All Chapters of 月神守は転生の輪舞を三度舞う: Chapter 11 - Chapter 20

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11.両手に花

 ……ぼんやりとする中、俺は周囲をゆっくりと見回していく。 白壁に銀の装飾壁時計、更には風景画が掛けられている。 天井を見て見ると硝子細工の豪華なシャンデリアが吊るされ火が灯されていた。 窓から外を見ると、闇夜に真ん丸お月様が輝いている。(何処かの城内みたいだけど? ザイアードの城内とは違う?)  というのも、ザイアード城内には赤い絨毯なぞ敷かれていなかったからだ。 部屋の広さは同じくらい広いけどね。(それはさておき、皆は何処だ? おいおい、実は今までのひっくるめて夢オチか? うーん、取り敢えず此処は顔を洗って……)  俺はフカフカのベットから慌てて飛び起き、ふと何かに気が付く。 ……デジァヴ。 いや、このフラグは回避しよう。 俺は色々先読みして、おそるおそる髪の毛辺りを触る。(つ、角が無いっ? い、いや普通はないけど、この世界じゃあったはず!) その時、部屋のドアが静かに開くのが分った。(し、しまったっ、いや、ドアは空いたんだけどもっ!)  お、落ち着け俺。 こ、ここで、まさかのシツジイ⁈(い、いや、そうだとしても今度はもう驚かないぞっ!)  俺はそんな事を考えながら、咄嗟に身構える。「あ、やっぱり、守君もいたいた!」「な、何だ……。雫さんかあ……」 そう、入ってきたのは紫色のドレスに身を纏った雫さんだったのだ。 安心した俺は、ほっと胸をなでおろす。(て、どーなってんだコレ?)  というのもね、さっきまであった俺のねじくれた角や逞しい翼はない。 でも、雫さんの見た目は変わっていないのだ。「てことは、もしかしてここは……?」「そっ、ファイラス!」(あ、ああ、成程……) 「お、俺角と翼生えてないよね?」「そりゃね? はい手鏡」 俺は手渡された手鏡で自分の状態を確認する。(うん、服装は変わってない)  その代わりに当然、魔族のように角や翼はない。 どうやら、今度は人に戻った模様。(ん? じゃ、使えた能力とかはどうなってんだろう?)  気になる……。 と、その前に……。「えっと雫さん、学は?」 そう、学には色々聞いておきたいことがある。「いるよ? 照れて部屋に入ってこないのよね」 ああ、そうか、ドアの向こうにいるわけだなアイツ。(じゃ、先手必勝、先に謝って置くかあ) 「学、そ、その色
last updateLast Updated : 2025-02-23
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12.ファイラスの現状

 それからしばらくして……。「ふう、2人とも待たせたね?」 俺は長いトイレから戻ってくると、接客用のソファーに腰を掛ける。「おそふぁったな?」「気のせいだ……」 学はリスのようにリンゴをほおばりながら話す。 どうやらさっき雫さんが用意してくれたフ、ルーツのカット盛を食べているようだ。「ホントだ? なんかすっきりしてない?」「色んなものを生産、もとい清算してきたんだよ……。おいおい、知らないのか? 賢者には必要な時間があるのだよ?」「ふーん……」 2人とも胡散臭そうにジト目で俺を見ている。「さ、さて、色々スッキリ? したことだし、皆で情報共有したいことがあるんだよね」「あ、そうだな」「うんうん」 俺は白皿の上に乗ったカットリンゴをムシャりながら一呼吸おく。「えっふぉ、ふぉりあえず俺が仕切って良い? 何か詳しい情報がでたら、その人に主導権を投げる形にしたいんだけど?」 「うん、意義なーし!」  2人とも静かに頷き、軽く手を真上にあげた。「こほん……。では取り敢えず現状を把握したい。でだ、ファイラスにいる俺達の地位と元々の2人の王子達がどうなったかを知りたいかな」「あ、はい。それは私に任せて」 俺と学は頷き、元々の地の利がある雫さんに任せることにした。「まずね、元々の2人の王子はいないわ」「あー、代わりに俺達が来て役者が代わったってこと?」「みたいね。さっきこの国の宰相ガウスに色々話を聞いたら、2人の王子は最初から存在していない状態になっていたの! で、代わりに私が第1王女、学が第2王女、守君が第1王子になってる状態みたい」「え? てことは?」「そ! ここでは守君が一番偉い状態。つまり、国総出で何でも出来る事になるわ」「な、なっ⁉ 何でも……!」 俺は先ほどの充実したピンクイベントを脳裏に浮かべる。(お、俺が第1王子なら、あれ以上の事を何でも出来る……⁉)  俺はいけない事を考えてしまい、少し前のめりになってしまう。「じゃあ、た、例えば、例えばだよ? 厳選したCカップ以上のきゃわいいメイドさんを俺の世話係に複数人配置することとかは……可能?」 「……出来るけど却下」「なんなら代わりに俺の正拳突きをお前の顔面に複数発配置しようか? あ……?」 2人は無造作に立ち上がり、俺の目の前で両腕をポキポキ鳴らし始める
last updateLast Updated : 2025-03-04
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13.役者は舞い戻り暗躍す

 同時刻、ここはエルシードの王女室。「……」「……トイウコトデ、ファイラスノ皆サマハ、スイ様ガイルコトハ完全ニ把握ハシテマセン……」 スイは閉じていた瞼をゆっくりと開き、木製のテーブルの上に乗っている『古代図書装置ユグドラ』に目をやる。「……ありがとう。ユグドラ」「ドウイタシマシテ」(な、何よ。3人とも楽しそうにして……!)  人間というものは実に不思議なもので、仲間はずれを感じると嫉妬するもの。 再びエルフの女王に転生したスイも例外ではなかった。「けど、あの3人が同じ国にいるのはまずいわね。……にしても、何だったの? あいつら? まあ、お陰でここに戻ってこれたから感謝はしているけど。はー……」 スイはソファーに深く腰掛け、両腕を組み大きなため息つく。 そう、実はスイは女神の力で元の現実世界に戻されたものの、とある理由で戻ってこられのである。(そ、そうだ!)  スイは『古代図書装置ユグドラ』を再び起動させ、調べものをすることにした。「ねえ、ユグドラ? 今のザイアードの状況、特に支配者の2人の魔王の情報を教えて頂戴?」「ワカリマシタ……。支配者ノ王子ハ、長男スカード、次男ライファーニナリマス」「え?」スイはその全く聞き覚えのない魔王達の名に眉を潜め、困惑してしまう。「スイ様、コノ2人ノ魔王ハ異世界カラノ転生者デス」(えっ! ……異世界からの転生者? も、もしかして私達がいた現実世界からってこと? それとも……?)   再び瞼を閉じ、しばし熟考するスイ。「……ん? スカードって、あ―――っ⁉ も、もしかしたらこいつら、あの時の……⁈」スイは大声で絶叫し、目の前の丸テーブルを激しく台パンしてしまう!♢これは、スイが女神の力で生き返り、現実世界に飛ばされ戻ってきた時のお話。現実世界に戻ってきたスイは、異世界アデレに来る前に発生した不思議な白い光の球体に包まれ佇んでいた。「ん……?」意識を取り直し、呻くスイ。スイは不思議な力で崖下の空中に浮遊している状態であり、謎の力でゆっくりと浮上していく!「あ、ああっ! こ、このままじゃあの異世界に戻れなくなってしまう⁉」そんなスイの頭上に何者かが舞い降りて来る気配がする。幸か不幸かスイは再び白い光の球体まで押し付けられていた。「いいぞライファー、そのままそいつをおさえて
last updateLast Updated : 2025-03-04
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14.新魔王と対策と

時間軸は戻り、再びファイラスの守の部屋。俺達は色々話し合った結果、ザイアードの情報をリサーチすることにした。理由はもう一つの国のエルシードは鎖国している関係で全てが謎に包まれているし、解明するには時間がかかると皆で判断したからだ。「えっと、今のザイアードにはスカードとライファーが魔王として君臨してるみたいね」雫さんはスキルを使ってるからか、目を閉じながら話している。「え? 誰それ。聞き覚えがないけど、誰か知ってる?」「 う、うーん?」(ですよね……。となると俺達のいなくなった代わりのNPC役?(しっかし、転生者の個人情報がまるっとわかるなんて集団戦では便利な能力だよな)それから程なくして……。「ええっ! ってなにこれ……」雫さんが何やら驚いていますが?「え? 何なに?」 「ち、長男スカードの能力『異世界の魔王』? 次男ライファー『異世界の魔王の幹部』ですって……?」どうやら雫さんも、自分で口に出している言葉を理解できていない感じだ。「え? ここ、そもそも異世界だぜ?」俺も学の言うことに賛成だった。「違うそうじゃないの......」「 へ?」「だって守さん達を調べた時にそんな表記はなかった。つまりここや現実とは違う、つまりは第3の異世界から来た魔王達ってことになるの……」 「な、なるほどお……」雫さんの説明に納得する俺達。(流石雫さん察しが良い。また、エスパーモードが発動してるのかな? と、勘ぐってしまったのはおもいっきり内緒だ)    そ、それは置いといて……。「仮にそうだとしたらさ、此処に来た目的ってなんだろうね? 俺はそこが一番重要な気がするな」 「確かに、守の言う通りだな」学は俺の意見に賛同し挙手をする。「それを知るためにも、早急に直接会って話すのが得策かなって」 「あ、それは俺も賛成!」行動派の学は雫さんの意見に挙手し賛成する。が、俺はそれについては一理あるものの、色々情報を集めてから動くのが良いと感じている。ということでだ。「話は変わるけど、雫さん。国宝とかって今どんな状態かわかるかな?」 「それがね、使えない状態みたいね」「え、ええっ?」(まずいぞそれは……)というのも、「最悪俺ら誰かが犠牲になって敵をせん滅し、犠牲者を後で復活させる」という復活儀式前提の強力な荒業は使えなくなって
last updateLast Updated : 2025-03-04
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15.アドバイスを辿れ

「で、次ですが博士達からの伝言になります。こちらは過去音声を守さんの脳に直接流しますね」 「た、頼んます……」(お、俺の両親の声か、やっぱ初めて聞くから緊張するな……)俺は内心、心臓をバクバクさせながら聞き耳をたてる。『初めまして、守。その、なんだ……今まで自分勝手して、色々迷惑をかけてすまなかったね』(こ、これが俺の父親の声? 想像より優し気な声だけなんだけど、なんか緊張するな……)『これを聞いているってことはもう深く巻き込んでしまったわけだ。で、お前にこの話を今まで伝えなかった理由は【これはとある組織の計画を防ぐために行ったこと】なので許して欲しい……』(多分スイさんの組織との関係だろうけど……。一体どんな理由なんだ?)『詳細は言えないが、この計画には学とお前も大きく関わっている。だから申し訳ないが組織の計画を防ぐためにも、この世界で色んな経験を積んで強くなって欲しい。で、学とも仲良くやってくれ。運が良ければ俺達と会えることもあるだろうし、その時はおそらく……いや何でもない以上だ……』親父の音声はそこで途切れていた……。(そ、そういうことか……。だから、この世界で強くなれと……!)俺は崖下から落ちる謎の黒のクラウンを思い出し、色々納得していた。(その計画、組織の人間であるスイさんなら知っているんだろうか?)が、スイさんはもう現世に帰還させてしまっているしね……。(くそっ、失敗したなあ……!)『……以上です』親父の話が終わったから、俺の脳裏に再び女神様の声が聞こえて来る。 (うーん、なんにせよ母さんの事とか気になる事は沢山あるが、一つずつ片付けていくしかないか。ま、俺も孤児院育ちであるし、タフなんでね……)自身を納得させ、再び女神様の声に耳を傾けていく俺でした。『あ、もう一つ伝言が......』「 あ、うん、何でしょう?」『「この世界を愛し、仲間と共に楽しんでくれ」だそうです。それがFプロジェクトの最短の攻略に繋がると……』
last updateLast Updated : 2025-03-04
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16.万能プリンセス雫

 野山を元気に駆け巡っていくユニコーン。 そう俺達は雫さんが従えるユニコーンことシルバーウィングに相乗りし、アグール火山めがけて突き進んで爆走していた。「わー、風が気持ちいいねー!」「いいいやっほ―――!」「うおおおお、はっや!」 高速で切り替わるは周りの風景。(ちょ、木っ枝ッ、岩、あぶなっ!)  早すぎて俺の思考も追いついてない。「上、枝があるふせてっ!」「あばばばっ!」「うおーこれめっちゃ楽しい!」(こ、これ絶対スクーターより、いや車よりもはええよ! そして、スリリングだよ!)  固い地面を蹴るユニコーンの躍動感、それに激しい風の流れ……!「はいっ!」 雫さんは掛け声と共に巧みにユニコーンを操り、蛇行運転していく。 ひと言で例えると、人馬一体かなと思えるほどだ。 そのせいか、俺達の先頭でユニコーンに跨っている雫さんの長い黒髪はまるで柳の様に揺らめいていてとても美しい……。「『シルバーウィング』! そのまま真っすぐね!」「ヒーン!」 雫さんの言葉に呼応するように叫ぶ、ユニコーンのシルバーウィング。 その名前の由来は、銀色の流れるようなたてがみと、まるで翼を授かっているかの如くスピードが出せることからだそうな。(雫さんは乗馬も得意だったと聞くし、ここでまさかの能力開花だよな)  何だか雫さんが頼もしく見えてきた。 正直、出来る女性はかっこええ! しばらくし、森を抜け草原にでると、遠目に何やら煙を上げている活火山が見えて来た。(遠目で何か赤いドロドロのスジみたいなのが見えるけど、あれ溶岩じゃね? こりゃ、腹を括って行くしかないな……)  そのまま草原を抜け、緩やかな坂道の途中で俺達は下馬する。 その理由は、遠目にいかついドラゴンらしき姿が散見されるから。「じゃ
last updateLast Updated : 2025-03-05
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17.仲間への誓い

 それから数時間後。俺は雫さんからみっちりと剣の指導を受けた。 内容は基本となる構え、足捌き、突きや斬り返し等々だ。 「……ふう。じゃ、守君の特訓はとりあえずここまでで!」 輝く刀身を胸元に構え、俺に向かって静かに一礼する雫さん。 その流れる一連の動作すらも大変様になって美しい。「はあはあ……。し、指導あ、ありがとう」 肩で息をする俺に対して、余裕の雫さん。(き、基礎技術が違いすぎる……!)  元々動体視力が良かったからか剣の動きは不思議と見えて、ある程度は攻撃をかわせてはいる。 けど、俺の剣捌きに無駄が多すぎ、その隙をつかれて負けている感じだ。 フットワークの足捌きも熟練度が違いすぎるしね。(けど、何故か知らないけど俺、体力はあるんだよな?) 「守は俺とザイアードで過ごしていた時、空手の稽古していただろ?」 そんな事を考えていると、戻ってきた学が俺の気持ちを察するように話しかけてくる。「あ、ああ。あ! ま、まさか?」 「そう、魔族じゃなくなってもその経験は蓄積される。だからさ、お前も当然体力がついていたし、動体視力も向上し体捌きも向上していたんだよ」「な、成程……。学、もしかしてお前……?」 「自分の身は自分で守れって、お前が昔言ってろ?」「ああ、そうだったな……」(こいつ、まだ孤児院時代に俺が言ってたこと覚えていたのか……)   「……俺とお前は親友、だろ?」 「そうだったな……。ありがとう学」「ははっ、気にするな。これで昔の借りは返したからなっ!」 「おう!」 俺と学はそっと拳を合わせる。(そう、俺は本当にいい仲間を持ったよ……) 俺は休憩のためその場に座り込み呼吸を整えながら、頼もしい仲間達を見つめしみじみと実感する。「じゃ、雫。今度は俺の特訓頼むな!」 「はーい。弓矢を回避する訓練ね? 今、弓矢大量に出してるから少し待っててねー」
last updateLast Updated : 2025-03-05
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18.俺達のワクワクハンターライフ

 それから翌日の朝、俺達はユニコーンに跨りアグール火山のふもとまで来ていた。 だからか周囲は硫黄の独特のツンとする匂いが立ち込めている。   ふと頭上を見上げると、所々に真っ赤な溶岩が流れた後があり火山に来た現実を思い知る。「ここからは『シルバーウィング』が負傷するといけないから、徒歩で行こうか」 「そうね」  こうして俺達は、徒歩で坂道を警戒しながら登って行く。(周囲を見た感じ、登山ルート的に溶岩地帯をぐるっと迂回し山頂に上らないといけなさそう……)  俺は周囲の熱さとそのことを考え、げんなりする。「あっ、そうそう! はい、これ!」 雫さんは思い出したように、水色の綺麗な宝石が付いたペンダントを俺達に渡す。「って、これ何?」 「防熱のペンダント」「おお、サンキュー!」 早速俺達はそれを身に着けて見る。 すると……。(おお! ひんやりして、す、涼しい⁈ さっきまでのうだるような熱さが嘘の用だ。大変助かる……)  どうやら名前まんまのマジックアイテム。 流石雫さん、ファイラスの宝物庫から使える物は何でも持ってきている模様、用意周到である! そんなこんなで、快適環境から登山して数分後、俺達は運悪く真正面に見えた大型生物と目が合ってしまう! 驚いた事に、金色の鋭い眼が殺意の眼差しでこちらを見つめているではないか……!(ひ、ひええっ⁈ こ、こわっ⁈)「ヴオオッ!」 「き、きたっ!」  なんと大人2人分くらいのその巨大モンスターがねじくれたぬじくれた固そうな角を振り上げ、雄たけびを上げこちらに向かい猛突進してくるではないか!「で、でたっ! ド、ドラゴンだっ!」 「これでも小型で、まだ子供らしいけどな」 慌ててる俺に対し、落ち着いて戦闘態勢を取る学。(これで小型とか嘘だろ……? じゃあ、成人したドラゴンはどれくらいの大きさなんだよ!) 「ウオオオッ!」
last updateLast Updated : 2025-03-06
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19.火口の主

 俺達は道中出現した火吹き大ウサギや溶岩ゴーレムなどのモンスター達も、もう軽々と倒せるようになりなんとか山頂までたどり着く。「さーて、どんな奴がここの主なんだろうな?」 血気盛んな学は魔王モードの姿で、腕を回し倒す気満々のご様子。「というかね、なにもいないね……?」 てことで、俺達は火口周辺をくまなく探すことになる。 ……が、目的の火龍、通称『エンシェントフレイム』の姿は見当たらない。 エンシェントフレイムは数千年生きた古代龍であり、ジャンボジェット並みの大きさを誇る火龍らしいが……。 周囲に見えるのは、遥か下に見える灼熱の溶岩とごつごつした岩肌だけであり、なんとも殺風景である。 ……それから数十分後。「とりあえずふもとまで帰るか……」「そ、そうね。道中の何処かにいるかもしれないしね!」(無駄足とか……ま、マジか) 「あ、ごめん。少しだけ時間頂戴!」「ん、いいけど?」「守、お前何する気だ?」 頭に来た俺は静かに火口際に移動し、大きく息を吸い込む。「こーの引きこもりドラゴンのバッカヤロー!」「……ッカヤロー!」 お、こだました!「お、おもしれーな! ドラゴンの引きこもりー!」「……引きこもりー!」  学も悪ノリし、参戦する。「じゃ、私も!」 こうして、俺達は、火口にて『イラッ! 目的のドラゴンがいねえっ! なし崩しの憂さ晴らし大声コンテスト』を急遽開催するのであった……。 で、わいわいと騒いでいたその時……!「やっかましいのじゃ!」 遥か下の火口から地響きのような大声が聞こえてきた!
last updateLast Updated : 2025-03-07
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20.努力と結果

(だ、だが、果たして上手くいくのだろうか……?)  俺は真正面に見える、火山の、いや自然の具現化した暴力の化身エンシェントフレイムの吐く真紅の炎を見つめ不安になる。(いや、そうじゃねえ……! ここで負けたらどちらにせよ、ザイアードと構えた場合勝ち目はないっ! 最早勝ち取るしか俺達には選択肢はねえんだからよっ!)  俺は自身を鼓舞し、道中学から学んだ脳の戦闘スイッチを入れる。「学っ! 予定通り頼んだぞっ!」 「まかせろっ! おおっ! 行くぜっ、メタモルフォーゼっ!」 気合と共に学の姿はみるみる大きくなっていき、なんと目の前のエンシェントフレイムと全く同じ姿に変身する!「な、何事なのじゃっ?」 目の前の出来事に流石のエンシェントフレイムも驚きを隠せない模様。 その証拠に、わずかにだがエンシェントフレイムが後方に下がったのを俺は見た!「う、うおおっ!」 エンシェントフレイムに変身した学は気合を入れる為に雄たけびを上げる。 そのまま力強く前進した学は、その雄々しい真紅の腕で『エンシェントフレイム』とがっちり組みあう!(流石は学だ。エンシェントフレイムがたじろいだその一瞬の隙を見逃さないな……)  俺は自分ががやるべきことの為に力を温存し、冷静に周囲を分析していく。(見ているだけで申し訳ないが、予定通りに頑張ってくれよ学……)「うおおおおおおおおおっ!」 「なのじゃっ――――――!」 2匹のエンシェントフレイムの凄まじい咆哮が周囲に響き渡る! その凄まじい衝撃に近くの岩石から小石がパラパラと落ちていくのが見える始末。 2匹の力は拮抗しているからだろうか?  取っ組み合ったまま、短いようで長い30分という時間が経過する。「学そろそろ時間よ……。お疲れ様……」 「あ、ああ……。め、めっちゃきつかった……」 学は静かに変身を解き、力なくその場にへたり込む。 そう、雫さんが言う通り学の役目は終わったのだ
last updateLast Updated : 2025-03-07
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