢磨はイライラしながら再びグラスに氷を入れるとウィスキーを注いで飲み干すと乱暴にテーブルの上に置いた。それにしても何故だろう。今夜は何かどうしようもないほどの胸騒ぎを琢磨は感じていた。子供の頃から琢磨は異様なほど勘が優れていた
Terakhir Diperbarui : 2025-03-28 Baca selengkapnya