Semua Bab 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Bab 21 - Bab 30

129 Bab

2-5 頼れない相手 1

翌朝――朱莉はスマホを握りしめ、重い足取りでパスポートセンターを出てため息をついた。どうせモルディブへ行くなら、いっそ一人で行きたかった。密かに朱莉は心の中で旅行に行けなくなることを期待していたのだが……。(この時期だから航空券等取れるとは思っていなかったのに……) 結局、昨日朱莉は明日香に説得されてやむを得ずモルディブへ行く事を承諾させられてしまったのだ。午前中の内にパスポートセンターに行って発行手続きを済ませれてくるように言われた朱莉は憂鬱な気持ちのまま手続きを済ませてきた。そしてその帰り道、明日香からモルディブへ行く飛行機の手配とホテルも予約することが出来たので必ず一緒に行くようにとのメッセージが送られてきたのだ。 翔からは現地に着いたら自由行動をして構わないと言われているが、英語もフランス語も話せないような自分が一人で行動する事等出来るのか不安だった。現地のガイドを雇う事は可能だろうか? 明日香に頼んでもそれ位一人でやりなさいと言われそうだし、翔に頼めば恐らく明日香に知れてしまうだろう。それに明日香の手前、翔に直接頼みごとをするのは良くない事をしている気分になってしまう。そうなると、思い浮かぶ相手は1人しかいなかった。「九条さん……あの人にお願いしてみよう……」朱莉はスマホをタップした―― 着信音と共に、琢磨のスマホにメッセージが届いた。いつものように翔のオフィスで仕事をしていた手を止めてスマホに目を通し、驚いた。(え? 朱莉さん……? 何故突然俺のスマホにメッセージを送ってきたんだ?)思えば朱莉とのメッセージのやり取りはPC設置の時以来、実に3カ月ぶりだった。琢磨は翔の様子を伺った。広々としたデスクの上に何台ものPCを並べ、画面を食い入るように見ている翔にスマホでメッセージが届いた様子は無かった。と言う事は翔には連絡せずに直接自分にメッセージを送ってきた事になる。(何か困ったこ事でもあったのだろうか? 翔にも相談出来ないような何かが…?)琢磨は翔に気づかれないように背中を向けるとメッセージを開いた。『お久しぶりです、九条さん。お忙しいところ、メッセージを送ってしまい、申し訳ございません。実はハネムーンと言うことで翔さんと明日香さんとの3人でモルディブへ行くことが決定しました。ただ、現地に着いたら自由に行動してよいと言われたの
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2-6 頼れない相手 2

その日の夕方。朱莉がPCに向かってレポートを書いているとスマホがなった。相手は琢磨からだ。「九条さん……。良かった……忙しい人だから今日中に連絡がこないと思っていたのに。それとも断りのメッセージなのかな?」若干の不安な気持ちを抱えつつ、朱莉はメッセージを開いた。『朱莉様。お返事が遅くなりまして、申し訳ございませんでした。本日、日本の代理店より現地のツアーコンダクターと連絡が取れました。その人物は現地在住12年目の日本人女性です。8/18~25日まで現地案内及び、通訳をお願いしました。料金はもう支払い済みですのでご心配なさらずにモルディブでの観光をお楽しみ下さい。滞在するホテル名が分かり次第、また私に連絡を下さい。どうぞよろしくお願い致します。PS:副社長には内緒で手配しましたので、ご安心下さい』(九条さん……)久しぶりに誰かに親切にしてもらって、朱莉は目頭が熱くなるのを感じた。本来ならこのようなことは翔に頼むべきなのに、頼みの綱の彼は明日香と通じ、彼に頼もうものなら全て明日香に筒抜けになってしまう。頼りたい相手に頼ることが出来ないことが、こんなにも不安な気持ちになるとは思わなかった。「でも、誰かに頼らなくても、1人で何でも出来るような人間にならなくてはいけないってことだよね?  だって翔さんと明日香さんとの間に赤ちゃん生まれたら私が一人で育てていかないとならないんだから。もっともっと強い人間にならないとね。そうだ、明日香さんに、どこのホテルに泊まるのか聞いておかなくちゃ」自分に言い聞かせると、朱莉は明日香にメッセージを送った――****―21時過ぎ「翔、朱莉さんがパスポート取得してきたわよ」会社から帰宅してきた翔にしなだれかかるように明日香が言った。「そうか。でも良かったよ。彼女が行く気になってくれて。これも明日香のおかげだな。ありがとう」内心、複雑な気持ちを抱えつつも翔は明日香にお礼を述べた。「いえ、どういたしまして。飛行機も無事とれたしね。やっぱりVIP扱いされていると、便利よね。私たちと同じ飛行機に搭乗することが出来たから」「そうか、彼女もファーストクラスに乗るのか?」翔の言葉に明日香は眉をひそめた。「え? 何言ってるのよ翔。彼女はエコノミークラスに決まっているでしょう?」「え……? 朱莉さんだけエコノミーに乗せるのか
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2-7 ハネムーン出発当日の会話 1

8月18日―― 今日からモルディブへ1週間の名目だけのハネムーンが始まる。朱莉は手元にある航空券を見てため息をついた。明日香からは現地のモルディブで集合しようと言われたが、そこは丁寧に断りをいれさせてもらった。その際に、言葉も話せなくて大丈夫なのかとか、海外旅行なんか貴女は行ったことは無いでしょう?等嫌味は言われたが……そこは黙って聞いていた。最近になって明日香の事が分かるようになってきたのだが、要は明日香の気に障らない態度を取っている限りは、特に嫌味を言われることも無いのだ。到着当日は現地に住む日本人ガイド女性が空港まで迎えに来てくれる事になっている。朱莉が個人的に現地のガイド兼通訳を雇っているのはもう知っているが、その女性が空港まで朱莉を迎えに来てくれているのが分かれば、きっと明日香の機嫌が悪くなるだろう。泊まるホテルは同じだが、明日香と翔は本館。そして朱莉は別館で、隣り合ったホテルとなっていた。現地集合と言われても何の意味もないことは朱莉には良く分かっていたので、事前に自分の方から一人で観光するので、二人で旅行を楽しんでくださいと連絡を入れておいたのだ。その際も嫌味に取られないように、慎重に文面を考えて、同じメッセージを2人同時に送ったのだ。その事をガイド女性に告げると、何と彼女から当日は空港まで迎えに行き、一緒に食事をしましょうと言われたのである。朱莉は貴重品を入れているショルダーバックから手帳を取り出した。そこには現地のガイド女性の名前、電話番号から、メールアドレス等が記載されている。この女性の名前はコジマ・エミという名前で、朱莉よりも10歳年上の36歳の女性。12年前からモルディブに住み、3年前に現地の男性と結婚したと、プロフィールには書いてある。彼女とはもうメールで何回も連絡を取り合っているので、準備していくべきもの等様々な情報を教えてもらった。彼女のおかげで朱里は迷うことなく旅行の準備を済ませることが出来たのである。「あ、そろそろ出なくちゃ」飛行機の便にはまだ4時間近く余裕があったが、慣れない空港であたふたしたくない朱莉は時間に余裕を持って出発することにしたのである。ガラガラと大きなスーツケースを引っ張って朱莉は億ションを後にした。****電車に乗り込むと朱莉は早速、翔と明日香にメッセージを送った。『今、電車に乗りました。念
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2-8 ハネムーン出発当日の会話 2

 その頃――翔不在のオフィスで琢磨は忙しそうに仕事をしていた。副社長である翔が不在の間は急を要する重要事項の書類などはオンラインでやり取りをし、彼の承認を得られれば、琢磨が決済の印を押す……等の重要な仕事も行っているので気が抜けない。「翔、このデータで間違いないな?」『ああ、問題ない。これでいこう」翔とオンラインで仕事のやり取りを行っていた時に、琢磨のスマホに着信が入った。『琢磨、今メッセージが届いたようだが、確認しなくていいか?」「ん? ああ、別にいいさ。今はお前と仕事している最中だし」『だが急ぎの要件だったら困るだろう? 俺に構わず確認しろよ』「分かったよ」翔に促されて琢磨はスマホを確認し……顔色を変えた。『何だ? 何かあったのか?』琢磨の変貌に気づいた翔は声をかけた。「……メッセージの相手は……朱莉さんからだった。」『何だ、そうだったのか。……珍しいな。お前にメッセージを送るなんて』「お前……明日香ちゃんと成田空港近くのホテルに昨夜から泊まっているんだよな?」『そうだ。明日香がそうしろって言うからさ。ホテルを手配したのも明日香なんだ』翔のいつもと変わらぬ口調に琢磨は苛立ちが募った。(……一体何なんだ!? 翔の奴め……!)「おい。翔」『な、何だ?』突如口調が変化した琢磨に戸惑う翔。「自分達だけ空港近くのホテルに前日から泊まって、朱莉さんだけ自宅から直接空港に向かわせたのか?……朱莉さんの事だ。きっとこの炎天下の中、重たいスーツケースを持って電車に乗っているに決まっている! 本当にお前は思いやりの心も無いのか? 自分達だけはファーストクラスに乗り、朱莉さんにはエコノミーを使わせるし!」最後の方は怒りの口調になっていた。しかし、それを聞いて驚いたのは翔の方だった。『え? 何だって!? そうだったのか? 明日香が朱莉さんの分もホテルを予約しておくと言っていたから、俺はてっきり……』「それで……明日香ちゃんは今そこにいるのか?」『いや、ホテルのカフェに今行ってるはずだが……』「そうか……」琢磨は溜息をつくと、自分の気持ちを告げた。「翔。お前が副社長ですごく忙しい身だって事位、秘書として働いている俺にはよく分かっている。だがな、これからは朱莉さんに関連することは明日香ちゃんに任せるな。いいか? ……これじゃあまり
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-07
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2-9 モルディブ到着 1

「朱莉さん……本当に一人でモルディブまで来れるだろうか? 同じ便なんだから空港で待ち合わせをしても良かったんじゃないか?」ここは成田空港のファーストクラスラウンジ。翔は明日香に問いかけた。「何言ってるの。ここの部屋を使えるのはファーストクラスに搭乗する人達だけっていうのは翔だって知ってるでしょう? それじゃ私たちにエコノミークラスの人達と同じ場所で待とうって言うの? そんなの嫌よ。あんな場所で待つなんて疲れるわ」フンと言いながら明日香はそっぽを向く。「いや、別にそんなつもりで言ったわけじゃないんだが……。それじゃ、明日香。お前だけここを使っているか? 俺は朱莉さんを……」すると突然明日香がヒステリックに叫んだ。「何よ! それって私よりも朱莉さんの方が大事だって言うの? だから彼女を選んで結婚したのね? 酷いわ……。翔が彼女と夫婦って事だけで十分私は苦しんでいるのに……そのうえ、こんな私を放っておいて、翔は彼女の元へ行くっていうの!?」目に半分涙を浮かべながら詰る明日香。「ち、違う。そうじゃないんだ……。ごめん、悪かったよ明日香。大丈夫、心配するな。俺が愛しているのは明日香だけだから……」人目も気にせず、ヒステリーを起こしている明日香を翔は抱き寄せて、背中を撫でながら落ち着かせる。明日香はここ最近情緒不安定気味になっている。もともと嫉妬心も独占欲も昔から人一番強かった明日香は、やはり書類上だけの夫婦となった朱莉に対して激しく嫉妬していた。いくら朱莉と翔が一切会う事も無く、またメッセージ交換も週に1度で、そのやり取りを明日香に見せている。(どうすれば明日香の不安な気持ちを払拭させる事はが出来るんだ? 将来的に明日香と結婚するために偽装妻を持ったのに、かえって明日香を苦しめているのだろうか……?)翔は明日香を抱き寄せながら心の中で深いため息をついた。(すまない、朱莉さん。無事にモルディブまで来てくれよ……)心の中で翔は祈った――**** 成田空港を出て、コロンボ経由。そして無事にマーレ空港へと約10時間のフライトで、ようやく地上に降り立つことが出来た朱莉は溜息をついた。「良かった……無事にここまで来ることが出来たわ」正直に言うと、コロンボを降りた時は不安でいっぱいだった。言葉も通じないような場所で乗り換え等出来るのだろうかと最初は不
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2-10 モルディブ到着 2

朱莉たちが泊まるホテルは空港がある島のホテルだった。「それにしても珍しいわね~。たいていは島の水上コテージに泊まるのが主流なんだけど、ホテルとはね……まあ、この島なら不便は無いから。それで選んだのかしら?」エミは車を運転しながら首を傾げる。「さあ……私からは何とも……」朱莉はほとんどモルディブの事を知らないので、曖昧な返事しかできない。そんな朱莉をチラリとエミはチラリと見る。「でも運が良かったわ~。ここはね、5月~10月が雨季なんて言われてるけど、今日は良く晴れているわ。滞在中はずっと晴れてるといいわね」「そうなんですか? それじゃ私、ほんとについていたんですね。お天気に恵まれたし、エミさんのように素敵な女性ガイドさんにも巡り合えたし」「あら、そう言ってくれると嬉しいわ」エミは軽快に笑う。「あ、アカリ。ホテルが見えてきたわよ」エミの指さす方角に海岸沿いに建つ白い壁が美しいホテルが見えてきた――**** フロントでエミがホテルの従業員と話をしている間、朱莉はホテルのロビーのソファに座り、ぼんやりと外を眺めていた。窓からは美しい海に白い砂浜が見える。とても素晴らしい景色ではあったが、朱莉の心は沈んでいた。(やっぱり何も連絡来ないんだな……。今頃あの2人はどうやって過ごしているんだろう……?)そんなことを考えていると、手続きが終了したのか、エミがこちらへとやってきた。「お待たせ、アカリ。……あら? どうしたの? 元気が無いようだけど大丈夫?」「え、ええ。大丈夫です。少し慣れない旅行で疲れただけですから」「そう……? それでこのホテルは朝食は出るけど、昼と夕食は食事が出ないの。一応ホテルには24時間空いているカフェがあるから、そこで軽食を取ることが出来るけど……どうする? 今夜は一緒にお店で食事しようと思っていたんだけど」「そうですか。でも……すみません。折角のお誘いなんですが体調が悪いので明日にしていただいてもいいですか? 今夜はホテルのカフェで食事しますので」「そう……? 分かったわ。お部屋はこの上の805号室よ。はい、これが部屋のカードキー」エミは朱莉にカードキーを渡した。「ありがとうございます」「それじゃ、明日10時に部屋に迎えに行くわね?」「え?」「あら、いやね。私は通訳だけど、ガイドでもあるんだから。観光案内し
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2-11 彼女の優先順位 1

朱莉は自分が宿泊する805号室に着くと、カードキーを差し込んで部屋の中へ入った。中は広々とした20畳ほどの部屋の間取りで大きなベッドが2台置かれている。掃き出し口の窓はバルコニーになっていて、そこから美しい海が見える。時刻は18時を少し過ぎたところで、日の入りが近いのか海にオレンジ色をした太陽が沈みかかり、空は美しい夕暮れ色に染まっていた。「うわあ……綺麗……」朱莉は少しだけその景色に見惚れ……やがて着替えもせずにベッドに倒れ込んでしまった。(おかしいな……さっきから身体が熱くて、頭が割れそうに痛い。風邪でも引いてしまったのかな……?)何とかベッドから起き上がり、持参して来た体温計を探し出すと、熱を計ってみた。やがてピピピピと検温が終わった事を知らせる音が鳴り、体温計の数値を見て驚いた。「え…嘘でしょう…?」何と朱莉の体温は38度5分をさしていたのだ。「そ、そんな……こんな所にきて風邪引いちゃうなんて……」熱もそうだが、それよりも深刻なのが割れそうな程の頭の痛みだった。朱莉は元々片頭痛持ちだったので、痛み止めを常時持参していた。ズキズキと痛む頭を押さえながら、何とかショルダーバックから痛み止めを取り出すと、買っておいたミネラルウオーターで薬を飲む。着替えをする気力も無かったので、取り合えず来ていた服だけを脱いで畳むと下着姿だけでベッドの中へ入った。ベッドの中で身体を丸めて痛む頭を押さえながら寝ようとしても、具合が悪すぎて眠る事ができない。朱莉はベッドの中で自分に必死に言い聞かせた。(大丈夫……さっき私が飲んだ薬は痛み止めだけど、解熱効果もある。きっとその内、熱も下がって身体が楽になって眠れるはず……)やがて暗い室内に寝息が聞こえ始めた。痛み止めが効いて来た朱莉がようやく眠れたらしく、スマホの着信音が鳴っているにも関わらず、深い眠りに就いている朱莉がそれに気づくはずも無かった……。 その頃――  朱莉とは違う本館のホテルに泊まっていた翔はトイレに行って来ると言って席を立ち、朱莉のスマホに電話を掛けていた。しかし何コール呼び出し音が鳴っても朱莉が電話に出る気配が無い。「どうしたんだ? 何故電話に出ないのだろう? ガイドの女性が空港に迎えに来ると琢磨が言っていたから彼女と一緒に食事でも楽しんでいるのか?」半ばイライラしながら翔は朱莉に
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2-12 彼女の優先順位 2

 祖父にいきなり明日香との関係性を咎められ、無理やり見合い話を持ち出された時。真っ先に思いついたのが相手に単価を払っての偽装結婚だった。月々、手当として破格の給料を支払い、必要に応じて妻を演じてもらい、別れる時はあっさり身を引いてくれる女性を雇えば良いのだと。まずこの話を最初に相談したのは言うまでもない、明日香だった。明日香にこの話をすると、彼女は突然激しく怒り狂い、家中のありとあらゆるものを破壊しつくした。だが翔の必死の説得により、ようやく応じた明日香と約束したのだ。絶対に偽装結婚をする相手は自分よりも外見が劣る女にしてくれと。 次に相談した相手は琢磨だった。てっきり彼も自分の意見に賛同してくれるかと思ったのだが、偽装妻の話をした時は顔色を変えて猛反対した。お前は相手の人権を踏み躙るのかと。お前が相手にする女性は血の通った人間だ。それなのに、そんな残酷な事をするのかと。だがその時は琢磨の話を鼻で笑い、嫌がる琢磨に無理やり偽装妻の人選をさせたのだ。そして選ばれたのが朱莉。地味な外見で派手な美人である明日香とは比較にならない存在だったのだが……実は彼女はその美貌をどんな理由があるのかは分からないが、自らの意思で隠していた。そしてその事を知った明日香はどんどん情緒不安定になってゆき、今では精神安定剤が欠かせないようになってしまった。こんな事なら最初から諦める前に、時間をかけて祖父の説得を試みるべきだったのだ。そうすれば明日香はこんな状態にならず、朱莉だって不当な扱いを受けるべき存在にはならなかったのだから――  酔って眠ってしまった明日香を背負い、部屋まで戻ってベッドへ寝かせた時、タイミングよく翔の携帯が鳴った。相手は琢磨からだった。「もしもし。どうしたんだ? こっちの時間ではまだ夜の8時だが、そっちはもう真夜中だろう? 何か急ぎの用事か?」『いや。別に急ぎの用って訳じゃ無い。朱莉さんはどうしてるかと思ってな』「どうしてるかと聞かれてもな……今日はまだ1度も彼女に会っていないんだよ」翔の言葉に琢磨から電話越しに呆れた声が聞こえてきた。『はあ? 翔……お前って奴は……ほんとに……!』「分かってる。朱莉さんには本当に悪い事をしていると心から反省している。だからさっきから、何度も朱莉さんに電話をかけても出ないんだ。恐らくはガイドの女性と
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2-13 優しさに触れて 1

翌朝―― 朱莉は酷い寒気と頭痛で目が覚めた。「参ったな……。体調良くなっているかと思っていたのに……」ため息をつきながら朱莉は寒さで身体を震わせた。寒い……ということは、これからもっと熱が上がるのかもしれない。おまけにシーツや布団が肌に擦れるとヒリヒリと痛む。この様子では今日中に体調が回復するとはとても思えなかった。「パジャマに……着替えなくちゃ……」何とか身体を起こすが、途端に激しいめまいが起こってベッドの上に倒れこんでしまった。(め、目眩……落ち着くのよ……)目を閉じて、目眩が治まるのをそのままの体制でじっと待つ。やがて、徐々に治まってきたので今度はゆっくり起き上がった。「うぅ……」とてもではないが、スーツケースからパジャマを探す気力が無かった。「何か部屋のクローゼットに……バスローブでも入っていないかな……?」ふらつく身体を奮い起こし、朱莉はクローゼットに向かった。震える手で扉を開けて中を覗くと、ハンガーにバスローブがかかっている。ワッフル時で手触りの良いバスローブ。これなら肌に擦れても痛くはないかもしれない。朱莉はバスローブに袖を通し、再びベッドに向かうと痛み止めを飲んだ。本当なら何か口に入れてから飲まなくてはならないのだろうが、あいにくこの部屋には何も食べ物が無いし、食欲すら無かった。(……こんなことなら……部屋に入る前に何か食べ物を買っておけば良かったな……)熱でズキズキ痛む頭を押さえながら、自分の熱くなった額に手を当ててため息をついた。その時、朱莉のスマホが鳴った。「多分……エミさんね……」気力を振り絞り、何とか朱莉は電話に出た。「はい、もしもし……」『おはよう、アカリ。……何だかすごく具合が悪そうだけど……もしかして風邪ひいちゃったの?』受話器越しからエミの心配する声が聞こえてくる。「はい……そうみたいです。それで申し訳ありませんが……今日はとても出掛ける事が出来ないので……ホテルで…休むことにします……」『風邪薬は飲んだの? 何か食べた?』「頭が痛いので……持ってきた痛み止めは……飲みました。…食事はとっていません……」『ええ!? そうなの!? 誰か様子見に来てくれたの?』「いいえ……? 誰も来ていませんけど……?」『……そう』(エミさん……どうしたんだろう?)エミの声に何か怒りというか、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-08
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2-14 優しさに触れて 2

ウトウトしていると、突然額にひんやりとしたものが乗せられて朱莉は目を開けた。すると心配そうに朱莉をのぞき込んでいるエミの姿があった。「……あ……エミさん……?」「ごめんね。起こしちゃったかしら? 熱があまりにも高かったから、冷やしてあげようと思って」「どうもありがとうございます……」「いいのよ、気にしないで。色々食べられそうなもの買ってきたのよ。部屋の冷蔵庫に入れておいたから食べてね。後、家からフルーツを沢山持ってきたの。昨日の夜から何も食べていないんでしょう? どう? 今食べられそう?」「はい……食べられそうです」朱莉はベッドから体を起こすとヘッドボードに寄りかかった。「それじゃ、ちょっと待っててね。すぐに持ってくるから」エミはいそいそと立ち上がると、部屋の奥にある冷蔵庫から皿にのった山盛りのフルーツを持ってきた。皿にはマンゴーやパッションフルーツ、バナナ、そして……。「あの……これは何ですか?」朱莉は皿の上に乗った緑色のごつごつした果実を指さした。「これはね、『カスタードアップル』っていう南国のフルーツよ。聞いた事無いかしら?」「はい……見るのも聞くのも初めてです……」「あら、そうなの? それじゃ早速食べてみてよ。すごく美味しいのよ?」エミは嬉しそうに笑うと身を取り出して、小皿に取ると朱莉に差し出した。「はい、食べてみて」「いただきます……」スプーンですくって口に入れた朱莉は目を見開いた。「美味しいです……不思議な味ですね?」するとエミは教えてくれた。「フフ……これはね、冷やして食べるとバニラアイスのような味になると言われているフルーツなのよ」「あ……なるほど。確かに言われてみれば、バニラアイスの味がします!」「あら、アカリ。少し元気が出てきたみたいね?」「はい。フルーツを食べたら元気が出てきました」「そう、良かった。まだまだあるから沢山食べてね?」「はい……でもそんなに一度に沢山食べられないので少しずついただきますね」エミはその様子を見て頷いた。「一応、我が家で常備している風邪薬を持ってきたから、後で飲んでね?」「はい。色々とありがとうございました。折角モルディブに来て風邪をひいてしまって不運だなって思っていましたけど、エミさんに出会えて本当に良かったです……。こんなに誰かに親切にしてもらうのは……久
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