それから数日後、此処はファイラスの城門前。
俺達は大人が並んで10人は通れそうな巨大で重厚な石造りの橋を歩き渡り終え、ふと目の前に人がいることに気が付き立ち止まる。
「おお、守様達よくぞご無事で……! して、成果はいかがでしたか?」
不敵な笑みを浮かべ佇むは宰相のガウス、その人であった。
こちらを見るその眼光は素人目に見ても歴戦の猛者と分るくらい鋭い。
ガウスは質実剛健な家臣であり、くそ真面目な性格であった。
だからか宰相という地位にもかかわらず、体格の良い体つきをしていた。
ガウスの装備しているプレートメイルの上からでも分るくらいにね。
ちな、オールバックの白髪にきりっとした眉、ほほとアゴにも整った白い髭を蓄えているのが特徴だ。「ごめんよガウス。代理の影武者の件とか色々世話になったね! で、実はこの子が例のエンシェントフレイムなんだ!」
俺は背におぶっていたノジャをよいしょと降ろし、その頭を軽くポンとたたく。
「のじゃっ!」
俺の行動に呼応するかの如く、胸を張りふんすとしているノジャ。
「……な、なんと⁈ そ、それは凄い!」ガウスは目を大きく見開き驚愕している。
(はは、初代王以外千年単位で歴代契約実例が無かったから、そりゃ驚くよな……。しかも人化は見た目キッズの角ガキだしね)
だから、俺はそんなガウスの様子を見て思わず苦笑してしまった。
「でだ、早速で申し訳ないんだけどガウス達にこの関係の相談があってね? あ、学達はさっき話した通り休憩しててな」
「おう! じゃ、後でな!」
「じゃ、ノジャちゃん、邪魔になるといけないから雫お母さん達と一緒にお買い物に行きましょうねー!」「えっ? い、いやじゃ! あ、ああっ!」こうして雫さん達はノジャの襟首をつかみ忙しく城下町に消えていった……。
(…&
……それから一月後、ここはお昼のファイラスの城下町。「ゴリさーん!」「おお、これはこれは守様とその御一行様、らっしゃい!」 俺と雫さんは城下町の鍛冶屋『工房ゴリ』に来ていた。 ちな、学とノジャには別件をお願いしており、ここにはいない。 鍛冶屋『工房ゴリ』……。 工房の中は学校の体育館くらいの結構な広さがあり、その中で複数の作業員が忙しそうにせかせかと働いている状態だ。 よく見ると中央には大人二人分くらいの大きさの製鉄炉が配置されていた。 ゴリさんはそこで真っ赤になった鉄を耐熱手袋をはめ、ハンマーで力いっぱい叩いているところだった。 棟梁であるゴリさんは、この工房の何代目かの『ゴリ』の名前を受け継ぐ腕利きの鍛冶屋であった。 体格も容姿も体毛も名前の通りゴッリゴリにいかついが、性格は対して温和でとても優しい超いい人である。(ただ、恰好がね。フンドシと裸エプロンなのだけがホントやめて欲しい……。もう見た目がさ、新種の裸族としかおもえねえ……) 本人は「どうせ汚れて汗まみれになるから」と豪語してますが。(確かにタワシの様に頑丈な体毛で守られている関係で、服はいらないかもしれないけどね……) ちなみに雫さんはゴリさんのそんな見た目は全く気にしておらず、今もフレンドリーに話しかけている状態だ。(人を見た目で判断しないのが雫さんのいいとこだよなあ)「あ、そうそう! 例のもの出来てますぜ! おい、お前達!」「へいっ!」 ゴリさんの声に呼応し、作業員達がえっちらおっちらと何かを抱えこちらに運んで来る。 よく見ると、俺達が委託していた『ドラゴンライダー鞍』一式であった。 その鞍は俺達が道中倒し回収し持ち帰ったドラゴンの体毛や鱗などの素材を使い、ゴリさん達に加工して作ってもらったものだ。「んんっ! 少し説明を。座る部
で、それからしばらくし、ここはファイラス城内の会議室。「……という事で我が国の財政内容の報告は以上になります」「……なるほどね。説明ありがとう」 会議室の中央に何十人と座れる椅子、そして長方形の木目の入ったテーブルがある。 そこで俺と財務大臣ギールはただ2人、事前の打ち合わせをしている最中だったりする。 俺は書類に目を通しながら、正面に座っているギールをチラ見する。 ギールは中背の痩せた体形をしており、銀のメガネをかけた見た目通りの真面目なガリ勉タイプだ。 質素倹約タイプで、着ている服も同じ上下灰色のタキシードだったりする。 メガネチェーンを付けているのは、きっとメガネに対する本人のこだわりなんだろう。 そんな事を考えながら、俺はギールに疑問点をいくつか聞いて行く事にした。「質問なんだけどさ、ここ数年ファイラスの財政が枯渇してきている大きな理由ってなんなの? というのもね、支出は抑えてきているから収入が減小してる内容を解決しないとと、思うんだけど?」「そ、それなんですが、実はアグール火山のふもとの宝石鉱山が年々枯渇してきてまして……。はい……」(ん、アグール火山? ああ、そっか、ノジャがいたあの火山は宝石の鉱山でもあったんだな) 不思議と人気が全く無いし、当然作業員も見当たらなかったので全然気が付かなかった。「……頂上付近で作業は出来ないの?」「……その、あそこには手強いモンスターと主のエンシェントフレイムが生息してまして」 途端小声になるギールの言葉に、その申し訳なさ感がこちらにも思いっきり伝わって来る。 そう、ギールも真面目なんだよなあ。(そっか、ノジャの件はガウスからまだ伝わってなかったのか……。この人も多忙で全部の書類には目を通せてないだろうし、現場組じゃないから仕方ないよな)
それから数日後、此処はファイラス城内の応接間……。 晴天の昼間、ザイアードに送った文書の返事をするために使者がファイラスに来訪する。 驚いた事に、使者はなんとあのシツジイだった!(うわあ、懐かしいなシツジイ……。元気してたかな?) 「……初めましてシツジイといいます」 シツジイは俺達に向かって流暢に辞儀をする。(うん、知ってるよ! でもシツジイは俺達のこと覚えてないんだね……) 俺と学はお互いを見つめ、シツジイのその返答に少し困惑する。 だって俺達は『初めまして』ではないのだから……。 とは言ったものの、無言で対応というものは相手に失礼であるからして、気を取り直しシツジイとの対応をしていく。 なお、雫さんには気を使って席を外してもらっている。「遠路はるばるお疲れ様です。立ち話もなんですからどうぞソファーにお座りください……」「……そうですね。ありがとうございます」 ということで、応接用のソファに腰かけるシツジイと俺達。「……では、早速本題に入らせていただきます。で、これが文書の内容になり、読み上げさせていただきますが、よろしいか?」「……どうぞ」 俺達は静かに頷き、その内容に耳を傾ける。 自身の心臓の鼓動がわずかに早くなり、緊張していることが自分で分かる。「ザイアードを束ねるスカード、貴国の申し出を有難く受け入れる。であるからしてファイラス代表を数名こちらに派遣して頂きたい。期日は特に設けておらず、いつでもお待ちしている」 (成程、いつでもいいから俺達から来いってことか) 想定内の返事であるし、仮に罠の可能性があったとしても直接話をするしか方法はない。「……以上です。では、私めはこれで失礼します……」 シツジイはソファーから静かに立ち上がり俺達に向い軽く一礼する。「……また後日なシツジイ!」(あ……、やっべ! つい口が滑ってしまった!) 学もこの俺の対応には目を大きく見開いて驚いている状態だ。「ふふ、貴方達はなんとも不思議な人ですね。その、何処かであった懐かしい感じがします……」 シツジイは少し微笑むと、懐から若干赤みかがった透明色の宝石のペンダントを取り出し俺達に見せる。 あ、あれは、ザイアードの家宝……。「天罰の涙!」 シツジイはにっこりと笑い、俺達に静かに一礼し、帰って行った。 だから、俺
そんなこんなで数時間後、俺達エンシェントフレイムのお陰であっという間にザイアードとファイラスの国境付近に到着する。「見て! 遠くにデーモン達の集団が見えるわ!」 雫さんの指さす方向を見下ろすと、漆黒の翼を持つ異形の集団が見えて来る。 よく統一されているようで、あの荒々しいザイアードの連中が何千もの横隊で鎮座している。 更にはよく見ると、先頭に2人の目立つ存在が確認出来た。 一人は頭に立派な三本角、髪は金髪、全身の服は派手で宝石が散りばめられた赤のフロックコートに黒のズボンを着ており、見た目は中世ヨーロッパの王族に見える。 もう一人は体格は人のそれであるものの、口から覗く鋭い牙に鋭い眼光は獰猛そうなトラそのものであり、金色と黒の見事なコントラストの立派な体毛に包まれていた。「2人ともただ者じゃないわね……」「ああ、きっとあの2人が新生ザイアードの大将だろうな」 両目を閉じ両腕を組んで威風堂々と仁王立ちしているその様は、魔王に相応しい圧倒的威圧感を放っていた!「うわあ、こりゃー数万はいるな……」「てことは、全軍総出ってことね」 味方にしていた時はとても頼もしく感じたが、敵に回すと厄介としか思えない。(真面目な話、一体一体が一騎当千の猛者だしな) 「……よし、じゃ早速ブレスで一掃するか!」「賛成なのじゃー!」 血の気が多い学とノジャはとんでも発言をしてますが⁉(はっはっは……、じ、冗談だよね?) 「っておい? 何本気で大きく息吸い込んでんだこのバーサーカー共はっ! 特に学っ、おまっ、元ザイアードの代表だろうがっ! 躊躇ないんかいっ!」 これには俺も言葉に出して流石に突っ込まざるをえなかった。「……うーん、実は私も賛成なのよね。なんだか嫌な予感がするし……」「えっ? ええええええええええええっ! し、雫さんまでっ、またそんな……」(も、もしかしてエスパーモード発動してんの? う、うーん、多数決では戦闘決定だけど……?) 正直交渉前にそんな話はやめて欲しい。「よく来たな! ファイラスの代表達よ! 俺がファイラスの代表にして魔王っ、スカードである!」 俺達の存在に気づいたスカードは大きく目を見開き、まるで荒々しい獅子のような大声で激しく吠える! その途端、不思議な事に俺達に向かって荒々しい突風が吹き荒れるではないか
「奇遇だな。実は俺達もその『Fプロジェクト』を追っているんだ。でだ、利害は一致しているし俺達と同盟を組まないか?」「ふむ、確かに悪い話ではないな……?」 スカードなにやら深く頷くと、自身のごつい拳を前に突き出し、その右腕を俺に見ろと言わんばかりに見せつける!(こっ、これは! スカードの右手に装着された赤黒く怪しく輝くこの腕輪は……っ!) 「ファイラスの国宝『代償の血潮』っ!」 俺達一同の驚愕の声が綺麗にハモる! ……この場所に、このメンバー、そして『代償の血潮』……か。 何というか因果めいたものを感じられずにはいられない。(そう、あの人がいれば完璧だったけどね……) 「ち、ちょっとまったっ!」(そう、この声のって? ええええええええっ⁈) 「ス、スイ? あ、貴方現実に返されたはずじゃ?」 雫さんの驚きの声が静かにこの場に響く。 当然俺もエンシェントフレイムに変化した学も口を大きく開き驚いている状態だ。「皆っ、ご、ごめんなさいっ!」 スイさんは突然俺達の前に現れ、なんと突然俺達の目の前でジャンピング土下座をかますのであった。「私の立場からああするしかなかったのっ! お願い許してっ、ねっ雫っ、私達友達でしょ?」「……スイ、あ、あなた……」 俺と同様に雫さんも眉を潜め困惑してる模様。 流石に前回の件があることから、俺達はスイさんを信用してはいないし、出来るはずはない。「……ほう? お前はあの時の? 成程、ここの世界ではエルフの女王として転生していたのか……」(え? この感じ、スカードとスイさんは面識があるのか?) 「ス、スカードっ! 提案があるのっ! 貴方にとって魅力的な内容なの
俺達は警戒しながら上空に待機し、その様子を見守る。「ふふふ、すまぬな悪気はないのだ……。少し感情的になると、多少の天災が発生するだけだ。だから気にするな」 魔王スカードは爽やかな顔で俺達を見ているのだが……。 そ、そっかー、悪気はないんだ……。 じゃ仕方ないよね(棒)。(って、余計に悪いわ――――――――――――!) 俺は心からの雄たけびを大声で叫びたかったが、交渉に来たことをふと思い出し、かろうじて喉元で止める。 「まあ、降りて来い。交渉の続きをしようではないか?」(いやいや、誰のせいでこうなったと?) あ……ザイアードの兵が落ちた割れ目から飛び出してきた。 そして心なしかその兵達は後方に下がっている(苦笑)……。「ど、どうします? 俺は交渉をやるだけやってみたいとは思うけど」「うーんそうね。私も色々と聞きたい話もあるし、続けましょうか……」 雫さんは恐怖で震えているスイさんを見つめ、深く頷いている。 という事で、俺達は十分に警戒しながら離陸し、再びスカードの元に歩み寄る。「確認だが、俺の為に1つの枠『異世界ゲート』を俺に譲ってくれるわけだな?」「ああ……」 俺と雫さんはアイコンタクトし、深く頷く。 ちなみにスイさんは若干涙目になりながら、激しくブンブンと首を上下に振っている。 「真夏のどっかのロックフェスに来てるのかな?」と思えるくらい激しくだ。(……なんかトラウマでもあったんだろうか? まあ、どうでもいいか) 「ふむ、ではもう1つの枠は『Fプロジェクト関係』だとして、残りの1つはどうするつもりだ?」 魔王スカードの問いに対して、俺達はしばし無言になる。(だ
その表情は、醜く、恐怖と苦痛に満ちていた。(……っ! けど、流石にこれは可哀そうだ) 「こやつを上空に掲げよ!」「ははっ!」 鎧で身を固めた屈強なザイアードの魔族兵達が氷漬けになったスイさんを空高く持ち上げていく。(こいつら、な、何をするつもりだ?) 俺は、思わず地面に落ちて粉々になったスイさんを想像してゾッとしてしまう。 隣にいた雫さんも同様に青ざめていた……。「ふむ、待たせたな……」「あ、いえ……」 正直俺は複雑な思いだ。(だってスイさんはあんな性格でも俺の、俺の初恋の人だったから……) 気が付くと、自身の頬を伝って涙が静かに地面に落ちるのが自分でも分る。「……っ!」 でも、今はそんな感情に浸ってる場合じゃない……。「……お前泣いているのか?」 トラの頭を持つサイファーが初めて俺達に対して話しかけてくる。 そのサイファーの表情は信じられないことに、俺を心配しているように見えた。「……そうだな、自分でも不思議に感じている。おかしいか?」 俺のその言葉に、魔王スカードとその腹心サイファーは顔を見合わせていた。「スカード様っ、こいつはあいつらと同じ人種」「ああ、ということでだサイファーわかるな?」「ははっ!」 魔王スカード達は急に俺達の前に立つと横並びになり、それぞれ両手を自身の胸元位置構える。(な、何だ? 今度は一体何をしようってんだ?) 「我スカード汝と契約せしもの……」 スカードの声がその場に朗々と響き渡る。「我サイファー主と契約せしもの&
数十分後……。 周囲の山は消し飛び、岩は砂に変わり、木は無くなり、そこには何も無くなっていた……。 当然周囲に潜んでいたであろうエルフ達の姿もだ。「ふむ、やはり奴らはそこの魔法陣で集団転送してきていたか……」 「えっ!」 俺達は驚きながらも魔王スカードの視線を追う。 なるほど、魔王スカードが敢えて残したと思われる魔法陣が地面には描かれていた。「えっと、結果的に俺達を助けてくれたのかな?」「……そうなる。まあ、こいつらがスイと連動して動き姿を消し、ここに潜み機を狙っていたのは感知していたしな……」(あっ! ……も、もしかして魔王スカード達が目を閉じていたのって、それをこいつらに悟らせないため⁉ カッコつけていたわけでも余裕こいていたわけでも無かったのか) 魔王スカード計り知れない奴だ。 俺は魔王スカード達のその洞察力に感心してしまう。「そっか、何はともあれ助けてくれてありがとう……」 俺達は素直に頭を軽く下げる。 どうやらスカード達が俺達の前に立ちふさがり武器を構えたのは、俺達を庇うためでもあったみたいだしね。「ふむ、まあ気にするな。では、肝心な交渉の話に戻らせていただくが……」「うん」(さて、どうなる事やら……?) 正直魔王スカードの心情は深すぎて俺には読めない。 ただ、分っている事は正直に話す人間には寛容的であるし、逆に約束を破る奴や嘘を平気で言う奴には一切の容赦がない。 早い話、義に厚い男だという事だけは理解出来た。「まあ、交渉は成立だ。お前達なら信用出来るしな……」「え? や、やったあ!」 俺達は皆と嬉しさの余り、ガッ
そんなこんなで楽しいひと時はあっという間に終わり、深夜自室にて俺はベッド横たわり窓から闇夜に見える綺麗な満月を眺めながら物思いに耽る……。(いよいよ明日から異世界ルマニアに行くわけだけど、なんだか寂しくなるな……。それに学や雫さんとの関係は上手くやれるんだろうか……?)「失礼します……」 その時、静かにドアをノックする声が聞こえて来る。「……この声ガウスか。……どうぞ」「失礼します。少しお話をしたいので会議室によろしいですか……?」「……そうだね。俺達がいなくなったこととかも話しときたいしね」 という事で俺はガウスと共に話しながら会議室に移動していく。 「……色々心配されているようですが、まあ後は私達に任せてください……」「そうだね……申し訳ないけど俺達に出来る事はそれしかないからね」 俺は苦笑しながらガウスに答えるし、ほんそれである。「まあガウス達には色々と世話になったし、ホント感謝しきれないよ」「はは、まあそれが自分達の仕事ですしね。当然の事をしたまでですよ……」 ガウスは謙遜しているのだろうが、その当たり前のことが当たり前に出来ない人が本当に多いのだ……。 なので、俺は本当にガウスやギール達には感謝している。「ということで自分の話はこれで終わりです」「え? じゃ会議室に行く意味ないじゃん」「まあ、そこは守様に用事がある人達がいるからですね……」 ガウスは片目を閉じ、俺に対しウィンクして見せる。(ああ、他の重臣やゴリさん達もか……。まあ、最後になるかも
……数時間後、此処はファイラス城内の会議室。 そんなこんなでファイラス城内に戻った俺達は事の顛末をガウスなどの重臣達を呼び簡潔に説明した。「なるほど、そうだったのですか。なんにせよ魔王スカードの件お疲れ様でした……」「はは、あガウス達のバックアップがあったお陰でだからね……?」 俺はガウス達重臣一同が椅子から起立して深々と頭を下げるのを制して、苦笑する。「……それにしてもにわかには信じられないですが守様達は異世界からの転生者だったとは……」「うん、そうなんだ」「では、貴方達の変わりに本来此処にいるべきレッツ第1王子とゴウ王子達はどちらに?」 「親父の話だと、どうやらルマニアに転移しているらしい」 ザイアードのそもそもの魔王達も当然ルマニアに転生しているらしいし、エルシードのエルフの女王についても然りだ。 これはこの異世界アデレとルマニアが対になっている関係らしいけど、親父達も詳細は分っていないらしい。 なので俺がルマニアからこちらの世界に戻ってきたとしても「ガウス達との繋がりがどうなってしまうかな?」と俺は危惧していたりもする。「……ま、なんにせよ1つの大戦は無事終結し、貴方達の頑張りのお陰でこの世界に平和が訪れた事実があります。という事で明日早速凱旋バレードをしましょう!」「お、いいねえ!」「うん! 国の勝利を伝える大事な行事よね!」「のじゃっ!」 ガウスの言葉に両手を空高く上げガッツポーズを取り、すっかりテンションアゲアゲの俺達。 ……という事で翌日の朝。 俺と雫さんは雫さんの愛馬シルバーウィングに跨りファイラス城外の凱旋門で静かに待機する。 そして雲一つない澄んだ青空の中、その上空にはエンシェントフレイムに変化した双竜、即ち学とノジャが優雅に大空を舞っている。 更に
……オヤジのしばらくの沈黙後に女神様がとんでもない回答を述べる。 「……え?」「俺も後で知ったんだが、アデレと対となる双子の星、『ルマニア』に転生しているらしい」「アデレとルマニアは双子の星にして1つの世界。そしてそこにいるスカードとサイファーはそのルマニアの住人なのですよ」「え、ええっ!」 女神様の話の内容に驚くしかない俺達だった。「うーんそうなると、スカードがこちらの世界に来たのも多分偶然じゃないかもね……」「ええっ! 雫さんがそんな事言うとなんか妙に説得力があるんだよね」(となるとスカード達は双極の星からの使者ってことかあ……) 「あの博士、少し訪ねたい事があるんですが?」「ん、なんだい雫さんとやら」「何故、私達にこの世界でこんな経験を積ませたんです?」「理由は大きく2つある。1つは母さんを探すのに純粋に力と仲間が必要だった」(なるほど、結果的にはなるが魔王スカードと出会えたのも必然だったのかもね) 俺はもう1つの星の住人である魔王スカードとサイファーを見つめ、納得せざるを得なかった。(だってさ魔王スカードみたいな強者がルマニアにはまだいるってことだろ? そうなると、女神様が俺と魔王スカードを戦わせたのは納得なんだよな)「で、親父。もう1つの理由は?」「多分、異世界転生計画の真の目的じゃないかしら? 私は組織から月面移住計画と並行して進められた新しい地球の代替えとなる新天地が目的って聞いていたけど……?」 「へ?」 俺達はスイさんの難しい言葉に目を細め唖然とする。「月面移住計画って、私の両親も確か関わっているって聞いたけど。確か月を探索して資源や新しい土地を求める計画よね?」「ああ、そうだ。月じゃなくて地球に類似した異世界を探す方が早いからな」「ぶっ飛んだ計画ではあるけど、理には適ってる
「……えっと? あのそうじゃなくて俺の両親は?」 俺は訳が分からず女神様の目を見つめる。「ああっ! なによ! 『古代図書装置ユグドラ』が転生した月神博士だったの? もう、ずっと私の目の前にあったものがそうだったなんて……!」「ってええ? ス、スイさん?」「て、こ、この植物が月神博士?」 俺達は色々と驚きながら、いつの間にかまじかに姿を現したスイさんを見つめる。「あ、そっか! スカードが全生物を生き返らせたから……」「そ! 私魔法使いだから瞬間移動の魔法も使えるしね!」「スイあんた……」「ご、ごめんなさいっ! 私も立場上色々あって仕方なくやってたの! でも、もう色々と諦めたから本当に許して! お願いっ!」 スイさんは俺達の目の前で深々とひれ伏し土下座して謝っている。「なあ、スカードどうする?」「俺はもうこやつを一度断罪したので、正直どうでもいい。だが、お前はFプロジェクトの事を知っておく必要があるだろうし、こいつと仲良くやった方が俺はお前の為になるとおもうのだががな……」(そっか、そうだよな。流石スカード、戦っていないときは非常に頼もしいし、キレのある回答をしてくるな) なんか位置付き的に神様みたいだしね。「うんまあ、完全には信じられないけど本当に罪悪感を感じているなら色々教えてくれると嬉しいかな……」 その、正直俺の初恋の人でもあるしね……。 俺は少しだけ顔を赤らめながら、ぼそりとつぶやく。「んんっ……そうよね。じゃお詫びに私の知っている事を全て話すね」「まあ、貴方の嘘を看破するスカードもいるしね?」 雫さんは少しの皮肉を込め、苦笑いしてますが? 中々辛辣である。「ば、ばかっ! そ、そんなんじゃないって!」「ふむ、半分
ファイラス城に向かうのは勿論、いつもの隠し通路から女神の神殿まで移動するためだ。 と、その時突風とともに真横に凄い勢いで何かが通り過ぎる! それはファイラス城の城壁に轟音を立て突き刺さる! よく見るとそれは樹齢百年は超えている大木そのものであった! ……更にはパラパラと音をたて、崩れる城の城壁……。「き、きゃあ――――――?」 そして、城内からは女中のけたたましい金切り声が多数上がっている……。「ひええええっ?」 思わず俺達もそのアクシデントに慌てまくる。(こ、これはま、まさか?) 嫌な予感を確かめるべく俺は恐る恐る後方を振り返る。「に、が、さ、ん!」 すると巨大化した魔王スカードが2本目の大木をこちらに向い、まるでやり投げの槍の様に投擲しようと振りかぶっている姿が見えたのだった!「ま、学っ! 急げっ!」「ひ、ひえええっ⁈」 学は蛇行飛行をし、スカードに的を絞らないようにさせながら城内を目指していく。 その間にも2本目の大木が軽々と投擲され、またもや俺達の真横を通りすぎ轟音をたて城内に突き刺さる! と同時にまたもやガラスの割れる鈍い音、女中の甲高い悲鳴が聞こえて来る。 最早城内は地獄絵図だ……。 不幸中の幸いで、俺達はその割れたガラス窓から、神殿に向かうための隠し通路に急いで向かえた。 ……3本目の投擲の様子が無い所を見ると、ガウス達が上手く囮になってくれているのだろう……。(ごめんな皆、しばらく耐えてくれよ……?) それからしばらくして、俺達はなんとか女神の神殿にたどり着く事が出来た。 進んでいくと周囲がうっすらと光輝くうす透明な紫色の水晶で出来ている部屋にたどり着く。
(本当は、俺よりも剣術が優れている雫さんがこれを使う予定だったけどね) だから、俺に雫さんはあの時この黄昏の剣を託したのだ。 よく見るとサイファーも元の姿に戻りスカード同様地面にうずくまっていた。(おそらくアーマーアームドの耐久が限界値を超えたんだろうな……) それを見たガウスは俺の右手を握り、掲げ勝どきを上げる!「聞け! ファイラスの全兵そして国民よ! ザイアードの大将魔王スカードをファイラス国王守様が打ち取ったぞー!」「うおおおおっ! やったぞ皆っ! 俺達の勝利だっ!」「ファイラス軍万歳っ!」 遥か後方に下がっていた全兵が歓喜の大声を上げながら、次第にこちらに近づいてくる!(よし、もういいだろう)「……アームド解っ!」 俺は学のアームドを解除し、その場にへたり込む。 学も同様にへたり込んでいた。「守、学っ!」 気が付くと雫さんも俺達の元へ駆け寄ってきた!(この感じ、終わったのか……?) 俺は隣で親指を立て、爽やかな笑顔でこちらを見つめている学を見ながら激しい戦闘に終止符が打たれた事を実感したのだ。「ッ⁈」 何故か急に寒気と、胸騒ぎがする……⁉ 俺は反射的にスカードが倒れていた場所に目を移す。 何とスカードは驚いた事にその場に立ち上がり、仁王立ちしているではないか!「ば、馬鹿なっ! お前は守様によって心臓を貫かれたはずだぞっ!」 ガウスは剣を再び抜き、その切っ先をスカードに向け威嚇する。 俺達も急いで立ち上がり、警戒態勢をとるが……?「……なんかスカードの奴、ぼーっとしているし様子が変じゃないか?」「う、うん……。目がなんか真っ赤に変わっているし…&hellip
「はっはっはっ! 守様、大人しく寝ていれば良いのに!」「ぬかせ、ガウス! お前に美味しいとこだけ持っていかれてたまるか! 冗談言ってないで、挟み込むぞ!」「ははっ!」 俺とガウスはスカードを挟みこむ様に左右に別れ、上手く連携し、追い込んでいく!「ぬっ! ぐうっ!」 それに対しスカードも懸命に対応しているが、正直分が悪すぎると俺は思う。 というのも俺とガウスの師弟コンビの息の合った連携、更には雫さんと学の息の合った支援、そしてファイラスが誇る各将と粒ぞろいの人材のバックアップがあるのだから……。 そしてこの猛攻に耐え切れず、スカードのアーマーアームドに細やかなヒビが増えてきているのが分った。(よしよし! 間違いなく追い込んできている証拠だ!)「守さん! 今、サイファーの解析が終わったわ! サイファーはもう体力、魔力共につきかけている! やるなら今よ!」「分かった、ありがとう雫!」(……あ、雫さんのこと初めて呼び捨てしてしまった……。そして雫さん、顔若干赤くなってんな、うん……) これは恥ずい。 が、今はスカードに集中したいところ。『てことで、手筈通り頼むぞ学!』『はいはい……』 俺と学は心の会話を終え、右手以外の全身の主導権を学に任せる。 そう、この時の為に取っておいたとっておき! それをスカードに食らわす為にね……! 刹那、そのチャンスが訪れる! スカードの鎧の隙間に雫さん達が射た弓矢が数本刺さり、奴の動きが極端に鈍くなる!「うぐうっ……!」 だからか、スカードが苦しそうに呻いている! そして、ガウスは当然そのチャンスを逃さない!「はああっ!」 ガウスはここぞとばかりに気合の入った必殺の
弓が飛んできた方向を瞬時に追うと、遠目に見えるは雫さんとヒューリが弓を構えるその姿。「ぐうっ!」 だからか、スカードは苦痛の呻き声を上げていた。 その痛みのせいか一瞬スカードの体が浮き、俺の腰にまわしていた手の力も緩む!(い、今がチャンス!)「お、おおおっ!」 俺達は気合を入れ、スカードの両手を勢いよく振りほどく! と同時に奴のアゴに向かって頭突きを食らわせる!「がっ!」 スカードは呻き、たまらずよろける。 続いて体勢の崩れたスカードに勢いよく体当たりをかまし、俺達はやっとのことスカードから解放される結果となった。 (はあ、はあ、あ、危なかった……。ありがとう、ノジャ……) というのもノジャの加護が無ければ、俺達は恐らくとっくの昔に感電死していただろう。(もっとも今のスカードの電撃を食らい、加護が切れてしまったけどね……) 雫さんを見ると、あちらもその加護は切れていた。 なるほど、この効果は2人で共用しているものだったんだろう。「うっ? くっ!」 俺達は気合で立ち上がろうとするが電流のせいで体が痺れているため、よろけ情けないことにその場にへたり込んでしまう。「守様、だ、大丈夫ですか? 今、状態回復魔法をかけますので、しばらく大人しくしといてください……」 小走りで駆け付けたウィンディーニが状態異常回復魔法を俺達にかけていく。「あ、ああ……」 素直にありがとうと言いたかったけど、申し訳ないが麻痺している為か舌も回らない状態だ。「……スカード申し訳ないけどこれは決闘じゃない、国単位の戦争なのよ……」「……然り……」 雫さんとヒュ
「ク、クククク……」 スカードは怒りとも歓喜ともとれる不敵な笑みを浮かべている? その為か、スカードの肩が若干揺れている様にも見える……って⁈ よく見るとスカードが装着しているアーマーアームドを覆っていた青白い光が更に強くなり、なにやら激しい異音が響き渡っているのだが……?(な、なんだ、こ、これは……? なんだがとっても嫌な予感がするんだけど?) 俺は雫さんを見つめるが、その雫さんは静かに横に首を振っている。(雫さんの未解析の技か。なるほど、スカード達のとっておきってわけか……⁈) 「……数百年ぶりだな……。この状態になるのは……」「何ッ⁈」「……この状態になるのは、お前で2人目だということだっ守っ!」 スカードはその咆哮と同時に俺達に急接近してくる!(は、はやっ……?) 一瞬消えたかのように見える程の移動スピード! が、俺達は瞬時に迎撃体勢を取る。「……お前何処を見ている?」(なっ? 後ろ? 今確かに正面から向かってきていたはずっ! が、大丈夫だ、学がしっかり防御してくれる……) 「遅いな……?」「かはっ?」 俺は俺の左わき腹にスカードの重い拳が突き刺さりのを感じ、たまらず呻き声を上げる。(なっ? ひ、左?) 「くそっ!」 俺は捨て身の食らいうち狙いで、右手に握った剣をスカードに向かって突きを繰り出す! が、もうそこに奴はいない。(こ、これは……ざ、残像現象……?)