……ぼんやりとする中、俺は周囲をゆっくりと見回していく。 白壁に銀の装飾壁時計、更には風景画が掛けられている。 天井を見て見ると硝子細工の豪華なシャンデリアが吊るされ火が灯されていた。 窓から外を見ると、闇夜に真ん丸お月様が輝いている。(何処かの城内みたいだけど? ザイアードの城内とは違う?) というのも、ザイアード城内には赤い絨毯なぞ敷かれていなかったからだ。 部屋の広さは同じくらい広いけどね。(それはさておき、皆は何処だ? おいおい、実は今までのひっくるめて夢オチか? うーん、取り敢えず此処は顔を洗って……) 俺はフカフカのベットから慌てて飛び起き、ふと何かに気が付く。 ……デジァヴ。 いや、このフラグは回避しよう。 俺は色々先読みして、おそるおそる髪の毛辺りを触る。(つ、角が無いっ? い、いや普通はないけど、この世界じゃあったはず!) その時、部屋のドアが静かに開くのが分った。(し、しまったっ、いや、ドアは空いたんだけどもっ!) お、落ち着け俺。 こ、ここで、まさかのシツジイ⁈(い、いや、そうだとしても今度はもう驚かないぞっ!) 俺はそんな事を考えながら、咄嗟に身構える。「あ、やっぱり、守君もいたいた!」「な、何だ……。雫さんかあ……」 そう、入ってきたのは紫色のドレスに身を纏った雫さんだったのだ。 安心した俺は、ほっと胸をなでおろす。(て、どーなってんだコレ?) というのもね、さっきまであった俺のねじくれた角や逞しい翼はない。 でも、雫さんの見た目は変わっていないのだ。「てことは、もしかしてここは……?」「そっ、ファイラス!」(あ、ああ、成程……) 「お、俺角と翼生えてないよね?」「そりゃね? はい手鏡」 俺は手渡された手鏡で自分の状態を確認する。(うん、服装は変わってない) その代わりに当然、魔族のように角や翼はない。 どうやら、今度は人に戻った模様。(ん? じゃ、使えた能力とかはどうなってんだろう?) 気になる……。 と、その前に……。「えっと雫さん、学は?」 そう、学には色々聞いておきたいことがある。「いるよ? 照れて部屋に入ってこないのよね」 ああ、そうか、ドアの向こうにいるわけだなアイツ。(じゃ、先手必勝、先に謝って置くかあ) 「学、そ、その色
それからしばらくして……。「ふう、2人とも待たせたね?」 俺は長いトイレから戻ってくると、接客用のソファーに腰を掛ける。「おそふぁったな?」「気のせいだ……」 学はリスのようにリンゴをほおばりながら話す。 どうやらさっき雫さんが用意してくれたフ、ルーツのカット盛を食べているようだ。「ホントだ? なんかすっきりしてない?」「色んなものを生産、もとい清算してきたんだよ……。おいおい、知らないのか? 賢者には必要な時間があるのだよ?」「ふーん……」 2人とも胡散臭そうにジト目で俺を見ている。「さ、さて、色々スッキリ? したことだし、皆で情報共有したいことがあるんだよね」「あ、そうだな」「うんうん」 俺は白皿の上に乗ったカットリンゴをムシャりながら一呼吸おく。「えっふぉ、ふぉりあえず俺が仕切って良い? 何か詳しい情報がでたら、その人に主導権を投げる形にしたいんだけど?」 「うん、意義なーし!」 2人とも静かに頷き、軽く手を真上にあげた。「こほん……。では取り敢えず現状を把握したい。でだ、ファイラスにいる俺達の地位と元々の2人の王子達がどうなったかを知りたいかな」「あ、はい。それは私に任せて」 俺と学は頷き、元々の地の利がある雫さんに任せることにした。「まずね、元々の2人の王子はいないわ」「あー、代わりに俺達が来て役者が代わったってこと?」「みたいね。さっきこの国の宰相ガウスに色々話を聞いたら、2人の王子は最初から存在していない状態になっていたの! で、代わりに私が第1王女、学が第2王女、守君が第1王子になってる状態みたい」「え? てことは?」「そ! ここでは守君が一番偉い状態。つまり、国総出で何でも出来る事になるわ」「な、なっ⁉ 何でも……!」 俺は先ほどの充実したピンクイベントを脳裏に浮かべる。(お、俺が第1王子なら、あれ以上の事を何でも出来る……⁉) 俺はいけない事を考えてしまい、少し前のめりになってしまう。「じゃあ、た、例えば、例えばだよ? 厳選したCカップ以上のきゃわいいメイドさんを俺の世話係に複数人配置することとかは……可能?」 「……出来るけど却下」「なんなら代わりに俺の正拳突きをお前の顔面に複数発配置しようか? あ……?」 2人は無造作に立ち上がり、俺の目の前で両腕をポキポキ鳴らし始める
同時刻、ここはエルシードの王女室。「……」「……トイウコトデ、ファイラスノ皆サマハ、スイ様ガイルコトハ完全ニ把握ハシテマセン……」 スイは閉じていた瞼をゆっくりと開き、木製のテーブルの上に乗っている『古代図書装置ユグドラ』に目をやる。「……ありがとう。ユグドラ」「ドウイタシマシテ」(な、何よ。3人とも楽しそうにして……!) 人間というものは実に不思議なもので、仲間はずれを感じると嫉妬するもの。 再びエルフの女王に転生したスイも例外ではなかった。「けど、あの3人が同じ国にいるのはまずいわね。……にしても、何だったの? あいつら? まあ、お陰でここに戻ってこれたから感謝はしているけど。はー……」 スイはソファーに深く腰掛け、両腕を組み大きなため息つく。 そう、実はスイは女神の力で元の現実世界に戻されたものの、とある理由で戻ってこられのである。(そ、そうだ!) スイは『古代図書装置ユグドラ』を再び起動させ、調べものをすることにした。「ねえ、ユグドラ? 今のザイアードの状況、特に支配者の2人の魔王の情報を教えて頂戴?」「ワカリマシタ……。支配者ノ王子ハ、長男スカード、次男ライファーニナリマス」「え?」スイはその全く聞き覚えのない魔王達の名に眉を潜め、困惑してしまう。「スイ様、コノ2人ノ魔王ハ異世界カラノ転生者デス」(えっ! ……異世界からの転生者? も、もしかして私達がいた現実世界からってこと? それとも……?) 再び瞼を閉じ、しばし熟考するスイ。「……ん? スカードって、あ―――っ⁉ も、もしかしたらこいつら、あの時の……⁈」スイは大声で絶叫し、目の前の丸テーブルを激しく台パンしてしまう!♢これは、スイが女神の力で生き返り、現実世界に飛ばされ戻ってきた時のお話。現実世界に戻ってきたスイは、異世界アデレに来る前に発生した不思議な白い光の球体に包まれ佇んでいた。「ん……?」意識を取り直し、呻くスイ。スイは不思議な力で崖下の空中に浮遊している状態であり、謎の力でゆっくりと浮上していく!「あ、ああっ! こ、このままじゃあの異世界に戻れなくなってしまう⁉」そんなスイの頭上に何者かが舞い降りて来る気配がする。幸か不幸かスイは再び白い光の球体まで押し付けられていた。「いいぞライファー、そのままそいつをおさえて
時間軸は戻り、再びファイラスの守の部屋。俺達は色々話し合った結果、ザイアードの情報をリサーチすることにした。理由はもう一つの国のエルシードは鎖国している関係で全てが謎に包まれているし、解明するには時間がかかると皆で判断したからだ。「えっと、今のザイアードにはスカードとライファーが魔王として君臨してるみたいね」雫さんはスキルを使ってるからか、目を閉じながら話している。「え? 誰それ。聞き覚えがないけど、誰か知ってる?」「 う、うーん?」(ですよね……。となると俺達のいなくなった代わりのNPC役?(しっかし、転生者の個人情報がまるっとわかるなんて集団戦では便利な能力だよな)それから程なくして……。「ええっ! ってなにこれ……」雫さんが何やら驚いていますが?「え? 何なに?」 「ち、長男スカードの能力『異世界の魔王』? 次男ライファー『異世界の魔王の幹部』ですって……?」どうやら雫さんも、自分で口に出している言葉を理解できていない感じだ。「え? ここ、そもそも異世界だぜ?」俺も学の言うことに賛成だった。「違うそうじゃないの......」「 へ?」「だって守さん達を調べた時にそんな表記はなかった。つまりここや現実とは違う、つまりは第3の異世界から来た魔王達ってことになるの……」 「な、なるほどお……」雫さんの説明に納得する俺達。(流石雫さん察しが良い。また、エスパーモードが発動してるのかな? と、勘ぐってしまったのはおもいっきり内緒だ) そ、それは置いといて……。「仮にそうだとしたらさ、此処に来た目的ってなんだろうね? 俺はそこが一番重要な気がするな」 「確かに、守の言う通りだな」学は俺の意見に賛同し挙手をする。「それを知るためにも、早急に直接会って話すのが得策かなって」 「あ、それは俺も賛成!」行動派の学は雫さんの意見に挙手し賛成する。が、俺はそれについては一理あるものの、色々情報を集めてから動くのが良いと感じている。ということでだ。「話は変わるけど、雫さん。国宝とかって今どんな状態かわかるかな?」 「それがね、使えない状態みたいね」「え、ええっ?」(まずいぞそれは……)というのも、「最悪俺ら誰かが犠牲になって敵をせん滅し、犠牲者を後で復活させる」という復活儀式前提の強力な荒業は使えなくなって
「で、次ですが博士達からの伝言になります。こちらは過去音声を守さんの脳に直接流しますね」 「た、頼んます……」(お、俺の両親の声か、やっぱ初めて聞くから緊張するな……)俺は内心、心臓をバクバクさせながら聞き耳をたてる。『初めまして、守。その、なんだ……今まで自分勝手して、色々迷惑をかけてすまなかったね』(こ、これが俺の父親の声? 想像より優し気な声だけなんだけど、なんか緊張するな……)『これを聞いているってことはもう深く巻き込んでしまったわけだ。で、お前にこの話を今まで伝えなかった理由は【これはとある組織の計画を防ぐために行ったこと】なので許して欲しい……』(多分スイさんの組織との関係だろうけど……。一体どんな理由なんだ?)『詳細は言えないが、この計画には学とお前も大きく関わっている。だから申し訳ないが組織の計画を防ぐためにも、この世界で色んな経験を積んで強くなって欲しい。で、学とも仲良くやってくれ。運が良ければ俺達と会えることもあるだろうし、その時はおそらく……いや何でもない以上だ……』親父の音声はそこで途切れていた……。(そ、そういうことか……。だから、この世界で強くなれと……!)俺は崖下から落ちる謎の黒のクラウンを思い出し、色々納得していた。(その計画、組織の人間であるスイさんなら知っているんだろうか?)が、スイさんはもう現世に帰還させてしまっているしね……。(くそっ、失敗したなあ……!)『……以上です』親父の話が終わったから、俺の脳裏に再び女神様の声が聞こえて来る。 (うーん、なんにせよ母さんの事とか気になる事は沢山あるが、一つずつ片付けていくしかないか。ま、俺も孤児院育ちであるし、タフなんでね……)自身を納得させ、再び女神様の声に耳を傾けていく俺でした。『あ、もう一つ伝言が......』「 あ、うん、何でしょう?」『「この世界を愛し、仲間と共に楽しんでくれ」だそうです。それがFプロジェクトの最短の攻略に繋がると……』
野山を元気に駆け巡っていくユニコーン。 そう俺達は雫さんが従えるユニコーンことシルバーウィングに相乗りし、アグール火山めがけて突き進んで爆走していた。「わー、風が気持ちいいねー!」「いいいやっほ―――!」「うおおおお、はっや!」 高速で切り替わるは周りの風景。(ちょ、木っ枝ッ、岩、あぶなっ!) 早すぎて俺の思考も追いついてない。「上、枝があるふせてっ!」「あばばばっ!」「うおーこれめっちゃ楽しい!」(こ、これ絶対スクーターより、いや車よりもはええよ! そして、スリリングだよ!) 固い地面を蹴るユニコーンの躍動感、それに激しい風の流れ……!「はいっ!」 雫さんは掛け声と共に巧みにユニコーンを操り、蛇行運転していく。 ひと言で例えると、人馬一体かなと思えるほどだ。 そのせいか、俺達の先頭でユニコーンに跨っている雫さんの長い黒髪はまるで柳の様に揺らめいていてとても美しい……。「『シルバーウィング』! そのまま真っすぐね!」「ヒーン!」 雫さんの言葉に呼応するように叫ぶ、ユニコーンのシルバーウィング。 その名前の由来は、銀色の流れるようなたてがみと、まるで翼を授かっているかの如くスピードが出せることからだそうな。(雫さんは乗馬も得意だったと聞くし、ここでまさかの能力開花だよな) 何だか雫さんが頼もしく見えてきた。 正直、出来る女性はかっこええ! しばらくし、森を抜け草原にでると、遠目に何やら煙を上げている活火山が見えて来た。(遠目で何か赤いドロドロのスジみたいなのが見えるけど、あれ溶岩じゃね? こりゃ、腹を括って行くしかないな……) そのまま草原を抜け、緩やかな坂道の途中で俺達は下馬する。 その理由は、遠目にいかついドラゴンらしき姿が散見されるから。「じゃ
それから数時間後。俺は雫さんからみっちりと剣の指導を受けた。 内容は基本となる構え、足捌き、突きや斬り返し等々だ。「……ふう。じゃ、守君の特訓はとりあえずここまでで!」 輝く刀身を胸元に構え、俺に向かって静かに一礼する雫さん。 その流れる一連の動作すらも大変様になって美しい。「はあはあ……。し、指導あ、ありがとう」 肩で息をする俺に対して、余裕の雫さん。(き、基礎技術が違いすぎる……!) 元々動体視力が良かったからか剣の動きは不思議と見えて、ある程度は攻撃をかわせてはいる。 けど、俺の剣捌きに無駄が多すぎ、その隙をつかれて負けている感じだ。 フットワークの足捌きも熟練度が違いすぎるしね。(けど、何故か知らないけど俺、体力はあるんだよな?) 「守は俺とザイアードで過ごしていた時、空手の稽古していただろ?」 そんな事を考えていると、戻ってきた学が俺の気持ちを察するように話しかけてくる。「あ、ああ。あ! ま、まさか?」 「そう、魔族じゃなくなってもその経験は蓄積される。だからさ、お前も当然体力がついていたし、動体視力も向上し体捌きも向上していたんだよ」「な、成程……。学、もしかしてお前……?」 「自分の身は自分で守れって、お前が昔言ってろ?」「ああ、そうだったな……」(こいつ、まだ孤児院時代に俺が言ってたこと覚えていたのか……) 「……俺とお前は親友、だろ?」 「そうだったな……。ありがとう学」「ははっ、気にするな。これで昔の借りは返したからなっ!」 「おう!」 俺と学はそっと拳を合わせる。(そう、俺は本当にいい仲間を持ったよ……) 俺は休憩のためその場に座り込み呼吸を整えながら、頼もしい仲間達を見つめしみじみと実感する。「じゃ、雫。今度は俺の特訓頼むな!」 「はーい。弓矢を回避する訓練ね? 今、弓矢大量に出してるから少し待っててねー」
それから翌日の朝、俺達はユニコーンに跨りアグール火山のふもとまで来ていた。 だからか周囲は硫黄の独特のツンとする匂いが立ち込めている。 ふと頭上を見上げると、所々に真っ赤な溶岩が流れた後があり火山に来た現実を思い知る。「ここからは『シルバーウィング』が負傷するといけないから、徒歩で行こうか」 「そうね」 こうして俺達は、徒歩で坂道を警戒しながら登って行く。(周囲を見た感じ、登山ルート的に溶岩地帯をぐるっと迂回し山頂に上らないといけなさそう……) 俺は周囲の熱さとそのことを考え、げんなりする。「あっ、そうそう! はい、これ!」 雫さんは思い出したように、水色の綺麗な宝石が付いたペンダントを俺達に渡す。「って、これ何?」 「防熱のペンダント」「おお、サンキュー!」 早速俺達はそれを身に着けて見る。 すると……。(おお! ひんやりして、す、涼しい⁈ さっきまでのうだるような熱さが嘘の用だ。大変助かる……) どうやら名前まんまのマジックアイテム。 流石雫さん、ファイラスの宝物庫から使える物は何でも持ってきている模様、用意周到である! そんなこんなで、快適環境から登山して数分後、俺達は運悪く真正面に見えた大型生物と目が合ってしまう! 驚いた事に、金色の鋭い眼が殺意の眼差しでこちらを見つめているではないか……!(ひ、ひええっ⁈ こ、こわっ⁈)「ヴオオッ!」 「き、きたっ!」 なんと大人2人分くらいのその巨大モンスターがねじくれたぬじくれた固そうな角を振り上げ、雄たけびを上げこちらに向かい猛突進してくるではないか!「で、でたっ! ド、ドラゴンだっ!」 「これでも小型で、まだ子供らしいけどな」 慌ててる俺に対し、落ち着いて戦闘態勢を取る学。(これで小型とか嘘だろ……? じゃあ、成人したドラゴンはどれくらいの大きさなんだよ!) 「ウオオオッ!」
そんなこんなで楽しいひと時はあっという間に終わり、深夜自室にて俺はベッド横たわり窓から闇夜に見える綺麗な満月を眺めながら物思いに耽る……。(いよいよ明日から異世界ルマニアに行くわけだけど、なんだか寂しくなるな……。それに学や雫さんとの関係は上手くやれるんだろうか……?)「失礼します……」 その時、静かにドアをノックする声が聞こえて来る。「……この声ガウスか。……どうぞ」「失礼します。少しお話をしたいので会議室によろしいですか……?」「……そうだね。俺達がいなくなったこととかも話しときたいしね」 という事で俺はガウスと共に話しながら会議室に移動していく。 「……色々心配されているようですが、まあ後は私達に任せてください……」「そうだね……申し訳ないけど俺達に出来る事はそれしかないからね」 俺は苦笑しながらガウスに答えるし、ほんそれである。「まあガウス達には色々と世話になったし、ホント感謝しきれないよ」「はは、まあそれが自分達の仕事ですしね。当然の事をしたまでですよ……」 ガウスは謙遜しているのだろうが、その当たり前のことが当たり前に出来ない人が本当に多いのだ……。 なので、俺は本当にガウスやギール達には感謝している。「ということで自分の話はこれで終わりです」「え? じゃ会議室に行く意味ないじゃん」「まあ、そこは守様に用事がある人達がいるからですね……」 ガウスは片目を閉じ、俺に対しウィンクして見せる。(ああ、他の重臣やゴリさん達もか……。まあ、最後になるかも
……数時間後、此処はファイラス城内の会議室。 そんなこんなでファイラス城内に戻った俺達は事の顛末をガウスなどの重臣達を呼び簡潔に説明した。「なるほど、そうだったのですか。なんにせよ魔王スカードの件お疲れ様でした……」「はは、あガウス達のバックアップがあったお陰でだからね……?」 俺はガウス達重臣一同が椅子から起立して深々と頭を下げるのを制して、苦笑する。「……それにしてもにわかには信じられないですが守様達は異世界からの転生者だったとは……」「うん、そうなんだ」「では、貴方達の変わりに本来此処にいるべきレッツ第1王子とゴウ王子達はどちらに?」 「親父の話だと、どうやらルマニアに転移しているらしい」 ザイアードのそもそもの魔王達も当然ルマニアに転生しているらしいし、エルシードのエルフの女王についても然りだ。 これはこの異世界アデレとルマニアが対になっている関係らしいけど、親父達も詳細は分っていないらしい。 なので俺がルマニアからこちらの世界に戻ってきたとしても「ガウス達との繋がりがどうなってしまうかな?」と俺は危惧していたりもする。「……ま、なんにせよ1つの大戦は無事終結し、貴方達の頑張りのお陰でこの世界に平和が訪れた事実があります。という事で明日早速凱旋バレードをしましょう!」「お、いいねえ!」「うん! 国の勝利を伝える大事な行事よね!」「のじゃっ!」 ガウスの言葉に両手を空高く上げガッツポーズを取り、すっかりテンションアゲアゲの俺達。 ……という事で翌日の朝。 俺と雫さんは雫さんの愛馬シルバーウィングに跨りファイラス城外の凱旋門で静かに待機する。 そして雲一つない澄んだ青空の中、その上空にはエンシェントフレイムに変化した双竜、即ち学とノジャが優雅に大空を舞っている。 更に
……オヤジのしばらくの沈黙後に女神様がとんでもない回答を述べる。 「……え?」「俺も後で知ったんだが、アデレと対となる双子の星、『ルマニア』に転生しているらしい」「アデレとルマニアは双子の星にして1つの世界。そしてそこにいるスカードとサイファーはそのルマニアの住人なのですよ」「え、ええっ!」 女神様の話の内容に驚くしかない俺達だった。「うーんそうなると、スカードがこちらの世界に来たのも多分偶然じゃないかもね……」「ええっ! 雫さんがそんな事言うとなんか妙に説得力があるんだよね」(となるとスカード達は双極の星からの使者ってことかあ……) 「あの博士、少し訪ねたい事があるんですが?」「ん、なんだい雫さんとやら」「何故、私達にこの世界でこんな経験を積ませたんです?」「理由は大きく2つある。1つは母さんを探すのに純粋に力と仲間が必要だった」(なるほど、結果的にはなるが魔王スカードと出会えたのも必然だったのかもね) 俺はもう1つの星の住人である魔王スカードとサイファーを見つめ、納得せざるを得なかった。(だってさ魔王スカードみたいな強者がルマニアにはまだいるってことだろ? そうなると、女神様が俺と魔王スカードを戦わせたのは納得なんだよな)「で、親父。もう1つの理由は?」「多分、異世界転生計画の真の目的じゃないかしら? 私は組織から月面移住計画と並行して進められた新しい地球の代替えとなる新天地が目的って聞いていたけど……?」 「へ?」 俺達はスイさんの難しい言葉に目を細め唖然とする。「月面移住計画って、私の両親も確か関わっているって聞いたけど。確か月を探索して資源や新しい土地を求める計画よね?」「ああ、そうだ。月じゃなくて地球に類似した異世界を探す方が早いからな」「ぶっ飛んだ計画ではあるけど、理には適ってる
「……えっと? あのそうじゃなくて俺の両親は?」 俺は訳が分からず女神様の目を見つめる。「ああっ! なによ! 『古代図書装置ユグドラ』が転生した月神博士だったの? もう、ずっと私の目の前にあったものがそうだったなんて……!」「ってええ? ス、スイさん?」「て、こ、この植物が月神博士?」 俺達は色々と驚きながら、いつの間にかまじかに姿を現したスイさんを見つめる。「あ、そっか! スカードが全生物を生き返らせたから……」「そ! 私魔法使いだから瞬間移動の魔法も使えるしね!」「スイあんた……」「ご、ごめんなさいっ! 私も立場上色々あって仕方なくやってたの! でも、もう色々と諦めたから本当に許して! お願いっ!」 スイさんは俺達の目の前で深々とひれ伏し土下座して謝っている。「なあ、スカードどうする?」「俺はもうこやつを一度断罪したので、正直どうでもいい。だが、お前はFプロジェクトの事を知っておく必要があるだろうし、こいつと仲良くやった方が俺はお前の為になるとおもうのだががな……」(そっか、そうだよな。流石スカード、戦っていないときは非常に頼もしいし、キレのある回答をしてくるな) なんか位置付き的に神様みたいだしね。「うんまあ、完全には信じられないけど本当に罪悪感を感じているなら色々教えてくれると嬉しいかな……」 その、正直俺の初恋の人でもあるしね……。 俺は少しだけ顔を赤らめながら、ぼそりとつぶやく。「んんっ……そうよね。じゃお詫びに私の知っている事を全て話すね」「まあ、貴方の嘘を看破するスカードもいるしね?」 雫さんは少しの皮肉を込め、苦笑いしてますが? 中々辛辣である。「ば、ばかっ! そ、そんなんじゃないって!」「ふむ、半分
ファイラス城に向かうのは勿論、いつもの隠し通路から女神の神殿まで移動するためだ。 と、その時突風とともに真横に凄い勢いで何かが通り過ぎる! それはファイラス城の城壁に轟音を立て突き刺さる! よく見るとそれは樹齢百年は超えている大木そのものであった! ……更にはパラパラと音をたて、崩れる城の城壁……。「き、きゃあ――――――?」 そして、城内からは女中のけたたましい金切り声が多数上がっている……。「ひええええっ?」 思わず俺達もそのアクシデントに慌てまくる。(こ、これはま、まさか?) 嫌な予感を確かめるべく俺は恐る恐る後方を振り返る。「に、が、さ、ん!」 すると巨大化した魔王スカードが2本目の大木をこちらに向い、まるでやり投げの槍の様に投擲しようと振りかぶっている姿が見えたのだった!「ま、学っ! 急げっ!」「ひ、ひえええっ⁈」 学は蛇行飛行をし、スカードに的を絞らないようにさせながら城内を目指していく。 その間にも2本目の大木が軽々と投擲され、またもや俺達の真横を通りすぎ轟音をたて城内に突き刺さる! と同時にまたもやガラスの割れる鈍い音、女中の甲高い悲鳴が聞こえて来る。 最早城内は地獄絵図だ……。 不幸中の幸いで、俺達はその割れたガラス窓から、神殿に向かうための隠し通路に急いで向かえた。 ……3本目の投擲の様子が無い所を見ると、ガウス達が上手く囮になってくれているのだろう……。(ごめんな皆、しばらく耐えてくれよ……?) それからしばらくして、俺達はなんとか女神の神殿にたどり着く事が出来た。 進んでいくと周囲がうっすらと光輝くうす透明な紫色の水晶で出来ている部屋にたどり着く。
(本当は、俺よりも剣術が優れている雫さんがこれを使う予定だったけどね) だから、俺に雫さんはあの時この黄昏の剣を託したのだ。 よく見るとサイファーも元の姿に戻りスカード同様地面にうずくまっていた。(おそらくアーマーアームドの耐久が限界値を超えたんだろうな……) それを見たガウスは俺の右手を握り、掲げ勝どきを上げる!「聞け! ファイラスの全兵そして国民よ! ザイアードの大将魔王スカードをファイラス国王守様が打ち取ったぞー!」「うおおおおっ! やったぞ皆っ! 俺達の勝利だっ!」「ファイラス軍万歳っ!」 遥か後方に下がっていた全兵が歓喜の大声を上げながら、次第にこちらに近づいてくる!(よし、もういいだろう)「……アームド解っ!」 俺は学のアームドを解除し、その場にへたり込む。 学も同様にへたり込んでいた。「守、学っ!」 気が付くと雫さんも俺達の元へ駆け寄ってきた!(この感じ、終わったのか……?) 俺は隣で親指を立て、爽やかな笑顔でこちらを見つめている学を見ながら激しい戦闘に終止符が打たれた事を実感したのだ。「ッ⁈」 何故か急に寒気と、胸騒ぎがする……⁉ 俺は反射的にスカードが倒れていた場所に目を移す。 何とスカードは驚いた事にその場に立ち上がり、仁王立ちしているではないか!「ば、馬鹿なっ! お前は守様によって心臓を貫かれたはずだぞっ!」 ガウスは剣を再び抜き、その切っ先をスカードに向け威嚇する。 俺達も急いで立ち上がり、警戒態勢をとるが……?「……なんかスカードの奴、ぼーっとしているし様子が変じゃないか?」「う、うん……。目がなんか真っ赤に変わっているし…&hellip
「はっはっはっ! 守様、大人しく寝ていれば良いのに!」「ぬかせ、ガウス! お前に美味しいとこだけ持っていかれてたまるか! 冗談言ってないで、挟み込むぞ!」「ははっ!」 俺とガウスはスカードを挟みこむ様に左右に別れ、上手く連携し、追い込んでいく!「ぬっ! ぐうっ!」 それに対しスカードも懸命に対応しているが、正直分が悪すぎると俺は思う。 というのも俺とガウスの師弟コンビの息の合った連携、更には雫さんと学の息の合った支援、そしてファイラスが誇る各将と粒ぞろいの人材のバックアップがあるのだから……。 そしてこの猛攻に耐え切れず、スカードのアーマーアームドに細やかなヒビが増えてきているのが分った。(よしよし! 間違いなく追い込んできている証拠だ!)「守さん! 今、サイファーの解析が終わったわ! サイファーはもう体力、魔力共につきかけている! やるなら今よ!」「分かった、ありがとう雫!」(……あ、雫さんのこと初めて呼び捨てしてしまった……。そして雫さん、顔若干赤くなってんな、うん……) これは恥ずい。 が、今はスカードに集中したいところ。『てことで、手筈通り頼むぞ学!』『はいはい……』 俺と学は心の会話を終え、右手以外の全身の主導権を学に任せる。 そう、この時の為に取っておいたとっておき! それをスカードに食らわす為にね……! 刹那、そのチャンスが訪れる! スカードの鎧の隙間に雫さん達が射た弓矢が数本刺さり、奴の動きが極端に鈍くなる!「うぐうっ……!」 だからか、スカードが苦しそうに呻いている! そして、ガウスは当然そのチャンスを逃さない!「はああっ!」 ガウスはここぞとばかりに気合の入った必殺の
弓が飛んできた方向を瞬時に追うと、遠目に見えるは雫さんとヒューリが弓を構えるその姿。「ぐうっ!」 だからか、スカードは苦痛の呻き声を上げていた。 その痛みのせいか一瞬スカードの体が浮き、俺の腰にまわしていた手の力も緩む!(い、今がチャンス!)「お、おおおっ!」 俺達は気合を入れ、スカードの両手を勢いよく振りほどく! と同時に奴のアゴに向かって頭突きを食らわせる!「がっ!」 スカードは呻き、たまらずよろける。 続いて体勢の崩れたスカードに勢いよく体当たりをかまし、俺達はやっとのことスカードから解放される結果となった。 (はあ、はあ、あ、危なかった……。ありがとう、ノジャ……) というのもノジャの加護が無ければ、俺達は恐らくとっくの昔に感電死していただろう。(もっとも今のスカードの電撃を食らい、加護が切れてしまったけどね……) 雫さんを見ると、あちらもその加護は切れていた。 なるほど、この効果は2人で共用しているものだったんだろう。「うっ? くっ!」 俺達は気合で立ち上がろうとするが電流のせいで体が痺れているため、よろけ情けないことにその場にへたり込んでしまう。「守様、だ、大丈夫ですか? 今、状態回復魔法をかけますので、しばらく大人しくしといてください……」 小走りで駆け付けたウィンディーニが状態異常回復魔法を俺達にかけていく。「あ、ああ……」 素直にありがとうと言いたかったけど、申し訳ないが麻痺している為か舌も回らない状態だ。「……スカード申し訳ないけどこれは決闘じゃない、国単位の戦争なのよ……」「……然り……」 雫さんとヒュ
「ク、クククク……」 スカードは怒りとも歓喜ともとれる不敵な笑みを浮かべている? その為か、スカードの肩が若干揺れている様にも見える……って⁈ よく見るとスカードが装着しているアーマーアームドを覆っていた青白い光が更に強くなり、なにやら激しい異音が響き渡っているのだが……?(な、なんだ、こ、これは……? なんだがとっても嫌な予感がするんだけど?) 俺は雫さんを見つめるが、その雫さんは静かに横に首を振っている。(雫さんの未解析の技か。なるほど、スカード達のとっておきってわけか……⁈) 「……数百年ぶりだな……。この状態になるのは……」「何ッ⁈」「……この状態になるのは、お前で2人目だということだっ守っ!」 スカードはその咆哮と同時に俺達に急接近してくる!(は、はやっ……?) 一瞬消えたかのように見える程の移動スピード! が、俺達は瞬時に迎撃体勢を取る。「……お前何処を見ている?」(なっ? 後ろ? 今確かに正面から向かってきていたはずっ! が、大丈夫だ、学がしっかり防御してくれる……) 「遅いな……?」「かはっ?」 俺は俺の左わき腹にスカードの重い拳が突き刺さりのを感じ、たまらず呻き声を上げる。(なっ? ひ、左?) 「くそっ!」 俺は捨て身の食らいうち狙いで、右手に握った剣をスカードに向かって突きを繰り出す! が、もうそこに奴はいない。(こ、これは……ざ、残像現象……?)