俺達は道中出現した火吹き大ウサギや溶岩ゴーレムなどのモンスター達も、もう軽々と倒せるようになりなんとか山頂までたどり着く。
「さーて、どんな奴がここの主なんだろうな?」
血気盛んな学は魔王モードの姿で、腕を回し倒す気満々のご様子。
「というかね、なにもいないね……?」
てことで、俺達は火口周辺をくまなく探すことになる。
……が、目的の火龍、通称『エンシェントフレイム』の姿は見当たらない。
エンシェントフレイムは数千年生きた古代龍であり、ジャンボジェット並みの大きさを誇る火龍らしいが……。
周囲に見えるのは、遥か下に見える灼熱の溶岩とごつごつした岩肌だけであり、なんとも殺風景である。
……それから数十分後。
「とりあえずふもとまで帰るか……」
「そ、そうね。道中の何処かにいるかもしれないしね!」(無駄足とか……ま、マジか)
「あ、ごめん。少しだけ時間頂戴!」
「ん、いいけど?」
「守、お前何する気だ?」頭に来た俺は静かに火口際に移動し、大きく息を吸い込む。
「こーの引きこもりドラゴンのバッカヤロー!」
「……ッカヤロー!」お、こだました!
「お、おもしれーな! ドラゴンの引きこもりー!」
「……引きこもりー!」学も悪ノリし、参戦する。
「じゃ、私も!」
こうして、俺達は、火口にて『イラッ! 目的のドラゴンがいねえっ! なし崩しの憂さ晴らし大声コンテスト』を急遽開催するのであった……。
で、わいわいと騒いでいたその時……!
「やっかましいのじゃ!」
遥か下の火口から地響きのような大声が聞こえてきた!
<(だ、だが、果たして上手くいくのだろうか……?) 俺は真正面に見える、火山の、いや自然の具現化した暴力の化身エンシェントフレイムの吐く真紅の炎を見つめ不安になる。(いや、そうじゃねえ……! ここで負けたらどちらにせよ、ザイアードと構えた場合勝ち目はないっ! 最早勝ち取るしか俺達には選択肢はねえんだからよっ!) 俺は自身を鼓舞し、道中学から学んだ脳の戦闘スイッチを入れる。「学っ! 予定通り頼んだぞっ!」 「まかせろっ! おおっ! 行くぜっ、メタモルフォーゼっ!」 気合と共に学の姿はみるみる大きくなっていき、なんと目の前のエンシェントフレイムと全く同じ姿に変身する!「な、何事なのじゃっ?」 目の前の出来事に流石のエンシェントフレイムも驚きを隠せない模様。 その証拠に、わずかにだがエンシェントフレイムが後方に下がったのを俺は見た!「う、うおおっ!」 エンシェントフレイムに変身した学は気合を入れる為に雄たけびを上げる。 そのまま力強く前進した学は、その雄々しい真紅の腕で『エンシェントフレイム』とがっちり組みあう!(流石は学だ。エンシェントフレイムがたじろいだその一瞬の隙を見逃さないな……) 俺は自分ががやるべきことの為に力を温存し、冷静に周囲を分析していく。(見ているだけで申し訳ないが、予定通りに頑張ってくれよ学……)「うおおおおおおおおおっ!」 「なのじゃっ――――――!」 2匹のエンシェントフレイムの凄まじい咆哮が周囲に響き渡る! その凄まじい衝撃に近くの岩石から小石がパラパラと落ちていくのが見える始末。 2匹の力は拮抗しているからだろうか? 取っ組み合ったまま、短いようで長い30分という時間が経過する。「学そろそろ時間よ……。お疲れ様……」 「あ、ああ……。め、めっちゃきつかった……」 学は静かに変身を解き、力なくその場にへたり込む。 そう、雫さんが言う通り学の役目は終わったのだ
「おう、お疲れさん!」「いいチームプレイだったね! まあ、私はここでは何も出来てないけど」 2人はそんな俺に対し、親指を立て答えてくれた。 「さて、問題はコイツをどうやって連れて帰るかだな……」「え? そのまま乗って帰ればよくね? ファイラスの国民も喜んでくれると思うし?」(ま、学の奴、またそんな安易な事を……) 「あ、あのな……。そんなことして凱旋したら国民がパニック起こす大惨事になるわ……。それに俺らお忍びで来てるんだぞ……?」「あ、そうだったな。ちぇー……」 と言ったものの、さてどうしたものか……?「守君、あのね。擬人化して連れて帰るってのは?」「な……に⁈」 雫さんのそのナイスアイディアに歓喜の旋律が走る俺でした。(ぎ、擬人化だとお……? た、確か、こ、こいつメスだったよな……?) この手の奴って、お約束ですっごい美少女になるのが鉄板であるからして……。 俺は大分前のピンクイベントと厳選キャワイイメイド100人衆案を何故か思い出してしまう。(……うん、擬人化いいじゃない!) 「こ、こほん。エンシェントフレイムよ。早速だが人の姿になって欲しいのだが」(『Cカップの露出が何故が激しい紅蓮のビキニ鎧を着た、のじゃ系美少女挑発系お姉さま』を超絶期待する、てかマジホントカモン!)「わかったのじゃ、マスター……」(マ、マスター……⁈ なんと甘美な響き。こ、これは期待するしかないっ!) 俺は最近引いたスマホゲーの当たりを何故か思い出し、ワクドキしながら期待にこか&helli
「あっ……! 忘れてた!」 「え? なに? 何の話?」「目的も果たしたし、そこでちょっと提案があるんだけどいい?」 「お、雫。もしかして、出かける前に言ってたアレか?」「え? ……アレって何?」 ちなみに俺同様にノジャも何のことか理解できず、可愛らしいく目をパチパチさせている状態だ。(何やら水面下で女性陣達に組み込まれているプランのようだが……。正直疲れがマックスに溜まってるので、早いとこ帰宅して、しばらくフッカフッカのオフトーンで療養したいんだけど?) 「えっとね……。実はここから少し離れた場所に秘湯の宿屋があってね! ほら、皆疲れがピークに達してるでしょ?」 「何でも特殊な効能があってな、傷も一瞬で治してくれるらしいし、持病とかにも良く効いてファイラスいや、世界で一番の秘湯らしいぜ? 宰相情報だけどな!」 (おお……温泉か……。どうせ帰宅途中、しばらくハンター生活が続くことだし、そんな良いとこがあるなら絶対寄るべきだよな) 「よっしゃ! じゃ、早速行こうぜ!」「おー!」 「なのじゃー!」 こうして俺らは秘湯の宿屋に行くことになったのだ。 俺達はユニコーンに跨り、青空が広がる晴天の最中アグール火山を下山し、深淵の森を抜け、広大な草原を駆け巡り突き進んでいく……。「……爽やかな風が気持ちいいね……」「ああ……そうだね」 「ああ! 最高だな」 「のじゃっ!」 目的は達成しているからか、更には色々な経験を積んだからだろうか? それとも新たな仲間が増えたからだろうか……? 俺には来た時に見た景色とはまた違った風景に見えた気がした……。 それから数時間後、遠目にだが前方に何やら建物らしきものを発見する。 ふと空を見上げると、沈みかける太陽が見え、辺りはすっかりオレンジ色に染まっていた。 だからか、目的地の岩肌だらけの山のふもとの景色も橙色に染まり味が出て来ているし、俺の背中におぶっていたノジャも大人しく寝息を立てていた。
(お、女っ⁉ って、待てよ? ……この形の良いこの胸何処かで……?) 俺は自他ともに認めるおっ〇い職人、絶対に見間違えることは無い!「えっ、ま、守っ?」「……おまっ! ま、学か?」 声と顔を見て、予想が見事に的中したことを確信出来た俺でした。「う、うわああ……」 学はそのまま悲鳴とも絶叫ともとれる声を上げ、顔がみるみる真っ赤に染まり慌てて肩までお湯につかる。(と、というか、な、何がどうなって⁉) 俺達は2人してパニくる。「あっ、いたいた。おーい二人ともー!」 そんな俺達の前にしらもやの湯気がたちこめる中、雫さんはさも当然のように元気よく手を爽やかに振り、小走りでこちらにやって来る。 学と違うのは、体にタオルを巻いてるとこだけだ。「のじゃー!」 そして、追加でだがすっぽんぽんで元気のいい小動物のように走り回るノジャ公……。(え? えっと、これは一体?) そんな事を考えていると、雫さんはそのまま湯船につかろうとするノジャをとっつかまえて、その体を綺麗に洗いだす。「ぎゃあー、嫌なのじゃー!」「嫌じゃないでしょ! ノジャちゃん、ちゃいするよっ、ちゃい!」 体を洗うのを嫌がってジタバタするノジャをしり目に、雫さんは力強くその体を掴み、まるで子犬をしつける様にたしなめる。「あ、あのー、雫さんこれは一体どうなってるんですか?」「ああ、ここ混浴だから」「え? 入り口に男女の敷居あったよね?」「ああ、あれはファイラスの法律で付ける義務があるだけだから」(……そ、そう来たか……。いや、それはそうとして……) 「あ、あの雫さんはそのなんというか、俺がここにいて大丈夫なんですか?」
それからしばらくして、此処は俺達の泊まる個室……。「あーサッパリした!」 「のじゃー!」(きたきた……) 俺がフカフカの灰色のソファーでくつろいでいると、温泉から上がってきた女性陣達が部屋に入ってきた。 彼女達も俺同様に白い上下の麻布で出来た浴衣に着替えていた。 しっとりとした髪の毛、そして火照った肌はうっすらと赤身を帯び、いつもにもまして色気がただよっている。(うん、おこちゃま一人を除いて湯上りのこの姿はとても魅力的ですね……) 「お待たせー! じゃ早速だけど、例の話を始めましょうか」 「ですね!」 さて、真面目な話どう進めようか……。「ね、その前にベッドに移動しない?」 雫さんは髪をかき上げ、ドキッとするような事を言って来た。「え、えっと、な、何故っ?」 どぎまぎしながら俺は雫さんに答える。「守君、どうせそこのソファーで寝るつもりだったんでしょ? 私と学がこっちのベッドで一緒に寝るんで、そこのベッドでノジャちゃんと一緒に寝てあげて」(あ、ああ、ですよね。不覚にも一瞬ドキッとしてしまった……) 確かによく見ると、ノジャはあくびをしなんだか眠そうだ……。(成程雫さんはエスパーモードが発動して、俺達に気を使ってくれているってことか) 「あ、ありがとう、そうさせてもらうよ」 「わーい! 早速寝るのじゃー!」 ノジャはベッドのマクラに向かい勢いよくダイブし、そのままもそもそと丸くなってしまう。(ね、猫かお前は……) うんまあ、元々ドラゴンだから習性として似ているところがあるのかもしれないけど。 そして、すり寄ったノジャの背中が俺の背とぴったりとくっつき、あっという間にすやすやと寝息をたてていく。(それにしても、あ、あったけえな。まあ、元々火龍だからってのもあるかもしれないけど……) 一方女性陣は、ノジャのその様子をニヤニヤしながら見ているのだが……。
……翌日の朝、小鳥たちが元気よくさえずる気持ちの良い朝を迎える。 俺は寝ぼけ眼を擦りながら、窓から覗く陽光を浴び外を覗く。 すると雲一つない晴れた青空が見え、俺に良い帰宅日和を感じさせた。 それから色々済ませ、数時間後……。「また来てくださいねー!」「はーい、お世話になりましたー! また来ますねー」 元気よく手を振り、宿の女将にお別れの挨拶する俺達。(はー……朝風呂がとても気持ち良かった……。体を洗う時に暴れ回るノジャのお守が正直大変だったけどね……。うん、こんなことは孤児院時代で慣れてるからあっさりさばいてやったけどな!) 余談だが、幼子を子守歌三分で寝せれる俺は『子守歌の守』という異名を持っていた。 孤児院の職員から重宝され、『守の子守歌は2曲目いらず』と謳われたものだ(遠い目)……。 まあ、アホみたいな話は置いといて、俺達は再びユニコーンに跨りファイラスへ帰路に向かう。(うん、すっかり太陽は真上に上っていて、ギラついてるや) ……しばらく移動していくと、開けた緑が広がる大草原にたどり着く。「よしここいらでいいか!」 学は素早く下馬し、両手を力強く天に掲げ強く叫ぶ!「うおおおおおおおおおっ! メタモルフォーゼっ!」 刹那、学の体は大きく膨れ上がり、巨大な火龍エンシェントフレイムに変身する!「おお! これだけ大きいとやはり見える景色が違うな……」 だからか、学はしばらくじっくりと左右を眺めていた。 しばらくして慣れたのか、変身した学はまるでジャンボジェットのような大きな翼を大きく広げ、その逞しい翼で力強く大空を飛び回る。 そうなのだ、学はこれからの事を考え火龍エンシェントフレイム時での飛行調整をしているのだ。
それから数日後、此処はファイラスの城門前。 俺達は大人が並んで10人は通れそうな巨大で重厚な石造りの橋を歩き渡り終え、ふと目の前に人がいることに気が付き立ち止まる。「おお、守様達よくぞご無事で……! して、成果はいかがでしたか?」 不敵な笑みを浮かべ佇むは宰相のガウス、その人であった。 こちらを見るその眼光は素人目に見ても歴戦の猛者と分るくらい鋭い。 ガウスは質実剛健な家臣であり、くそ真面目な性格であった。 だからか宰相という地位にもかかわらず、体格の良い体つきをしていた。 ガウスの装備しているプレートメイルの上からでも分るくらいにね。 ちな、オールバックの白髪にきりっとした眉、ほほとアゴにも整った白い髭を蓄えているのが特徴だ。「ごめんよガウス。代理の影武者の件とか色々世話になったね! で、実はこの子が例のエンシェントフレイムなんだ!」 俺は背におぶっていたノジャをよいしょと降ろし、その頭を軽くポンとたたく。「のじゃっ!」 俺の行動に呼応するかの如く、胸を張りふんすとしているノジャ。 「……な、なんと⁈ そ、それは凄い!」 ガウスは目を大きく見開き驚愕している。(はは、初代王以外千年単位で歴代契約実例が無かったから、そりゃ驚くよな……。しかも人化は見た目キッズの角ガキだしね) だから、俺はそんなガウスの様子を見て思わず苦笑してしまった。「でだ、早速で申し訳ないんだけどガウス達にこの関係の相談があってね? あ、学達はさっき話した通り休憩しててな」「おう! じゃ、後でな!」「じゃ、ノジャちゃん、邪魔になるといけないから雫お母さん達と一緒にお買い物に行きましょうねー!」「えっ? い、いやじゃ! あ、ああっ!」 こうして雫さん達はノジャの襟首をつかみ忙しく城下町に消えていった……。(…&
……それから一月後、ここはお昼のファイラスの城下町。「ゴリさーん!」「おお、これはこれは守様とその御一行様、らっしゃい!」 俺と雫さんは城下町の鍛冶屋『工房ゴリ』に来ていた。 ちな、学とノジャには別件をお願いしており、ここにはいない。 鍛冶屋『工房ゴリ』……。 工房の中は学校の体育館くらいの結構な広さがあり、その中で複数の作業員が忙しそうにせかせかと働いている状態だ。 よく見ると中央には大人二人分くらいの大きさの製鉄炉が配置されていた。 ゴリさんはそこで真っ赤になった鉄を耐熱手袋をはめ、ハンマーで力いっぱい叩いているところだった。 棟梁であるゴリさんは、この工房の何代目かの『ゴリ』の名前を受け継ぐ腕利きの鍛冶屋であった。 体格も容姿も体毛も名前の通りゴッリゴリにいかついが、性格は対して温和でとても優しい超いい人である。(ただ、恰好がね。フンドシと裸エプロンなのだけがホントやめて欲しい……。もう見た目がさ、新種の裸族としかおもえねえ……) 本人は「どうせ汚れて汗まみれになるから」と豪語してますが。(確かにタワシの様に頑丈な体毛で守られている関係で、服はいらないかもしれないけどね……) ちなみに雫さんはゴリさんのそんな見た目は全く気にしておらず、今もフレンドリーに話しかけている状態だ。(人を見た目で判断しないのが雫さんのいいとこだよなあ)「あ、そうそう! 例のもの出来てますぜ! おい、お前達!」「へいっ!」 ゴリさんの声に呼応し、作業員達がえっちらおっちらと何かを抱えこちらに運んで来る。 よく見ると、俺達が委託していた『ドラゴンライダー鞍』一式であった。 その鞍は俺達が道中倒し回収し持ち帰ったドラゴンの体毛や鱗などの素材を使い、ゴリさん達に加工して作ってもらったものだ。「んんっ! 少し説明を。座る部
そんなこんなで楽しいひと時はあっという間に終わり、深夜自室にて俺はベッド横たわり窓から闇夜に見える綺麗な満月を眺めながら物思いに耽る……。(いよいよ明日から異世界ルマニアに行くわけだけど、なんだか寂しくなるな……。それに学や雫さんとの関係は上手くやれるんだろうか……?)「失礼します……」 その時、静かにドアをノックする声が聞こえて来る。「……この声ガウスか。……どうぞ」「失礼します。少しお話をしたいので会議室によろしいですか……?」「……そうだね。俺達がいなくなったこととかも話しときたいしね」 という事で俺はガウスと共に話しながら会議室に移動していく。 「……色々心配されているようですが、まあ後は私達に任せてください……」「そうだね……申し訳ないけど俺達に出来る事はそれしかないからね」 俺は苦笑しながらガウスに答えるし、ほんそれである。「まあガウス達には色々と世話になったし、ホント感謝しきれないよ」「はは、まあそれが自分達の仕事ですしね。当然の事をしたまでですよ……」 ガウスは謙遜しているのだろうが、その当たり前のことが当たり前に出来ない人が本当に多いのだ……。 なので、俺は本当にガウスやギール達には感謝している。「ということで自分の話はこれで終わりです」「え? じゃ会議室に行く意味ないじゃん」「まあ、そこは守様に用事がある人達がいるからですね……」 ガウスは片目を閉じ、俺に対しウィンクして見せる。(ああ、他の重臣やゴリさん達もか……。まあ、最後になるかも
……数時間後、此処はファイラス城内の会議室。 そんなこんなでファイラス城内に戻った俺達は事の顛末をガウスなどの重臣達を呼び簡潔に説明した。「なるほど、そうだったのですか。なんにせよ魔王スカードの件お疲れ様でした……」「はは、あガウス達のバックアップがあったお陰でだからね……?」 俺はガウス達重臣一同が椅子から起立して深々と頭を下げるのを制して、苦笑する。「……それにしてもにわかには信じられないですが守様達は異世界からの転生者だったとは……」「うん、そうなんだ」「では、貴方達の変わりに本来此処にいるべきレッツ第1王子とゴウ王子達はどちらに?」 「親父の話だと、どうやらルマニアに転移しているらしい」 ザイアードのそもそもの魔王達も当然ルマニアに転生しているらしいし、エルシードのエルフの女王についても然りだ。 これはこの異世界アデレとルマニアが対になっている関係らしいけど、親父達も詳細は分っていないらしい。 なので俺がルマニアからこちらの世界に戻ってきたとしても「ガウス達との繋がりがどうなってしまうかな?」と俺は危惧していたりもする。「……ま、なんにせよ1つの大戦は無事終結し、貴方達の頑張りのお陰でこの世界に平和が訪れた事実があります。という事で明日早速凱旋バレードをしましょう!」「お、いいねえ!」「うん! 国の勝利を伝える大事な行事よね!」「のじゃっ!」 ガウスの言葉に両手を空高く上げガッツポーズを取り、すっかりテンションアゲアゲの俺達。 ……という事で翌日の朝。 俺と雫さんは雫さんの愛馬シルバーウィングに跨りファイラス城外の凱旋門で静かに待機する。 そして雲一つない澄んだ青空の中、その上空にはエンシェントフレイムに変化した双竜、即ち学とノジャが優雅に大空を舞っている。 更に
……オヤジのしばらくの沈黙後に女神様がとんでもない回答を述べる。 「……え?」「俺も後で知ったんだが、アデレと対となる双子の星、『ルマニア』に転生しているらしい」「アデレとルマニアは双子の星にして1つの世界。そしてそこにいるスカードとサイファーはそのルマニアの住人なのですよ」「え、ええっ!」 女神様の話の内容に驚くしかない俺達だった。「うーんそうなると、スカードがこちらの世界に来たのも多分偶然じゃないかもね……」「ええっ! 雫さんがそんな事言うとなんか妙に説得力があるんだよね」(となるとスカード達は双極の星からの使者ってことかあ……) 「あの博士、少し訪ねたい事があるんですが?」「ん、なんだい雫さんとやら」「何故、私達にこの世界でこんな経験を積ませたんです?」「理由は大きく2つある。1つは母さんを探すのに純粋に力と仲間が必要だった」(なるほど、結果的にはなるが魔王スカードと出会えたのも必然だったのかもね) 俺はもう1つの星の住人である魔王スカードとサイファーを見つめ、納得せざるを得なかった。(だってさ魔王スカードみたいな強者がルマニアにはまだいるってことだろ? そうなると、女神様が俺と魔王スカードを戦わせたのは納得なんだよな)「で、親父。もう1つの理由は?」「多分、異世界転生計画の真の目的じゃないかしら? 私は組織から月面移住計画と並行して進められた新しい地球の代替えとなる新天地が目的って聞いていたけど……?」 「へ?」 俺達はスイさんの難しい言葉に目を細め唖然とする。「月面移住計画って、私の両親も確か関わっているって聞いたけど。確か月を探索して資源や新しい土地を求める計画よね?」「ああ、そうだ。月じゃなくて地球に類似した異世界を探す方が早いからな」「ぶっ飛んだ計画ではあるけど、理には適ってる
「……えっと? あのそうじゃなくて俺の両親は?」 俺は訳が分からず女神様の目を見つめる。「ああっ! なによ! 『古代図書装置ユグドラ』が転生した月神博士だったの? もう、ずっと私の目の前にあったものがそうだったなんて……!」「ってええ? ス、スイさん?」「て、こ、この植物が月神博士?」 俺達は色々と驚きながら、いつの間にかまじかに姿を現したスイさんを見つめる。「あ、そっか! スカードが全生物を生き返らせたから……」「そ! 私魔法使いだから瞬間移動の魔法も使えるしね!」「スイあんた……」「ご、ごめんなさいっ! 私も立場上色々あって仕方なくやってたの! でも、もう色々と諦めたから本当に許して! お願いっ!」 スイさんは俺達の目の前で深々とひれ伏し土下座して謝っている。「なあ、スカードどうする?」「俺はもうこやつを一度断罪したので、正直どうでもいい。だが、お前はFプロジェクトの事を知っておく必要があるだろうし、こいつと仲良くやった方が俺はお前の為になるとおもうのだががな……」(そっか、そうだよな。流石スカード、戦っていないときは非常に頼もしいし、キレのある回答をしてくるな) なんか位置付き的に神様みたいだしね。「うんまあ、完全には信じられないけど本当に罪悪感を感じているなら色々教えてくれると嬉しいかな……」 その、正直俺の初恋の人でもあるしね……。 俺は少しだけ顔を赤らめながら、ぼそりとつぶやく。「んんっ……そうよね。じゃお詫びに私の知っている事を全て話すね」「まあ、貴方の嘘を看破するスカードもいるしね?」 雫さんは少しの皮肉を込め、苦笑いしてますが? 中々辛辣である。「ば、ばかっ! そ、そんなんじゃないって!」「ふむ、半分
ファイラス城に向かうのは勿論、いつもの隠し通路から女神の神殿まで移動するためだ。 と、その時突風とともに真横に凄い勢いで何かが通り過ぎる! それはファイラス城の城壁に轟音を立て突き刺さる! よく見るとそれは樹齢百年は超えている大木そのものであった! ……更にはパラパラと音をたて、崩れる城の城壁……。「き、きゃあ――――――?」 そして、城内からは女中のけたたましい金切り声が多数上がっている……。「ひええええっ?」 思わず俺達もそのアクシデントに慌てまくる。(こ、これはま、まさか?) 嫌な予感を確かめるべく俺は恐る恐る後方を振り返る。「に、が、さ、ん!」 すると巨大化した魔王スカードが2本目の大木をこちらに向い、まるでやり投げの槍の様に投擲しようと振りかぶっている姿が見えたのだった!「ま、学っ! 急げっ!」「ひ、ひえええっ⁈」 学は蛇行飛行をし、スカードに的を絞らないようにさせながら城内を目指していく。 その間にも2本目の大木が軽々と投擲され、またもや俺達の真横を通りすぎ轟音をたて城内に突き刺さる! と同時にまたもやガラスの割れる鈍い音、女中の甲高い悲鳴が聞こえて来る。 最早城内は地獄絵図だ……。 不幸中の幸いで、俺達はその割れたガラス窓から、神殿に向かうための隠し通路に急いで向かえた。 ……3本目の投擲の様子が無い所を見ると、ガウス達が上手く囮になってくれているのだろう……。(ごめんな皆、しばらく耐えてくれよ……?) それからしばらくして、俺達はなんとか女神の神殿にたどり着く事が出来た。 進んでいくと周囲がうっすらと光輝くうす透明な紫色の水晶で出来ている部屋にたどり着く。
(本当は、俺よりも剣術が優れている雫さんがこれを使う予定だったけどね) だから、俺に雫さんはあの時この黄昏の剣を託したのだ。 よく見るとサイファーも元の姿に戻りスカード同様地面にうずくまっていた。(おそらくアーマーアームドの耐久が限界値を超えたんだろうな……) それを見たガウスは俺の右手を握り、掲げ勝どきを上げる!「聞け! ファイラスの全兵そして国民よ! ザイアードの大将魔王スカードをファイラス国王守様が打ち取ったぞー!」「うおおおおっ! やったぞ皆っ! 俺達の勝利だっ!」「ファイラス軍万歳っ!」 遥か後方に下がっていた全兵が歓喜の大声を上げながら、次第にこちらに近づいてくる!(よし、もういいだろう)「……アームド解っ!」 俺は学のアームドを解除し、その場にへたり込む。 学も同様にへたり込んでいた。「守、学っ!」 気が付くと雫さんも俺達の元へ駆け寄ってきた!(この感じ、終わったのか……?) 俺は隣で親指を立て、爽やかな笑顔でこちらを見つめている学を見ながら激しい戦闘に終止符が打たれた事を実感したのだ。「ッ⁈」 何故か急に寒気と、胸騒ぎがする……⁉ 俺は反射的にスカードが倒れていた場所に目を移す。 何とスカードは驚いた事にその場に立ち上がり、仁王立ちしているではないか!「ば、馬鹿なっ! お前は守様によって心臓を貫かれたはずだぞっ!」 ガウスは剣を再び抜き、その切っ先をスカードに向け威嚇する。 俺達も急いで立ち上がり、警戒態勢をとるが……?「……なんかスカードの奴、ぼーっとしているし様子が変じゃないか?」「う、うん……。目がなんか真っ赤に変わっているし…&hellip
「はっはっはっ! 守様、大人しく寝ていれば良いのに!」「ぬかせ、ガウス! お前に美味しいとこだけ持っていかれてたまるか! 冗談言ってないで、挟み込むぞ!」「ははっ!」 俺とガウスはスカードを挟みこむ様に左右に別れ、上手く連携し、追い込んでいく!「ぬっ! ぐうっ!」 それに対しスカードも懸命に対応しているが、正直分が悪すぎると俺は思う。 というのも俺とガウスの師弟コンビの息の合った連携、更には雫さんと学の息の合った支援、そしてファイラスが誇る各将と粒ぞろいの人材のバックアップがあるのだから……。 そしてこの猛攻に耐え切れず、スカードのアーマーアームドに細やかなヒビが増えてきているのが分った。(よしよし! 間違いなく追い込んできている証拠だ!)「守さん! 今、サイファーの解析が終わったわ! サイファーはもう体力、魔力共につきかけている! やるなら今よ!」「分かった、ありがとう雫!」(……あ、雫さんのこと初めて呼び捨てしてしまった……。そして雫さん、顔若干赤くなってんな、うん……) これは恥ずい。 が、今はスカードに集中したいところ。『てことで、手筈通り頼むぞ学!』『はいはい……』 俺と学は心の会話を終え、右手以外の全身の主導権を学に任せる。 そう、この時の為に取っておいたとっておき! それをスカードに食らわす為にね……! 刹那、そのチャンスが訪れる! スカードの鎧の隙間に雫さん達が射た弓矢が数本刺さり、奴の動きが極端に鈍くなる!「うぐうっ……!」 だからか、スカードが苦しそうに呻いている! そして、ガウスは当然そのチャンスを逃さない!「はああっ!」 ガウスはここぞとばかりに気合の入った必殺の
弓が飛んできた方向を瞬時に追うと、遠目に見えるは雫さんとヒューリが弓を構えるその姿。「ぐうっ!」 だからか、スカードは苦痛の呻き声を上げていた。 その痛みのせいか一瞬スカードの体が浮き、俺の腰にまわしていた手の力も緩む!(い、今がチャンス!)「お、おおおっ!」 俺達は気合を入れ、スカードの両手を勢いよく振りほどく! と同時に奴のアゴに向かって頭突きを食らわせる!「がっ!」 スカードは呻き、たまらずよろける。 続いて体勢の崩れたスカードに勢いよく体当たりをかまし、俺達はやっとのことスカードから解放される結果となった。 (はあ、はあ、あ、危なかった……。ありがとう、ノジャ……) というのもノジャの加護が無ければ、俺達は恐らくとっくの昔に感電死していただろう。(もっとも今のスカードの電撃を食らい、加護が切れてしまったけどね……) 雫さんを見ると、あちらもその加護は切れていた。 なるほど、この効果は2人で共用しているものだったんだろう。「うっ? くっ!」 俺達は気合で立ち上がろうとするが電流のせいで体が痺れているため、よろけ情けないことにその場にへたり込んでしまう。「守様、だ、大丈夫ですか? 今、状態回復魔法をかけますので、しばらく大人しくしといてください……」 小走りで駆け付けたウィンディーニが状態異常回復魔法を俺達にかけていく。「あ、ああ……」 素直にありがとうと言いたかったけど、申し訳ないが麻痺している為か舌も回らない状態だ。「……スカード申し訳ないけどこれは決闘じゃない、国単位の戦争なのよ……」「……然り……」 雫さんとヒュ
「ク、クククク……」 スカードは怒りとも歓喜ともとれる不敵な笑みを浮かべている? その為か、スカードの肩が若干揺れている様にも見える……って⁈ よく見るとスカードが装着しているアーマーアームドを覆っていた青白い光が更に強くなり、なにやら激しい異音が響き渡っているのだが……?(な、なんだ、こ、これは……? なんだがとっても嫌な予感がするんだけど?) 俺は雫さんを見つめるが、その雫さんは静かに横に首を振っている。(雫さんの未解析の技か。なるほど、スカード達のとっておきってわけか……⁈) 「……数百年ぶりだな……。この状態になるのは……」「何ッ⁈」「……この状態になるのは、お前で2人目だということだっ守っ!」 スカードはその咆哮と同時に俺達に急接近してくる!(は、はやっ……?) 一瞬消えたかのように見える程の移動スピード! が、俺達は瞬時に迎撃体勢を取る。「……お前何処を見ている?」(なっ? 後ろ? 今確かに正面から向かってきていたはずっ! が、大丈夫だ、学がしっかり防御してくれる……) 「遅いな……?」「かはっ?」 俺は俺の左わき腹にスカードの重い拳が突き刺さりのを感じ、たまらず呻き声を上げる。(なっ? ひ、左?) 「くそっ!」 俺は捨て身の食らいうち狙いで、右手に握った剣をスカードに向かって突きを繰り出す! が、もうそこに奴はいない。(こ、これは……ざ、残像現象……?)