俺達は道中出現した火吹き大ウサギや溶岩ゴーレムなどのモンスター達も、もう軽々と倒せるようになりなんとか山頂までたどり着く。
「さーて、どんな奴がここの主なんだろうな?」
血気盛んな学は魔王モードの姿で、腕を回し倒す気満々のご様子。
「というかね、なにもいないね……?」
てことで、俺達は火口周辺をくまなく探すことになる。
……が、目的の火龍、通称『エンシェントフレイム』の姿は見当たらない。
エンシェントフレイムは数千年生きた古代龍であり、ジャンボジェット並みの大きさを誇る火龍らしいが……。
周囲に見えるのは、遥か下に見える灼熱の溶岩とごつごつした岩肌だけであり、なんとも殺風景である。
……それから数十分後。
「とりあえずふもとまで帰るか……」
「そ、そうね。道中の何処かにいるかもしれないしね!」(無駄足とか……ま、マジか)
「あ、ごめん。少しだけ時間頂戴!」
「ん、いいけど?」
「守、お前何する気だ?」頭に来た俺は静かに火口際に移動し、大きく息を吸い込む。
「こーの引きこもりドラゴンのバッカヤロー!」
「……ッカヤロー!」お、こだました!
「お、おもしれーな! ドラゴンの引きこもりー!」
「……引きこもりー!」学も悪ノリし、参戦する。
「じゃ、私も!」
こうして、俺達は、火口にて『イラッ! 目的のドラゴンがいねえっ! なし崩しの憂さ晴らし大声コンテスト』を急遽開催するのであった……。
で、わいわいと騒いでいたその時……!
「やっかましいのじゃ!」
遥か下の火口から地響きのような大声が聞こえてきた!
<(だ、だが、果たして上手くいくのだろうか……?) 俺は真正面に見える、火山の、いや自然の具現化した暴力の化身エンシェントフレイムの吐く真紅の炎を見つめ不安になる。(いや、そうじゃねえ……! ここで負けたらどちらにせよ、ザイアードと構えた場合勝ち目はないっ! 最早勝ち取るしか俺達には選択肢はねえんだからよっ!) 俺は自身を鼓舞し、道中学から学んだ脳の戦闘スイッチを入れる。「学っ! 予定通り頼んだぞっ!」 「まかせろっ! おおっ! 行くぜっ、メタモルフォーゼっ!」 気合と共に学の姿はみるみる大きくなっていき、なんと目の前のエンシェントフレイムと全く同じ姿に変身する!「な、何事なのじゃっ?」 目の前の出来事に流石のエンシェントフレイムも驚きを隠せない模様。 その証拠に、わずかにだがエンシェントフレイムが後方に下がったのを俺は見た!「う、うおおっ!」 エンシェントフレイムに変身した学は気合を入れる為に雄たけびを上げる。 そのまま力強く前進した学は、その雄々しい真紅の腕で『エンシェントフレイム』とがっちり組みあう!(流石は学だ。エンシェントフレイムがたじろいだその一瞬の隙を見逃さないな……) 俺は自分ががやるべきことの為に力を温存し、冷静に周囲を分析していく。(見ているだけで申し訳ないが、予定通りに頑張ってくれよ学……)「うおおおおおおおおおっ!」 「なのじゃっ――――――!」 2匹のエンシェントフレイムの凄まじい咆哮が周囲に響き渡る! その凄まじい衝撃に近くの岩石から小石がパラパラと落ちていくのが見える始末。 2匹の力は拮抗しているからだろうか? 取っ組み合ったまま、短いようで長い30分という時間が経過する。「学そろそろ時間よ……。お疲れ様……」 「あ、ああ……。め、めっちゃきつかった……」 学は静かに変身を解き、力なくその場にへたり込む。 そう、雫さんが言う通り学の役目は終わったのだ
「おう、お疲れさん!」「いいチームプレイだったね! まあ、私はここでは何も出来てないけど」 2人はそんな俺に対し、親指を立て答えてくれた。 「さて、問題はコイツをどうやって連れて帰るかだな……」「え? そのまま乗って帰ればよくね? ファイラスの国民も喜んでくれると思うし?」(ま、学の奴、またそんな安易な事を……) 「あ、あのな……。そんなことして凱旋したら国民がパニック起こす大惨事になるわ……。それに俺らお忍びで来てるんだぞ……?」「あ、そうだったな。ちぇー……」 と言ったものの、さてどうしたものか……?「守君、あのね。擬人化して連れて帰るってのは?」「な……に⁈」 雫さんのそのナイスアイディアに歓喜の旋律が走る俺でした。(ぎ、擬人化だとお……? た、確か、こ、こいつメスだったよな……?) この手の奴って、お約束ですっごい美少女になるのが鉄板であるからして……。 俺は大分前のピンクイベントと厳選キャワイイメイド100人衆案を何故か思い出してしまう。(……うん、擬人化いいじゃない!) 「こ、こほん。エンシェントフレイムよ。早速だが人の姿になって欲しいのだが」(『Cカップの露出が何故が激しい紅蓮のビキニ鎧を着た、のじゃ系美少女挑発系お姉さま』を超絶期待する、てかマジホントカモン!)「わかったのじゃ、マスター……」(マ、マスター……⁈ なんと甘美な響き。こ、これは期待するしかないっ!) 俺は最近引いたスマホゲーの当たりを何故か思い出し、ワクドキしながら期待にこか&helli
「あっ……! 忘れてた!」 「え? なに? 何の話?」「目的も果たしたし、そこでちょっと提案があるんだけどいい?」 「お、雫。もしかして、出かける前に言ってたアレか?」「え? ……アレって何?」 ちなみに俺同様にノジャも何のことか理解できず、可愛らしいく目をパチパチさせている状態だ。(何やら水面下で女性陣達に組み込まれているプランのようだが……。正直疲れがマックスに溜まってるので、早いとこ帰宅して、しばらくフッカフッカのオフトーンで療養したいんだけど?) 「えっとね……。実はここから少し離れた場所に秘湯の宿屋があってね! ほら、皆疲れがピークに達してるでしょ?」 「何でも特殊な効能があってな、傷も一瞬で治してくれるらしいし、持病とかにも良く効いてファイラスいや、世界で一番の秘湯らしいぜ? 宰相情報だけどな!」 (おお……温泉か……。どうせ帰宅途中、しばらくハンター生活が続くことだし、そんな良いとこがあるなら絶対寄るべきだよな) 「よっしゃ! じゃ、早速行こうぜ!」「おー!」 「なのじゃー!」 こうして俺らは秘湯の宿屋に行くことになったのだ。 俺達はユニコーンに跨り、青空が広がる晴天の最中アグール火山を下山し、深淵の森を抜け、広大な草原を駆け巡り突き進んでいく……。「……爽やかな風が気持ちいいね……」「ああ……そうだね」 「ああ! 最高だな」 「のじゃっ!」 目的は達成しているからか、更には色々な経験を積んだからだろうか? それとも新たな仲間が増えたからだろうか……? 俺には来た時に見た景色とはまた違った風景に見えた気がした……。 それから数時間後、遠目にだが前方に何やら建物らしきものを発見する。 ふと空を見上げると、沈みかける太陽が見え、辺りはすっかりオレンジ色に染まっていた。 だからか、目的地の岩肌だらけの山のふもとの景色も橙色に染まり味が出て来ているし、俺の背中におぶっていたノジャも大人しく寝息を立てていた。
(お、女っ⁉ って、待てよ? ……この形の良いこの胸何処かで……?) 俺は自他ともに認めるおっ〇い職人、絶対に見間違えることは無い!「えっ、ま、守っ?」「……おまっ! ま、学か?」 声と顔を見て、予想が見事に的中したことを確信出来た俺でした。「う、うわああ……」 学はそのまま悲鳴とも絶叫ともとれる声を上げ、顔がみるみる真っ赤に染まり慌てて肩までお湯につかる。(と、というか、な、何がどうなって⁉) 俺達は2人してパニくる。「あっ、いたいた。おーい二人ともー!」 そんな俺達の前にしらもやの湯気がたちこめる中、雫さんはさも当然のように元気よく手を爽やかに振り、小走りでこちらにやって来る。 学と違うのは、体にタオルを巻いてるとこだけだ。「のじゃー!」 そして、追加でだがすっぽんぽんで元気のいい小動物のように走り回るノジャ公……。(え? えっと、これは一体?) そんな事を考えていると、雫さんはそのまま湯船につかろうとするノジャをとっつかまえて、その体を綺麗に洗いだす。「ぎゃあー、嫌なのじゃー!」「嫌じゃないでしょ! ノジャちゃん、ちゃいするよっ、ちゃい!」 体を洗うのを嫌がってジタバタするノジャをしり目に、雫さんは力強くその体を掴み、まるで子犬をしつける様にたしなめる。「あ、あのー、雫さんこれは一体どうなってるんですか?」「ああ、ここ混浴だから」「え? 入り口に男女の敷居あったよね?」「ああ、あれはファイラスの法律で付ける義務があるだけだから」(……そ、そう来たか……。いや、それはそうとして……) 「あ、あの雫さんはそのなんというか、俺がここにいて大丈夫なんですか?」
それからしばらくして、此処は俺達の泊まる個室……。「あーサッパリした!」 「のじゃー!」(きたきた……) 俺がフカフカの灰色のソファーでくつろいでいると、温泉から上がってきた女性陣達が部屋に入ってきた。 彼女達も俺同様に白い上下の麻布で出来た浴衣に着替えていた。 しっとりとした髪の毛、そして火照った肌はうっすらと赤身を帯び、いつもにもまして色気がただよっている。(うん、おこちゃま一人を除いて湯上りのこの姿はとても魅力的ですね……) 「お待たせー! じゃ早速だけど、例の話を始めましょうか」 「ですね!」 さて、真面目な話どう進めようか……。「ね、その前にベッドに移動しない?」 雫さんは髪をかき上げ、ドキッとするような事を言って来た。「え、えっと、な、何故っ?」 どぎまぎしながら俺は雫さんに答える。「守君、どうせそこのソファーで寝るつもりだったんでしょ? 私と学がこっちのベッドで一緒に寝るんで、そこのベッドでノジャちゃんと一緒に寝てあげて」(あ、ああ、ですよね。不覚にも一瞬ドキッとしてしまった……) 確かによく見ると、ノジャはあくびをしなんだか眠そうだ……。(成程雫さんはエスパーモードが発動して、俺達に気を使ってくれているってことか) 「あ、ありがとう、そうさせてもらうよ」 「わーい! 早速寝るのじゃー!」 ノジャはベッドのマクラに向かい勢いよくダイブし、そのままもそもそと丸くなってしまう。(ね、猫かお前は……) うんまあ、元々ドラゴンだから習性として似ているところがあるのかもしれないけど。 そして、すり寄ったノジャの背中が俺の背とぴったりとくっつき、あっという間にすやすやと寝息をたてていく。(それにしても、あ、あったけえな。まあ、元々火龍だからってのもあるかもしれないけど……) 一方女性陣は、ノジャのその様子をニヤニヤしながら見ているのだが……。
……翌日の朝、小鳥たちが元気よくさえずる気持ちの良い朝を迎える。 俺は寝ぼけ眼を擦りながら、窓から覗く陽光を浴び外を覗く。 すると雲一つない晴れた青空が見え、俺に良い帰宅日和を感じさせた。 それから色々済ませ、数時間後……。「また来てくださいねー!」「はーい、お世話になりましたー! また来ますねー」 元気よく手を振り、宿の女将にお別れの挨拶する俺達。(はー……朝風呂がとても気持ち良かった……。体を洗う時に暴れ回るノジャのお守が正直大変だったけどね……。うん、こんなことは孤児院時代で慣れてるからあっさりさばいてやったけどな!) 余談だが、幼子を子守歌三分で寝せれる俺は『子守歌の守』という異名を持っていた。 孤児院の職員から重宝され、『守の子守歌は2曲目いらず』と謳われたものだ(遠い目)……。 まあ、アホみたいな話は置いといて、俺達は再びユニコーンに跨りファイラスへ帰路に向かう。(うん、すっかり太陽は真上に上っていて、ギラついてるや) ……しばらく移動していくと、開けた緑が広がる大草原にたどり着く。「よしここいらでいいか!」 学は素早く下馬し、両手を力強く天に掲げ強く叫ぶ!「うおおおおおおおおおっ! メタモルフォーゼっ!」 刹那、学の体は大きく膨れ上がり、巨大な火龍エンシェントフレイムに変身する!「おお! これだけ大きいとやはり見える景色が違うな……」 だからか、学はしばらくじっくりと左右を眺めていた。 しばらくして慣れたのか、変身した学はまるでジャンボジェットのような大きな翼を大きく広げ、その逞しい翼で力強く大空を飛び回る。 そうなのだ、学はこれからの事を考え火龍エンシェントフレイム時での飛行調整をしているのだ。
それから数日後、此処はファイラスの城門前。 俺達は大人が並んで10人は通れそうな巨大で重厚な石造りの橋を歩き渡り終え、ふと目の前に人がいることに気が付き立ち止まる。「おお、守様達よくぞご無事で……! して、成果はいかがでしたか?」 不敵な笑みを浮かべ佇むは宰相のガウス、その人であった。 こちらを見るその眼光は素人目に見ても歴戦の猛者と分るくらい鋭い。 ガウスは質実剛健な家臣であり、くそ真面目な性格であった。 だからか宰相という地位にもかかわらず、体格の良い体つきをしていた。 ガウスの装備しているプレートメイルの上からでも分るくらいにね。 ちな、オールバックの白髪にきりっとした眉、ほほとアゴにも整った白い髭を蓄えているのが特徴だ。「ごめんよガウス。代理の影武者の件とか色々世話になったね! で、実はこの子が例のエンシェントフレイムなんだ!」 俺は背におぶっていたノジャをよいしょと降ろし、その頭を軽くポンとたたく。「のじゃっ!」 俺の行動に呼応するかの如く、胸を張りふんすとしているノジャ。 「……な、なんと⁈ そ、それは凄い!」 ガウスは目を大きく見開き驚愕している。(はは、初代王以外千年単位で歴代契約実例が無かったから、そりゃ驚くよな……。しかも人化は見た目キッズの角ガキだしね) だから、俺はそんなガウスの様子を見て思わず苦笑してしまった。「でだ、早速で申し訳ないんだけどガウス達にこの関係の相談があってね? あ、学達はさっき話した通り休憩しててな」「おう! じゃ、後でな!」「じゃ、ノジャちゃん、邪魔になるといけないから雫お母さん達と一緒にお買い物に行きましょうねー!」「えっ? い、いやじゃ! あ、ああっ!」 こうして雫さん達はノジャの襟首をつかみ忙しく城下町に消えていった……。(…&
……それから一月後、ここはお昼のファイラスの城下町。「ゴリさーん!」「おお、これはこれは守様とその御一行様、らっしゃい!」 俺と雫さんは城下町の鍛冶屋『工房ゴリ』に来ていた。 ちな、学とノジャには別件をお願いしており、ここにはいない。 鍛冶屋『工房ゴリ』……。 工房の中は学校の体育館くらいの結構な広さがあり、その中で複数の作業員が忙しそうにせかせかと働いている状態だ。 よく見ると中央には大人二人分くらいの大きさの製鉄炉が配置されていた。 ゴリさんはそこで真っ赤になった鉄を耐熱手袋をはめ、ハンマーで力いっぱい叩いているところだった。 棟梁であるゴリさんは、この工房の何代目かの『ゴリ』の名前を受け継ぐ腕利きの鍛冶屋であった。 体格も容姿も体毛も名前の通りゴッリゴリにいかついが、性格は対して温和でとても優しい超いい人である。(ただ、恰好がね。フンドシと裸エプロンなのだけがホントやめて欲しい……。もう見た目がさ、新種の裸族としかおもえねえ……) 本人は「どうせ汚れて汗まみれになるから」と豪語してますが。(確かにタワシの様に頑丈な体毛で守られている関係で、服はいらないかもしれないけどね……) ちなみに雫さんはゴリさんのそんな見た目は全く気にしておらず、今もフレンドリーに話しかけている状態だ。(人を見た目で判断しないのが雫さんのいいとこだよなあ)「あ、そうそう! 例のもの出来てますぜ! おい、お前達!」「へいっ!」 ゴリさんの声に呼応し、作業員達がえっちらおっちらと何かを抱えこちらに運んで来る。 よく見ると、俺達が委託していた『ドラゴンライダー鞍』一式であった。 その鞍は俺達が道中倒し回収し持ち帰ったドラゴンの体毛や鱗などの素材を使い、ゴリさん達に加工して作ってもらったものだ。「んんっ! 少し説明を。座る部
「守さん、ノジャちゃん、気を付けて! あの衝撃波は気合による体術なので封じる事は出来ないわ!」「まっ、マジかよ!」(魔王スカード、もうなんでもありだなコイツ……。流石は魔王といったところか?)「他にも、魔王スカードは手をかざして更に強力な衝撃派を放つ事も出来るわ!」「り、了解っ!」「の、のじゃっ!」 俺達がそんなやり取りをしていると、魔王スカードは何やら胸に着けているペンダントを握っているではないか?「……もう、容赦せんっ! サイファーっ!」「はっ!」 な、何だ? (魔法が封じられている今、契約魔法も当然使えずサイファーを雷銃『ハウリングヘヴン』にすることも出来ないはずだぞ?) よく見ると、魔王スカードが身に着けているそのペンダントはまるで血の様に真っ赤に染まっているではないか……!「あっ、あれは、『天罰の涙』っ! まっ、マズイ!」 (くそっ、ザイアード兵の大軍が殲滅されている今、発動条件が整ってしまっている!) 「……だが、まだ間に合うっ! ノジャっ、幸い魔王スカードは今隙だらけだ!」「のじゃ!」 ノジャは返事と共に、魔王スカードに向かって容赦なくブレスを放つ! このブレスは一瞬でザイアード兵百体を葬れる威力! 今回は盾となるうるザイアード兵も遥か後方にしかいないため打つ手なしだろう。(頼みの綱であるサイファーも魔法が使えない今、盾にはなり得ないし、流石のスカードも無傷ではすむまい! とったぞっ! 魔王スカードっ!) ノジャの高威力のブレスが魔王スカード達を襲う……!「勝ったっ! やったぞ! 雫さんっ、ノジャっ!」 俺は歓喜の声を上げ雫さんの顔を見るが……?「雫さん?」 が、しかし、雫さんの顔は俺とは対照
(……て、ことがあったよなあ……) 俺はしこたまワインを飲んだ後、自室のベッドに横たわり、これまでの苦労や楽しい思いでを思い出していたのだった。 そんな祝杯を挙げた日から月日はあっという間に過ぎ、ここはファイラス城下町から数キロ離れた草原……。 そよ風が爽やかに吹く中、ファイラスの万を超す大軍がその草原を埋め尽くす! 銀色の鎧に身を固めた騎馬兵を始め、槍を構えた歩兵、弓兵、魔導兵などファイラス自慢の精兵が各兵将の指示に従い陣を引き待機しているのが分る。「き、来ましたっ! 魔王スカード率いるザイアードの一軍ですっ!」 ファイラスの伝令兵が大声を上げ、周りの兵は大いにざわつく。「来たか……!」 俺達はそれぞれ剣を抜き、臨戦態勢に入る。「ま、守様っ! ま、魔王スカードが先頭に立って行軍してきます!」「……陣は?」「こ、これは『偃月の陣』です!」「な、何だとっ!」「ひ、ひぃっ……!」 伝令兵の回答にファイラス自軍から、再びどよめきが上がる……。(はは、いけいけのスカードらしいな……) 『偃月の陣』、この陣の特徴は大将を中心とした精鋭部隊を先頭に立たせることで指揮が向上し、突破力も向上する超攻撃型の陣である。 いわゆる『やられる前にやれ』という魔王スカードの考えだろうし、これ以上自軍に被害が出ないように警戒して行動している結果と俺は読んでいる。(さて、対してガウスはどんな対応をするのかな?) 「……陣を方円の陣から魚鱗の陣へ組みなおせ!」 ガウスの気合の入った大声が響き渡り、『魚鱗の陣』へ我がファイラス軍は変化していく! 兵の鍛錬を毎日欠かさず行っていたことから、ファイラスの兵達は滑らかな動
それから時は流れ、翌日の朝。 色々と気持ちを清算し終えた俺達はザイアード軍との戦いの準備を進めて行く関係で、ファイラス城下町にある『工房ゴリ』に来ていた。 ちなみにノジャはその機動力と運送力を重臣達に買われ、別件で働いてもらっている。 魔石発掘への功績もあり、ギールの奴と仲がいいというのが大きな理由ではある。「学様方! 頼まれていた鎧に魔石の仕込み終わりやしたぜ!」 スチームパンク臭が漂う工房にてゴリさんの雄たけび、もとい大声が響き渡る。「うん! ありがとうな、ゴリさん!」 俺達はその場で軽く飛び跳ねたり腰を捻ったりして、鎧の動きやすさや性能などを吟味していく。 飛び跳ねるたびに、カチャカチャと鎧の軽い金属音が工房に響き渡る。(うおお、すげえ! この鎧、麻の服並みに軽くて動きやすい!) 「ゴリさん、相変わらずいい仕事するねえ! てかこれ、一体何の素材を使っているんだ?」 学も思わずその性能に感嘆の声を上げる。「へへ、照れやすねえ……! それらは軽めのドラグニウム鉱で作った特注品、その名も『ドラゴニウムの鎧』! 龍の体液から作られた『封魔の炎龍石』と相性がいいんでさあ!」 ゴリさんは、「ウホホー!」と叫びながら、自分の胸を激しくドムドムと叩きだす。(出た! ゴリさんのテンションが上がると行う『歓喜のドラミング』だ!) ホントいい人? だな、ゴリさんと工房の皆さん。 そんなゴリさん達が総力を挙げて仕上げたこの『ドラゴニウムの鎧』。 こいつはきっと魔王スカード達との戦闘でも、その性能を遺憾なく発揮してくれることだろう。「雫様! 例のアクセサリー一式も完成してやすぜ!」「わあ、素敵! サンキューゴリさん!」「へへ、どういたしやして!」「はいこれ、学の分!」「おお? センキュー雫!」 照れながらもアクセサリー一式を付けていく学。「うん、似合う似合う!」
数十分ほど走り終えた後、今度は腰に下げている剣を抜き、俺の目線程の高さ以上ある枯れた大木目掛けて突きの練習をしていく。「ふっ!」 呼吸とも気合とも取れる声と共に、右手をピンと真っすぐに伸ばす俺。 一回一回丁寧にしかも鋭く早い突きを繰り出し、大木を突いていく。「朝から精が出ますな守様……?」「ッ!」 背後から聞こえる声に俺は驚き、振り向く。 するとなんと、ガウスがそこに立っていた。「な、なんだ、ガ、ガウスかビックリさせるなよ……」「はっはっはっ、申し訳ございません守様……。相手が雫様と学様ならもっと驚きましたか……?」(うっ! こ、コイツ、まさか……?) 「……な、何の話?」 俺は内心では思いっきり動揺していたが、冷静を装い一心不乱に大木を突いていく。「守様……。どうでもいいですが剣筋が乱れておりますぞ?」「なっ?」 よく見ると、確かに俺の剣は大木の真ん中から極端に離れた場所を突いていた。「何やら注意力散漫ですが、ナニがあったんでしょうなあ?」(こ、コイツ……? 昨日の事を知っているのか? それとも……?) 俺は訓練を中断し、ガウスと向き合う事にする。「……なあガウス、せっかくだし、ちょっと剣の相手をしてくれよ?」「ほお? やる気があるのは良いことですし、いいでしょう……」 ガウスは腰に下げている練習用の模擬剣を構え、更にはもう一本の模擬剣を俺に投げる。 軽くキャッチし、模擬剣を胸元に構える俺。 よく見るとガウスも同じように模擬剣構え、その丸くなった切っ先がこちらに見える。「では、行きますぞ?
「あ゛――――――――――――――――――⁈」 と、同時に湯船の中で学の絶叫が静かにこだまする……。 そ、そのお陰で俺は現状を視認出来た。 夢見心地の中、そっと雫さんの唇は離れていく。 更には再び俺の肩に自身の頭をそっと置く雫さん。 だからか、否応が無く先程の唇の感覚が俺の脳裏に鮮明に蘇って来る! 「あ、あの……? 雫さん?」「えへへ、その言葉ずっと待ってたんだ……」 雫さんは顔を真っ赤にしながら、少し照れくさそうはにかむ……。 俺もそれにつられて顔が真っ赤になるんですが?「あ……」(よく考えたら、今さっきの俺の言葉、ほとんど告白じゃねーか……!) 「えっ、え゛っぐ……う、うっうっ……」(ううっ、い、嫌な予感がする……) 当然、嗚咽を漏らしていたのは学だったが……。「ま、ま、学さん……?」 俺はもう訳が分からず思わずさん付けをしてしまうくらい狼狽えてしまっていた。「雫が雫が、守のファーストキスを取った―――! 俺なんか幼いころから好きだったのに、告白しようとして断られたのに―――!」 学は俺の肩に突っ伏し、号泣しだす始末! その俺の肩には涙やら、鼻水やら、何やら生暖かい液体がポタポタと流れ落ちてますが? うん、その一滴一滴が何やら重い、いや思い? 俺は孤児院時代の幼い頃の記憶を思い出し、友達認定して別れた頃を思い出していた……。(あ、ああ、あれはそう言う事だったのか……! いや、だってねえ? ホラ? 昔は男みたいだったじゃん? あ、でも、今
そんなこんなで数時間後、俺達は前に来たことある例の『秘湯の温泉宿』に来ていた。 「あー、久々の温泉は気持ちいいな……」 俺はお湯をゆるりと手ですくい、ゆっくりと顔を洗う。 リラックス出来た関係か、嗅覚が鋭くなり硫黄臭を強く感じる。(逆にそんなところが温泉地に来た雰囲気が味わえていいんだけどね……) まだお昼であるし、太陽が昇っている関係で当然周囲は明るく少し離れた山々の深緑がくっきりと見え、空気が余計美味しく感じられる。 太陽の反射光を浴びたお湯は輝いておりとても眩しい。(こんな時間にゆっくり浸かれるのはホント贅沢極まりないよな……) 「失礼しまーす!」「し、失礼します……」 複数の声の主が俺が浸っている湯舟に近づいて来るのが分る。 (きたきた学と雫さん達だ……!) 今回は二人ともタオルを羽織っている状態ではあるが?「こっ、こら押すな雫!」「え? だってこうでもしないと学は照れちゃって先に進めないでしょ?」 お2人がきゃいきゃい言いながら少しずつ近づいて来る。 顔を真っ赤にし、もじもじと照れながら、雫さんに背中をグイ押しされながら近づいて来る学。 太陽の逆光で眩く輝く、もち肌のうら若き女性達……。(こいつぁー、たまりましぇん……) タオルに半分ほど隠された白桃のような艶やかな胸は、そのボリュームの余り窮屈なタオルに逆らうかの如く食い込みが発生している状態だ。(……こ、今年の果物は豊作かな……?) 何故かそんな言葉が脳裏をよぎる。 不思議、止まらない……⁉ そして、そのサイズの大きい白桃は学が歩く振
今回、ドラゴン化した学の背に俺、雫さん、ウィンディーニが乗り込む。 ちなみにノジャの背には『封魔の炎龍石』を積み込むための大袋等が載せてある。「……じ、じゃあいくぞ……?」「は、はい……」 ウィンディーニは鞍に跨りプルプルと振えているが……。 なんというかその色々面白い。 そして、エンシェントフレイム化した学が力強く大空に舞い上がり、ノジャもその後を追う。「ひ、ひえええ……」 ウィンデーニは情けなく悲鳴を上げていたが……。「ぷふっ……」 その様子を後方で見ていた雫さんが思わず吹き出している。(こ、コラコラ、笑っちゃ失礼だろ? ほ、本人は真剣なんだから……!) とか思いながら、申し訳ないが俺も爆笑していたりする。 俺は雫さんや学が余計な事を言う前に、適当な話題を振る事にする。「あ、そういえばウィンディーニって、その名前の由来、もしかして水の精霊に関係してたりする?」 とか考えていたら、雫さんは機転をきかし話題を振ってくれた。「そうですね……。うちの家系は代々、水の精霊と仲が良いので何かしら水属性の名前を付けるしきたりがありまして。ちなみにうちの父はアイスバードといいます」「へーそうなんだ! じゃあ……」 そんな雑談を続けてから数時間後……。 例の温泉宿から少し離れた僻地に、ウィンデーニの知人が住んでいるというので寄ることになった。「へー、こんなとこに小屋があるなんて知らなかったなあ……」(ファイラスの地理に詳しい雫さんでも知らない場所か、正にだな) 「ええ、自分とギール様しか知らない秘密の
俺はそんな事を考えながらそっとため息を吐き、会議室から1人席を外し、そのまま自室に直行する。 俺は注意深く周囲を見て誰もいない事を確認し、机に腰かけゆっくりと背伸びをし、足腰を伸ばす。 俺が一人でここに来たのには深い理由があった。 それは休憩もだけど、ガウスから手渡された封書の内容を誰にも見せられないためだったりする。(ガウスは剣の腕と仕事の内容に関しては嘘をつかないからね……) 俺は中身が傷つかないようにペーパーナイフで丁寧に封書の封を切り、その内容に目を通していく。(ん? 誰からだと思えばウィンディーニから? あの場で伝えたいことを言えばとは思ったけど、あの天才児のことだから何か理由があるだろう。どれどれ……?) 「……え、これマジなん? じ、じゃあ学達のあの行動は……?」 ……俺は書かれていた内容に驚愕し、思わず独り言を呟いてしまった。(しっかし、ウィンデーニ、本物の天才なのかも) ……それから俺は色々な用事を済ませ、再び会議室にこっそり戻る。 部屋に入るなり、雫さん達が俺の周りに集まってくる。「あっ、守君! 今、学達と話してね、急遽アグール火山に行くことになったから!」 雫さん達は嬉しそうにきゃいきゃいとはしゃいでいますが?(こ、この感じ、帰りはまた温泉宿泊コースかもしれんな。嫌いじゃないけどねっ!) 俺は温泉内のピンクイベントを思い出し、もっこ……もといにっこりと微笑む。「守様! あのっ! 自分も火山に同行することになりましたので、よろしくお願いいたします!」 ウィンディーニは元気よく俺にペコリとお辞儀をする。「彼には私の代理で現場視察に行ってもらうことになりましたので、守様よろしくお願いいたしますね」 ギールは俺にそう述べ、軽く一礼する。
それから数分後……。 俺達はギールの資料とウィンディーニの魔導知識を元に話しを詰めていく事になった。 「なるほど、ルモール森林全土には『封魔の炎龍石』を使った魔法陣をしかけられそうですが……」 「え? 何か問題があるの?」「森林の地下トンネルに配置する分が全く足りません……」「仕方ない、ではこれで足りるのでは?」 ギールは一番下に置いていた、とっておきと思われる資料をウィンディーニに手渡す。「ああ、これなら地下トンネル分も余裕で足りますね! 余った分で数十人の鎧加工分も作れるでしょう。あの、それはさておき、この資料は私は見たことが無かったのですが?」「最近、ようやく火山上部で発掘出来る環境になり、未開拓であった関係で大量に発掘出来たものだからですな」 ギールは咳払いしながら、俺をチラリ見している。(ああ、例のやつね……。まあ、役に立って何よりだったよ) 俺はそんな事を考えながら思わず苦笑する。「んんっ! ……守様はこのピンポン玉くらいの大きさの『封魔の炎龍石』の価値を知っておいでですか?」 ギールはそんな俺の態度を見て、俺を厳しい目つきで睨む。(う、うわあ? や、やっべ、俺、地雷踏んだかも……?) 「い、いや?」 「分かりやすくこの『封魔の炎龍石』の価値を説明させていただますね。これ一つでだいたい人家10件分の価値があります……。何故そんなに高値で売れるかと言うと、『エルシード』の連中が価値を見出し、大人買いしていくのですよ……」「お、おう……」(そ、それはギールが出し渋るのもシカタナイデスヨネ……?) 俺はギールの言葉の重みを感じ、額に変な汗が流れて来るのを自身で感じ取る。「この