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37.ルモール森林の罠

last update Last Updated: 2025-03-16 23:05:29

 それから時はあっという間に過ぎ、20日後のこと。

 魔王スカードが率いるザイアード全兵は道中にある障害を全て力づくでなぎ倒し、ひたすら前進していた。

 魔の大行軍に止められぬものは無いと言わんばかりにである。

 そんな中、その魔の大軍は木々がうっそうと生い茂り白くモヤがかっている森林に入っていく。

 その名はルモール森林。

 ファイラス領土にある最大規模の森林であり、年中霧が深く視界が悪い場所で有名だったりする。

 なんでも、森林内にある特殊な植物が霧を常に発生させているとか……。

「ふむ、霧深く視界が悪いな?」

「スカード様っ! 明らかに罠の可能性が高そうですね」

 ザイアード軍の先頭にいた魔王スカードと腹心のサイファーはお互いに目を合わせ、深く頷き高速詠唱を素早く唱えていく。

「……異常なしだ」

「俺もです、スカード様っ!」

 魔王スカードと腹心のサイファーはそれぞれ、罠探知魔法と生命探知魔法を使い森林内に異常がないか調べたのだ。

「で、どうします? スカード様っ!」

「……念には念をだ。先兵に目視レベルで探らせよ!」

「御意っ!」

 慎重な魔王スカードはサイファーに全軍を指示させ、ルモール森林の入り口付近一帯を探らせる。

 それからしばらくして……。

「スカード様っ! 異常なし、被害なしとのことです!」

「……杞憂だったか、全軍行進を再び始めよ!」

「ははっ!」

 異常なしの報告を聞き、魔王スカードは再びザイアード全軍に再行進の指示を出す。

「この感じだと、きっと何もないと思いますよ」

「……だといいがな」

 視界が悪いものの、屈強なザイアードの兵達はお構いなしに力強く前進していく。

 人とは明らかに違う優れた魔力と体力。

 さながら目前の大木が鈍い

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     弓が飛んできた方向を瞬時に追うと、遠目に見えるは雫さんとヒューリが弓を構えるその姿。「ぐうっ!」 だからか、スカードは苦痛の呻き声を上げていた。 その痛みのせいか一瞬スカードの体が浮き、俺の腰にまわしていた手の力も緩む!(い、今がチャンス!)「お、おおおっ!」 俺達は気合を入れ、スカードの両手を勢いよく振りほどく! と同時に奴のアゴに向かって頭突きを食らわせる!「がっ!」  スカードは呻き、たまらずよろける。 続いて体勢の崩れたスカードに勢いよく体当たりをかまし、俺達はやっとのことスカードから解放される結果となった。 (はあ、はあ、あ、危なかった……。ありがとう、ノジャ……)  というのもノジャの加護が無ければ、俺達は恐らくとっくの昔に感電死していただろう。(もっとも今のスカードの電撃を食らい、加護が切れてしまったけどね……)  雫さんを見ると、あちらもその加護は切れていた。 なるほど、この効果は2人で共用しているものだったんだろう。「うっ? くっ!」 俺達は気合で立ち上がろうとするが電流のせいで体が痺れているため、よろけ情けないことにその場にへたり込んでしまう。「守様、だ、大丈夫ですか? 今、状態回復魔法をかけますので、しばらく大人しくしといてください……」 小走りで駆け付けたウィンディーニが状態異常回復魔法を俺達にかけていく。「あ、ああ……」 素直にありがとうと言いたかったけど、申し訳ないが麻痺している為か舌も回らない状態だ。「……スカード申し訳ないけどこれは決闘じゃない、国単位の戦争なのよ……」「……然り……」 雫さんとヒュ

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    「ク、クククク……」 スカードは怒りとも歓喜ともとれる不敵な笑みを浮かべている? その為か、スカードの肩が若干揺れている様にも見える……って⁈ よく見るとスカードが装着しているアーマーアームドを覆っていた青白い光が更に強くなり、なにやら激しい異音が響き渡っているのだが……?(な、なんだ、こ、これは……? なんだがとっても嫌な予感がするんだけど?)  俺は雫さんを見つめるが、その雫さんは静かに横に首を振っている。(雫さんの未解析の技か。なるほど、スカード達のとっておきってわけか……⁈) 「……数百年ぶりだな……。この状態になるのは……」「何ッ⁈」「……この状態になるのは、お前で2人目だということだっ守っ!」 スカードはその咆哮と同時に俺達に急接近してくる!(は、はやっ……?)  一瞬消えたかのように見える程の移動スピード! が、俺達は瞬時に迎撃体勢を取る。「……お前何処を見ている?」(なっ? 後ろ? 今確かに正面から向かってきていたはずっ! が、大丈夫だ、学がしっかり防御してくれる……)  「遅いな……?」「かはっ?」 俺は俺の左わき腹にスカードの重い拳が突き刺さりのを感じ、たまらず呻き声を上げる。(なっ? ひ、左?)  「くそっ!」 俺は捨て身の食らいうち狙いで、右手に握った剣をスカードに向かって突きを繰り出す! が、もうそこに奴はいない。(こ、これは……ざ、残像現象……?) 

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