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26.新生ザイアード攻略の一手

last update Huling Na-update: 2025-03-10 23:05:17

 それから数日後、此処はファイラスの城門前。

 俺達は大人が並んで10人は通れそうな巨大で重厚な石造りの橋を歩き渡り終え、ふと目の前に人がいることに気が付き立ち止まる。

「おお、守様達よくぞご無事で……! して、成果はいかがでしたか?」

 不敵な笑みを浮かべ佇むは宰相のガウス、その人であった。

 こちらを見るその眼光は素人目に見ても歴戦の猛者と分るくらい鋭い。

 ガウスは質実剛健な家臣であり、くそ真面目な性格であった。

 だからか宰相という地位にもかかわらず、体格の良い体つきをしていた。

 ガウスの装備しているプレートメイルの上からでも分るくらいにね。

 ちな、オールバックの白髪にきりっとした眉、ほほとアゴにも整った白い髭を蓄えているのが特徴だ。

「ごめんよガウス。代理の影武者の件とか色々世話になったね! で、実はこの子が例のエンシェントフレイムなんだ!」

 俺は背におぶっていたノジャをよいしょと降ろし、その頭を軽くポンとたたく。

「のじゃっ!」

 俺の行動に呼応するかの如く、胸を張りふんすとしているノジャ。

「……な、なんと⁈ そ、それは凄い!」

 ガウスは目を大きく見開き驚愕している。

(はは、初代王以外千年単位で歴代契約実例が無かったから、そりゃ驚くよな……。しかも人化は見た目キッズの角ガキだしね)

 だから、俺はそんなガウスの様子を見て思わず苦笑してしまった。

「でだ、早速で申し訳ないんだけどガウス達にこの関係の相談があってね? あ、学達はさっき話した通り休憩しててな」

「おう! じゃ、後でな!」

「じゃ、ノジャちゃん、邪魔になるといけないから雫お母さん達と一緒にお買い物に行きましょうねー!」

「えっ? い、いやじゃ! あ、ああっ!」

 こうして雫さん達はノジャの襟首をつかみ忙しく城下町に消えていった……。

(…&

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  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   27.次の訪ね先は工房ゴリ

     ……それから一月後、ここはお昼のファイラスの城下町。「ゴリさーん!」「おお、これはこれは守様とその御一行様、らっしゃい!」 俺と雫さんは城下町の鍛冶屋『工房ゴリ』に来ていた。 ちな、学とノジャには別件をお願いしており、ここにはいない。 鍛冶屋『工房ゴリ』……。 工房の中は学校の体育館くらいの結構な広さがあり、その中で複数の作業員が忙しそうにせかせかと働いている状態だ。 よく見ると中央には大人二人分くらいの大きさの製鉄炉が配置されていた。 ゴリさんはそこで真っ赤になった鉄を耐熱手袋をはめ、ハンマーで力いっぱい叩いているところだった。 棟梁であるゴリさんは、この工房の何代目かの『ゴリ』の名前を受け継ぐ腕利きの鍛冶屋であった。 体格も容姿も体毛も名前の通りゴッリゴリにいかついが、性格は対して温和でとても優しい超いい人である。(ただ、恰好がね。フンドシと裸エプロンなのだけがホントやめて欲しい……。もう見た目がさ、新種の裸族としかおもえねえ……)  本人は「どうせ汚れて汗まみれになるから」と豪語してますが。(確かにタワシの様に頑丈な体毛で守られている関係で、服はいらないかもしれないけどね……)  ちなみに雫さんはゴリさんのそんな見た目は全く気にしておらず、今もフレンドリーに話しかけている状態だ。(人を見た目で判断しないのが雫さんのいいとこだよなあ)「あ、そうそう! 例のもの出来てますぜ! おい、お前達!」「へいっ!」 ゴリさんの声に呼応し、作業員達がえっちらおっちらと何かを抱えこちらに運んで来る。 よく見ると、俺達が委託していた『ドラゴンライダー鞍』一式であった。 その鞍は俺達が道中倒し回収し持ち帰ったドラゴンの体毛や鱗などの素材を使い、ゴリさん達に加工して作ってもらったものだ。「んんっ! 少し説明を。座る部

    Huling Na-update : 2025-03-11
  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   28.我が国の財政難の理由

     で、それからしばらくし、ここはファイラス城内の会議室。「……という事で我が国の財政内容の報告は以上になります」「……なるほどね。説明ありがとう」 会議室の中央に何十人と座れる椅子、そして長方形の木目の入ったテーブルがある。 そこで俺と財務大臣ギールはただ2人、事前の打ち合わせをしている最中だったりする。 俺は書類に目を通しながら、正面に座っているギールをチラ見する。 ギールは中背の痩せた体形をしており、銀のメガネをかけた見た目通りの真面目なガリ勉タイプだ。  質素倹約タイプで、着ている服も同じ上下灰色のタキシードだったりする。 メガネチェーンを付けているのは、きっとメガネに対する本人のこだわりなんだろう。 そんな事を考えながら、俺はギールに疑問点をいくつか聞いて行く事にした。「質問なんだけどさ、ここ数年ファイラスの財政が枯渇してきている大きな理由ってなんなの? というのもね、支出は抑えてきているから収入が減小してる内容を解決しないとと、思うんだけど?」「そ、それなんですが、実はアグール火山のふもとの宝石鉱山が年々枯渇してきてまして……。はい……」(ん、アグール火山? ああ、そっか、ノジャがいたあの火山は宝石の鉱山でもあったんだな) 不思議と人気が全く無いし、当然作業員も見当たらなかったので全然気が付かなかった。「……頂上付近で作業は出来ないの?」「……その、あそこには手強いモンスターと主のエンシェントフレイムが生息してまして」 途端小声になるギールの言葉に、その申し訳なさ感がこちらにも思いっきり伝わって来る。 そう、ギールも真面目なんだよなあ。(そっか、ノジャの件はガウスからまだ伝わってなかったのか……。この人も多忙で全部の書類には目を通せてないだろうし、現場組じゃないから仕方ないよな)

    Huling Na-update : 2025-03-12
  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   29.民衆と心を一つに

     それから数日後、此処はファイラス城内の応接間……。 晴天の昼間、ザイアードに送った文書の返事をするために使者がファイラスに来訪する。 驚いた事に、使者はなんとあのシツジイだった!(うわあ、懐かしいなシツジイ……。元気してたかな?) 「……初めましてシツジイといいます」 シツジイは俺達に向かって流暢に辞儀をする。(うん、知ってるよ! でもシツジイは俺達のこと覚えてないんだね……)  俺と学はお互いを見つめ、シツジイのその返答に少し困惑する。 だって俺達は『初めまして』ではないのだから……。 とは言ったものの、無言で対応というものは相手に失礼であるからして、気を取り直しシツジイとの対応をしていく。 なお、雫さんには気を使って席を外してもらっている。「遠路はるばるお疲れ様です。立ち話もなんですからどうぞソファーにお座りください……」「……そうですね。ありがとうございます」 ということで、応接用のソファに腰かけるシツジイと俺達。「……では、早速本題に入らせていただきます。で、これが文書の内容になり、読み上げさせていただきますが、よろしいか?」「……どうぞ」 俺達は静かに頷き、その内容に耳を傾ける。 自身の心臓の鼓動がわずかに早くなり、緊張していることが自分で分かる。「ザイアードを束ねるスカード、貴国の申し出を有難く受け入れる。であるからしてファイラス代表を数名こちらに派遣して頂きたい。期日は特に設けておらず、いつでもお待ちしている」 (成程、いつでもいいから俺達から来いってことか)  想定内の返事であるし、仮に罠の可能性があったとしても直接話をするしか方法はない。「……以上です。では、私めはこれで失礼します……」 シツジイはソファーから静かに立ち上がり俺達に向い軽く一礼する。「……また後日なシツジイ!」(あ……、やっべ! つい口が滑ってしまった!)  学もこの俺の対応には目を大きく見開いて驚いている状態だ。「ふふ、貴方達はなんとも不思議な人ですね。その、何処かであった懐かしい感じがします……」 シツジイは少し微笑むと、懐から若干赤みかがった透明色の宝石のペンダントを取り出し俺達に見せる。 あ、あれは、ザイアードの家宝……。「天罰の涙!」 シツジイはにっこりと笑い、俺達に静かに一礼し、帰って行った。 だから、俺

    Huling Na-update : 2025-03-13
  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   30.鬼が出るか蛇が出るか

     そんなこんなで数時間後、俺達エンシェントフレイムのお陰であっという間にザイアードとファイラスの国境付近に到着する。「見て! 遠くにデーモン達の集団が見えるわ!」 雫さんの指さす方向を見下ろすと、漆黒の翼を持つ異形の集団が見えて来る。 よく統一されているようで、あの荒々しいザイアードの連中が何千もの横隊で鎮座している。 更にはよく見ると、先頭に2人の目立つ存在が確認出来た。 一人は頭に立派な三本角、髪は金髪、全身の服は派手で宝石が散りばめられた赤のフロックコートに黒のズボンを着ており、見た目は中世ヨーロッパの王族に見える。 もう一人は体格は人のそれであるものの、口から覗く鋭い牙に鋭い眼光は獰猛そうなトラそのものであり、金色と黒の見事なコントラストの立派な体毛に包まれていた。「2人ともただ者じゃないわね……」「ああ、きっとあの2人が新生ザイアードの大将だろうな」 両目を閉じ両腕を組んで威風堂々と仁王立ちしているその様は、魔王に相応しい圧倒的威圧感を放っていた!「うわあ、こりゃー数万はいるな……」「てことは、全軍総出ってことね」 味方にしていた時はとても頼もしく感じたが、敵に回すと厄介としか思えない。(真面目な話、一体一体が一騎当千の猛者だしな) 「……よし、じゃ早速ブレスで一掃するか!」「賛成なのじゃー!」  血の気が多い学とノジャはとんでも発言をしてますが⁉(はっはっは……、じ、冗談だよね?) 「っておい? 何本気で大きく息吸い込んでんだこのバーサーカー共はっ! 特に学っ、おまっ、元ザイアードの代表だろうがっ! 躊躇ないんかいっ!」  これには俺も言葉に出して流石に突っ込まざるをえなかった。「……うーん、実は私も賛成なのよね。なんだか嫌な予感がするし……」「えっ? ええええええええええええっ! し、雫さんまでっ、またそんな……」(も、もしかしてエスパーモード発動してんの? う、うーん、多数決では戦闘決定だけど……?)   正直交渉前にそんな話はやめて欲しい。「よく来たな! ファイラスの代表達よ! 俺がファイラスの代表にして魔王っ、スカードである!」 俺達の存在に気づいたスカードは大きく目を見開き、まるで荒々しい獅子のような大声で激しく吠える! その途端、不思議な事に俺達に向かって荒々しい突風が吹き荒れるではないか

    Huling Na-update : 2025-03-13
  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   31.魔王スカードは強きものを好む修羅なり

    「奇遇だな。実は俺達もその『Fプロジェクト』を追っているんだ。でだ、利害は一致しているし俺達と同盟を組まないか?」「ふむ、確かに悪い話ではないな……?」 スカードなにやら深く頷くと、自身のごつい拳を前に突き出し、その右腕を俺に見ろと言わんばかりに見せつける!(こっ、これは! スカードの右手に装着された赤黒く怪しく輝くこの腕輪は……っ!) 「ファイラスの国宝『代償の血潮』っ!」 俺達一同の驚愕の声が綺麗にハモる! ……この場所に、このメンバー、そして『代償の血潮』……か。 何というか因果めいたものを感じられずにはいられない。(そう、あの人がいれば完璧だったけどね……) 「ち、ちょっとまったっ!」(そう、この声のって? ええええええええっ⁈) 「ス、スイ? あ、貴方現実に返されたはずじゃ?」  雫さんの驚きの声が静かにこの場に響く。 当然俺もエンシェントフレイムに変化した学も口を大きく開き驚いている状態だ。「皆っ、ご、ごめんなさいっ!」 スイさんは突然俺達の前に現れ、なんと突然俺達の目の前でジャンピング土下座をかますのであった。「私の立場からああするしかなかったのっ! お願い許してっ、ねっ雫っ、私達友達でしょ?」「……スイ、あ、あなた……」 俺と同様に雫さんも眉を潜め困惑してる模様。 流石に前回の件があることから、俺達はスイさんを信用してはいないし、出来るはずはない。「……ほう? お前はあの時の? 成程、ここの世界ではエルフの女王として転生していたのか……」(え? この感じ、スカードとスイさんは面識があるのか?) 「ス、スカードっ! 提案があるのっ! 貴方にとって魅力的な内容なの

    Huling Na-update : 2025-03-13
  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   32.第3の眼は真偽を見抜く

     俺達は警戒しながら上空に待機し、その様子を見守る。「ふふふ、すまぬな悪気はないのだ……。少し感情的になると、多少の天災が発生するだけだ。だから気にするな」 魔王スカードは爽やかな顔で俺達を見ているのだが……。 そ、そっかー、悪気はないんだ……。 じゃ仕方ないよね(棒)。(って、余計に悪いわ――――――――――――!)  俺は心からの雄たけびを大声で叫びたかったが、交渉に来たことをふと思い出し、かろうじて喉元で止める。 「まあ、降りて来い。交渉の続きをしようではないか?」(いやいや、誰のせいでこうなったと?)  あ……ザイアードの兵が落ちた割れ目から飛び出してきた。 そして心なしかその兵達は後方に下がっている(苦笑)……。「ど、どうします? 俺は交渉をやるだけやってみたいとは思うけど」「うーんそうね。私も色々と聞きたい話もあるし、続けましょうか……」 雫さんは恐怖で震えているスイさんを見つめ、深く頷いている。 という事で、俺達は十分に警戒しながら離陸し、再びスカードの元に歩み寄る。「確認だが、俺の為に1つの枠『異世界ゲート』を俺に譲ってくれるわけだな?」「ああ……」 俺と雫さんはアイコンタクトし、深く頷く。 ちなみにスイさんは若干涙目になりながら、激しくブンブンと首を上下に振っている。 「真夏のどっかのロックフェスに来てるのかな?」と思えるくらい激しくだ。(……なんかトラウマでもあったんだろうか? まあ、どうでもいいか) 「ふむ、ではもう1つの枠は『Fプロジェクト関係』だとして、残りの1つはどうするつもりだ?」 魔王スカードの問いに対して、俺達はしばし無言になる。(だ

    Huling Na-update : 2025-03-14
  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   33.罪と罰

     その表情は、醜く、恐怖と苦痛に満ちていた。(……っ! けど、流石にこれは可哀そうだ) 「こやつを上空に掲げよ!」「ははっ!」 鎧で身を固めた屈強なザイアードの魔族兵達が氷漬けになったスイさんを空高く持ち上げていく。(こいつら、な、何をするつもりだ?)  俺は、思わず地面に落ちて粉々になったスイさんを想像してゾッとしてしまう。 隣にいた雫さんも同様に青ざめていた……。「ふむ、待たせたな……」「あ、いえ……」 正直俺は複雑な思いだ。(だってスイさんはあんな性格でも俺の、俺の初恋の人だったから……)  気が付くと、自身の頬を伝って涙が静かに地面に落ちるのが自分でも分る。「……っ!」 でも、今はそんな感情に浸ってる場合じゃない……。「……お前泣いているのか?」 トラの頭を持つサイファーが初めて俺達に対して話しかけてくる。 そのサイファーの表情は信じられないことに、俺を心配しているように見えた。「……そうだな、自分でも不思議に感じている。おかしいか?」 俺のその言葉に、魔王スカードとその腹心サイファーは顔を見合わせていた。「スカード様っ、こいつはあいつらと同じ人種」「ああ、ということでだサイファーわかるな?」「ははっ!」 魔王スカード達は急に俺達の前に立つと横並びになり、それぞれ両手を自身の胸元位置構える。(な、何だ? 今度は一体何をしようってんだ?) 「我スカード汝と契約せしもの……」 スカードの声がその場に朗々と響き渡る。「我サイファー主と契約せしもの&

    Huling Na-update : 2025-03-14
  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   34.交渉の結果は如何に

     数十分後……。  周囲の山は消し飛び、岩は砂に変わり、木は無くなり、そこには何も無くなっていた……。 当然周囲に潜んでいたであろうエルフ達の姿もだ。「ふむ、やはり奴らはそこの魔法陣で集団転送してきていたか……」 「えっ!」 俺達は驚きながらも魔王スカードの視線を追う。 なるほど、魔王スカードが敢えて残したと思われる魔法陣が地面には描かれていた。「えっと、結果的に俺達を助けてくれたのかな?」「……そうなる。まあ、こいつらがスイと連動して動き姿を消し、ここに潜み機を狙っていたのは感知していたしな……」(あっ! ……も、もしかして魔王スカード達が目を閉じていたのって、それをこいつらに悟らせないため⁉ カッコつけていたわけでも余裕こいていたわけでも無かったのか)  魔王スカード計り知れない奴だ。 俺は魔王スカード達のその洞察力に感心してしまう。「そっか、何はともあれ助けてくれてありがとう……」 俺達は素直に頭を軽く下げる。 どうやらスカード達が俺達の前に立ちふさがり武器を構えたのは、俺達を庇うためでもあったみたいだしね。「ふむ、まあ気にするな。では、肝心な交渉の話に戻らせていただくが……」「うん」(さて、どうなる事やら……?)  正直魔王スカードの心情は深すぎて俺には読めない。 ただ、分っている事は正直に話す人間には寛容的であるし、逆に約束を破る奴や嘘を平気で言う奴には一切の容赦がない。 早い話、義に厚い男だという事だけは理解出来た。「まあ、交渉は成立だ。お前達なら信用出来るしな……」「え? や、やったあ!」 俺達は皆と嬉しさの余り、ガッ

    Huling Na-update : 2025-03-15

Pinakabagong kabanata

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   49.魔王の怒り

    「守さん、ノジャちゃん、気を付けて! あの衝撃波は気合による体術なので封じる事は出来ないわ!」「まっ、マジかよ!」(魔王スカード、もうなんでもありだなコイツ……。流石は魔王といったところか?)「他にも、魔王スカードは手をかざして更に強力な衝撃派を放つ事も出来るわ!」「り、了解っ!」「の、のじゃっ!」  俺達がそんなやり取りをしていると、魔王スカードは何やら胸に着けているペンダントを握っているではないか?「……もう、容赦せんっ! サイファーっ!」「はっ!」 な、何だ? (魔法が封じられている今、契約魔法も当然使えずサイファーを雷銃『ハウリングヘヴン』にすることも出来ないはずだぞ?)  よく見ると、魔王スカードが身に着けているそのペンダントはまるで血の様に真っ赤に染まっているではないか……!「あっ、あれは、『天罰の涙』っ! まっ、マズイ!」  (くそっ、ザイアード兵の大軍が殲滅されている今、発動条件が整ってしまっている!) 「……だが、まだ間に合うっ! ノジャっ、幸い魔王スカードは今隙だらけだ!」「のじゃ!」 ノジャは返事と共に、魔王スカードに向かって容赦なくブレスを放つ! このブレスは一瞬でザイアード兵百体を葬れる威力! 今回は盾となるうるザイアード兵も遥か後方にしかいないため打つ手なしだろう。(頼みの綱であるサイファーも魔法が使えない今、盾にはなり得ないし、流石のスカードも無傷ではすむまい! とったぞっ! 魔王スカードっ!)  ノジャの高威力のブレスが魔王スカード達を襲う……!「勝ったっ! やったぞ! 雫さんっ、ノジャっ!」 俺は歓喜の声を上げ雫さんの顔を見るが……?「雫さん?」 が、しかし、雫さんの顔は俺とは対照

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   48.開戦

    (……て、ことがあったよなあ……) 俺はしこたまワインを飲んだ後、自室のベッドに横たわり、これまでの苦労や楽しい思いでを思い出していたのだった。 そんな祝杯を挙げた日から月日はあっという間に過ぎ、ここはファイラス城下町から数キロ離れた草原……。 そよ風が爽やかに吹く中、ファイラスの万を超す大軍がその草原を埋め尽くす! 銀色の鎧に身を固めた騎馬兵を始め、槍を構えた歩兵、弓兵、魔導兵などファイラス自慢の精兵が各兵将の指示に従い陣を引き待機しているのが分る。「き、来ましたっ! 魔王スカード率いるザイアードの一軍ですっ!」 ファイラスの伝令兵が大声を上げ、周りの兵は大いにざわつく。「来たか……!」 俺達はそれぞれ剣を抜き、臨戦態勢に入る。「ま、守様っ! ま、魔王スカードが先頭に立って行軍してきます!」「……陣は?」「こ、これは『偃月の陣』です!」「な、何だとっ!」「ひ、ひぃっ……!」 伝令兵の回答にファイラス自軍から、再びどよめきが上がる……。(はは、いけいけのスカードらしいな……)  『偃月の陣』、この陣の特徴は大将を中心とした精鋭部隊を先頭に立たせることで指揮が向上し、突破力も向上する超攻撃型の陣である。 いわゆる『やられる前にやれ』という魔王スカードの考えだろうし、これ以上自軍に被害が出ないように警戒して行動している結果と俺は読んでいる。(さて、対してガウスはどんな対応をするのかな?) 「……陣を方円の陣から魚鱗の陣へ組みなおせ!」 ガウスの気合の入った大声が響き渡り、『魚鱗の陣』へ我がファイラス軍は変化していく! 兵の鍛錬を毎日欠かさず行っていたことから、ファイラスの兵達は滑らかな動

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   47.ウンディーニの策

     それから時は流れ、翌日の朝。 色々と気持ちを清算し終えた俺達はザイアード軍との戦いの準備を進めて行く関係で、ファイラス城下町にある『工房ゴリ』に来ていた。 ちなみにノジャはその機動力と運送力を重臣達に買われ、別件で働いてもらっている。  魔石発掘への功績もあり、ギールの奴と仲がいいというのが大きな理由ではある。「学様方! 頼まれていた鎧に魔石の仕込み終わりやしたぜ!」 スチームパンク臭が漂う工房にてゴリさんの雄たけび、もとい大声が響き渡る。「うん! ありがとうな、ゴリさん!」 俺達はその場で軽く飛び跳ねたり腰を捻ったりして、鎧の動きやすさや性能などを吟味していく。 飛び跳ねるたびに、カチャカチャと鎧の軽い金属音が工房に響き渡る。(うおお、すげえ! この鎧、麻の服並みに軽くて動きやすい!) 「ゴリさん、相変わらずいい仕事するねえ! てかこれ、一体何の素材を使っているんだ?」 学も思わずその性能に感嘆の声を上げる。「へへ、照れやすねえ……! それらは軽めのドラグニウム鉱で作った特注品、その名も『ドラゴニウムの鎧』! 龍の体液から作られた『封魔の炎龍石』と相性がいいんでさあ!」 ゴリさんは、「ウホホー!」と叫びながら、自分の胸を激しくドムドムと叩きだす。(出た! ゴリさんのテンションが上がると行う『歓喜のドラミング』だ!)  ホントいい人? だな、ゴリさんと工房の皆さん。  そんなゴリさん達が総力を挙げて仕上げたこの『ドラゴニウムの鎧』。 こいつはきっと魔王スカード達との戦闘でも、その性能を遺憾なく発揮してくれることだろう。「雫様! 例のアクセサリー一式も完成してやすぜ!」「わあ、素敵! サンキューゴリさん!」「へへ、どういたしやして!」「はいこれ、学の分!」「おお? センキュー雫!」 照れながらもアクセサリー一式を付けていく学。「うん、似合う似合う!」

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   46.良き臣下とその助言

     数十分ほど走り終えた後、今度は腰に下げている剣を抜き、俺の目線程の高さ以上ある枯れた大木目掛けて突きの練習をしていく。「ふっ!」 呼吸とも気合とも取れる声と共に、右手をピンと真っすぐに伸ばす俺。 一回一回丁寧にしかも鋭く早い突きを繰り出し、大木を突いていく。「朝から精が出ますな守様……?」「ッ!」 背後から聞こえる声に俺は驚き、振り向く。 するとなんと、ガウスがそこに立っていた。「な、なんだ、ガ、ガウスかビックリさせるなよ……」「はっはっはっ、申し訳ございません守様……。相手が雫様と学様ならもっと驚きましたか……?」(うっ! こ、コイツ、まさか……?)  「……な、何の話?」 俺は内心では思いっきり動揺していたが、冷静を装い一心不乱に大木を突いていく。「守様……。どうでもいいですが剣筋が乱れておりますぞ?」「なっ?」 よく見ると、確かに俺の剣は大木の真ん中から極端に離れた場所を突いていた。「何やら注意力散漫ですが、ナニがあったんでしょうなあ?」(こ、コイツ……? 昨日の事を知っているのか? それとも……?)  俺は訓練を中断し、ガウスと向き合う事にする。「……なあガウス、せっかくだし、ちょっと剣の相手をしてくれよ?」「ほお? やる気があるのは良いことですし、いいでしょう……」 ガウスは腰に下げている練習用の模擬剣を構え、更にはもう一本の模擬剣を俺に投げる。 軽くキャッチし、模擬剣を胸元に構える俺。 よく見るとガウスも同じように模擬剣構え、その丸くなった切っ先がこちらに見える。「では、行きますぞ?

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   45.2人の思いと誓い

    「あ゛――――――――――――――――――⁈」 と、同時に湯船の中で学の絶叫が静かにこだまする……。 そ、そのお陰で俺は現状を視認出来た。 夢見心地の中、そっと雫さんの唇は離れていく。 更には再び俺の肩に自身の頭をそっと置く雫さん。 だからか、否応が無く先程の唇の感覚が俺の脳裏に鮮明に蘇って来る! 「あ、あの……? 雫さん?」「えへへ、その言葉ずっと待ってたんだ……」 雫さんは顔を真っ赤にしながら、少し照れくさそうはにかむ……。 俺もそれにつられて顔が真っ赤になるんですが?「あ……」(よく考えたら、今さっきの俺の言葉、ほとんど告白じゃねーか……!) 「えっ、え゛っぐ……う、うっうっ……」(ううっ、い、嫌な予感がする……)  当然、嗚咽を漏らしていたのは学だったが……。「ま、ま、学さん……?」 俺はもう訳が分からず思わずさん付けをしてしまうくらい狼狽えてしまっていた。「雫が雫が、守のファーストキスを取った―――! 俺なんか幼いころから好きだったのに、告白しようとして断られたのに―――!」 学は俺の肩に突っ伏し、号泣しだす始末! その俺の肩には涙やら、鼻水やら、何やら生暖かい液体がポタポタと流れ落ちてますが? うん、その一滴一滴が何やら重い、いや思い? 俺は孤児院時代の幼い頃の記憶を思い出し、友達認定して別れた頃を思い出していた……。(あ、ああ、あれはそう言う事だったのか……! いや、だってねえ? ホラ? 昔は男みたいだったじゃん? あ、でも、今

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   44.裸の付き合い?

     そんなこんなで数時間後、俺達は前に来たことある例の『秘湯の温泉宿』に来ていた。 「あー、久々の温泉は気持ちいいな……」 俺はお湯をゆるりと手ですくい、ゆっくりと顔を洗う。 リラックス出来た関係か、嗅覚が鋭くなり硫黄臭を強く感じる。(逆にそんなところが温泉地に来た雰囲気が味わえていいんだけどね……)  まだお昼であるし、太陽が昇っている関係で当然周囲は明るく少し離れた山々の深緑がくっきりと見え、空気が余計美味しく感じられる。 太陽の反射光を浴びたお湯は輝いておりとても眩しい。(こんな時間にゆっくり浸かれるのはホント贅沢極まりないよな……)  「失礼しまーす!」「し、失礼します……」 複数の声の主が俺が浸っている湯舟に近づいて来るのが分る。 (きたきた学と雫さん達だ……!)  今回は二人ともタオルを羽織っている状態ではあるが?「こっ、こら押すな雫!」「え? だってこうでもしないと学は照れちゃって先に進めないでしょ?」 お2人がきゃいきゃい言いながら少しずつ近づいて来る。 顔を真っ赤にし、もじもじと照れながら、雫さんに背中をグイ押しされながら近づいて来る学。 太陽の逆光で眩く輝く、もち肌のうら若き女性達……。(こいつぁー、たまりましぇん……)  タオルに半分ほど隠された白桃のような艶やかな胸は、そのボリュームの余り窮屈なタオルに逆らうかの如く食い込みが発生している状態だ。(……こ、今年の果物は豊作かな……?)  何故かそんな言葉が脳裏をよぎる。 不思議、止まらない……⁉ そして、そのサイズの大きい白桃は学が歩く振

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   43.バカ試合

     今回、ドラゴン化した学の背に俺、雫さん、ウィンディーニが乗り込む。 ちなみにノジャの背には『封魔の炎龍石』を積み込むための大袋等が載せてある。「……じ、じゃあいくぞ……?」「は、はい……」 ウィンディーニは鞍に跨りプルプルと振えているが……。 なんというかその色々面白い。 そして、エンシェントフレイム化した学が力強く大空に舞い上がり、ノジャもその後を追う。「ひ、ひえええ……」 ウィンデーニは情けなく悲鳴を上げていたが……。「ぷふっ……」 その様子を後方で見ていた雫さんが思わず吹き出している。(こ、コラコラ、笑っちゃ失礼だろ? ほ、本人は真剣なんだから……!)  とか思いながら、申し訳ないが俺も爆笑していたりする。 俺は雫さんや学が余計な事を言う前に、適当な話題を振る事にする。「あ、そういえばウィンディーニって、その名前の由来、もしかして水の精霊に関係してたりする?」  とか考えていたら、雫さんは機転をきかし話題を振ってくれた。「そうですね……。うちの家系は代々、水の精霊と仲が良いので何かしら水属性の名前を付けるしきたりがありまして。ちなみにうちの父はアイスバードといいます」「へーそうなんだ! じゃあ……」 そんな雑談を続けてから数時間後……。 例の温泉宿から少し離れた僻地に、ウィンデーニの知人が住んでいるというので寄ることになった。「へー、こんなとこに小屋があるなんて知らなかったなあ……」(ファイラスの地理に詳しい雫さんでも知らない場所か、正にだな) 「ええ、自分とギール様しか知らない秘密の

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   42.ウィンディーニ?

     俺はそんな事を考えながらそっとため息を吐き、会議室から1人席を外し、そのまま自室に直行する。 俺は注意深く周囲を見て誰もいない事を確認し、机に腰かけゆっくりと背伸びをし、足腰を伸ばす。 俺が一人でここに来たのには深い理由があった。 それは休憩もだけど、ガウスから手渡された封書の内容を誰にも見せられないためだったりする。(ガウスは剣の腕と仕事の内容に関しては嘘をつかないからね……)  俺は中身が傷つかないようにペーパーナイフで丁寧に封書の封を切り、その内容に目を通していく。(ん? 誰からだと思えばウィンディーニから? あの場で伝えたいことを言えばとは思ったけど、あの天才児のことだから何か理由があるだろう。どれどれ……?) 「……え、これマジなん? じ、じゃあ学達のあの行動は……?」  ……俺は書かれていた内容に驚愕し、思わず独り言を呟いてしまった。(しっかし、ウィンデーニ、本物の天才なのかも)  ……それから俺は色々な用事を済ませ、再び会議室にこっそり戻る。 部屋に入るなり、雫さん達が俺の周りに集まってくる。「あっ、守君! 今、学達と話してね、急遽アグール火山に行くことになったから!」 雫さん達は嬉しそうにきゃいきゃいとはしゃいでいますが?(こ、この感じ、帰りはまた温泉宿泊コースかもしれんな。嫌いじゃないけどねっ!)  俺は温泉内のピンクイベントを思い出し、もっこ……もといにっこりと微笑む。「守様! あのっ! 自分も火山に同行することになりましたので、よろしくお願いいたします!」 ウィンディーニは元気よく俺にペコリとお辞儀をする。「彼には私の代理で現場視察に行ってもらうことになりましたので、守様よろしくお願いいたしますね」 ギールは俺にそう述べ、軽く一礼する。

  • 月神守は転生の輪舞を三度舞う   41.ノジャお手柄なのじゃっ!

     それから数分後……。 俺達はギールの資料とウィンディーニの魔導知識を元に話しを詰めていく事になった。  「なるほど、ルモール森林全土には『封魔の炎龍石』を使った魔法陣をしかけられそうですが……」 「え? 何か問題があるの?」「森林の地下トンネルに配置する分が全く足りません……」「仕方ない、ではこれで足りるのでは?」 ギールは一番下に置いていた、とっておきと思われる資料をウィンディーニに手渡す。「ああ、これなら地下トンネル分も余裕で足りますね! 余った分で数十人の鎧加工分も作れるでしょう。あの、それはさておき、この資料は私は見たことが無かったのですが?」「最近、ようやく火山上部で発掘出来る環境になり、未開拓であった関係で大量に発掘出来たものだからですな」 ギールは咳払いしながら、俺をチラリ見している。(ああ、例のやつね……。まあ、役に立って何よりだったよ) 俺はそんな事を考えながら思わず苦笑する。「んんっ! ……守様はこのピンポン玉くらいの大きさの『封魔の炎龍石』の価値を知っておいでですか?」 ギールはそんな俺の態度を見て、俺を厳しい目つきで睨む。(う、うわあ? や、やっべ、俺、地雷踏んだかも……?) 「い、いや?」 「分かりやすくこの『封魔の炎龍石』の価値を説明させていただますね。これ一つでだいたい人家10件分の価値があります……。何故そんなに高値で売れるかと言うと、『エルシード』の連中が価値を見出し、大人買いしていくのですよ……」「お、おう……」(そ、それはギールが出し渋るのもシカタナイデスヨネ……?)  俺はギールの言葉の重みを感じ、額に変な汗が流れて来るのを自身で感じ取る。「この

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