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33.罪と罰

Penulis: 菅原みやび
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-14 23:05:37

 その表情は、醜く、恐怖と苦痛に満ちていた。

(……っ! けど、流石にこれは可哀そうだ) 

「こやつを上空に掲げよ!」

「ははっ!」

 鎧で身を固めた屈強なザイアードの魔族兵達が氷漬けになったスイさんを空高く持ち上げていく。

(こいつら、な、何をするつもりだ?) 

 俺は、思わず地面に落ちて粉々になったスイさんを想像してゾッとしてしまう。

 隣にいた雫さんも同様に青ざめていた……。

「ふむ、待たせたな……」

「あ、いえ……」

 正直俺は複雑な思いだ。

(だってスイさんはあんな性格でも俺の、俺の初恋の人だったから……) 

 気が付くと、自身の頬を伝って涙が静かに地面に落ちるのが自分でも分る。

「……っ!」

 でも、今はそんな感情に浸ってる場合じゃない……。

「……お前泣いているのか?」

 トラの頭を持つサイファーが初めて俺達に対して話しかけてくる。

 そのサイファーの表情は信じられないことに、俺を心配しているように見えた。

「……そうだな、自分でも不思議に感じている。おかしいか?」 

 俺のその言葉に、魔王スカードとその腹心サイファーは顔を見合わせていた。

「スカード様っ、こいつはあいつらと同じ人種」

「ああ、ということでだサイファーわかるな?」

「ははっ!」

 魔王スカード達は急に俺達の前に立つと横並びになり、それぞれ両手を自身の胸元位置構える。

(な、何だ? 今度は一体何をしようってんだ?) 

「我スカード汝と契約せしもの……」

 スカードの声がその場に朗々と響き渡る。

「我サイファー主と契約せしもの&

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     今回、ドラゴン化した学の背に俺、雫さん、ウィンディーニが乗り込む。 ちなみにノジャの背には『封魔の炎龍石』を積み込むための大袋等が載せてある。「……じ、じゃあいくぞ……?」「は、はい……」 ウィンディーニは鞍に跨りプルプルと振えているが……。 なんというかその色々面白い。 そして、エンシェントフレイム化した学が力強く大空に舞い上がり、ノジャもその後を追う。「ひ、ひえええ……」 ウィンデーニは情けなく悲鳴を上げていたが……。「ぷふっ……」 その様子を後方で見ていた雫さんが思わず吹き出している。(こ、コラコラ、笑っちゃ失礼だろ? ほ、本人は真剣なんだから……!)  とか思いながら、申し訳ないが俺も爆笑していたりする。 俺は雫さんや学が余計な事を言う前に、適当な話題を振る事にする。「あ、そういえばウィンディーニって、その名前の由来、もしかして水の精霊に関係してたりする?」  とか考えていたら、雫さんは機転をきかし話題を振ってくれた。「そうですね……。うちの家系は代々、水の精霊と仲が良いので何かしら水属性の名前を付けるしきたりがありまして。ちなみにうちの父はアイスバードといいます」「へーそうなんだ! じゃあ……」 そんな雑談を続けてから数時間後……。 例の温泉宿から少し離れた僻地に、ウィンデーニの知人が住んでいるというので寄ることになった。「へー、こんなとこに小屋があるなんて知らなかったなあ……」(ファイラスの地理に詳しい雫さんでも知らない場所か、正にだな) 「ええ、自分とギール様しか知らない秘密の

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     俺はそんな事を考えながらそっとため息を吐き、会議室から1人席を外し、そのまま自室に直行する。 俺は注意深く周囲を見て誰もいない事を確認し、机に腰かけゆっくりと背伸びをし、足腰を伸ばす。 俺が一人でここに来たのには深い理由があった。 それは休憩もだけど、ガウスから手渡された封書の内容を誰にも見せられないためだったりする。(ガウスは剣の腕と仕事の内容に関しては嘘をつかないからね……)  俺は中身が傷つかないようにペーパーナイフで丁寧に封書の封を切り、その内容に目を通していく。(ん? 誰からだと思えばウィンディーニから? あの場で伝えたいことを言えばとは思ったけど、あの天才児のことだから何か理由があるだろう。どれどれ……?) 「……え、これマジなん? じ、じゃあ学達のあの行動は……?」  ……俺は書かれていた内容に驚愕し、思わず独り言を呟いてしまった。(しっかし、ウィンデーニ、本物の天才なのかも)  ……それから俺は色々な用事を済ませ、再び会議室にこっそり戻る。 部屋に入るなり、雫さん達が俺の周りに集まってくる。「あっ、守君! 今、学達と話してね、急遽アグール火山に行くことになったから!」 雫さん達は嬉しそうにきゃいきゃいとはしゃいでいますが?(こ、この感じ、帰りはまた温泉宿泊コースかもしれんな。嫌いじゃないけどねっ!)  俺は温泉内のピンクイベントを思い出し、もっこ……もといにっこりと微笑む。「守様! あのっ! 自分も火山に同行することになりましたので、よろしくお願いいたします!」 ウィンディーニは元気よく俺にペコリとお辞儀をする。「彼には私の代理で現場視察に行ってもらうことになりましたので、守様よろしくお願いいたしますね」 ギールは俺にそう述べ、軽く一礼する。

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