闇夜に走るは1台の漆黒のスポーツカー。
そう、俺【月神 守】は大学の親友達と車で深夜の山中をドライブの真っ最中だったりする。
「わあ、夜風がひんやりとして、とても気持ちいいですね……」
俺の隣の助手席に座っているのは【風見 スイ】さん。
彼女は夜風に静かになびくセミロングの銀色の髪に手をそっと当て、サファイアのように澄んだ青い瞳でこちらを見つめ、ほがらかに笑っていた。
よく見ると童顔を感じさせる二重の大きな瞳に細長い眉、彼女の小柄な体形と血色の良いもち肌、そしてふっくらとした丸みを帯びた顔と胸に合ったは小動物的な癒しを感じさせる。
「今日着ている紺色のギャザーワンピがまた彼女にはとっても似合っている」と俺は「ですよねー!」と力強く返事しながら、ウンウンと頷き自身で納得していた。
あ、でさ! 実はこのドライブには目的があるんだよね!
結論から言わせて頂くと、「スイさんへの告白をかねて」のドライブデート中なんだ!
まー情けない話だけど、親友にお膳立てしてもらったんだよね。
(いやーホント持つべきものは良い友……)
「風も気持ちいいけど、俺ともっと気持ちいいことしませんか? なーんつって!」
「……」後部座席から訳の分からない言葉が聞こえ、その後静かなエンジン音が車内に響き渡るのが分る。
(こ、こいつっ! まじかっ⁈)
色々と、台無しである……。
だからか、俺の額にじんわりと変な汗が滲み出てくるのが分る。
あ……、で今、後部座席から訳の分からない人語を発したのが、色々お膳立てしてくれた悪友の【星流 学】。
学は御覧の通り剛速球な会話を得意とし、パーソナルスペースというものは一切なく、両手を広げ土足で人の心の領域に踏み込んでくる。
体の線は細いが馬鹿力を持っており、かつ武道の実力は相当なもので空手の師範代持ちだったりする。
(他人を思いやる優しい一面もあるんだけどね……)
性格に反して顔と雰囲気は整った中性的であり、髪は薄い茶髪のオールバック、目は二重のアーモンド形の薄い茶色の瞳が特徴的だ。
こいつの今日の服装は紺色のジーパンに灰色の長袖ポロシャツで、脳みそと同じで非常にシンプルだ。
「ごめんねスイ、こいつアホだから今の会話は軽いジョークと思って、軽く聞き流して?」 「ひ、ひどっ⁈」その馬鹿とは対照的に、今度は後部座席から透き通った心地よい声色が聞こえてくる。
あ、今ナイスフォローをしてくれたのは【音風 雫】さんでスイさんの親友なんだよね。
雫さんは有名な音風財閥の一人娘で、いわゆるお嬢様だ。
なんでも有名な音大に通えるほどの音感を持っており、ピアノが得意らしい。
お嬢様であることを鼻にかけず人柄が良くて、今の会話で分かる通り頭の回転も速く機転が利くめっちゃいい人さ。
俺はそんな事を考えながら、ミラー越しにその雫さんの姿をチラ見する。
(すらっとした細身の長身に、同じくすらっとしたまな板のように整った胸……か。天は流石に完璧は与えなかった模様)
その時、俺の座っている座席の背中に軽い衝撃が走り、運転座席が少し揺れた。「い、イタッ!」
俺はたまらず反射的に呻き声を上げてしまう。
「あら、ごめんなさい⁈ ちょっと足が滑っちゃって。前座席を蹴っちゃった(笑)」
「おいおい、ホントか? 今、意図的に雫が蹴ったように俺は見えたぞ?」(……な、何やら後部座席組が騒がしいが……? てか、雫さん今のワザとじゃないよね?)
ワザとだったら、俺色々とめっちゃ怖いっす……。
あ、そうそう! 紹介の続きなんだけど、雫様はきりっとした細長い眉毛に二重の大きな茶色の瞳、整った端正な可愛らしい小顔に茶髪のロングヘアーをしている。
んで、現在あの学と付き合っていたりするし、その関係か今日の服装は学とペアルックだったりする。
雫さんが学に惚れたのは、感性が高く学の魂の強さと優しさを感じ取れたからじゃないのかなと俺は思っている。
「ふふっ、二人とも仲がいいんですね? 羨ましい……」
スイさんは後部座席を覗き見て、自身の手を口元にあて上品な笑みを浮かべている。
(おお、笑っているスイさんも可愛らしいな! 結果オーライだがナイスだ、悪友!)
「え? そう見える?」
雫さんは若干顔を赤くし、まんざらでもないって顔をしている。
「え? 俺らそんなんじゃねーから。……って、痛っ……⁈」
カーミラー越しで分かったが、学は雫さんから足を踏みつけられ悶絶している模様。
(……いい気味だ。リア従はそのまま爆死してはぜろや(怒)……)
と、その時、後ろから急接近してきた車が何故かパッシングしてくる⁈
「うわ、眩しいっ」
カーミラー越しに光が反射し、俺は思わず目を細めてしまう。
「……あの車、黒のクラウンだし、なんかやばそうなんで先に行かせたほうが良くないです?」
「あ、そうだよね!」スイさんの言葉に超同意だった俺は、急いで運転していた車を道路の端に寄せる。
「あ、それはそうと知人とライムのやり取りするんで、しばらく無言になるね?」
「あ、どうぞ」スマホを忙しく触りだすスイさんに俺はコクコクと頷いた。
(く、くそっ! 折角のスイさんとの楽しい時間を邪魔しやがって、あの野郎……っ!)
俺は漆黒のクラウンを睨みつけ、そいつが遠くにいったことを確認し、車の運転を再開させた。
ぼっちで暇になった俺はカーミラー越しに後部座席に目を移す。
(て、おい⁈ 学と雫さんは缶ビールを飲んで楽しそうに騒いでいるじゃん!)
よく見ると、雫さんは学に体をそっと預け学の耳元で何やら呟いているご様子。
しばらくすると、今度は学が雫さんの耳元で何やら呟いている姿が見えた。
(こ……こいつら! 人が真面目に運転している時に何イチャついてるんですかね?)
「……え、ウソ?」
と、その直後、雫さんの大声が車内に静かに響き渡る⁈
(えっ、一体どうしたんだ⁈ もしや、いきなりの痴話喧嘩か?)
その声の大きさに、俺はまるで雷に打たれたようにビックリしたし、隣のスイさんも驚いて後部座席に目をやるほどだ。
……。
暫く車内は静寂に包まれる。
そんなわけのわからない最中、何かが俺の顔横をかすめ飛んでいく⁈
「あ、あぶなっ?」
たまらず軽く悲鳴を上げてしまう俺。
カンっと軽い音をたて、それは俺の握っていたハンドルにぶつかったのが理解できた。
(あ、これさっきあいつらが飲んでいたビールの缶……⁈)
しかも、その缶はバウンドし、結果不幸にもブレーキペダルの真下にスッポリはまってしまった模様……⁈
(まっ、まじか―――お、おおおイイイイイイイイい――――――――――――!)
当然ブレーキが使えないので、俺はなんとかハンドルだけで必死こいて車を操作していく!
(うおおおっ! ハリオカートで毎日鍛えているゲーマーの腕なめんなよっ!)
「う、うわー⁈」
「キャー⁈」そんなこんなで当然、阿鼻叫喚の車内一同。
「えっ、ああっ⁈ さ、さっきのクラウンがま、前にっ! ぶ、ぶつか……」
甲高い声で訴えかけるように絶叫するスイさん。
しかも、不幸は重なって起きる始末!
「ええい! こなくそっ!」
俺は咄嗟にハンドルを切ってしまう! が、慣性の法則が働き、俺達の乗った車はそのまま勢いよくスピンしてしまう!
(良い子の皆! 今のが悪い運転の例だ! 皆は絶対真似しないようにな!)
「う、うおおおおおおおおおっ⁈」
「キャ―――――⁈」その恐怖で思わず絶叫する俺達。
しかし、不幸はそれだけに留まらず、俺達の車はそのまま道路から放り出され、真っ黒な闇夜を勢いよくダイブしていた……。
「ひ、ひえええええ――――――⁈」
「い、いや――――――⁈」直後、超高層ビルのエレベーターに乗った時に感じられる真下に落ちていく気味の悪い感覚に包まれ、体中がぞわぞわする。
多分、本能的に体が危険信号を出しているんだろう。
だからか、俺の脳裏に過去の出来事が走馬灯のように蘇ってきた。
(ああ、俺と学は捨て子として孤児院に拾われ、兄弟のように育ったんだったな)
その孤児院も幼少期に謎の火事にあい、実の兄弟のように育った学とは離れ離れで引き取られることになって……。
(くそっ、両親の愛情を知らない不幸の連続だった俺達にもこうして青春を謳歌する時が来たってのに……)
何よりもスイさんに告白もしてないのに……。
(こ、こうなったらこのさい……)
俺は急いでスイさんを真剣な目で見つめる。
「す、スイさんっ聞いてくださいっ!」
「はわわっ? はいっ」「俺っスイさんのことっ……」
「ば、馬鹿野郎っ、今そんなことしている場合じゃねーだろ?」続きの言葉を遮るように、学から叱咤される。
(あ、スマン、確かにそうだよな。冷静さをに欠けてたわ……)
が、一体どうすればいい? 正直空中に放り出されているし万事休すだぞ?
「みんなっ、俺の手に掴まれっ」
俺の心配をよそに力強く叫ぶ学だったが、何故かその姿はほんやりと不思議な光に包まれていた。
「わ、分った!」
「う、うんっ!」何故そうしたか自分でも分からない……。
けど、そんな学に惹かれるように俺はあいつの手を掴んだ。
他の皆もだ。
その手を繋いだ瞬間、俺らは真っ白い不思議な光に包まれ意識を失ったんだ……。
うっすらと温かい光に包まれる中、俺は昔の孤児院時代を思い出していた……。
♢
「……なあ、お前なんて言うの?」
「うっ、学。ぐすっ」「お前、女みたいな容姿してるし、めそめそしてるからいじめられてるんじゃねーか」
「うっ、うっ……」これは幼少時の俺達の記憶……?
(俺の隣のブランコに座っているのは小さい時の学だなこりゃ。ちっこいし、赤い半袖Tシャツに半パンとおこちゃま仕様だしな)
この当時の学は見た目が本当に女性みたいに華奢で、喧嘩が弱く、毎日めそめそ泣いていたっけ。
対して俺は孤児院の中でも当時はガタイが良くて、要領も良かったからイジメにあうことはなかった。
というのも暗記は得意だったので動画とか見て、空手の技も学んで強くなっていたからだ。
「なあ、お前。良かったら俺が喧嘩の仕方教えてやるよ」
俺はブランコを静かに立ちこぎしながら、隣の学を見つめる。
「えっ? 守君が、その……俺を守ってくれれば……」
もしもじしている学に俺は心底呆れた。
「あのな……? 例え俺がお前を守ったとする。でもさ俺がいないところだとお前はもっといじめられるだろ? それじゃ何の解決にもならない。だからさ、その名の通り俺から喧嘩の技を学べっていってんの!」
「あ……。そっか、そうだね! へへ、守君は本当は優しいんだね……」学のまるで女の子の様な泣き顔に少しドキリとし、俺は少し顔を赤らめてしまう。
「ば、ばーか、そんなんじゃねーよ……」
こうして学は俺から喧嘩の技を教わり、次第に強くなっていく。
(名前の通り学習能力が高く、色んな技を一瞬で覚えていく様に俺は旋律を覚えたんだっけ)
「よーし、今日はこれまで! 空手の型をちゃんと覚えておけよ。型を覚えて置けば、一人でも練習はできるし対人のイメージトレーニングも出来るからな!」
「うん、ありがとう守君!」そうそう、当時学は素直な可愛らしい子だったんだよな。
それから学はどんどん強くなっていき、結果、孤児院でいじめられることはなくなった。
というか、孤児院での喧嘩は負け知らずになっていた。
そして月日が流れ、おれらが高校生の時くらいかな? 寒い雪が降る日に孤児院が謎の火事に合い、俺達はバラバラに引き取られることになってしまったんだっけ。
ま、いわゆる別れの時ってやつだな。
「守またな」
「ああ」「お前に鍛えられた恩、俺はその、一生忘れねえ……」
学はこの時、白いセーターの上からでも分る引き締まった体つきになっていた。
そうそう! 学の奴は何故かこの時から青いジーパンを愛用しだしたんだよな。
「うん、お前逞しくなったもんな」
実際もう俺は高校生の時に学に喧嘩で勝てなくなったしね。
正直俺は、最低限の護身術として覚えてたまでであって、喧嘩よりも頭を使って何かを得る方が好きだった。
(決して、負け惜しみではない、多分……)
「守……。その、俺お前に言わなきゃいけないことがあって……さ」
学は何故か顔を真っ赤にし、何やらもじもじしている?
(あ? トイレか? ん、違うこの感じ、漫画でよくある、も、もしや?)
が、俺は男であるし、コイツも当然それである。
(この感じ、危険だ。つーことで先手必勝だな……)
「スマン俺は、大のおっぱい星人であるし、そっちの毛はない!」
「成程そ、そうか……お前巨乳が好みなんだな……」学は何故か自身の胸元を見てますが?
うん、引き締まった腹筋が凄いな! て、自慢かよっ!
「いやいや、おめーにおっぱいはねーし、そもそもタケノコじゃねんだから生えてこねーよ! 孤児院内で『おっぱいの知識にかけて右に出るものはいない』と言われた大賢者守様の知識をなめんなよ!」
「そ、そうなんだ。て、ん? 事務員が『俺のPCで【おっぱいはバレーボール並み】というサイトを見た奴出て来い』って、昔探し回ってたのってまさか……?」「さ、さあ?」
俺は学が俺から少し距離を置いたのをしっかりと目視した。
(よ、よしよし、これで適度な心の距離間が保てたはず)
「ま、まあ、細かいことは置いといてだな。とりあえず、親友としてまた会おうな! それと海外エロサイトを検索する時は仕込みウィルスに気を付けるんだぞ!」
俺はいちお保険を掛けて友達認定した。
そして何故か俺の珠玉のコレクションが海外サイトでコンピューターウィルス『トロイの木馬』に感染し、その半分をクラッシュされて辛い思いでを思い出し、目頭が熱くなっていた……。
(まあ、俺のPCじゃなくて、例の事務員のおっさんの物だから傷は浅かったんだけどね……)
「じゃ、またな守!」
で、俺達はがっちりと深い握手を交わし、別々の家に引き取られることになったが……。
驚いたことに、転向し通う高校が一緒だったしクラスも一緒だった。
しかも、今の大学すらも……。
腐れ縁にも程がある。
(学とはほぼ、兄弟みたいなもんだったな、ホント……)
……。「う、うあああ――――――⁈」 落下の感覚を思い出した俺は絶叫を上げ目を覚ます。 気が付くと俺は白いベッドに寝ていたのだ。(は、ははっ、夢かあ……。そ、そうだよなあ、よ、良かったあ……) 俺は額の汗を拭い、落ち着く為に呼吸を整え、ゆっくりとベッドから起き上がる。(ん? しかし、なんか変だな?) 俺はその得も知れぬ直感を確認すべく、周囲をよく観察していくことにする。 ベッドと枕はフカフカだろ。 頭上を見上げると高級感漂うシャンデリアが吊し上げられていし、部屋は一室でプール並みに広い。 更にじっくりと観察していくと、白壁には高級感漂う名画っぽい絵、部屋の壁際には無数の重量感を感じる鎧の置物などの装飾品が飾ってある。 どう考えても一人暮らしの狭い俺の部屋ではない。(この感じ、どこかの豪邸か高級ホテル? ってか俺達確か事故にあって崖下から落ちていたよな? てことはもしかして助かったのか?) と……とりあえず、顔を洗って頭をスッキリさせよう。 そうだ、そうしよう……。 俺は洗面所にゆっくりと移動し、深いため息を吐いた後、顔を洗うため鏡を見つめる。「うっ、うわああああああああああああああ――――――?!」 思わず反射的に絶叫してしまう俺。 何故かって? だってその鏡には映画やアニメで見た立派なねじくれた角を二本生やした悪魔? が映っていたからだ!(し、しかも、顔は俺に瓜二つ?! な、なななにが? ど、どどどっどうなってっ⁈) 俺は再びパニックに陥ってしまう。(お、落ち着け俺っ! と、とりあえず、こんな時は深呼吸だ、深呼吸っ!) 俺はゆっくりと息を吐き吸い込み、ある事に気が付いてしまう。(し、心拍数がふ、複数っ! て、ことはま、まさか、心臓が複数あるのか? じ、じゃあ鏡に映ったアレは?) 俺はそれを確認すべく、おそるおそる再び鏡に映った自身を見ようとするが……。「ど、どうしましたっ? マモル坊ちゃま?」 鏡越しで分ったことだが、勢いよく俺のいた部屋の扉が開き、聞き慣れない低い声が聞こえてくる? なんと驚いたことに、鏡越しに見えたのは、『羊のような角を生やした年老いた白髪メガネ黒服の執事』だったのた⁈「う、うーん……」 俺は頭の処理が追い付かず、かつショックで目の前が真っ白にな……る……。「……?」 「…
それから数時間後、ここは俺の魔王部屋。「ま、学うー……。良かったなー無事で」 「ははっ……。お前こそ……な」 真っ赤なソファーに仲良く腰掛け、俺達はしばらく再会の会話を楽しんでいた。 この会話で分かったことだが、この世界では不思議なことにどの種族間でも言語が統一されているらしい。 早い話、ドラゴンでも、魔族でも、人でもある程度知恵があるものなら会話が可能のご様子。 うんまあ、異世界転生あるあるだし、正直便利に越したことないしどうでもいいかな。(そんな事より、この悪友が長男と言う事実が俺には一番ビックリニュースだったけどね。うんまあ、嬉しいけど) 「なあ、お前何処に言ってたの?」 「ファイラスまで散歩!」 学は両腕を元気よく左右に振り、ジェスチャーで示す。(こ、こいつ……相変わらずエネルギッシュだよな。まあ、魔王だからむしろ丁度いいのか……) 「で、何しに?」 「偵察だな。なんでもこの国に攻めてくると言う噂を聞いたんでな」「えっ? 停戦中じゃなかったのか?」 執事に聞いた話と違い、目をまん丸くする俺。「マモル坊ちゃま、実はここ数日で色々状況の変化があったのでございます」 俺の心情を察した執事は近況を補足説明をする。 何でも我が国の斥候情報せによると、最近『ファイラス』では数十万単位の軍隊が練兵しているんだとか。 その為この感じだと、少なくても数か月後にはこの国に攻めてくるとシツジイは予想している。「実際、練兵している姿を俺はこの目で見てきたぜ?」 マ⁈「た、大変な事になるじゃねーかそれ? その規模だと、どっちかの国が亡びるかの大戦じゃねーか」(こ、これはえらいこっちゃ……) 俺は急に不安になり、その場をうろうろする。 「まあ、そうなるな……。なあ、シツジイ、基本人と魔族の一人当たりの戦力差は人一人の百倍と言われているよな?」 学は執事に、この世界の種族間の戦力ポテンシャルを確認する。「そうでございます。これは魔族の闇の魔力の強力さが理由と言われております」 学が疑問に持つのも無理もない。 この国は『ファイラス』に対して五万の兵力を有している。 純粋な数で比較すると数十万対五万となり、この国が不利に思われる。 しかし、今説明した戦闘力換算単位として戦力を国単位で比較すると【人戦闘力数十万】対【魔族戦
翌日の昼、ここは俺の部屋。 接客用のフカフカの赤いソファーに腰かけ俺と学は談話の真っ最中だったりする。「……守ここは慣れたか?」 「まあ、なんとかね」 正直、魔王としての立場とかまだ色々違和感はあるが仕方がない。「そうか。ところで守は転生した時に『特殊能力が使える事』に気づいているか?」 「え? 空飛べる以外にまだなにか出来るの?」 実際俺は昨日、シツジイに直接指導を受け、嬉しくって大空をガンガン飛びまくったからな。(へへっ、だからもう鷹とかツバメとかより早く飛べるぜ!) なんとといっても機動力は早めに確保した方がファンタジー世界では色々便利だしね。 俺のやれることから直実に詰めていった方がいい。「えーと、言葉で説明するより実際見せたほうが早いか……。てことで外に出ようか」 「おう!」 俺達は漆黒の翼を大きく広げ、近くのただっ広い平地まで飛んでいくことにした。 澄んだ青空を気持ちよく飛びながら俺はふと後ろを振り返り、今出ていったザイアード城を眺める。(うん! 壮観、壮観!) 城はごつごつとした岩場の高き山をくり抜いて作られた、ゴシック様式の白亜の天然要塞といったところか? その城の周りだけ漆黒の瘴気にうっすらと覆われているところがもうね……。「なんかこの城ってさ、ドラキュラが住んでそうな雰囲気出てるよな」 「ははっ、そうだな。てか俺達今、魔族だからな?」「でしたね……」 俺は自身の頭から生えているねじくれた固い角に触れ、しみじみとそのことを実感してしまう。「……よし、ここでいいか」 俺達はほどなくし、平地に着陸する。 周囲は靴くらいの高さに伸びた草と、程よく育った木々がまばらに生え、大きな岩が適度に散在している場所だった。(なるほど周囲には建造物もないし、魔王として強大な力を振るう訓練にはうってつけってわけか) よく見を凝らすと、粉々になった岩々が多数見られるため、学がここで色々修行したのが分った。「よし、じゃ見てろよ守?」 「お、おう!」 学はよどみなく空手の構えをとる。「せいいっ!」 学は気合と共に、近くにあった大人程あろう大岩に向かって素早く正拳中段突きを放つ!(え、マジ? おまっ、拳壊れちゃうよ?) 俺の心配とは裏腹に、鈍い音を上げ大岩は粉々に消し飛んだ!「す、スゲー⁉」
それから数週間たったある日。 ここは人の国『ファイラス』の王の間、大理石の白壁に囲われたの城内である。 天井には壮大な壁画が見られ、均一に立派な硝子細工のシャンデリアが吊るされている。 床には立派な赤い絨毯が引かれ、そこに静かに整列した重曹騎士団が見守る中、一部の権力者達が会合を行っている最中であった。「お兄様方、私は他国と争うことは反対です!」 「だ、黙れっ! 王女であるお前に決定権はないし、俺達は方針を変えるつもりはないっ!」 シズク王女と王子達の口論が静かに城内に響き渡る。 『ファイラス』では現在、第一王子レッツ、第二王子ゴウ、そして第一王女のシズクの3人による統治が行われていた。 そう、雫は『ファイラス』の王女として守と同時期に転生していたのだ。 激情型である第一王子レッツはシズク王女の態度に激昂し、頭上の王冠を激しく床に叩きつけ、怒りをあらわにする。 黄金の鎧を纏っていても分かる恵まれた体格、更には獅子の如きレッツの形相に、周囲の大臣や宰相などはおろおろし、たじろぐばかりであった。「……兄上のおっしゃる通りだ。もう確定事項なんだよこれは……。お前は頭を冷やしに城外に散歩に行ってきなさい。……いい子だから、な?」 対して温和で優しい第二王子ゴウはその王冠を拾いレッツに手渡し、シズク王女をもなだめる。 「……っ、分かりました。では、失礼します……」 雫は王子達に軽く一礼し、言われるがまま静かに城外に出て行く。 雫は峠を越え城外からかなり離れた川岸に出るやいなや、周囲をキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認し大きく深呼吸する。「レッツ王子のバッカヤロー! イノシシ武者――――――――――――っ!」 雫はそんな気持ちをぶつけるかの如く、大きく腕を振り絞り小石を川に勢いよく投げつけるのだった。 ドポンという鈍い音とともに、川に緩やかに広がっていく波紋。「あ―――――――すっきりした!」 落ち着いた雫はふと振り返り、少し小さくなったファイラス城を見
一方その頃、ここは『エルフの国エルシード』の城内の王女室。 エルシード城は雲に届くかと言わんばかりの超巨大な大木で構成されており、例外なく王女室も樹木の壁で覆われていた。 そう、スイはエルシードの第一王女として守と同時期に転生していたのだ! 彼女は王女らしく、鮮やかなオレンジ色の麻の服を身に纏い、煌びやかな宝石の腕輪を見に付け統治を行っていた。 すっかり長くなった両耳をうさぎのようにぴこぴこさせているのは、彼女が転生してエルフになった証拠だろう。 スイはブラウン色のふかふかの高級ソファーに深く腰掛け、優雅に紅茶を飲みながら考え事をしていた。 スイが転生して分かったこと。 それはこのエルシードは『過去の歴史を網羅できる巨大な図書館及び全世界の情報が一瞬で集まる国』だという事だった。 スイは木製の丸テーブルに乗っている物に目を移す。 それは丁度盆バケツくらいの大きさで、エメラルドの結晶のような不思議な植物であった。 その植物の名は『古代図書装置ユグドラ』。「……ねえ、ユグドラ。雫は今何しているの?」 「王子達ト口論ニナリ、カワデ、ストレスハッサンチュウデス。ソシテ、スイ様達ノ身ヲ案ジテオリマス」「そう、ありがとうユグドラ。ふふっ、雫も頑張っているのね……。そして優しい……」 「ドウイタシマシテ」 この『古代図書装置ユグドラ』の正体。 それは、この世界アデレの情報を全て網羅できる生きたコンピャーターみたいな存在だ。 と、話は変わるが、ここエルシードは他国と比べ軍事力は皆無であるものの、お家芸として『創造神以外の能力を断絶する結界能力』を保有している。 で、この結界の関係で他国にはユグドラの情報は知られていない。(この国ってある意味最強の鎖国国家よね……) スイは陶磁器のティーカップをテーブルに静かに置き、しみじみと思うのだ。 スイがユグドラを介しわかったこと。 それは「転生者には例外なく固有スキルを
それから数か月後。 ここは再び人の国ファイラス城。 血相を変え、赤床の回廊をかけていく王女雫。(ファイラスの王子達が大戦のためザイアードに出兵し、監視が極端に緩んだ今しか抜け出せないないなんて……)「は、早く二人の元に行かないと! 大変な事に……!」 雫はファイラス城内から王家のみが使用できる転送装置を使い外に抜け出すことに成功していた。 その転送先はファイラスとザイアードの国境近くに配置されている古代遺跡であった。 勿論遺跡の中には誰もいない。 理由は、一部のの特権階級しか知らない秘匿情報であるからだ。 なお、雫がこんなに必死になっているのは理由があった。 雫がここ最近集めた情報によると、「大戦はこの遺跡から近い国境近くの場所で決着するシナリオ」と知ったからだ。 幸いファイラス軍が国境にたどり着くのは数日はかかる。 であるからして、雫はそれまでになんとかザイアードにいる学と守に会って、それを伝えたいのだ。 雫はぼんやりと不思議な青白い光を放つ転送装置を見つめながら、なんでも入る魔法の鞄にしまっていた魔法のスクロールを次々に取り出していく。 そこから飛び出すは、立派な1つの角を持った銀色のたてがみをなびかせ、いななく一頭のユニコーンであった。「ああっ! このままでは、学達が……。急いでお願いね? ユニコーン……」 雫は逸る気持ちを抑えきれず、ユニコーンに急いでまたがり、覆ったものの姿を消す魔法のマントを羽織った後『ザイアード』の城に向かい電光石火の如く爆走していくのだった。 ♢ 一方その同時刻、守達がいるザイアードにファイラスからの文書が届いていた。「な、なんだとっ! あの馬鹿人間の王子どもっ! く、くそっ!」 学は文書を見るやいなや、血相を変その文書を力いっぱい床に叩きつけ、急いで城外へ飛び出していった。 守はそ
それから数時間後、学は腕を組み1人静かに佇んでいた。 晴天の最中、まっ平の草原にまばらに散見される木々や岩々……。 ザイアードとファイラスの国境近くのこの場所は、戦闘するにはもってこいの場所であった。 学が佇むその場所に向け、砂埃を上げながらこちらに進んで来る馬上に跨った大軍が見えてくる。(……ざっと見ただけでも万はいるな) 学は仁王立ちしながら静かにその様子を見守る。 その学の右手には金属製の赤黒い小手が装着されており、それは鈍く怪しい輝きを放っていた。(予想より早い! 軍馬の移動だと数日はかかる計算。ということはこの尋常じゃない移動スピードは『集団の空間転移魔法』。となると今回の件、裏にエルシードが絡んでると予想されるな) そんな事を考えている学の前に、砂塵を上げて進む大軍の中から一人軍馬にまたがり颯爽と学の目の前に姿を現す者がいた。「俺はファイラスの第一王子レッツである! 貴様が魔族の王か?」 輝く黄金の鎧に身に纏った屈強な男……。 それはファイラスの第一王子レッツだった。 学はレッツのその話を聞き、魔族を見下している感が理解出来た。(そもそも、あいつの同盟の文書の返答がこれだしな……)「……レッツよ確認するが、ザイアードとの同盟は考えてないのだな?」 学は無駄とは分かっていても、守との約束を考え律儀に確認することにした。「はっ、断る! 確かに同盟の文書が届いていたが、どうせ姦計を計って我らを皆殺しにする予定だったのだろう?」 レッツのその失言に対し、ファイラスの私兵は呼応するように魔族達に対する侮蔑の言葉を吐き嘲笑していく。「な、なんだとっ!」 学はファイラス軍のその態度に激昂し、自身の髪が逆立つのが理解出来た。 幼き頃から兄弟同然に育った守に対し、侮蔑としか思えない言葉を述べたのだから当然と言え
それから数時間後、学は腕を組み1人静かに佇んでいた。 晴天の最中、まっ平の草原にまばらに散見される木々や岩々……。 ザイアードとファイラスの国境近くのこの場所は、戦闘するにはもってこいの場所であった。 学が佇むその場所に向け、砂埃を上げながらこちらに進んで来る馬上に跨った大軍が見えてくる。(……ざっと見ただけでも万はいるな) 学は仁王立ちしながら静かにその様子を見守る。 その学の右手には金属製の赤黒い小手が装着されており、それは鈍く怪しい輝きを放っていた。(予想より早い! 軍馬の移動だと数日はかかる計算。ということはこの尋常じゃない移動スピードは『集団の空間転移魔法』。となると今回の件、裏にエルシードが絡んでると予想されるな) そんな事を考えている学の前に、砂塵を上げて進む大軍の中から一人軍馬にまたがり颯爽と学の目の前に姿を現す者がいた。「俺はファイラスの第一王子レッツである! 貴様が魔族の王か?」 輝く黄金の鎧に身に纏った屈強な男……。 それはファイラスの第一王子レッツだった。 学はレッツのその話を聞き、魔族を見下している感が理解出来た。(そもそも、あいつの同盟の文書の返答がこれだしな……)「……レッツよ確認するが、ザイアードとの同盟は考えてないのだな?」 学は無駄とは分かっていても、守との約束を考え律儀に確認することにした。「はっ、断る! 確かに同盟の文書が届いていたが、どうせ姦計を計って我らを皆殺しにする予定だったのだろう?」 レッツのその失言に対し、ファイラスの私兵は呼応するように魔族達に対する侮蔑の言葉を吐き嘲笑していく。「な、なんだとっ!」 学はファイラス軍のその態度に激昂し、自身の髪が逆立つのが理解出来た。 幼き頃から兄弟同然に育った守に対し、侮蔑としか思えない言葉を述べたのだから当然と言え
それから数か月後。 ここは再び人の国ファイラス城。 血相を変え、赤床の回廊をかけていく王女雫。(ファイラスの王子達が大戦のためザイアードに出兵し、監視が極端に緩んだ今しか抜け出せないないなんて……)「は、早く二人の元に行かないと! 大変な事に……!」 雫はファイラス城内から王家のみが使用できる転送装置を使い外に抜け出すことに成功していた。 その転送先はファイラスとザイアードの国境近くに配置されている古代遺跡であった。 勿論遺跡の中には誰もいない。 理由は、一部のの特権階級しか知らない秘匿情報であるからだ。 なお、雫がこんなに必死になっているのは理由があった。 雫がここ最近集めた情報によると、「大戦はこの遺跡から近い国境近くの場所で決着するシナリオ」と知ったからだ。 幸いファイラス軍が国境にたどり着くのは数日はかかる。 であるからして、雫はそれまでになんとかザイアードにいる学と守に会って、それを伝えたいのだ。 雫はぼんやりと不思議な青白い光を放つ転送装置を見つめながら、なんでも入る魔法の鞄にしまっていた魔法のスクロールを次々に取り出していく。 そこから飛び出すは、立派な1つの角を持った銀色のたてがみをなびかせ、いななく一頭のユニコーンであった。「ああっ! このままでは、学達が……。急いでお願いね? ユニコーン……」 雫は逸る気持ちを抑えきれず、ユニコーンに急いでまたがり、覆ったものの姿を消す魔法のマントを羽織った後『ザイアード』の城に向かい電光石火の如く爆走していくのだった。 ♢ 一方その同時刻、守達がいるザイアードにファイラスからの文書が届いていた。「な、なんだとっ! あの馬鹿人間の王子どもっ! く、くそっ!」 学は文書を見るやいなや、血相を変その文書を力いっぱい床に叩きつけ、急いで城外へ飛び出していった。 守はそ
一方その頃、ここは『エルフの国エルシード』の城内の王女室。 エルシード城は雲に届くかと言わんばかりの超巨大な大木で構成されており、例外なく王女室も樹木の壁で覆われていた。 そう、スイはエルシードの第一王女として守と同時期に転生していたのだ! 彼女は王女らしく、鮮やかなオレンジ色の麻の服を身に纏い、煌びやかな宝石の腕輪を見に付け統治を行っていた。 すっかり長くなった両耳をうさぎのようにぴこぴこさせているのは、彼女が転生してエルフになった証拠だろう。 スイはブラウン色のふかふかの高級ソファーに深く腰掛け、優雅に紅茶を飲みながら考え事をしていた。 スイが転生して分かったこと。 それはこのエルシードは『過去の歴史を網羅できる巨大な図書館及び全世界の情報が一瞬で集まる国』だという事だった。 スイは木製の丸テーブルに乗っている物に目を移す。 それは丁度盆バケツくらいの大きさで、エメラルドの結晶のような不思議な植物であった。 その植物の名は『古代図書装置ユグドラ』。「……ねえ、ユグドラ。雫は今何しているの?」 「王子達ト口論ニナリ、カワデ、ストレスハッサンチュウデス。ソシテ、スイ様達ノ身ヲ案ジテオリマス」「そう、ありがとうユグドラ。ふふっ、雫も頑張っているのね……。そして優しい……」 「ドウイタシマシテ」 この『古代図書装置ユグドラ』の正体。 それは、この世界アデレの情報を全て網羅できる生きたコンピャーターみたいな存在だ。 と、話は変わるが、ここエルシードは他国と比べ軍事力は皆無であるものの、お家芸として『創造神以外の能力を断絶する結界能力』を保有している。 で、この結界の関係で他国にはユグドラの情報は知られていない。(この国ってある意味最強の鎖国国家よね……) スイは陶磁器のティーカップをテーブルに静かに置き、しみじみと思うのだ。 スイがユグドラを介しわかったこと。 それは「転生者には例外なく固有スキルを
それから数週間たったある日。 ここは人の国『ファイラス』の王の間、大理石の白壁に囲われたの城内である。 天井には壮大な壁画が見られ、均一に立派な硝子細工のシャンデリアが吊るされている。 床には立派な赤い絨毯が引かれ、そこに静かに整列した重曹騎士団が見守る中、一部の権力者達が会合を行っている最中であった。「お兄様方、私は他国と争うことは反対です!」 「だ、黙れっ! 王女であるお前に決定権はないし、俺達は方針を変えるつもりはないっ!」 シズク王女と王子達の口論が静かに城内に響き渡る。 『ファイラス』では現在、第一王子レッツ、第二王子ゴウ、そして第一王女のシズクの3人による統治が行われていた。 そう、雫は『ファイラス』の王女として守と同時期に転生していたのだ。 激情型である第一王子レッツはシズク王女の態度に激昂し、頭上の王冠を激しく床に叩きつけ、怒りをあらわにする。 黄金の鎧を纏っていても分かる恵まれた体格、更には獅子の如きレッツの形相に、周囲の大臣や宰相などはおろおろし、たじろぐばかりであった。「……兄上のおっしゃる通りだ。もう確定事項なんだよこれは……。お前は頭を冷やしに城外に散歩に行ってきなさい。……いい子だから、な?」 対して温和で優しい第二王子ゴウはその王冠を拾いレッツに手渡し、シズク王女をもなだめる。 「……っ、分かりました。では、失礼します……」 雫は王子達に軽く一礼し、言われるがまま静かに城外に出て行く。 雫は峠を越え城外からかなり離れた川岸に出るやいなや、周囲をキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認し大きく深呼吸する。「レッツ王子のバッカヤロー! イノシシ武者――――――――――――っ!」 雫はそんな気持ちをぶつけるかの如く、大きく腕を振り絞り小石を川に勢いよく投げつけるのだった。 ドポンという鈍い音とともに、川に緩やかに広がっていく波紋。「あ―――――――すっきりした!」 落ち着いた雫はふと振り返り、少し小さくなったファイラス城を見
翌日の昼、ここは俺の部屋。 接客用のフカフカの赤いソファーに腰かけ俺と学は談話の真っ最中だったりする。「……守ここは慣れたか?」 「まあ、なんとかね」 正直、魔王としての立場とかまだ色々違和感はあるが仕方がない。「そうか。ところで守は転生した時に『特殊能力が使える事』に気づいているか?」 「え? 空飛べる以外にまだなにか出来るの?」 実際俺は昨日、シツジイに直接指導を受け、嬉しくって大空をガンガン飛びまくったからな。(へへっ、だからもう鷹とかツバメとかより早く飛べるぜ!) なんとといっても機動力は早めに確保した方がファンタジー世界では色々便利だしね。 俺のやれることから直実に詰めていった方がいい。「えーと、言葉で説明するより実際見せたほうが早いか……。てことで外に出ようか」 「おう!」 俺達は漆黒の翼を大きく広げ、近くのただっ広い平地まで飛んでいくことにした。 澄んだ青空を気持ちよく飛びながら俺はふと後ろを振り返り、今出ていったザイアード城を眺める。(うん! 壮観、壮観!) 城はごつごつとした岩場の高き山をくり抜いて作られた、ゴシック様式の白亜の天然要塞といったところか? その城の周りだけ漆黒の瘴気にうっすらと覆われているところがもうね……。「なんかこの城ってさ、ドラキュラが住んでそうな雰囲気出てるよな」 「ははっ、そうだな。てか俺達今、魔族だからな?」「でしたね……」 俺は自身の頭から生えているねじくれた固い角に触れ、しみじみとそのことを実感してしまう。「……よし、ここでいいか」 俺達はほどなくし、平地に着陸する。 周囲は靴くらいの高さに伸びた草と、程よく育った木々がまばらに生え、大きな岩が適度に散在している場所だった。(なるほど周囲には建造物もないし、魔王として強大な力を振るう訓練にはうってつけってわけか) よく見を凝らすと、粉々になった岩々が多数見られるため、学がここで色々修行したのが分った。「よし、じゃ見てろよ守?」 「お、おう!」 学はよどみなく空手の構えをとる。「せいいっ!」 学は気合と共に、近くにあった大人程あろう大岩に向かって素早く正拳中段突きを放つ!(え、マジ? おまっ、拳壊れちゃうよ?) 俺の心配とは裏腹に、鈍い音を上げ大岩は粉々に消し飛んだ!「す、スゲー⁉」
それから数時間後、ここは俺の魔王部屋。「ま、学うー……。良かったなー無事で」 「ははっ……。お前こそ……な」 真っ赤なソファーに仲良く腰掛け、俺達はしばらく再会の会話を楽しんでいた。 この会話で分かったことだが、この世界では不思議なことにどの種族間でも言語が統一されているらしい。 早い話、ドラゴンでも、魔族でも、人でもある程度知恵があるものなら会話が可能のご様子。 うんまあ、異世界転生あるあるだし、正直便利に越したことないしどうでもいいかな。(そんな事より、この悪友が長男と言う事実が俺には一番ビックリニュースだったけどね。うんまあ、嬉しいけど) 「なあ、お前何処に言ってたの?」 「ファイラスまで散歩!」 学は両腕を元気よく左右に振り、ジェスチャーで示す。(こ、こいつ……相変わらずエネルギッシュだよな。まあ、魔王だからむしろ丁度いいのか……) 「で、何しに?」 「偵察だな。なんでもこの国に攻めてくると言う噂を聞いたんでな」「えっ? 停戦中じゃなかったのか?」 執事に聞いた話と違い、目をまん丸くする俺。「マモル坊ちゃま、実はここ数日で色々状況の変化があったのでございます」 俺の心情を察した執事は近況を補足説明をする。 何でも我が国の斥候情報せによると、最近『ファイラス』では数十万単位の軍隊が練兵しているんだとか。 その為この感じだと、少なくても数か月後にはこの国に攻めてくるとシツジイは予想している。「実際、練兵している姿を俺はこの目で見てきたぜ?」 マ⁈「た、大変な事になるじゃねーかそれ? その規模だと、どっちかの国が亡びるかの大戦じゃねーか」(こ、これはえらいこっちゃ……) 俺は急に不安になり、その場をうろうろする。 「まあ、そうなるな……。なあ、シツジイ、基本人と魔族の一人当たりの戦力差は人一人の百倍と言われているよな?」 学は執事に、この世界の種族間の戦力ポテンシャルを確認する。「そうでございます。これは魔族の闇の魔力の強力さが理由と言われております」 学が疑問に持つのも無理もない。 この国は『ファイラス』に対して五万の兵力を有している。 純粋な数で比較すると数十万対五万となり、この国が不利に思われる。 しかし、今説明した戦闘力換算単位として戦力を国単位で比較すると【人戦闘力数十万】対【魔族戦
……。「う、うあああ――――――⁈」 落下の感覚を思い出した俺は絶叫を上げ目を覚ます。 気が付くと俺は白いベッドに寝ていたのだ。(は、ははっ、夢かあ……。そ、そうだよなあ、よ、良かったあ……) 俺は額の汗を拭い、落ち着く為に呼吸を整え、ゆっくりとベッドから起き上がる。(ん? しかし、なんか変だな?) 俺はその得も知れぬ直感を確認すべく、周囲をよく観察していくことにする。 ベッドと枕はフカフカだろ。 頭上を見上げると高級感漂うシャンデリアが吊し上げられていし、部屋は一室でプール並みに広い。 更にじっくりと観察していくと、白壁には高級感漂う名画っぽい絵、部屋の壁際には無数の重量感を感じる鎧の置物などの装飾品が飾ってある。 どう考えても一人暮らしの狭い俺の部屋ではない。(この感じ、どこかの豪邸か高級ホテル? ってか俺達確か事故にあって崖下から落ちていたよな? てことはもしかして助かったのか?) と……とりあえず、顔を洗って頭をスッキリさせよう。 そうだ、そうしよう……。 俺は洗面所にゆっくりと移動し、深いため息を吐いた後、顔を洗うため鏡を見つめる。「うっ、うわああああああああああああああ――――――?!」 思わず反射的に絶叫してしまう俺。 何故かって? だってその鏡には映画やアニメで見た立派なねじくれた角を二本生やした悪魔? が映っていたからだ!(し、しかも、顔は俺に瓜二つ?! な、なななにが? ど、どどどっどうなってっ⁈) 俺は再びパニックに陥ってしまう。(お、落ち着け俺っ! と、とりあえず、こんな時は深呼吸だ、深呼吸っ!) 俺はゆっくりと息を吐き吸い込み、ある事に気が付いてしまう。(し、心拍数がふ、複数っ! て、ことはま、まさか、心臓が複数あるのか? じ、じゃあ鏡に映ったアレは?) 俺はそれを確認すべく、おそるおそる再び鏡に映った自身を見ようとするが……。「ど、どうしましたっ? マモル坊ちゃま?」 鏡越しで分ったことだが、勢いよく俺のいた部屋の扉が開き、聞き慣れない低い声が聞こえてくる? なんと驚いたことに、鏡越しに見えたのは、『羊のような角を生やした年老いた白髪メガネ黒服の執事』だったのた⁈「う、うーん……」 俺は頭の処理が追い付かず、かつショックで目の前が真っ白にな……る……。「……?」 「…
闇夜に走るは1台の漆黒のスポーツカー。 そう、俺【月神 守】は大学の親友達と車で深夜の山中をドライブの真っ最中だったりする。「わあ、夜風がひんやりとして、とても気持ちいいですね……」 俺の隣の助手席に座っているのは【風見 スイ】さん。 彼女は夜風に静かになびくセミロングの銀色の髪に手をそっと当て、サファイアのように澄んだ青い瞳でこちらを見つめ、ほがらかに笑っていた。 よく見ると童顔を感じさせる二重の大きな瞳に細長い眉、彼女の小柄な体形と血色の良いもち肌、そしてふっくらとした丸みを帯びた顔と胸に合ったは小動物的な癒しを感じさせる。 「今日着ている紺色のギャザーワンピがまた彼女にはとっても似合っている」と俺は「ですよねー!」と力強く返事しながら、ウンウンと頷き自身で納得していた。 あ、でさ! 実はこのドライブには目的があるんだよね! 結論から言わせて頂くと、「スイさんへの告白をかねて」のドライブデート中なんだ! まー情けない話だけど、親友にお膳立てしてもらったんだよね。(いやーホント持つべきものは良い友……) 「風も気持ちいいけど、俺ともっと気持ちいいことしませんか? なーんつって!」「……」 後部座席から訳の分からない言葉が聞こえ、その後静かなエンジン音が車内に響き渡るのが分る。(こ、こいつっ! まじかっ⁈) 色々と、台無しである……。 だからか、俺の額にじんわりと変な汗が滲み出てくるのが分る。 あ……、で今、後部座席から訳の分からない人語を発したのが、色々お膳立てしてくれた悪友の【星流 学】。 学は御覧の通り剛速球な会話を得意とし、パーソナルスペースというものは一切なく、両手を広げ土足で人の心の領域に踏み込んでくる。 体の線は細いが馬鹿力を持っており、かつ武道の実力は相当なもので空手の師範代持ちだったりする。(他人を思いやる優しい一面もあるんだけどね……) 性格に反して顔と雰囲気は整った中性的であり、髪は薄い茶髪のオールバック、目は二重のアーモンド形の薄い茶色の瞳が特徴的だ。 こいつの今日の服装は紺色のジーパンに灰色の長袖ポロシャツで、脳みそと同じで非常にシンプルだ。 「ごめんねスイ、こいつアホだから今の会話は軽いジョークと思って、軽く聞き流して?」「ひ、ひどっ⁈」 その馬鹿とは対照的に、今度は後部座席から