「……えっと? あのそうじゃなくて俺の両親は?」
俺は訳が分からず女神様の目を見つめる。
「ああっ! なによ! 『古代図書装置ユグドラ』が転生した月神博士だったの? もう、ずっと私の目の前にあったものがそうだったなんて……!」
「ってええ? ス、スイさん?」「て、こ、この植物が月神博士?」
俺達は色々と驚きながら、いつの間にかまじかに姿を現したスイさんを見つめる。
「あ、そっか! スカードが全生物を生き返らせたから……」
「そ! 私魔法使いだから瞬間移動の魔法も使えるしね!」「スイあんた……」
「ご、ごめんなさいっ! 私も立場上色々あって仕方なくやってたの! でも、もう色々と諦めたから本当に許して! お願いっ!」スイさんは俺達の目の前で深々とひれ伏し土下座して謝っている。
「なあ、スカードどうする?」
「俺はもうこやつを一度断罪したので、正直どうでもいい。だが、お前はFプロジェクトの事を知っておく必要があるだろうし、こいつと仲良くやった方が俺はお前の為になるとおもうのだががな……」(そっか、そうだよな。流石スカード、戦っていないときは非常に頼もしいし、キレのある回答をしてくるな)
なんか位置付き的に神様みたいだしね。
「うんまあ、完全には信じられないけど本当に罪悪感を感じているなら色々教えてくれると嬉しいかな……」
その、正直俺の初恋の人でもあるしね……。
俺は少しだけ顔を赤らめながら、ぼそりとつぶやく。
「んんっ……そうよね。じゃお詫びに私の知っている事を全て話すね」
「まあ、貴方の嘘を看破するスカードもいるしね?」雫さんは少しの皮肉を込め、苦笑いしてますが? 中々辛辣である。
「ば、ばかっ! そ、そんなんじゃないって!」
「ふむ、半分……オヤジのしばらくの沈黙後に女神様がとんでもない回答を述べる。 「……え?」「俺も後で知ったんだが、アデレと対となる双子の星、『ルマニア』に転生しているらしい」「アデレとルマニアは双子の星にして1つの世界。そしてそこにいるスカードとサイファーはそのルマニアの住人なのですよ」「え、ええっ!」 女神様の話の内容に驚くしかない俺達だった。「うーんそうなると、スカードがこちらの世界に来たのも多分偶然じゃないかもね……」「ええっ! 雫さんがそんな事言うとなんか妙に説得力があるんだよね」(となるとスカード達は双極の星からの使者ってことかあ……) 「あの博士、少し訪ねたい事があるんですが?」「ん、なんだい雫さんとやら」「何故、私達にこの世界でこんな経験を積ませたんです?」「理由は大きく2つある。1つは母さんを探すのに純粋に力と仲間が必要だった」(なるほど、結果的にはなるが魔王スカードと出会えたのも必然だったのかもね) 俺はもう1つの星の住人である魔王スカードとサイファーを見つめ、納得せざるを得なかった。(だってさ魔王スカードみたいな強者がルマニアにはまだいるってことだろ? そうなると、女神様が俺と魔王スカードを戦わせたのは納得なんだよな)「で、親父。もう1つの理由は?」「多分、異世界転生計画の真の目的じゃないかしら? 私は組織から月面移住計画と並行して進められた新しい地球の代替えとなる新天地が目的って聞いていたけど……?」 「へ?」 俺達はスイさんの難しい言葉に目を細め唖然とする。「月面移住計画って、私の両親も確か関わっているって聞いたけど。確か月を探索して資源や新しい土地を求める計画よね?」「ああ、そうだ。月じゃなくて地球に類似した異世界を探す方が早いからな」「ぶっ飛んだ計画ではあるけど、理には適ってる
……数時間後、此処はファイラス城内の会議室。 そんなこんなでファイラス城内に戻った俺達は事の顛末をガウスなどの重臣達を呼び簡潔に説明した。「なるほど、そうだったのですか。なんにせよ魔王スカードの件お疲れ様でした……」「はは、あガウス達のバックアップがあったお陰でだからね……?」 俺はガウス達重臣一同が椅子から起立して深々と頭を下げるのを制して、苦笑する。「……それにしてもにわかには信じられないですが守様達は異世界からの転生者だったとは……」「うん、そうなんだ」「では、貴方達の変わりに本来此処にいるべきレッツ第1王子とゴウ王子達はどちらに?」 「親父の話だと、どうやらルマニアに転移しているらしい」 ザイアードのそもそもの魔王達も当然ルマニアに転生しているらしいし、エルシードのエルフの女王についても然りだ。 これはこの異世界アデレとルマニアが対になっている関係らしいけど、親父達も詳細は分っていないらしい。 なので俺がルマニアからこちらの世界に戻ってきたとしても「ガウス達との繋がりがどうなってしまうかな?」と俺は危惧していたりもする。「……ま、なんにせよ1つの大戦は無事終結し、貴方達の頑張りのお陰でこの世界に平和が訪れた事実があります。という事で明日早速凱旋バレードをしましょう!」「お、いいねえ!」「うん! 国の勝利を伝える大事な行事よね!」「のじゃっ!」 ガウスの言葉に両手を空高く上げガッツポーズを取り、すっかりテンションアゲアゲの俺達。 ……という事で翌日の朝。 俺と雫さんは雫さんの愛馬シルバーウィングに跨りファイラス城外の凱旋門で静かに待機する。 そして雲一つない澄んだ青空の中、その上空にはエンシェントフレイムに変化した双竜、即ち学とノジャが優雅に大空を舞っている。 更に
そんなこんなで楽しいひと時はあっという間に終わり、深夜自室にて俺はベッド横たわり窓から闇夜に見える綺麗な満月を眺めながら物思いに耽る……。(いよいよ明日から異世界ルマニアに行くわけだけど、なんだか寂しくなるな……。それに学や雫さんとの関係は上手くやれるんだろうか……?)「失礼します……」 その時、静かにドアをノックする声が聞こえて来る。「……この声ガウスか。……どうぞ」「失礼します。少しお話をしたいので会議室によろしいですか……?」「……そうだね。俺達がいなくなったこととかも話しときたいしね」 という事で俺はガウスと共に話しながら会議室に移動していく。 「……色々心配されているようですが、まあ後は私達に任せてください……」「そうだね……申し訳ないけど俺達に出来る事はそれしかないからね」 俺は苦笑しながらガウスに答えるし、ほんそれである。「まあガウス達には色々と世話になったし、ホント感謝しきれないよ」「はは、まあそれが自分達の仕事ですしね。当然の事をしたまでですよ……」 ガウスは謙遜しているのだろうが、その当たり前のことが当たり前に出来ない人が本当に多いのだ……。 なので、俺は本当にガウスやギール達には感謝している。「ということで自分の話はこれで終わりです」「え? じゃ会議室に行く意味ないじゃん」「まあ、そこは守様に用事がある人達がいるからですね……」 ガウスは片目を閉じ、俺に対しウィンクして見せる。(ああ、他の重臣やゴリさん達もか……。まあ、最後になるかも
闇夜に走るは1台の漆黒のスポーツカー。 そう、俺【月神 守(つきがみ まもる)】は大学の親友達と車で深夜の山中をドライブの真っ最中なんだよねー! 俺の隣の助手席に座っている女性が「わあ、夜風がひんやりとして、とても気持ちいいですね……」と、呟きこちらを見つめる。 彼女の名前は【風見 スイ(かざみ すい)】さん。 気になった俺は隣をそっとチラ見する。 するとスイさんは夜風に静かになびくセミロングの銀色の髪に手をそっと当て、サファイアのように澄んだ青い瞳でこちらを見つめ返し、ほがらかに笑っていた。 童顔を感じさせる二重の大きな瞳。それを強調させる細長い眉。彼女の小柄な体形と血色の良いもち肌。そしてふっくらとした丸みを帯びた顔と胸に俺は小動物的な癒しを感じてしまう。(それに、紺色のギャザーワンピがまた超似合っているんだよなあ) 俺はそんなことを考えつつも、「ですよねー!」と力強く返事し、ウンウンと頷き自身を納得させていた。 あ、で、話はドライブに戻るんだけど、実はこのドライブには目的があるんだ! 結論から言うと、なんと「スイさんへの告白をかねて」のドライブデート中なんだよね。 情けない話だけど、親友にお膳立てしてもらって現在に至るわけなんだけど。(いやー、ホント持つべきものは良い友……) 「風も気持ちいいけど、俺ともっと気持ちいいことしませんか? なーんつって!」 「……」 後部座席から訳の分からない言葉が聞こえ、その後静かなエンジン音が車内に響き渡るのが分る。(こ、こいつっ! まじかっ⁈ この空気、い、色々と、台無しだ) だからか、俺の額にじんわりと変な汗が滲み出てくるのが分る。 えっとですね、今後部座席から訳の分からない人語を発した奴。 コイツが色々お膳立てしてくれた悪友の【星流 学(ほしながれ まなぶ)】。 学は御覧の通りパーソナルスペースというものは一切ないおバカ。なので、剛速球な会話を得意とし、両手を広げ土足で人の心の領域に踏み込んでくる。 体の線は細いが馬鹿力。かつ武道の実力は相当なもので空手の師範代持ちだったりするんだよね。(他人を思いやる優しい一面もあるんだけど……) 俺は深いため息をつき、カーミラー越しにそっと後部座席に座っている学を覗き見る。(こうやって改めて見ると、性格に反して顔と雰囲気は整った
「……なあ、お前なんて言うの?」 「うっ、学。ぐすっ」「お前、女みたいな容姿してるし、めそめそしてるからいじめられてるんじゃねーか」 「うっ、うっ……」 これは幼少時の俺達の記憶……? 俺はその昔の視覚情報を冷静に整理していく。(俺の隣のブランコに座っているのは小さい時の学だなこりゃ。だってちっこいし、赤い半袖Tシャツに半パンとおこちゃま仕様だしな) この当時の学は見た目が本当に女性みたいに華奢で、喧嘩が弱く、毎日めそめそ泣いていたっけ。 対して俺は孤児院の中でも当時はガタイが良くて、要領も良かったからイジメにあうことはなかった。 というのも暗記は得意だったので動画とか見て、空手の技も学んで強くなっていたからだ。「なあ、お前。良かったら俺が喧嘩の仕方教えてやるよ?」 俺はブランコを静かに立ちこぎしながら、隣の学を見つめる。「えっ? 守君が、その……俺を守ってくれれば……」 もしもじしている学に、俺は心底呆れた。「あのな……? 例え俺がお前を守ったとする。でもさ、俺がいないところだとお前はもっといじめられるだろ? それじゃ何の解決にもならない。だからさ、その名の通り俺から喧嘩の技を学べっていってんの!」 「あ……。そっか、そうだね! へへ、守君は本当は優しいんだね……」 学のまるで女の子の様な泣き顔に少しドキリとし、俺は少し顔を赤らめてしまう。「ば、ばーか、そんなんじゃねーよ……」 こうして学は俺から喧嘩の技を教わり、次第に強くなっていく。(名前の通り学習能力が高く、色んな技を一瞬で覚えていく様に俺は旋律を覚えたんだっけ) 「よーし、今日はこれまで! 空手の型をちゃんと覚えておけよ。型を覚えて置けば、一人でも練習はできるし対人のイメージトレーニングも出来るからな!」 「うん、ありがとう守君!」 そうそう、当時学は素直な可愛らしい子だったんだよな。 それから学はどんどん強くなっていき、結果、孤児院でいじめられることはなくなった。 というか、孤児院での喧嘩は負け知らずになっていた。 そして月日が流れ、おれらが高校生の時くらいかな? 寒い雪が降る日に孤児院が謎の火事に合い、俺達はバラバラに引き取られることになってしまったんだっけ。 ま、いわゆる別れの時ってやつだな。「守、またな」 「ああ」 俺と学はお互いの拳を軽く
それから数時間後、ここは俺の魔王部屋だ。「ま、学うー……。良かったなー無事で」 「ははっ……。お前こそ……な」 真っ赤なソファーに仲良く腰掛け、俺達はしばらく再会の会話を楽しんでいた。 この会話で分かったことだが、この世界では不思議なことにどの種族間でも言語が統一されているらしい。 早い話、ドラゴンでも、魔族でも、人でもある程度知恵があるものなら会話が可能のご様子。 うんまあ、異世界転生あるあるだし、正直便利に越したことないしどうでもいいかな。(そんな事より、この悪友が長男と言う事実が俺には一番ビックリニュースだったけどね。うんまあ、嬉しいけど) 「それはいいとしてさあ、お前一体何処いってたんだ?」 「へへっ! ファイラスまで散歩っ!」 学は両腕を元気よく左右に振り、ジェスチャーで示す。(こ、こいつ……相変わらずエネルギッシュ馬鹿だな。まあ、魔王だから、むしろそれが正常なのか) 俺はコイツがこのザイアードに転生した理由が分った気がした。「で、わざわざ敵国に何しに?」 「偵察だな。なんでもこの国に攻めてくると言う噂を聞いたんでな?」 執事に聞いた話と違い、「えっ? 停戦中じゃなかったのか?」と、目をまん丸くする俺。 俺の心情を察した執事は「マモル坊ちゃま、実はここ数日で色々状況の変化があったのでございます」と、近況を補足説明をしていく。 何でも我が国の斥候情報によると、最近『ファイラス』では数十万単位の軍隊が練兵しているんだとか。 そのためこの感じだと、少なくても数か月後にはこの国に攻めてくるとシツジイは予想している。「実際、練兵している姿を俺はこの目で見てきたぜ?」 学の言葉に「マ⁈」と、狼狽える俺。「た、大変な事になるじゃねーかそれ? その規模だと、どっちかの国が亡びるかの大戦じゃね?」(こ、これはえらいこっちゃ……) 俺は急に不安になり、その場をうろうろしてしまう。 学は執事に、「まあ、そうなるな……。なあ、シツジイ、基本人と魔族の一人当たりの戦力差は人一人の百倍と言われているよな?」と、この世界の種族間の戦力ポテンシャルを確認する。 対して執事は、「そうでございます。これは魔族の闇の魔力の強力さが理由と言われております」と、サラリと返す。 が、学が疑問に持つのも無理もない。 この国は五万の兵力を
こうして驚きの連続の一日が無事終わり? 翌日の昼を迎える。 ここは俺の魔王部屋。 接客用のフカフカの赤いソファーに優雅に腰かけ、俺と学は談話の真っ最中だったりする。「……守、ここは慣れたか?」 学の鋭い問いに対し、俺は「ま、まあ、なんとかね?」と、虚勢を隠すために紅茶をすすり、それをテーブルに静かに置く。(てかさあ、正直、魔王としての立場とかまだ色々違和感はあるだよなあ) が、悲観しても仕方がないし、慣れるしかない。 そう、こちとら幸か不幸か孤児院時代で培ったハングリー精神がある! それに現実世界で起きてる紛争とかに比べると、別に絶望的ではないしな。 見知った学もいるし、忠臣のシツジイもいる。(立場上、俺は魔王だし、なんとかなるよ。てか、俺がなんとかして見せるさ!) そんな事を考えてる俺に守は「そうか。ところで守は転生した時に『特殊能力が使える事』に気づいているか?」と、腕組みし俺の顔を覗き見する。 俺は「え? 空飛べる以外に、まだ大それた何かが出来るの? 勿体ぶらずに、サクッと内容を教えてくれよ?」と、驚いたわけだが。 実際俺は昨日、シツジイに直接指導を受け、嬉しくって大空をガンガン飛びまくった。(へへっ、だからもう鷹とかツバメとかより早く飛べるぜ!) なんとといっても機動力は早めに確保した方がファンタジー世界では色々便利だしね。 俺のやれることから直実に詰めていった方がいい。「流石、守ポジティブ思考だな。んと、そうだな。言葉で説明するより実際見せたほうが早いか……。てことで外に出ようぜ!」 「おう!」 てことで、俺達は漆黒の翼を大きく広げ、近くのただっ広い平地まで飛んでいくことにした。 澄んだ青空を気持ちよく飛びながら俺はふと後ろを振り返り、今飛び出したばかりのザイアード城を眺める。(うん! 壮観、壮観っ!) 城はごつごつとしたクソデカイ岩山をくり抜いて作られた、ゴシック様式の白亜の天然要塞といったところ。 その城の周りだけ漆黒の瘴気にうっすらと覆われているところがもう、なんか「ザ魔王の城」って感じだ。 だからか、俺は「なんかこの城ってさ、ドラキュラが住んでそうな雰囲気出てるよな」て、言葉が自然とでてしまう。 対して学は「ははっ、そうだな。てか俺達今、魔族だからな?」と、飛翔しながら苦笑いする始末。
それから数週間たったある日。 ここは人の国『ファイラス』の王の間、大理石の白壁に囲われたの城内である。 天井には壮大な壁画が見られ、均一に立派な硝子細工のシャンデリアが吊るされている。 床には立派な赤い絨毯が引かれ、そこに静かに整列した重曹騎士団が見守る中、一部の権力者達が会合を行っている最中であった。「お兄様方、私は他国と争うことは反対です!」 「だ、黙れっ! 王女であるお前に決定権はないし、俺達は方針を変えるつもりはないっ!」 シズク王女と王子達の口論が静かに城内に響き渡る。 『ファイラス』では現在、第一王子レッツ、第二王子ゴウ、そして第一王女のシズクの3人による統治が行われていた。 そう、雫は『ファイラス』の王女として守と同時期に転生していたのだ。 激情型である第一王子レッツはシズク王女の態度に激昂し、頭上の王冠を激しく床に叩きつけ、怒りをあらわにする。 黄金の鎧を纏っていても分かる恵まれた体格、更には獅子の如きレッツの形相に、周囲の大臣や宰相などはおろおろし、たじろぐばかりであった。「……兄上のおっしゃる通りだ。もう確定事項なんだよこれは……。お前は頭を冷やしに城外に散歩に行ってきなさい。……いい子だから、な?」 対して温和で優しい第二王子ゴウはその王冠を拾いレッツに手渡し、シズク王女をもなだめる。 「……っ、分かりました。では、失礼します……」 雫は王子達に軽く一礼し、言われるがまま静かに城外に出て行く。 雫は峠を越え城外からかなり離れた川岸に出るやいなや、周囲をキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認し大きく深呼吸する。「レッツ王子のバッカヤロー! イノシシ武者――――――――――――っ!」 雫はそんな気持ちをぶつけるかの如く、大きく腕を振り絞り小石を川に勢いよく投げつけるのだった。 ドポンという鈍い音とともに、川に緩やかに広がっていく波紋。「あ―――――――すっきりした!」 落ち着いた雫はふと振り返り、少し小さくなったファイラス城を見
そんなこんなで楽しいひと時はあっという間に終わり、深夜自室にて俺はベッド横たわり窓から闇夜に見える綺麗な満月を眺めながら物思いに耽る……。(いよいよ明日から異世界ルマニアに行くわけだけど、なんだか寂しくなるな……。それに学や雫さんとの関係は上手くやれるんだろうか……?)「失礼します……」 その時、静かにドアをノックする声が聞こえて来る。「……この声ガウスか。……どうぞ」「失礼します。少しお話をしたいので会議室によろしいですか……?」「……そうだね。俺達がいなくなったこととかも話しときたいしね」 という事で俺はガウスと共に話しながら会議室に移動していく。 「……色々心配されているようですが、まあ後は私達に任せてください……」「そうだね……申し訳ないけど俺達に出来る事はそれしかないからね」 俺は苦笑しながらガウスに答えるし、ほんそれである。「まあガウス達には色々と世話になったし、ホント感謝しきれないよ」「はは、まあそれが自分達の仕事ですしね。当然の事をしたまでですよ……」 ガウスは謙遜しているのだろうが、その当たり前のことが当たり前に出来ない人が本当に多いのだ……。 なので、俺は本当にガウスやギール達には感謝している。「ということで自分の話はこれで終わりです」「え? じゃ会議室に行く意味ないじゃん」「まあ、そこは守様に用事がある人達がいるからですね……」 ガウスは片目を閉じ、俺に対しウィンクして見せる。(ああ、他の重臣やゴリさん達もか……。まあ、最後になるかも
……数時間後、此処はファイラス城内の会議室。 そんなこんなでファイラス城内に戻った俺達は事の顛末をガウスなどの重臣達を呼び簡潔に説明した。「なるほど、そうだったのですか。なんにせよ魔王スカードの件お疲れ様でした……」「はは、あガウス達のバックアップがあったお陰でだからね……?」 俺はガウス達重臣一同が椅子から起立して深々と頭を下げるのを制して、苦笑する。「……それにしてもにわかには信じられないですが守様達は異世界からの転生者だったとは……」「うん、そうなんだ」「では、貴方達の変わりに本来此処にいるべきレッツ第1王子とゴウ王子達はどちらに?」 「親父の話だと、どうやらルマニアに転移しているらしい」 ザイアードのそもそもの魔王達も当然ルマニアに転生しているらしいし、エルシードのエルフの女王についても然りだ。 これはこの異世界アデレとルマニアが対になっている関係らしいけど、親父達も詳細は分っていないらしい。 なので俺がルマニアからこちらの世界に戻ってきたとしても「ガウス達との繋がりがどうなってしまうかな?」と俺は危惧していたりもする。「……ま、なんにせよ1つの大戦は無事終結し、貴方達の頑張りのお陰でこの世界に平和が訪れた事実があります。という事で明日早速凱旋バレードをしましょう!」「お、いいねえ!」「うん! 国の勝利を伝える大事な行事よね!」「のじゃっ!」 ガウスの言葉に両手を空高く上げガッツポーズを取り、すっかりテンションアゲアゲの俺達。 ……という事で翌日の朝。 俺と雫さんは雫さんの愛馬シルバーウィングに跨りファイラス城外の凱旋門で静かに待機する。 そして雲一つない澄んだ青空の中、その上空にはエンシェントフレイムに変化した双竜、即ち学とノジャが優雅に大空を舞っている。 更に
……オヤジのしばらくの沈黙後に女神様がとんでもない回答を述べる。 「……え?」「俺も後で知ったんだが、アデレと対となる双子の星、『ルマニア』に転生しているらしい」「アデレとルマニアは双子の星にして1つの世界。そしてそこにいるスカードとサイファーはそのルマニアの住人なのですよ」「え、ええっ!」 女神様の話の内容に驚くしかない俺達だった。「うーんそうなると、スカードがこちらの世界に来たのも多分偶然じゃないかもね……」「ええっ! 雫さんがそんな事言うとなんか妙に説得力があるんだよね」(となるとスカード達は双極の星からの使者ってことかあ……) 「あの博士、少し訪ねたい事があるんですが?」「ん、なんだい雫さんとやら」「何故、私達にこの世界でこんな経験を積ませたんです?」「理由は大きく2つある。1つは母さんを探すのに純粋に力と仲間が必要だった」(なるほど、結果的にはなるが魔王スカードと出会えたのも必然だったのかもね) 俺はもう1つの星の住人である魔王スカードとサイファーを見つめ、納得せざるを得なかった。(だってさ魔王スカードみたいな強者がルマニアにはまだいるってことだろ? そうなると、女神様が俺と魔王スカードを戦わせたのは納得なんだよな)「で、親父。もう1つの理由は?」「多分、異世界転生計画の真の目的じゃないかしら? 私は組織から月面移住計画と並行して進められた新しい地球の代替えとなる新天地が目的って聞いていたけど……?」 「へ?」 俺達はスイさんの難しい言葉に目を細め唖然とする。「月面移住計画って、私の両親も確か関わっているって聞いたけど。確か月を探索して資源や新しい土地を求める計画よね?」「ああ、そうだ。月じゃなくて地球に類似した異世界を探す方が早いからな」「ぶっ飛んだ計画ではあるけど、理には適ってる
「……えっと? あのそうじゃなくて俺の両親は?」 俺は訳が分からず女神様の目を見つめる。「ああっ! なによ! 『古代図書装置ユグドラ』が転生した月神博士だったの? もう、ずっと私の目の前にあったものがそうだったなんて……!」「ってええ? ス、スイさん?」「て、こ、この植物が月神博士?」 俺達は色々と驚きながら、いつの間にかまじかに姿を現したスイさんを見つめる。「あ、そっか! スカードが全生物を生き返らせたから……」「そ! 私魔法使いだから瞬間移動の魔法も使えるしね!」「スイあんた……」「ご、ごめんなさいっ! 私も立場上色々あって仕方なくやってたの! でも、もう色々と諦めたから本当に許して! お願いっ!」 スイさんは俺達の目の前で深々とひれ伏し土下座して謝っている。「なあ、スカードどうする?」「俺はもうこやつを一度断罪したので、正直どうでもいい。だが、お前はFプロジェクトの事を知っておく必要があるだろうし、こいつと仲良くやった方が俺はお前の為になるとおもうのだががな……」(そっか、そうだよな。流石スカード、戦っていないときは非常に頼もしいし、キレのある回答をしてくるな) なんか位置付き的に神様みたいだしね。「うんまあ、完全には信じられないけど本当に罪悪感を感じているなら色々教えてくれると嬉しいかな……」 その、正直俺の初恋の人でもあるしね……。 俺は少しだけ顔を赤らめながら、ぼそりとつぶやく。「んんっ……そうよね。じゃお詫びに私の知っている事を全て話すね」「まあ、貴方の嘘を看破するスカードもいるしね?」 雫さんは少しの皮肉を込め、苦笑いしてますが? 中々辛辣である。「ば、ばかっ! そ、そんなんじゃないって!」「ふむ、半分
ファイラス城に向かうのは勿論、いつもの隠し通路から女神の神殿まで移動するためだ。 と、その時突風とともに真横に凄い勢いで何かが通り過ぎる! それはファイラス城の城壁に轟音を立て突き刺さる! よく見るとそれは樹齢百年は超えている大木そのものであった! ……更にはパラパラと音をたて、崩れる城の城壁……。「き、きゃあ――――――?」 そして、城内からは女中のけたたましい金切り声が多数上がっている……。「ひええええっ?」 思わず俺達もそのアクシデントに慌てまくる。(こ、これはま、まさか?) 嫌な予感を確かめるべく俺は恐る恐る後方を振り返る。「に、が、さ、ん!」 すると巨大化した魔王スカードが2本目の大木をこちらに向い、まるでやり投げの槍の様に投擲しようと振りかぶっている姿が見えたのだった!「ま、学っ! 急げっ!」「ひ、ひえええっ⁈」 学は蛇行飛行をし、スカードに的を絞らないようにさせながら城内を目指していく。 その間にも2本目の大木が軽々と投擲され、またもや俺達の真横を通りすぎ轟音をたて城内に突き刺さる! と同時にまたもやガラスの割れる鈍い音、女中の甲高い悲鳴が聞こえて来る。 最早城内は地獄絵図だ……。 不幸中の幸いで、俺達はその割れたガラス窓から、神殿に向かうための隠し通路に急いで向かえた。 ……3本目の投擲の様子が無い所を見ると、ガウス達が上手く囮になってくれているのだろう……。(ごめんな皆、しばらく耐えてくれよ……?) それからしばらくして、俺達はなんとか女神の神殿にたどり着く事が出来た。 進んでいくと周囲がうっすらと光輝くうす透明な紫色の水晶で出来ている部屋にたどり着く。
(本当は、俺よりも剣術が優れている雫さんがこれを使う予定だったけどね) だから、俺に雫さんはあの時この黄昏の剣を託したのだ。 よく見るとサイファーも元の姿に戻りスカード同様地面にうずくまっていた。(おそらくアーマーアームドの耐久が限界値を超えたんだろうな……) それを見たガウスは俺の右手を握り、掲げ勝どきを上げる!「聞け! ファイラスの全兵そして国民よ! ザイアードの大将魔王スカードをファイラス国王守様が打ち取ったぞー!」「うおおおおっ! やったぞ皆っ! 俺達の勝利だっ!」「ファイラス軍万歳っ!」 遥か後方に下がっていた全兵が歓喜の大声を上げながら、次第にこちらに近づいてくる!(よし、もういいだろう)「……アームド解っ!」 俺は学のアームドを解除し、その場にへたり込む。 学も同様にへたり込んでいた。「守、学っ!」 気が付くと雫さんも俺達の元へ駆け寄ってきた!(この感じ、終わったのか……?) 俺は隣で親指を立て、爽やかな笑顔でこちらを見つめている学を見ながら激しい戦闘に終止符が打たれた事を実感したのだ。「ッ⁈」 何故か急に寒気と、胸騒ぎがする……⁉ 俺は反射的にスカードが倒れていた場所に目を移す。 何とスカードは驚いた事にその場に立ち上がり、仁王立ちしているではないか!「ば、馬鹿なっ! お前は守様によって心臓を貫かれたはずだぞっ!」 ガウスは剣を再び抜き、その切っ先をスカードに向け威嚇する。 俺達も急いで立ち上がり、警戒態勢をとるが……?「……なんかスカードの奴、ぼーっとしているし様子が変じゃないか?」「う、うん……。目がなんか真っ赤に変わっているし…&hellip
「はっはっはっ! 守様、大人しく寝ていれば良いのに!」「ぬかせ、ガウス! お前に美味しいとこだけ持っていかれてたまるか! 冗談言ってないで、挟み込むぞ!」「ははっ!」 俺とガウスはスカードを挟みこむ様に左右に別れ、上手く連携し、追い込んでいく!「ぬっ! ぐうっ!」 それに対しスカードも懸命に対応しているが、正直分が悪すぎると俺は思う。 というのも俺とガウスの師弟コンビの息の合った連携、更には雫さんと学の息の合った支援、そしてファイラスが誇る各将と粒ぞろいの人材のバックアップがあるのだから……。 そしてこの猛攻に耐え切れず、スカードのアーマーアームドに細やかなヒビが増えてきているのが分った。(よしよし! 間違いなく追い込んできている証拠だ!)「守さん! 今、サイファーの解析が終わったわ! サイファーはもう体力、魔力共につきかけている! やるなら今よ!」「分かった、ありがとう雫!」(……あ、雫さんのこと初めて呼び捨てしてしまった……。そして雫さん、顔若干赤くなってんな、うん……) これは恥ずい。 が、今はスカードに集中したいところ。『てことで、手筈通り頼むぞ学!』『はいはい……』 俺と学は心の会話を終え、右手以外の全身の主導権を学に任せる。 そう、この時の為に取っておいたとっておき! それをスカードに食らわす為にね……! 刹那、そのチャンスが訪れる! スカードの鎧の隙間に雫さん達が射た弓矢が数本刺さり、奴の動きが極端に鈍くなる!「うぐうっ……!」 だからか、スカードが苦しそうに呻いている! そして、ガウスは当然そのチャンスを逃さない!「はああっ!」 ガウスはここぞとばかりに気合の入った必殺の
弓が飛んできた方向を瞬時に追うと、遠目に見えるは雫さんとヒューリが弓を構えるその姿。「ぐうっ!」 だからか、スカードは苦痛の呻き声を上げていた。 その痛みのせいか一瞬スカードの体が浮き、俺の腰にまわしていた手の力も緩む!(い、今がチャンス!)「お、おおおっ!」 俺達は気合を入れ、スカードの両手を勢いよく振りほどく! と同時に奴のアゴに向かって頭突きを食らわせる!「がっ!」 スカードは呻き、たまらずよろける。 続いて体勢の崩れたスカードに勢いよく体当たりをかまし、俺達はやっとのことスカードから解放される結果となった。 (はあ、はあ、あ、危なかった……。ありがとう、ノジャ……) というのもノジャの加護が無ければ、俺達は恐らくとっくの昔に感電死していただろう。(もっとも今のスカードの電撃を食らい、加護が切れてしまったけどね……) 雫さんを見ると、あちらもその加護は切れていた。 なるほど、この効果は2人で共用しているものだったんだろう。「うっ? くっ!」 俺達は気合で立ち上がろうとするが電流のせいで体が痺れているため、よろけ情けないことにその場にへたり込んでしまう。「守様、だ、大丈夫ですか? 今、状態回復魔法をかけますので、しばらく大人しくしといてください……」 小走りで駆け付けたウィンディーニが状態異常回復魔法を俺達にかけていく。「あ、ああ……」 素直にありがとうと言いたかったけど、申し訳ないが麻痺している為か舌も回らない状態だ。「……スカード申し訳ないけどこれは決闘じゃない、国単位の戦争なのよ……」「……然り……」 雫さんとヒュ
「ク、クククク……」 スカードは怒りとも歓喜ともとれる不敵な笑みを浮かべている? その為か、スカードの肩が若干揺れている様にも見える……って⁈ よく見るとスカードが装着しているアーマーアームドを覆っていた青白い光が更に強くなり、なにやら激しい異音が響き渡っているのだが……?(な、なんだ、こ、これは……? なんだがとっても嫌な予感がするんだけど?) 俺は雫さんを見つめるが、その雫さんは静かに横に首を振っている。(雫さんの未解析の技か。なるほど、スカード達のとっておきってわけか……⁈) 「……数百年ぶりだな……。この状態になるのは……」「何ッ⁈」「……この状態になるのは、お前で2人目だということだっ守っ!」 スカードはその咆哮と同時に俺達に急接近してくる!(は、はやっ……?) 一瞬消えたかのように見える程の移動スピード! が、俺達は瞬時に迎撃体勢を取る。「……お前何処を見ている?」(なっ? 後ろ? 今確かに正面から向かってきていたはずっ! が、大丈夫だ、学がしっかり防御してくれる……) 「遅いな……?」「かはっ?」 俺は俺の左わき腹にスカードの重い拳が突き刺さりのを感じ、たまらず呻き声を上げる。(なっ? ひ、左?) 「くそっ!」 俺は捨て身の食らいうち狙いで、右手に握った剣をスカードに向かって突きを繰り出す! が、もうそこに奴はいない。(こ、これは……ざ、残像現象……?)