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3.斥候と現状と

last update Last Updated: 2025-02-15 08:56:57

 それから数時間後、ここは俺の魔王部屋。

「ま、学うー……。良かったなー無事で」

「ははっ……。お前こそ……な」

 真っ赤なソファーに仲良く腰掛け、俺達はしばらく再会の会話を楽しんでいた。

 この会話で分かったことだが、この世界では不思議なことにどの種族間でも言語が統一されているらしい。

 早い話、ドラゴンでも、魔族でも、人でもある程度知恵があるものなら会話が可能のご様子。

 うんまあ、異世界転生あるあるだし、正直便利に越したことないしどうでもいいかな。

(そんな事より、この悪友が長男と言う事実が俺には一番ビックリニュースだったけどね。うんまあ、嬉しいけど) 

「なあ、お前何処に言ってたの?」

「ファイラスまで散歩!」

 学は両腕を元気よく左右に振り、ジェスチャーで示す。

(こ、こいつ……相変わらずエネルギッシュだよな。まあ、魔王だからむしろ丁度いいのか……) 

「で、何しに?」

「偵察だな。なんでもこの国に攻めてくると言う噂を聞いたんでな」

「えっ? 停戦中じゃなかったのか?」

 執事に聞いた話と違い、目をまん丸くする俺。

「マモル坊ちゃま、実はここ数日で色々状況の変化があったのでございます」

 俺の心情を察した執事は近況を補足説明をする。

 何でも我が国の斥候情報せによると、最近『ファイラス』では数十万単位の軍隊が練兵しているんだとか。

 その為この感じだと、少なくても数か月後にはこの国に攻めてくるとシツジイは予想している。

「実際、練兵している姿を俺はこの目で見てきたぜ?」

 マ⁈

「た、大変な事になるじゃねーかそれ? その規模だと、どっちかの国が亡びるかの大戦じゃねーか」

(こ、これはえらいこっちゃ……) 

 俺は急に不安になり、その場をうろうろする。  

「まあ、そうなるな……。なあ、シツジイ、基本人と魔族の一人当たりの戦力差は人一人の百倍と言われているよな?」

 学は執事に、この世界の種族間の戦力ポテンシャルを確認する。

「そうでございます。これは魔族の闇の魔力の強力さが理由と言われております」 

 学が疑問に持つのも無理もない。

 この国は『ファイラス』に対して五万の兵力を有している。

 純粋な数で比較すると数十万対五万となり、この国が不利に思われる。

 しかし、今説明した戦闘力換算単位として戦力を国単位で比較すると【人戦闘力数十万】対【魔族戦闘力五百万】との戦いになり、負ける要素は見つからない。

 しかも今回こちらは、城で守る側。

 そう、『ファイラス』が『ザイアード』を倒す戦力は圧倒的に足りないのである。

 城を攻める策が古来よりあるが、それは力攻め、兵糧攻め、奇襲、水攻め、火攻めである。

 力攻めだけでは守る側の数倍の戦力が必要とされているのであり得ない。

 兵糧は攻めは食糧は城内に大量に備蓄されているのでこれもあり得ない。

 水攻めも魔族は飛べるし泳げるしであり得ないし、そもそもこの城自体が動く要塞になっているので効かない。

 となると火攻めと奇襲に該当する切り札的な何かが考えられる。

(はあ……しかし、別世界に転生されて、大戦前ときたもんだ。まじかよ……) 

 俺は思わず深いため息をつく。

 とはいってもウジウジしても現状は何も解決しない。

 とりあえず、現状を把握していそうな執事に確認してみよう。

「なあ? シツジイ、ファイラスとの停戦の維持は無理なのか?」

「数十年ファイラスは目立った動きが一切なかったのです。それが最近のこの動き。戦争を避けることは難しいと思われます。まあ、特殊な状況にならない限り負けることはないとは思いますが……。引き続き監視はさせてるのでご安心くださいませ」

(なるほどね……)

「ありがとう。そうだよな……」

 俺は心底納得し、シツジイにお礼を言う。

「ふふ、守。頭が切れるお前のことだ、また昔の軍師みたいなこと色々考えてるだろ?」

「え? うんまあ」

(流石腐れ縁の学。よく分かってるな……)

「だがな、たまには体を動かして目で確認するほうが早い時もあるぞ?」

 学は一言述べると、空手の鍛錬をしに城外の訓練所に出かけて素早く飛んでいく。

(まあ、確かにそうだよな) 

 現状を知る相手に確認できたことだし、後は自分達で情報収集してみるほかない。

 だからこそ、学は自分の目で事実を確かめに行ったんだろうし。

 他人任せもアレだし、俺も見習って色々情報収集していこう。

(しかし、話は変わるが、俺や学同様スイさんと雫さんもこの世界に転生しているのだろうか? もし転生しているなら、2人に会いたい……。特にスイさんに……) 

 俺は車の中で見せたスイさんの愛らしい笑顔を思い出し、そんな気持ちでいっぱいになっていた。

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  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   42.ウィンディーニ?

     俺はそんな事を考えながらそっとため息を吐き、会議室から1人席を外し、そのまま自室に直行する。 俺は注意深く周囲を見て誰もいない事を確認し、机に腰かけゆっくりと背伸びをし、足腰を伸ばす。 俺が一人でここに来たのには深い理由があった。 それは休憩もだけど、ガウスから手渡された封書の内容を誰にも見せられないためだったりする。(ガウスは剣の腕と仕事の内容に関しては嘘をつかないからね……)  俺は中身が傷つかないようにペーパーナイフで丁寧に封書の封を切り、その内容に目を通していく。(ん? 誰からだと思えばウィンディーニから? あの場で伝えたいことを言えばとは思ったけど、あの天才児のことだから何か理由があるだろう。どれどれ……?) 「……え、これマジなん? じ、じゃあ学達のあの行動は……?」  ……俺は書かれていた内容に驚愕し、思わず独り言を呟いてしまった。(しっかし、ウィンデーニ、本物の天才なのかも)  ……それから俺は色々な用事を済ませ、再び会議室にこっそり戻る。 部屋に入るなり、雫さん達が俺の周りに集まってくる。「あっ、守君! 今、学達と話してね、急遽アグール火山に行くことになったから!」 雫さん達は嬉しそうにきゃいきゃいとはしゃいでいますが?(こ、この感じ、帰りはまた温泉宿泊コースかもしれんな。嫌いじゃないけどねっ!)  俺は温泉内のピンクイベントを思い出し、もっこ……もといにっこりと微笑む。「守様! あのっ! 自分も火山に同行することになりましたので、よろしくお願いいたします!」 ウィンディーニは元気よく俺にペコリとお辞儀をする。「彼には私の代理で現場視察に行ってもらうことになりましたので、守様よろしくお願いいたしますね」 ギールは俺にそう述べ、軽く一礼する。

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   41.ノジャお手柄なのじゃっ!

     それから数分後……。 俺達はギールの資料とウィンディーニの魔導知識を元に話しを詰めていく事になった。  「なるほど、ルモール森林全土には『封魔の炎龍石』を使った魔法陣をしかけられそうですが……」 「え? 何か問題があるの?」「森林の地下トンネルに配置する分が全く足りません……」「仕方ない、ではこれで足りるのでは?」 ギールは一番下に置いていた、とっておきと思われる資料をウィンディーニに手渡す。「ああ、これなら地下トンネル分も余裕で足りますね! 余った分で数十人の鎧加工分も作れるでしょう。あの、それはさておき、この資料は私は見たことが無かったのですが?」「最近、ようやく火山上部で発掘出来る環境になり、未開拓であった関係で大量に発掘出来たものだからですな」 ギールは咳払いしながら、俺をチラリ見している。(ああ、例のやつね……。まあ、役に立って何よりだったよ) 俺はそんな事を考えながら思わず苦笑する。「んんっ! ……守様はこのピンポン玉くらいの大きさの『封魔の炎龍石』の価値を知っておいでですか?」 ギールはそんな俺の態度を見て、俺を厳しい目つきで睨む。(う、うわあ? や、やっべ、俺、地雷踏んだかも……?) 「い、いや?」 「分かりやすくこの『封魔の炎龍石』の価値を説明させていただますね。これ一つでだいたい人家10件分の価値があります……。何故そんなに高値で売れるかと言うと、『エルシード』の連中が価値を見出し、大人買いしていくのですよ……」「お、おう……」(そ、それはギールが出し渋るのもシカタナイデスヨネ……?)  俺はギールの言葉の重みを感じ、額に変な汗が流れて来るのを自身で感じ取る。「この

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   40.会議は踊りまくる

     それから数時間後、此処はファイラス城内会議室。「イエーイ!」「やりましたな!」 心地よいハイタッチの音がファイラス城会議室に響きわたる。 ファイラス城に帰還した守達は宰相ガウスら重臣達と、ザイアード軍掃討作戦の成功の喜びを分かち合っていた。「いやー、あんなに上手くいくとは思いませんでしたな!」「流石ガウス! 地の利を生かしてあんなエグイ作戦を思いつくなんて……」 俺は作戦を考えた功労者であるガウスを労って、ワインをガウスのグラスになみなみと注ぐ。「はっはっは、そんなに褒められても困りますなあ? この作戦は鉱山などの労働者や魔法兵団の方々にも協力してもらったからこそ出来た作戦ですしね」 ガウスは自分で言った言葉を嚙みしめるようにワインを飲み干していく。 ガウスは終始笑顔ではいるものの、顔や手などはすり傷だらけではあった。「そうだよね……。この作戦は兵だけでなく、ファイラスの住人みんなにも協力してもらったからこその成果ですものね」「だね」 俺もガウスや雫さんと同じ考えだ。「ぷはー上手い……! 口の中の傷にしみますが、勝利の美酒ということで今日だけは許してもらいましょうか……」「そうだね……。これからしばらくは飲むことは出来なそうだしね」「では、勝利とこれからの戦に向けて乾杯!」 ファイラス会議室内には複数のグラスが打ち鳴らす軽快な音と賑やかな談笑が響き渡る……。 そう、今だけは……。 俺達は勝利の美酒を飲みながら今までの苦労を思い出していた。    ♢ 時は遡り、20日前のファイラス城作戦会議室……。 会議室の10人ほどが囲える木製の広いテーブルがある。 その周りに俺達いつものメンツ、それに宰相ガウスら重臣達、ゴリさん、城下町の町長など、これからの作戦に欠かせないメンツが揃い論議中であった。「……では2人の魔王の能力の分析が少し進んだので、要警戒の能力だけ情報共有させてもらうね?」 雫さんの言葉に一同は静かに頷き耳を傾ける。「2人に共通しているのは『色んな探知魔法』を使えること」 「……して、具体的には?」 雫さんの話の重要性を感知し、ガウスは耳を傾けている。 「んー色々あるみたいだけど……。中でも罠感知・生体感知・魔法感知・音声感知が要注意かな?」 「それまた厄介な能力ですな……」  確かに、ガウスが

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   39.シツジイの助言

    「ほう? シツジイよ詳しそうだな? 話せ……」「この魔法を遮断する結界には希少な魔石を使うのです。これ単品では効果は発揮出来ないので、効果を発揮させるために加工と魔法陣が必要にはなりますが……。そしてこれは音を遮断する静寂の風石よりも、もっと希少なものなのです」 シツジイは握りこぶしより2まわり程小さい真紅に輝く魔石を懐から取り出し、魔王スカードに手渡す。「ほう? つまり?」「ルモール森林すべてを遮断するのにファイラスでとれる魔石を全て使っていると逆算出来ます」「……シツジイがそのように考える根拠はなんだ? 述べて見よ」「ファイラスの宝石鉱山で稀にこの魔石が発掘されることはスカード様もご存じのはず」「……そうだな」 アグール火山に太古から住む龍がこの魔石を生み出すのに関係していると噂されていることを魔王スカードは確かに知っていた。「この森林だけでも数年前のファイラスの宝石生産量から取れる魔石の数年分ほどの量は使われていると思われます」 シツジイはその算出データが書かれた資料を黒カバンから取り出し、魔王スカードにそっと手渡す。 それからしばらくして……。「成程、見事な資料だ。お前を信じようシツジイ……。ところで、シツジイが算出基礎で用いているものは数年前のデータであろうし、近年生産量が増えている可能性は?」「……斥候情報によるとここ数年、年々宝石の生産量が少なくなっていると聞いております。メインで採掘している場所については、体積的に考えて枯渇することはあっても多くなることはないと思いますが」 シツジイは今度は魔王スカードにファイラスから極秘で入手した、アグール火山の見取り図とそこで発掘しているメインの発掘場のポイント図を提出する。「……成程、宝石自体いつか枯渇するものであるし、急に増える理由はないか…&hel

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   38.気づいた異変

    「思い起こせば今まで、行軍中に何も無かったのがそもそもの罠の一つだったようです……」 「……ふむ、お前の言葉確かに間違いでないし、俺もそのように感じていたところだ。早い話がこの俺のミスであり、お前達を咎める事は一切ない。だから遠慮なく続きを語ると良い……」「そ、それは違います! 魔王スカード様が悪いのではなく、このサイファーめが至らなかったのがそもそものミスなのです! どうか、どうかこのサイファーめに罰をお与え下さいっ!」 サイファーは魔王スカードのその言葉に心を心底痛め、スカードを庇うように弁明していく。「ふふ、良い。確かにお前が進言した内容は事実。だがな、それを聞いたこのスカードが最終判断を下したのだ。だからお前は気にすることはない……」 「う、うう、す、すみませぬ……」 腹心サイファーはその大きな体で地面に土下座をし、魔王スカードにひたすら平謝りをする。 その様子を見ていたザイアードの伝令兵はなんとなく流れを理解し、サイファーの為にも話を続けることにした。「あれは、数時間前のこと……。俺達ザイアード兵は霧が深いルモール森林をひたすら前進していました。森林の中は更に霧が濃くなり隣の兵の存在くらいしか確認できない状態でした……」 「そうだな……。俺の魔力感知にひっかからないところを見るとこの霧は自然発生したものだろう……」「で、ですよね。俺も先ほど色んな感知魔法を使って、周囲探索をしていましたが何も怪しいところは発見出来ていません!」 ただひたすらに忠臣であるサイファーは慌てて立ち上がり、魔王スカードに歩み寄り、そのフォローする。「い、異変に気が付いたのは高樹齢の大木が見え始め道の分岐が激しくなり、各々がバラけ行軍していたころでした」 「ふむ、続けよ」 ザイアード兵は震えながら続きを語って行く。 恐らくその時の様子を思い出し、恐怖におののいているのだろう……。 魔王スカードはザイアード兵のその様子を見ながら現在の心理状態を冷静に分析していた。「しばらくして、再び合流した時に結構な数の兵がいなくなっていることに気がつき……」 「まるで神隠しだな……」「じ、情報を共有させるために他の兵と、か、会話しようとしたところ……」 「……ところ?」「こ、声が出なかったのです……。入り口からしばらくはいった場所までは声が出せて

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