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2.魔王転生ってマジ?

Penulis: 菅原みやび
last update Terakhir Diperbarui: 2025-02-15 08:56:42

 ……。

「う、うあああ――――――⁈」

 落下の感覚を思い出した俺は絶叫を上げ目を覚ます。

 気が付くと俺は白いベッドに寝ていたのだ。

(は、ははっ、夢かあ……。そ、そうだよなあ、よ、良かったあ……) 

 俺は額の汗を拭い、落ち着く為に呼吸を整え、ゆっくりとベッドから起き上がる。

(ん? しかし、なんか変だな?)

 俺はその得も知れぬ直感を確認すべく、周囲をよく観察していくことにする。

 ベッドと枕はフカフカだろ。

 頭上を見上げると高級感漂うシャンデリアが吊し上げられていし、部屋は一室でプール並みに広い。

 更にじっくりと観察していくと、白壁には高級感漂う名画っぽい絵、部屋の壁際には無数の重量感を感じる鎧の置物などの装飾品が飾ってある。

 どう考えても一人暮らしの狭い俺の部屋ではない。

(この感じ、どこかの豪邸か高級ホテル? ってか俺達確か事故にあって崖下から落ちていたよな? てことはもしかして助かったのか?) 

 と……とりあえず、顔を洗って頭をスッキリさせよう。

 そうだ、そうしよう……。

 俺は洗面所にゆっくりと移動し、深いため息を吐いた後、顔を洗うため鏡を見つめる。

「うっ、うわああああああああああああああ――――――?!」

 思わず反射的に絶叫してしまう俺。

 何故かって? だってその鏡には映画やアニメで見た立派なねじくれた角を二本生やした悪魔? が映っていたからだ!

(し、しかも、顔は俺に瓜二つ?! な、なななにが? ど、どどどっどうなってっ⁈) 

 俺は再びパニックに陥ってしまう。

(お、落ち着け俺っ! と、とりあえず、こんな時は深呼吸だ、深呼吸っ!)

 俺はゆっくりと息を吐き吸い込み、ある事に気が付いてしまう。

(し、心拍数がふ、複数っ! て、ことはま、まさか、心臓が複数あるのか? じ、じゃあ鏡に映ったアレは?)

 俺はそれを確認すべく、おそるおそる再び鏡に映った自身を見ようとするが……。

「ど、どうしましたっ? マモル坊ちゃま?」

 鏡越しで分ったことだが、勢いよく俺のいた部屋の扉が開き、聞き慣れない低い声が聞こえてくる?

 なんと驚いたことに、鏡越しに見えたのは、『羊のような角を生やした年老いた白髪メガネ黒服の執事』だったのた⁈

「う、うーん……」

 俺は頭の処理が追い付かず、かつショックで目の前が真っ白にな……る……。

「……?」

「……おお、お気づきになりましたか」

 目を覚ますと、俺は再びベッドに横になっていた。

 どうやら、目の前にいる執事が俺を看病してくれていたようだ。

(まじか……) 

 残念ながらこれは夢じゃない。

 睡眠を取り、現実を直視出来た俺は気を取り直す。

(よ、よし! この際だからこの執事に色んなことを聞くことにしよう)

「じ、実は先ほど顔を洗う時に頭を打って、ちょっとした記憶喪失になってね……?」

 この執事の名前は、シツジイと言う名前でとても覚えやすかった。

 どうやらここはアデレという異世界で、俺は魔王の次男らしい。

(もう色々凄すぎて驚かない)

 俺がいるこの部屋は魔王の居城内の俺の個室とのこと。

「ちなみに知っての通り、この世界は大きく三つの国に別れてますぞ?」

「そ、そうだったね……。そこら辺も、頭うって記憶が飛んでるから詳しくね?」

 執事は軽く咳払いすると、再び三国について簡略的な説明をしてくれた。

 一つ目は『魔族の国ザイアード』。

 俺ら魔王が統治している国であり、この世界の北側に存在する豪雪地帯であった。

 魔族は丈夫な体に闇魔法を使う攻撃に特化した種族であり、闇の力が強い高位魔族が支配する傾向がある。

 血筋で生まれた時の闇の力の強さが決まり魔王の子は次期魔王が確定しているほどらしい。

 次っ! 

 二つ目はこの世界の中央に存在する『人の国ファイラス』。

 分かりやすいイメージだと、四季がある中世のヨーロッパってところか。

 個々の力はそれほどでもないが、勇者の血筋が厄介らしく、伝説の武具を使い今まで何人もの魔王が倒されたんだとか。

 で、俺のこの世界での両親達も何十年前に勇者達に倒されたらしく、その時に人族は多大な損害を被ったらしい。

 結果、現在は人族と魔族は停戦状態になっているそうな。

 最後っ! 

 三つ目は『エルフの国エルシード』、場所はこの世界の南側に存在し豊かな森に覆われている。

 エルフ達は自然と共に共存する習慣があるらしく、争いごとを極端に嫌い、森に隠れ住んでいるんだとか。

 人口は他国と比べると極端に少なく、強力な戦力はない。

 その代わりに防御や瞬間転移などの補助系魔法が得意であり、何でも先代の王が特殊な魔法異次元結界を張ったんだそうだ。

 その関係でここ数百年、人族も魔族もエルフの国にたどり着いたものはいないらしい。

「以上ですじゃ……。ちなみに三国は現在は停戦中となっております」

「な、成程。ありがとうシツジイ! そうだったよねー、なんか記憶が戻ってきたっ、ははっ……」

 めっさ大嘘こき、俺は乾いた笑いをする。

(ざ、罪悪感で胸が痛い。許せシツジイ、見た目は魔王になっているが心は人間なんだ……うん) 

 てかね、今の俺見た目で気がついたけど、中世ヨーロッパの王族みたいな恰好してるんだな。

 黒色の装飾燕尾服に胸の場所に白色の刺繍のディテールがもうね、我ながらハズイ。

 ……ざっくりとした国の状況は掴めたが、さてどうしたものか?

(だってさ、俺転生したらいきなり魔王だぜ? 普通転生物って勇者とか冒険者じゃないの? しかもバチバチの争いごとの最中じゃん? どーするんだこれ) 

 ……とか考えていると、何やら周りがざわつき騒がしい。

「この感じは、マナブ様が帰ってこられましたな……」

 シツジイは白いアゴヒゲを片手で整えながら、ぼそりと呟く。

(マナブ? はて学?! いや、まさかね?)

 俺は何処かで聞いたことがある名前だなと思った。

 てことで、俺は早速先ほど執事に教えてもらった魔法アイテム『魔水晶』を使うことにした。

 『魔水晶』とはアニメや映画で魔女が良く使っている対象を映し出すもの。

 なんでも、条件として使い手が一度映したい対象の姿を見てしまえば、魔水晶に映しだせるらしい。

 俺は学のことを思い出し念じて、ボーリングの球くらいの大きさの魔水晶に自身の手をかざす!

 するとなんと、透明な水晶玉に一本の立派な角を生やし、悪魔の翼を広げ意気揚々と城に向かって飛んでくる学の姿が映しだされたのだった!

 ちな、服装は俺と同じ、ベースの色が赤色で違うくらいです、はい。

「ぷっ、こ、こいつ変わってねー。しかも超絶似合ってるよ!」

 その姿が似合いすぎて、俺は腹を抱え笑い転げてしまう。

(ま、まあでも、学が無事でホントに良かったな……) 

 だからか俺は心の底からほっとできた。

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     そんなこんなで数時間後、俺達は前に来たことある例の『秘湯の温泉宿』に来ていた。 「あー、久々の温泉は気持ちいいな……」 俺はお湯をゆるりと手ですくい、ゆっくりと顔を洗う。 リラックス出来た関係か、嗅覚が鋭くなり硫黄臭を強く感じる。(逆にそんなところが温泉地に来た雰囲気が味わえていいんだけどね……)  まだお昼であるし、太陽が昇っている関係で当然周囲は明るく少し離れた山々の深緑がくっきりと見え、空気が余計美味しく感じられる。 太陽の反射光を浴びたお湯は輝いておりとても眩しい。(こんな時間にゆっくり浸かれるのはホント贅沢極まりないよな……)  「失礼しまーす!」「し、失礼します……」 複数の声の主が俺が浸っている湯舟に近づいて来るのが分る。 (きたきた学と雫さん達だ……!)  今回は二人ともタオルを羽織っている状態ではあるが?「こっ、こら押すな雫!」「え? だってこうでもしないと学は照れちゃって先に進めないでしょ?」 お2人がきゃいきゃい言いながら少しずつ近づいて来る。 顔を真っ赤にし、もじもじと照れながら、雫さんに背中をグイ押しされながら近づいて来る学。 太陽の逆光で眩く輝く、もち肌のうら若き女性達……。(こいつぁー、たまりましぇん……)  タオルに半分ほど隠された白桃のような艶やかな胸は、そのボリュームの余り窮屈なタオルに逆らうかの如く食い込みが発生している状態だ。(……こ、今年の果物は豊作かな……?)  何故かそんな言葉が脳裏をよぎる。 不思議、止まらない……⁉ そして、そのサイズの大きい白桃は学が歩く振

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     今回、ドラゴン化した学の背に俺、雫さん、ウィンディーニが乗り込む。 ちなみにノジャの背には『封魔の炎龍石』を積み込むための大袋等が載せてある。「……じ、じゃあいくぞ……?」「は、はい……」 ウィンディーニは鞍に跨りプルプルと振えているが……。 なんというかその色々面白い。 そして、エンシェントフレイム化した学が力強く大空に舞い上がり、ノジャもその後を追う。「ひ、ひえええ……」 ウィンデーニは情けなく悲鳴を上げていたが……。「ぷふっ……」 その様子を後方で見ていた雫さんが思わず吹き出している。(こ、コラコラ、笑っちゃ失礼だろ? ほ、本人は真剣なんだから……!)  とか思いながら、申し訳ないが俺も爆笑していたりする。 俺は雫さんや学が余計な事を言う前に、適当な話題を振る事にする。「あ、そういえばウィンディーニって、その名前の由来、もしかして水の精霊に関係してたりする?」  とか考えていたら、雫さんは機転をきかし話題を振ってくれた。「そうですね……。うちの家系は代々、水の精霊と仲が良いので何かしら水属性の名前を付けるしきたりがありまして。ちなみにうちの父はアイスバードといいます」「へーそうなんだ! じゃあ……」 そんな雑談を続けてから数時間後……。 例の温泉宿から少し離れた僻地に、ウィンデーニの知人が住んでいるというので寄ることになった。「へー、こんなとこに小屋があるなんて知らなかったなあ……」(ファイラスの地理に詳しい雫さんでも知らない場所か、正にだな) 「ええ、自分とギール様しか知らない秘密の

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   42.ウィンディーニ?

     俺はそんな事を考えながらそっとため息を吐き、会議室から1人席を外し、そのまま自室に直行する。 俺は注意深く周囲を見て誰もいない事を確認し、机に腰かけゆっくりと背伸びをし、足腰を伸ばす。 俺が一人でここに来たのには深い理由があった。 それは休憩もだけど、ガウスから手渡された封書の内容を誰にも見せられないためだったりする。(ガウスは剣の腕と仕事の内容に関しては嘘をつかないからね……)  俺は中身が傷つかないようにペーパーナイフで丁寧に封書の封を切り、その内容に目を通していく。(ん? 誰からだと思えばウィンディーニから? あの場で伝えたいことを言えばとは思ったけど、あの天才児のことだから何か理由があるだろう。どれどれ……?) 「……え、これマジなん? じ、じゃあ学達のあの行動は……?」  ……俺は書かれていた内容に驚愕し、思わず独り言を呟いてしまった。(しっかし、ウィンデーニ、本物の天才なのかも)  ……それから俺は色々な用事を済ませ、再び会議室にこっそり戻る。 部屋に入るなり、雫さん達が俺の周りに集まってくる。「あっ、守君! 今、学達と話してね、急遽アグール火山に行くことになったから!」 雫さん達は嬉しそうにきゃいきゃいとはしゃいでいますが?(こ、この感じ、帰りはまた温泉宿泊コースかもしれんな。嫌いじゃないけどねっ!)  俺は温泉内のピンクイベントを思い出し、もっこ……もといにっこりと微笑む。「守様! あのっ! 自分も火山に同行することになりましたので、よろしくお願いいたします!」 ウィンディーニは元気よく俺にペコリとお辞儀をする。「彼には私の代理で現場視察に行ってもらうことになりましたので、守様よろしくお願いいたしますね」 ギールは俺にそう述べ、軽く一礼する。

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   41.ノジャお手柄なのじゃっ!

     それから数分後……。 俺達はギールの資料とウィンディーニの魔導知識を元に話しを詰めていく事になった。  「なるほど、ルモール森林全土には『封魔の炎龍石』を使った魔法陣をしかけられそうですが……」 「え? 何か問題があるの?」「森林の地下トンネルに配置する分が全く足りません……」「仕方ない、ではこれで足りるのでは?」 ギールは一番下に置いていた、とっておきと思われる資料をウィンディーニに手渡す。「ああ、これなら地下トンネル分も余裕で足りますね! 余った分で数十人の鎧加工分も作れるでしょう。あの、それはさておき、この資料は私は見たことが無かったのですが?」「最近、ようやく火山上部で発掘出来る環境になり、未開拓であった関係で大量に発掘出来たものだからですな」 ギールは咳払いしながら、俺をチラリ見している。(ああ、例のやつね……。まあ、役に立って何よりだったよ) 俺はそんな事を考えながら思わず苦笑する。「んんっ! ……守様はこのピンポン玉くらいの大きさの『封魔の炎龍石』の価値を知っておいでですか?」 ギールはそんな俺の態度を見て、俺を厳しい目つきで睨む。(う、うわあ? や、やっべ、俺、地雷踏んだかも……?) 「い、いや?」 「分かりやすくこの『封魔の炎龍石』の価値を説明させていただますね。これ一つでだいたい人家10件分の価値があります……。何故そんなに高値で売れるかと言うと、『エルシード』の連中が価値を見出し、大人買いしていくのですよ……」「お、おう……」(そ、それはギールが出し渋るのもシカタナイデスヨネ……?)  俺はギールの言葉の重みを感じ、額に変な汗が流れて来るのを自身で感じ取る。「この

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   40.会議は踊りまくる

     それから数時間後、此処はファイラス城内会議室。「イエーイ!」「やりましたな!」 心地よいハイタッチの音がファイラス城会議室に響きわたる。 ファイラス城に帰還した守達は宰相ガウスら重臣達と、ザイアード軍掃討作戦の成功の喜びを分かち合っていた。「いやー、あんなに上手くいくとは思いませんでしたな!」「流石ガウス! 地の利を生かしてあんなエグイ作戦を思いつくなんて……」 俺は作戦を考えた功労者であるガウスを労って、ワインをガウスのグラスになみなみと注ぐ。「はっはっは、そんなに褒められても困りますなあ? この作戦は鉱山などの労働者や魔法兵団の方々にも協力してもらったからこそ出来た作戦ですしね」 ガウスは自分で言った言葉を嚙みしめるようにワインを飲み干していく。 ガウスは終始笑顔ではいるものの、顔や手などはすり傷だらけではあった。「そうだよね……。この作戦は兵だけでなく、ファイラスの住人みんなにも協力してもらったからこその成果ですものね」「だね」 俺もガウスや雫さんと同じ考えだ。「ぷはー上手い……! 口の中の傷にしみますが、勝利の美酒ということで今日だけは許してもらいましょうか……」「そうだね……。これからしばらくは飲むことは出来なそうだしね」「では、勝利とこれからの戦に向けて乾杯!」 ファイラス会議室内には複数のグラスが打ち鳴らす軽快な音と賑やかな談笑が響き渡る……。 そう、今だけは……。 俺達は勝利の美酒を飲みながら今までの苦労を思い出していた。    ♢ 時は遡り、20日前のファイラス城作戦会議室……。 会議室の10人ほどが囲える木製の広いテーブルがある。 その周りに俺達いつものメンツ、それに宰相ガウスら重臣達、ゴリさん、城下町の町長など、これからの作戦に欠かせないメンツが揃い論議中であった。「……では2人の魔王の能力の分析が少し進んだので、要警戒の能力だけ情報共有させてもらうね?」 雫さんの言葉に一同は静かに頷き耳を傾ける。「2人に共通しているのは『色んな探知魔法』を使えること」 「……して、具体的には?」 雫さんの話の重要性を感知し、ガウスは耳を傾けている。 「んー色々あるみたいだけど……。中でも罠感知・生体感知・魔法感知・音声感知が要注意かな?」 「それまた厄介な能力ですな……」  確かに、ガウスが

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   39.シツジイの助言

    「ほう? シツジイよ詳しそうだな? 話せ……」「この魔法を遮断する結界には希少な魔石を使うのです。これ単品では効果は発揮出来ないので、効果を発揮させるために加工と魔法陣が必要にはなりますが……。そしてこれは音を遮断する静寂の風石よりも、もっと希少なものなのです」 シツジイは握りこぶしより2まわり程小さい真紅に輝く魔石を懐から取り出し、魔王スカードに手渡す。「ほう? つまり?」「ルモール森林すべてを遮断するのにファイラスでとれる魔石を全て使っていると逆算出来ます」「……シツジイがそのように考える根拠はなんだ? 述べて見よ」「ファイラスの宝石鉱山で稀にこの魔石が発掘されることはスカード様もご存じのはず」「……そうだな」 アグール火山に太古から住む龍がこの魔石を生み出すのに関係していると噂されていることを魔王スカードは確かに知っていた。「この森林だけでも数年前のファイラスの宝石生産量から取れる魔石の数年分ほどの量は使われていると思われます」 シツジイはその算出データが書かれた資料を黒カバンから取り出し、魔王スカードにそっと手渡す。 それからしばらくして……。「成程、見事な資料だ。お前を信じようシツジイ……。ところで、シツジイが算出基礎で用いているものは数年前のデータであろうし、近年生産量が増えている可能性は?」「……斥候情報によるとここ数年、年々宝石の生産量が少なくなっていると聞いております。メインで採掘している場所については、体積的に考えて枯渇することはあっても多くなることはないと思いますが」 シツジイは今度は魔王スカードにファイラスから極秘で入手した、アグール火山の見取り図とそこで発掘しているメインの発掘場のポイント図を提出する。「……成程、宝石自体いつか枯渇するものであるし、急に増える理由はないか…&hel

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   38.気づいた異変

    「思い起こせば今まで、行軍中に何も無かったのがそもそもの罠の一つだったようです……」 「……ふむ、お前の言葉確かに間違いでないし、俺もそのように感じていたところだ。早い話がこの俺のミスであり、お前達を咎める事は一切ない。だから遠慮なく続きを語ると良い……」「そ、それは違います! 魔王スカード様が悪いのではなく、このサイファーめが至らなかったのがそもそものミスなのです! どうか、どうかこのサイファーめに罰をお与え下さいっ!」 サイファーは魔王スカードのその言葉に心を心底痛め、スカードを庇うように弁明していく。「ふふ、良い。確かにお前が進言した内容は事実。だがな、それを聞いたこのスカードが最終判断を下したのだ。だからお前は気にすることはない……」 「う、うう、す、すみませぬ……」 腹心サイファーはその大きな体で地面に土下座をし、魔王スカードにひたすら平謝りをする。 その様子を見ていたザイアードの伝令兵はなんとなく流れを理解し、サイファーの為にも話を続けることにした。「あれは、数時間前のこと……。俺達ザイアード兵は霧が深いルモール森林をひたすら前進していました。森林の中は更に霧が濃くなり隣の兵の存在くらいしか確認できない状態でした……」 「そうだな……。俺の魔力感知にひっかからないところを見るとこの霧は自然発生したものだろう……」「で、ですよね。俺も先ほど色んな感知魔法を使って、周囲探索をしていましたが何も怪しいところは発見出来ていません!」 ただひたすらに忠臣であるサイファーは慌てて立ち上がり、魔王スカードに歩み寄り、そのフォローする。「い、異変に気が付いたのは高樹齢の大木が見え始め道の分岐が激しくなり、各々がバラけ行軍していたころでした」 「ふむ、続けよ」 ザイアード兵は震えながら続きを語って行く。 恐らくその時の様子を思い出し、恐怖におののいているのだろう……。 魔王スカードはザイアード兵のその様子を見ながら現在の心理状態を冷静に分析していた。「しばらくして、再び合流した時に結構な数の兵がいなくなっていることに気がつき……」 「まるで神隠しだな……」「じ、情報を共有させるために他の兵と、か、会話しようとしたところ……」 「……ところ?」「こ、声が出なかったのです……。入り口からしばらくはいった場所までは声が出せて

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